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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2024.05.21
そしてパチ7へ①~恩人と最初の反逆者~
???「ラッシーさん、こっちこっち!」
駅前の地下にある飲み屋街。その端にある居酒屋に入ると、すぐに〝先生〟の声が聞こえた。
――「お疲れさまです! お待たせしちゃいました?」
先生「いや全然。僕も今、入ったとこだから」
――「よかった。すみません、お呼び立てして」
先生「いや全然全然! 何飲む?」
――「じゃあ、とりあえずビールで」
先生「じゃあ僕もビールにしよっかな」
――「先生、焼酎じゃないんスか?」
先生「ちょちょ、先生はヤメてよ~」
――「はは、じゃあ…ヤッさんですかね?」
先生「そう、それでいいよ」
久々に会ったヤッさんは何も変わらない印象で、まるで数日前にも会っているかのような感覚だった。俺が日常的にヤッさんの〝コンテンツ〟に触れているせいかもしれない。
ヤッさん。
〝ヤッさん〟は、パチ7読者にはお馴染みの天草ヤスヲ先生だ。この1年ほど前からパチ7で『ブッコミ回胴記』を連載しており、飲み仲間でありファンでもある俺も、当然のように毎回楽しみに読んでいた。
ヤッさんとは、もともと攻略誌『H』の編集部で知り合った。俺が編集部員として採用された頃、ヤッさんはとある漫画家先生のアシスタントだった。その後、攻略誌『H』の兄弟誌ともいえるパチスロ漫画誌で実戦漫画の連載をスタート。
その実戦漫画に、俺もたびたびゲストとしてお呼ばれしていた。ヤッさんの連載は人気が高く、我々ライターにとって、そこにお呼ばれすることはとても名誉なことだった。
そんな漫画家とゲストという関係がしばらく続いたのち、今度は攻略誌で俺と先輩ライターが主役の実戦漫画がスタート。その漫画を担当してくれたのも、ほかならぬヤッさんだった。
俺が先輩との実戦を基にシナリオを書き、ヤッさんが3ページの漫画にまとめあげる。それが毎月の流れだった。俺が〝先生〟と呼んでいたのは、その頃からの名残りというわけである。
ちなみに年齢はヤッさんが2つほど上で、編集部歴(れき)も2~3年ほどヤッさんが先輩のはずだ。漫画家とライターという違いはあれど、ヤッさんは俺にとって先輩であり、お兄ちゃん的な存在でもあった。
ヤッさん「食べ物、適当に頼んじゃうね」
――「お任せします。ヤッさんの食べたいもので」
ひと通り注文を済ませ、先に届いたビールで乾杯すると、さっそくヤッさんが切り出した。
ヤッさん「で、相談って何?」
――「そうスね、お時間とらせてもアレなんで…」
ビールをひと口だけ啜り、意を決して口を開いた。
――「あの~、…パチ7を紹介していただけませんか?」
人が拓いた道。
ヤッさん「いいよ」
――「えっ?」
ヤッさんはニコニコと笑っていた。俺はあまりの呆気なさに拍子抜けして固まった。
――「え…いや、そんな簡単に?」
ヤッさん「いやいや、簡単じゃない簡単じゃない」
――「だって即答だったじゃないスか?」
ヤッさん「僕だって、誰でも簡単に紹介するわけじゃないよ」
――「はあ…」
ヤッさん「ラッシーさんとはさ、結構長いこと一緒にやってるわけじゃん?」
――「そうすね、はい」
ヤッさん「ラッシーさんがどういう人か理解したうえで、紹介してもいいと思ったんだ」
――「あ…ありがとうございます!」
ヤッさん「ほら、不真面目な人とかだと紹介できないじゃん?」
――「そうスね」
ヤッさん「ラッシーさんの仕事ぶりは見てきたからさ」
――「そう言っていただけると嬉しいです」
ヤッさん「うんうん」
立場は違えど同じフリーランスだ。人が新規で開拓した別の編集部を紹介してくれというのは、なかなか虫のいい話である。だからこそ言い出しにくかったが、当然俺にもやむにやまれぬ事情があった。
当時の事情。
――「ご存じの通り、恥ずかしながら書き仕事が減ってまして」
ヤッさん「まあね。それは攻略誌に限ったことじゃないじゃん?」
――「そうすね。出版業界全体が縮小傾向ですから」
改めて書くまでもないが、スマホの急速な普及により、本や雑誌の需要は大きく減っている。それに対し、パチ7のようなパチンコ・パチスロの無料情報サイトは増加傾向だ。
ヤッさん「でも、大丈夫なの?」
――「そこですよね~?」
〝大丈夫?〟とは言うまでもなく、ほかの媒体で執筆しても大丈夫かという意味である。攻略誌『H』を立ち上げから支えた先輩ライターなら、ほかの媒体でも執筆している例はある。しかし、Hが育てたはえぬきのライターが他媒体で執筆した例は知り得る限りナイ。
ヤッさん「H編集部から『なんで紹介したんだ』って怒られない?」
――「そこは大丈夫な〝ハズ〟です」
ヤッさん「はは、〝ハズ〟ね」
――「ええ、理論上は問題ないハズ」
ヤッさん「〝理論上は〟ね」
顔を見合わせて笑った。
5号機時代も中期になると雑誌の休刊が増え、紙の仕事は大幅に減少した。1機種だけを徹底的に特集する通称〝一冊本〟も、ほとんど作られなくなった。
それでもライターはフリーランス契約ゆえ、いわゆる〝クビ(解雇)〟がない。ライターの数は増えているが、仕事は減り続けている。そんな状況ゆえにH編集部は、ライターに対し「どこでどんな活動をしても構わない」と明言したわけである。
