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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2024.06.04
そしてパチ7へ②~ワイルドサイド誕生~
前回のあらすじ
減り続ける仕事に限界を感じ、遂に他媒体での執筆を目指すことにしたラッシー。頼ったのはパチ7で『ブッコミ回胴記』連載していた漫画家、ヤッさんこと天草ヤスヲ先生だった。ヤッさんに「パチ7を紹介していただけませんか」とお願いすると、「いいよ」とまさかの即答。かくしてパチ7編集長との面談が決まったのだった。
前回(①)はこちら
――「本日はお忙しいところスミマセン」
編集長「いや全然全然!」
ヤッさん「とりあえず一旦挨拶だけして飲み物頼みますか」
――「そうですね」
この日も〝やはり〟というべきか新宿の居酒屋だった。正式な求人に対する応募であればオフィスでの面接となるのだろうが、この業界のフリーランスの紹介は、こういったフランクな形になりやすい。
スーツ姿の2人が名刺を取り出すのを見て、俺も慌ててポケットから名刺入れを取り出した。
初対面の編集長。
――「はじめまして。『H』でライターをやらせていただいてますラッシーと申します」
編集長「存じ上げております。パチ7編集長です」
ヤッさんから聞いていた通り、かなり若い印象だ。しかし、それよりも…
――「あの~、お世辞とかじゃないっスけど…男前っスね」
編集長「フハハハハ! そんなことは…まあ、あるかな」
それまでマスク姿しか見たことがなかった編集長。その〝中身〟がこんなに男前だったとは。
編集長「よし、採用!」
――「はやーーーい!!」
編集長「それは冗談として」
――「採用ジョークきっつ」
編集長「ヤッさん、僕男前ですって! フハハハ」
ヤッさん「顔はな! お前、調子乗るなよ」
編集長「フハハハ、失礼しました」
こんな他愛もないやり取りからも、編集長とヤッさんの仲の良さが窺える。
編集長「で、彼が僕の部下で編集部員の右キモです」
右キモさん「主に機種ページを担当しております右キモです」
――「ラッシーです。よろしくお願いします」
右キモさん「よろしくお願いします」
編集長「とりあえず、飲みながら話しましょうか」
ヤッさん「そうだね! まずは注文しよう」
こうしてパチ7編集部との非公式な面談がスタートした。
何派?
飲み物とおつまみがテーブルに並ぶと、ごく普通の飲み会のように話が始まった。
編集長「ヤッさんから色々と話は聞いてます」
――「ありがとうございます」
ヤッさんは隣でニコニコと笑っている。
編集長「ウチとしても長らく活躍されてるライターさんに入っていただくのは、願ってもない話です」
――「いやいや、そんな…恐縮です」
まだスタートして間もない編集部だ。やたらキャリアだけが長いライターは煙たがられるかもしれないと懸念していたが、どうやらそうでもなさそうだ。ホッと一安心といったところか。
編集長「ちなみにケンカ売るわけじゃないっスよ?」
――「え?」
編集長「ケンカ売るわけじゃないっスけど、僕は〝G派〟だったんで」
――「ははは、まあまあ我々世代じゃ多いっスからね」
俺ら世代(現在の40代前半~半ば)がパチスロにドハマリしていた学生時代は、まさにパチスロ攻略誌の戦国時代。老舗攻略誌の『G』と『M』が業界をけん引し、後発ながらそこに割って入ったのが『H』だった。
パチスロ好きの同世代と酒を飲むと、必ずと言っていいほど〝何派〟だったかの話になる。かくいう俺も学生時代は3誌すべてを読んでいて、その中でとりわけ気に入ったのが『H』だった。
――「また、あの頃の『G』はカッコよかったんスよね~」
編集長「カッコよかったっスね~! マッ〇チとか!」
――「カッコよかったっスね~!」
編集長「でもラッシーさんのことは知ってましたよ。〝サンボ〟とか読んでましたもん」
――「ふはは、懐かし!!」
サンボとは?
