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私の人生を変えた機種:ライターリレーコラム
2023.01.05
あなたの人生を変えた機種『緋弾のアリア』:「君には女難の相があるねェ…」占い師に翻弄されし人生を変えたのは「緋弾のアリア」だった。(あしの)
書き手:あしの 年齢:40代前半 パチンコ・パチスロ歴:23年 初めて打った機種:ミルキーバー |
「君には女難の相があるねェ……」
これは学生時代に「めちゃくちゃ当たる」と評判の占い師から言われた言葉だ。当時はピンと来てなかったけど、もはや織田信長の時代なら人生を畳む年齢になった今振り返ると、たしかに女難女禍にブチ当たりがちな一生だったかもしれない。
なんせ俺には母親がいない。いや、木の股から生まれたわけじゃないからいるんだけども、一緒に生活したのは3年程度しかないんで慕情みたいなのはほぼない。両親が離婚して、父親に引き取られたからだ。とはいえ特に仲が悪いわけでもなく、東京に出てきてからはたまに会って酒を飲むこともあるのでそう思うこともなかったけれど、冒頭の言葉を思い出した時、そういえば子供時代に母親と別れて暮らすことになったのも、女難に入るのかもねと思った。
まあ、俺の人生において女難なんてものは特に深刻なもんじゃなくて、それよりもっとデカい問題が南アルプスくらいのスケールでズゴゴと屹立しており、そっちのが全然ヤバい。例えば、俺は昔から社会不適合者を自認していたし、今でもそれはあんまり変わらない。毎朝起きて決まった時間に会社に行くのはとうの昔に諦めているし、同じ仕事をずっとやり続けるのも無理だ。やりたくないんじゃなくて「出来ない」のである。不良ぶってるわけじゃなくて、これは欠陥の自白に近い。
新卒で最初に勤務したのは「ジャ○ネットたかた」という会社だった。今では超大手になっているけど当時は九州のいち企業から全国区へ名乗りを挙げようとしてるまさに真っ最中の大変革期であり、社内は常に混沌としていた。その熱気を帯びたカオスのなかで、クラゲのようにゆらゆらしたりピンボールのように弾かれたりするうち、いつしか頭の中に「なんでみんな真面目に働いているんだろう」という小学生みたいな疑問が湧いて、離れなくなってしまった。
働くってなんだろう。働くってなあに。完全にバカのそれだけど、当時は真剣にそれに悩んでおり、いよいよ駄目になった。会社を辞めた日のことはよく覚えている。
当時の会社は自家用車での通勤が禁止だったので、一旦バスで自宅に戻り、愛車のシビックを駆って昼間っから市内をドライブしつつ「ファミコンハウス」というゲームショップでドリームキャストの本体とソフトを5本くらいと、それからビニール袋いっぱいのお菓子とジュースを買って自宅に戻るや、それらを抱えたまま、庭で草刈りする祖母に
「婆ちゃん仕事辞めてきたぜ! スカッとした!」
と報告し、そのまま自室に籠もって3日くらいぶっ通しでコントローラーを握りつづけた。たぶん自分なりの毒抜きの期間だったと思うんだけども、そうやってすっかり何かが抜けたあと、ようやっと「明日からどうしよう」という根本的な問題を認識するに至り、そこで筆者が出した答えが「自営業で食っていこう」であった。
この考えはいかにも合理的に思えたし、働く、というのがわからない俺にもスッと飲み込めるものだった。要するに、俺には「会社で働いて決まった給料をもらう」というがあんまりピンと来てなかったのだ。思えば離れて暮らす母ちゃんや兄貴、そして親戚のおっちゃんやらを含め、親族一同ほぼ全員自営業なのである。真面目に毎朝スーツ姿で「行ってきます」と家を出る大人の姿をアニメやドラマの中でしか見たことがない子が成人を迎えると、こういう価値観の社会不適合者が出来上がってしまうのだ。
「自分で仕事取ってきて自分で売る」
これは非常に分かりやすいし、当時の俺も奮起した。
時代はちょうど中居正広が「ロクヨン、ロクヨン、イチニッパ!」というフレーズでCMしていたISDN回線が普及してきた頃で、ADSLの登場よりも前の時期。企業がこぞって公式ページのデザイナーを探していた辺りだ。ラッキーな事に当時俺が付き合っていた彼女は有限会社の屋号を持っており、個人でデザイン事務所を開いていた。そして俺は中学生時代からプログラミングを嗜んでおり、当時のホームページで広く使われていたCGI程度はハナクソほじりながらでも触れそうだった。デザイナーがいてコーディングできる奴もいるとなれば、これはもう時代がゴーと言ってるようなもの。しかも二人は色んな意味で仲良しである。
いける! これはいける! いける気しかしねぇ……!