しかし、まったく制限がないわけでもない。A先輩やU先輩のような看板ライターは、制約の多い専属に近い契約を結んでいると思われる。また、俺のような末端のライターも、ライバル誌であるG誌やM誌での執筆は禁じられている。
パチ7は、言わば新興の情報サイトだ。執筆しても理論上は問題ない。そう、〝理論上は〟だが。
ライター間の雰囲気。
――「ご存じの通り動画なら、みんなどこの番組にも自由に出てるんスけどね」
ヤッさん「執筆は前例ないもんね」
――「そうなんですが…まあ、そうも言ってられないっしょ」
そもそも俺より先輩のライター陣は、俺ほど追い込まれていなかったということもあるだろう。ただ、これからの時代は違う。
来店や収録をメインとする演者なら話は別だが、俺らのようなアンティークな〝ライター〟は、自分からアクションを起こさない限り緩やかに死んでいく。
ヤッさん「まあ〝空気〟もあるよね」
――「そう、まさにその通りなんスよ」
編集部は禁じていないし、ライター仲間も誰一人として口にはしないが、どことなく「外で書くのは禁忌」といった雰囲気はある。暗黙の了解というほどではないが、そういった空気はたしかに存在した。
外で書くのはダサい。外で書くのは『H』に対する裏切り。外で書くくらいなら『H』の中で新企画を立ち上げるのが筋。そんな美学とも足枷ともとれる意識は、ライターの誰もが薄っすらと抱いていたように思う。
外で書いたが最後。もう仲間として扱ってもらえないかもしれない。そういった怖さは確実にあった。俺は『H』の歴史において、最初の反逆者になるのかもしれない。
――「編集部が認めているとはいえ、やはり反発は免れないでしょう」
ヤッさん「だろうね。ウチのライターさ、みんなHのこと好きすぎだもんね」
――「マジそうっスね。俺だって好きっスから」
ヤッさん「そう、そこは『H』のいいとこだよね」
――「だからHを辞めるつもりはありません。…今のところはね」
ヤッさんは優しく笑いながらウンウンと頷いている。
――「Hの仕事を続けながら、パチ7でもやらせていただけたらなと」
ヤッさん「うん、いいと思うよ」
――「ただ、ヤッさんがライターや編集から何か言われる恐れはあると思うんで」
ヤッさん「あー、それは大丈夫! 僕らフリーランスなんだからさ」
――「そう言っていただけると助かります」
ヤッさん「言いたくなる人の気持ちも分かるけど、そうも言ってられないじゃん?」
パチンコ・パチスロの漫画家は、そこの考え方がライターよりも遥かに柔軟だ。パチンコ・パチスロ漫画というジャンルが稀有なため、ライバル誌でイラストを担当したり連載を始めることも珍しくない。
ヤッさん「でもさ、なんでパチ7なの? ほかにもD社とかあるけど?」
――「それは…」
パチ7の魅力。
――「恥ずかしい話、ヤッさんがいるっていう安心感が1番ですかね」
ヤッさん「フハハハ、まあそれはそっか」
子どもじみていると笑われそうだが、やはり〝すでに知り合いがいる〟という安心感は大きい。知らないところへ飛び込むのには相当な勇気がいる。だからこそ、新天地へと飛び込んだヤッさんを尊敬しているのだ。
――「それとサイトとしての伸びしろも感じますし、なんというか…」
ヤッさん「なんというか?」
――「サイトから〝アットホームさ〟みたいなのを感じるんスよね」
ヤッさん「あ~、なんつーか手作り感みたいな?」
――「そうですそうです。編集部員も漫画家も仲良さそうで」
ヤッさん「それはたしかにそうだね」
――「ユーザー(読者)との距離も極端に近いですし」
ヤッさん「それが大きな特徴だからね」
――「悪い言い方すると〝プロっぽくない〟みたいな」
ヤッさん「うんうん、企業っぽくないっていうか。サークルみたいな」
――「そう。発展途上だからこそ、俺にできることがありそうだなって思うんです」
ヤッさん「それはパチ7も喜んでくれると思うな」
――「だといいんですが…よろしくお願いします!」
失礼な言い方になるが、パチ7は誰もが認めるNo.1ではナイ。だからこそ行く価値がある。『H』だってそうだった。『H』は攻略誌の中では後発で、常に前にはG誌とM誌がいた。
やっぱり俺は、追われるより追うほうが性に合っている。TOPの位置にいて追われるのは好きじゃないし、そんな柄でもない。
ヤッさん「じゃあ、もう編集長に連絡しとくよ」
――「ええ!? い、今っスか?」
ヤッさん「そうそう、アイツ喜ぶと思うけどな~」
――「アイツ!? 編集長ですか?」
ヤッさん「そう。俺と同い年だったかな? よく一緒に飲むのよ」
――「ええ? 編集長って、そんな若いんスか…」
ほぼ同世代が編集長!! 当時は相当な衝撃を受けたが、パチンコ・パチスロの情報サイトやYouTubeチャンネルでは珍しくない。最近は代理店や制作会社の社長が年下なのにも慣れてきた。
こうしてヤッさんの紹介により、想定より遥かに早くパチ7編集長との面談が決まった。
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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