『緑ドンVIVA!~情熱南米編~』における〝確率に設定差がある3つのボーナス〟のこと。当時は特定ボーナスという呼称が一般的でなく、設定差がある3ボーナス=サンボと呼んでいた。そのサンボという呼称を生んだのが、ラッシーが担当した緑ドンVIVAのページだった。
右キモさん「ちなみに僕は〝H派〟なので、まさにラッシーさん読んでました」
――「ええ!? ホントですか? それは嬉しい」
右キモさん「なので、一緒にお仕事させていただけるなら光栄です」
――「いえいえ、とんでもない。…ということは?」
編集長「ええ、ぜひウチでお書きいただければと」
――「あ、ありがとうございます!!」
ヤッさん「よかったね!」
――「ありがとうございます」
こうして正式ではないものの、とりあえずパチ7への加入が内定した。
はじめての〇〇調査。
就職活動に苦しんだ人が見たらどう思うのだろう。汚いコネ採用のように見えるのだろうか? しかし、この業界のフリーランスは、こういった紹介による業務提携や加入が珍しくない。
年老いたライターが履歴書を持って面接に行くのは、なかなか稀なケースなのである。もちろん何か大きな〝やらかし〟を犯し、前所属媒体をクビになっていれば話は別なのだろうが。
編集長「正式な契約うんぬんは、今後やっていただくとして」
――「契約…」
編集長「あ、大丈夫っスか? 『H』のほうは?」
――「それはフリーランス契約なので問題ナイはずですが」
編集長「もちろんウチもフリーとしてお仕事を依頼してという形です」
――「ああ、それはありがたいです」
編集長「で、契約に際し身辺調査を…」
――「し、し、身辺調査!!?」
聞き慣れない言葉に思わず変な声が出た。
編集長「はい。一応ウチも上場企業ですので」
――「はあ…上場…」
編集長「反社会的な人物とは契約できませんので身辺調査を…え? 前科とかある感じです?」
――「あるかぁ! ポップに聞くことスか!?」
編集長「ですよね~、フハハハハ」
――「びっくりした~」
パチンコ・パチスロの編集部と契約をする際、身辺調査をされるなど聞いたことがない。なるほど。パチ7は思いのほかちゃんとした企業らしい。
嬉しい提案。
編集長「で、ラッシーさんはウチで何やりたいっスか?」
――「攻略ライターなんで、やっぱり機種の攻略記事を書かせていただければと」
編集長「それはありがたいっスけど、それは『H』さんでも書けるんじゃないスか?」
――「もちろんそうなんですが、近年は書く量がだいぶ減ってきてまして」
編集長「まあ、そうですよね~。コンビニからも雑誌減りましたから」
――「そうなんス。でも、雑誌が減ろうとパチスロは打つわけじゃないスか?」
編集長「そうスね」
――「で、打てば色々とネタが出てくるのに、書くところがないともったいない」
編集長「あ~、イイっスね! そういうの頂けたらありがたい」
――「ぜひぜひ」
編集長「機種は右キモが担当なんで、彼と進めていただければと」
右キモさん「よろしくお願いします」
――「こちらこそ、よろしくお願いします」
2つの媒体で機種の記事を書く。これもこれで気遣うことが多い。たとえば『H』の独自取材で得た情報はパチ7に共有できない。逆もまた然りで、これから先は2つの媒体の守秘義務を守りながら執筆していく必要がある。
もちろん俺が個人で見つけたネタなら、両媒体に提供しても構わないのだろうが。
編集長「で、機種の記事もぜひ頂きたいんですけど、連載とかどうスか?」
――「れ、連載ですか? いきなり?」
願ってもない話だった。
ワイルドサイドのはじまり。
想定していなかったわけではない。パチ7ではライターの大先輩である佐々木 真さんがコラム『思考ルーチン』を連載している。もしかしたら自分にもという考えはあったし、連載は物書きとして当然目指すべき仕事の一つだ。
編集長「あれ? 自信ない感じですか?」
――「ご冗談を。俺『H』で唯一ギャラ上がったのがコラムなんです」
編集長「ほう!」
機種ページのギャラは時代に伴い下がってきた。これは『H』が悪いわけでも、俺が悪いわけでもない。原稿料の低下は、出版業界全体に言えることだ。
ちなみに『H』の原稿料は「上げてくれ」と言わない限り上がらない。良い記事を書いてきた自負はそれなりにあったが、俺は薄利多売が信条。仕事をたくさんもらえれば、原稿料は最安値で構わない。そう思って生きてきた。
しかし、そんな中でも上がり続けたのが『H』のWEBサイトで連載しているコラムのギャラだった。ただの1度も「上げてくれ」と頼んでいないが、知らぬ間に4回ほど上がっていたのである。
これは素直に嬉しかった。カネがどうという話ではない。純粋に書いているモノを評価し、筆者である俺に伝えることもなく密かに上げてくれていたのだ。なんとありがたいことか!!