思いついたが吉日と言わんばかりに自室を出て、庭で草刈りしてる祖母に「婆ちゃん、出資してくれよ!」とカネをせびるや返す刀で家の近所に事務所兼住居用の部屋を借り、すぐに彼女と営業活動を始めた。この辺の行動力は若さが炸裂しており、まさしく疾きこと風の如しであったが、二人の関係が険悪な感じで終焉を迎えるのもまた音速の如しであった。この時俺が得たのは僅かばかりのお金と「自分の彼女と事務所作っちゃ駄目」という教訓だった。
余談だがその時の彼女はのちに同じ屋号のままそっち界隈で非常に有名になったみたいなので、顛末としては俺がパージ(切り捨て)されたと考えるのが妥当だけども、当時の俺は女性に対し非常に不誠実だったし単純に嫌な奴だったので、そうなって当たり前だったと自分でも思う。
繰り返すぜ。自営業者になろうと思ってるキミよ。自分の彼女と事務所作っちゃ駄目だ。よっぽどコメツキバッタみたいにご機嫌とっていかないと秒で終わるからね。女難には気をつけたまえ。
そうだ、それから5年か6年か、あるいは7年ほど経った頃にはこんな話もあるぞ。
その時俺はもう東京に出てきてて、既に物書きである程度食えるようになっていた。小説を書いたり風俗のレビューを書いたり。スマホゲームのシナリオ書いたり、クトゥルフ神話解説本の原稿書いたりしたこともある。ビッグマネーには程遠いけど、まあギリギリで食っていける。そう。三十路の男がひとりで食っていく分には全然いいけど、厄介な事に当時の俺はおっぱいがデカい女の子と同棲しており、しかも彼女がヴァナ・ディールの世界から全然帰って来ない感じというか、有り体にもうさばネトゲにハマりすぎて廃人化しており一切の仕事をしてなかったんで、二人分の食い扶持を稼ぐ必要があったのだ。
そうなると話がぜんぜん変わるわけで。ふらふらと駄文をしたためているだけでは週に一度の外食すらままならない。
カネ。カネ。カネ。なんとかして簡単に大金をゲットできないものか。社会不適合者が二人いるだけの爛れた空間でボーっと考えている時に、ふと俺の頭にこんなアイデアが生まれた。
そうだ。人に記事書かせてピンハネすればいいんじゃないか!
プォ~ォ~(ほら貝)……時はSEO戦国時代。グーグルの検索順位を上げるための手法として一般的に使われていたのが、似たような短文を大量にアップしてクローラー(グーグルの巡回bot)に読み込ませ、そのキーワードの重要性を誤認させる、というものだった。大昔はこういう手法がそれなりに効果的に通用しており、それ専門の業者というのも沢山あった。というか今でもあるかもしれんがそれはおいといて、大事なのは大量の短文を買い取ってくれる業者というのがいっぱいあって、需要がそれなりに高かったことだ。
試しにネットで見かけた内職サイトに自分の住所を登録して募集をかけると、すぐに近所の主婦が5人くらい連絡してきた。俺は早速彼女らの中で特に積極的だったおばちゃんを責任者に指名し、近所の喫茶店で仕事の概要を伝えた。内容は単純で「プラセンタ」とか「バレンシアガ」みたいな単語が入った150文字程度の短文を100記事ワンセットにして納品すること。それを俺が3000円で買い取るので、取り分はチーム内で好きにしてくれたまえ、だ。俺はそれを別の企業に利益をのっけて売るので、何もせずにカネが入る。ジョン・ディーもビックリのスーパー錬金術である。もうちょっとひねれば賢者の石の誕生も夢じゃないかもしれない。
馬鹿馬鹿しいと思うかも知れんが、そのアイデアは見事にハマった。何もせずに勝手に口座残高が増えていく。ビバ・不労所得! 技術の進化よありがとう……!
チームリーダーのおばちゃんは仕事がデキる女で、周りをびしっとまとめてキーワードの振り分けとの面倒事も全てやってくれるようになり、やがて俺は何もせず本格的にビールを飲みながらピンハネするだけの生物になった。こうなると時間に余裕ができるのでブログを始めたら、こっちもこっちでいい感じにヒットした。順風満帆。人生イージーモードだ。このまま一生こんな感じでいいや俺……。
と思ってたけども、そうは問屋が下ろさず。ちょっと色々あって深刻にマズイ状況になったけどこの辺は物凄く生々しいので割愛。とりあえずまあまあの額の借金を背負うことで手打ちとなり、俺はその返済のためにかなり長いこと家電量販店で働くことになった。この時得た教訓は「仕事ができるおばちゃんは敵に回すと凄く怖い」ということだ。
ちなみにこの時点で例の巨乳の子はめちゃくちゃ若い彼氏を作って家を出ておりその事で俺はそれなりに病んだ。したがって俺の生活は裸一貫どころかどマイナスからリスタート。「Re:マイナスから始める地獄の足立区生活」状態になったのである。この時期、俺は日雇い派遣に登録し、ロッテの工場で雪見だいふくにひたすら粉をかける仕事をしたこともある。
デザイナー子。リーダーおばちゃん。おっぱいデカい彼女。
「君には女難の相があるねェ……」
太宰治の「トカトントン」じゃないけど、俺が何かを思いついて自営業をやろうとしたり人生を立て直したりするたび、どこからかあのときの占い師の言葉がひょっこり鎌首をもたげ、そうして鋭い牙を喉元に突き立ててくる。お前にゃ無理。楽して稼ごうなんて甘えんな。働け働け働け。ガーターベルトのデザイナー子がなめし革のムチを振るう。リーダーおばちゃんが俺の脇腹に膝蹴りを打つ。巨乳の彼女は黒魔道士の格好で俺にファイアIIIを放つ。いやだいやだもう沢山だ。俺は働きたくなんかねぇんだ社会不適合者なんだ勘弁してくれ──。
いいかい。楽して儲けようとするキミに大切な忠告だ。繰り返すけど仕事ができるおばちゃんの機嫌は全力で取ったほうがいいぜ。敵に回すと強制の負けイベントが発生してバッドエンドに突入するから。そしてもうひとつ、こっちの方が大事かもしれんので声のボリュームを上げて言うけど巨乳は付き合ってみるとただの脂肪の塊だからな!騙されんなよ!よろしく!
でだ。これらの話は次の話で丸く収まる感じになるんだけど、あれは今から6年前かな。残暑厳しい秋口の頃だった。
実は俺の人生を変えたパチスロ機は2016年の5号機「緋弾のアリア」(藤商事)なのだ。当時俺は色々あってまた女絡みでものすごい凹み方をしており(学習しない男)このときばかりは流石に田舎に引っ込んで死のうかくらいに思っていた。ただ、捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったもんで、その一番クソ凹んでる地獄みたいな時期に出会ったのが、今の嫁さんなのであります。
嫁さんとはその年の10月15日に映画を見に行く約束をしていて、今思うに実際にその日に会ってたら映画を観てさようならで終わってた可能性もかなり高いと思っている。連絡は定期的に取ってたけど、予定日よりだいぶ早い10月9日の昼間、ちょうど俺が大宮のパチ屋で「緋弾のアリア」を打ってる時にこんな連絡があったのだ。
「明日から連休なので上野辺りに買い物に行こうかと思っています」
その年は体育の日と土日がいい感じで組み合わさって三連休になっており、なるほど、明日から休み、というのはそういう事かと1人で納得しながらレバーを叩いたりボタンを押したりしていた。
(ちょっと待てよ……?)
筐体の右上にくっついた、お世辞にも出来が良いとはいえないアリアのフィギュアと目が合う。
(これ、もし予定を明日に繰り上げれば、うちにお泊り三連泊くらいの流れになったりするんじゃねぇか……?)