編集長「じゃあウチでもぜひ連載を」
――「それはありがたい話です!」
編集長「何か書きたいものとかありますか?」
――「そうですね。実は1つありまして」
ヤッさんにパチ7を紹介してくださいと相談してからこの日まで、ずっと考えてきた書きたいもの。それは…
――「〝ライター〟って、近年だいぶ変わったじゃないスか?」
編集長「変わりましたね。もう演者=ライターみたいな」
――「そうです。で、世間的なイメージもだいぶ悪くなって」
編集長「ハハ、そうですね。動画出て大金貰ってみたいな」
――「でもライターって、本来そうじゃないんスよね」
編集長「たしかにそうですね」
――「もう一般視聴者はもちろん、最近は後輩の演者とかも俺のこと売れてない演者としか思ってないですし」
編集長「いやいや、そんなわけないでしょう」
――「いやそれがガチなんスって! 俺がというか、俺らライターが今まで何してきたか後輩すら知らないんスよ」
編集長「まあ、時代ですかね~」
――「なので〝ライターってこんなことしてきたんだよ〟ってのを書きたいんです」
編集長「おお! パチスロライターの裏側みたいな?」
――「そうです。パチ7はWEB媒体だし、雑誌を通って来なかった読者も多いでしょうし」
編集長「いや~、そこは実は同世代以上の読者さんも多いですが」
――「そうなんスか!?」
それは意外だった。てっきりWEBの読者は若い人ばかりかと思っていた。
編集長「それでも喜ばれるとは思います」
――「それなら嬉しいんですが」
編集長「僕も雑誌読んでた世代として興味ありますし」
――「はい。でも俺は、可能なら若い世代に読んでほしいかな」
編集長「いいっスね!」
――「若い世代や後輩たちに〝本来のライターってこんな仕事してたんだ〟ってのを伝えられたらいいなって」
編集長「それイイ! それイイっスよ!」
――「ありがとうございます! 」
編集長「チャラチャラした演者どもに、本物のライターってやつを教えてやりましょう!」
――「ちょっと待って違う違う、そんなケンカ腰じゃない!」
編集長「あら違いました?」
――「オッサンの昔話になりますから、まあ歴史物・時代物みたいに楽しんでもらえたらいいっスね」
編集長「いいと思います! ぜひやりましょう!」
こうして契約を結ぶ前に、早くも連載のスタートが確定した。
連載スタート。
居酒屋面談から約1ヵ月後――
――「ごめんなさい、この前の原稿一旦ボツにしていいスか?」
編集長「え? なんでです?」
――「俺って、パチ7の読者さんにとっては初めて見るライターなわけじゃないスか」
編集長「まあ、そうスね。知ってる人もいるとは思いますけど」
――「なので名刺代わりになるような話から書き始めようと思いまして」
編集長「なるほど。ラッシーさんの代表作みたいなネタから?」
――「そうですそうです。じゃないと、いきなり誰か分からんヤツが語りはじめることになるので」
編集長「いいと思います!」
――「スミマセン、お手数おかけします」
こうして初回の原稿をボツにし、改めて書き直した原稿が記念すべき連載第1回となった。
編集長「で、コラムのタイトルどうしましょう?」
――「タイトル……」
華やかな女性演者のコラムじゃない。特に美しくもない、荒れたパチスロライターの道を書くのだ。ふさわしいタイトルは―――。
――「ワイルドサイドなんてどうスかね? 厳しい荒野って感じで」
編集長「おお~、いいじゃないっスか!」
かくして当コラムのタイトルが『ワイルドサイド-脇役という生き方-』に決まった。
正直に言えば、この連載スタートをSNSで告知するのは怖かった。もちろん『H』の編集部には伝えてあるが、ライター仲間には知らせていないし、『H』の読者も知るわけがない。
一体、どんな反応が返ってくるだろうか―――。
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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