それはいかにも魅力的なアイデアに思えたけど、そもそも映画を15日にしたのは俺の給料日がそうだったからだ。つまり現状、遊ぶお金が無い。このアリアだって給料日までモヤシで過ごす覚悟で挑んでるわけで……。
ライン上では彼女と他愛もない会話をしつつ、ただ、向こうの口ぶりから「どうせなら映画明日にしませんか」と言いたそうな雰囲気がビンビンに伝わってきており、ここは男の甲斐性の見せ所なのは間違いがなかった、が、金が無い。無いもんは無い。しかし、その時だ。俺の右手に何かが宿った。もしかしたらそれは今まで女難に振り回されし業を燃料とした怨念みたいなもんかもしれないし、あるいは彼女とイチャコラしたいという煩悩かもしれない。その後の展開を考えると、それは「運命」と呼ばれる不思議な力だったのだろうけど、とにかく「金がねぇから何とかしないと」という一念でもってレバーをストンと叩くと、ああ、なんということでしょう! リールロックを経由して、見たことねぇような演出が始まるじゃないか。
ああ、フリーズしたな……と脳が理解するより早く、心臓がひとつ跳ねた。
思わずシャオラッと亀田興毅みたいな声を出す俺。画面の右上では、邪神像みたいなアリアが優しく微笑んでいた。ユー行っちゃいなよ、明日。昼間はシブい立ち飲み屋で飲んで、夜は一転して豪華にディナー連れてっちゃいなよ。大人の高低差をガツンと見せつけちまいなよ。
心なしかいつもより可愛く見えるアリアに背中を押されるようにして、俺はこう、ラインを返した。
──じゃあさ、明日、上野で飲んでから映画いこうか?
俺と彼女はその24時間後にはベロンベロンになって超意気投合し、老後の生活までの予定をつぶさに定めたロードマップを一晩で書き上げるや翌日には同棲がスタート。三ヶ月後には予定通り猫を飼い、一年後には当たり前のように入籍していた。さらに俺はその2年後には諸々準備が整い、宿願だった自営業生活をついに開始。およそ半数が廃業するひとつの壁である3年を乗り越えて現在に至ると。
たぶんだけど、あの時アリアがデレてくれず、15日に会ってたら彼女は飲みすぎることもなく泊まりにもならず、同棲がスタートすることも結婚することもなかったろう。そうして猫と嫁の両方からケツを蹴られる事がない俺は、ずっと独立せずに量販店で働いていたと思う。
いつだったか「君には女難の相があるねェ……」と抜かした占い師と、もしまた会うことがあったら、俺はきゃつめの胸に、指をめり込ませるくらい突き立ててこう言いたいね。お前はインチキ野郎だなと。女難どころじゃないぜ。嫁さんと雌猫とアリアのおかげで、俺は今メシを食っていけてんだもんよ。とね。
以上が、俺の人生を変えた女難の……もとい、「緋弾のアリア」の話だ。
▲右上の邪神像は俺にとってのフォルトナ(運命の女神)
★同一テーマお題帳への投稿お待ちしてます!
2022年~2023年年末年始企画としてお題帳を実施します。今回はちょっと変わってましてパチ7ライター陣も今回のお題と同じテーマでリレーコラムを執筆・公開します!
そう! ライターもユーザーの皆様も同一のテーマ『あなたの人生を変えた機種』で作品を作って、公開・投稿しましょう! という1度やってみたかった企画です。
機種数にも制限はありませんし、人生を変えたの観点・切り口も自由。パチンコでもパチスロでも可。文字数制限もなし。テーマだけは統一してあとはフリー。もちろんマンガ形式でも問題ありません。
投稿はコチラから! また受付期間は2023年1月31日中になります。皆様の投稿、お待ちしております!
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- あしの
- 代表作:インタビュー・ウィズ・スロッター(稀にパチンカー)
あしのマスクの中の人。インタビューウィズスロッター連載中。元『セブンラッシュ』『ニコナナ』『ギャンブルジャーナル』ライター。今は『ナナテイ』『ななプレス』でも書いてます。
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お!師匠あざっす!久々に自由にかきました!
あの頃のブログの勢いそのまま。
たまに読みたくなるよなあ
チワッス! いえいえ。こちらこそ。読んで下さってありがとうございます。
ありがとうございます。