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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2022.01.04
フリーライター家を買う#04~油断も隙もないグレーな社会~
重いドアを開け部屋に入るや、すべての窓を開け放った。12月ゆえ吹き込んでくる風は冷たいが、駅から早足で来たせいか、寒さはさほど感じない。
周囲の部屋からも、ザワザワと声が聞こえてくる。明日の入居日に備え、みな準備をしているのだろう。俺はスグに持参した踏み台を使い、同じく持参したリビング用の照明を取り付けた。
なにもないガランとした部屋。ここが明日には荷物でいっぱいになる。
こんな機会もないだろうと思い、役目を終えた踏み台と照明の箱を隅に追いやり、リビングの床に寝転んだ。
数年前までは想像もしていなかったマイホーム。それがいよいよ明日……。感慨深げに天井を眺めていると、ほどなくインターホンが鳴った。
マンション購入特典。
モニターを見ると、作業服姿の男が2人。まだインターホンの取説も読んでいないが、勘で通話ボタンを押してみた。
作業員「おはようございます! 冷蔵庫をお持ちしました!」
――「お世話になります! いま開けまーす!」
使い方が分からず少し迷ったあと、解錠ボタンを押した。
引っ越しを翌日に控えたこの日は、冷蔵庫やエアコンの取り付け工事日だった。出産予定日を8日後に控えたカミさんは自宅に残し、俺1人で新居へと来たわけである。
再度インターホンが鳴ると、今度は玄関先から声が聞こえた。急いで出てみると、2人の作業員の後ろにピカピカに輝く冷蔵庫が鎮座していた。
作業員「おはようございます! それでは搬入をはじめさせていただきます」
――「お願いします」
これまで使っていた冷蔵庫に比べ、1.4倍はありそうな大きさだ。こんな代物は不要だと思ったが、カミさん曰く、3人暮らしにはこれくらい必要らしい。
あっという間にクッション性のある青いシートがキッチンまで敷かれ、慎重に搬入される冷蔵庫。俺はなにもできず、ただただ作業を眺めていた。
10分ほどで取り付け完了。受け取り確認の判を押し作業員に礼を言うと、またインターホンが鳴った。案の定、エアコンの取り付け業者だった。
言うまでもなく、新築の分譲マンションには家具や電化製品が一切ナイ。賃貸ならエアコンも完備されているだろうが、新築の分譲では照明(蛍光灯)すらも自分で用意する必要がある。
家具・家電を買い揃えるだけでも数十万が必要となるわけだが、この負担は少しだけ軽減される。新築物件を買うと、特典として不動産業者から商品券が配られるからだ。
ウチのマンションの場合、各戸に配られた商品券は30万円ぶん。全部屋にエアコンを設置するなら全く足りないが、それでもナイよりはマシだ。
もちろん物件そのものの価格が高ければ、そのぶん特典も大きくなるだろう。50万円ぶんや100万円ぶんの商品券が付与されることもあるハズだ。しょせんウチは、その程度の価格帯ということである。
購入したエアコンは3台。本当はリビングと繋がっている子ども部屋にも置きたいが、それは子どもが大きくなったら買うことにした。
量販店から派遣された業者により、次々と取り付けられていくエアコン。室外機の設置もあるため、冷蔵庫よりはだいぶ時間がかかりそうだ。
ヒマを持て余し作業員のパイプ工事に見とれていると、またもやインターホンが鳴った。本日届くのは冷蔵庫とエアコンだけのハズ。一体なにが……? モニターには「玄関」の文字だけが浮かんでいた。
第三の業者。
取り付け作業中につき、玄関は開けっ放しになっていた。
男「お忙しいところスミマセーン!」
急いで玄関に向かうと、冬なのに真黒く日焼けした細身で長身の男が立っていた。歳は50くらいだろうか。例に漏れず作業着姿だが、手には大きなファイルを持っている。
――「はーい、なんでしょう?」
男「本日、内装工事をさせて頂いてます〇〇株式会社の〇〇と申します」
――「はあ、はい……」
困惑する俺に、男は首からぶら下げた社員証のような物を差し出した。
男「本日、〇〇〇〇さん(不動産会社)から公認を受けまして、内装工事のご案内をしています」
――「はあ……」
どうやら不動産会社が依頼した内装工事業者らしい。しかし、新築の段階で内装工事とはどういうことだろう?
男「いま全戸に案内させて頂いてまして、4軒ほどご契約して頂きました。少し中を見せて頂きながらご案内させて頂けませんか?」
――「はあ、構いませんが……」
リビングに戻ると、ちょうどエアコンの取り付け作業が終わったところだった。エアコンと室外機周りをチェックし、確認印を押して取り付け業者を帰した。
――「お待たせしてスミマセン。で、内装……ですか?」
男「ええ。あー、こちらのお部屋もこの壁紙なんですね~」
――「ええ、そうですけど」
男「この壁紙、濡れるとダメなんですよね~」
――「えっ!? 濡れただけで……!!?」
新居の問題点。
俺は分かりやすく狼狽した。新築、新築だぞ!? その壁紙が濡れただけでダメになるとは!!
男「トイレも見させて頂いて構いませんか?」
――「ええ、もちろん……」
男とともにトイレへ向かう。
男「ああ~、トイレの手洗い場もこの壁紙か~。これは参ったな~」
――「えっ? なにかマズいんスか?」
男「はいー。この壁紙、ちょっと触ってみてください」
――「はあ、ごく普通のよくある壁紙ですけど……」
男「少しスポンジみたいにクッション性ありますよね?」
――「まあ、ツメで押すと跡つきますしね」
男「そう、クッション性があるがゆえ、水分吸っちゃうんですよ」
――「ええ!? そうなんですか?」
男「このファイルをご覧ください」
――「ファイル!?」
男がファイルを開くと、そこには同じ壁紙の写真が。
男「この壁紙ですよね?」
――「そうですね。同じタイプ」
男「それが水に濡れると……」
男がファイルのページをめくると、そこには真黒く変色した壁紙の写真が!!
男「たった数ヶ月でこんなになっちゃうんです」
――「ええっ!? そんな!!」
まさに衝撃である!!
あんなに何度も貼り替えてもらった壁紙が、水に濡れるとたった数ヶ月で黒くなるとは! そして、そんな素材をトイレという水回りの壁にも採用しているとは!!
男「そこでオススメするのがコーティングです」
――「コーティング?」
男「そう。この壁紙の表面に防水加工のコーティングを施すわけです」
――「はあ、なるほど」
男「そうすれば水が付いても大丈夫。黒ずむことなく、ずっとキレイなままを保てます」
――「防水スプレーみたいなイメージ?」
男「そうですそうです! 効果が十数年持続する防水加工ですね」
――「はあ~、なるほどですね~」
男「あ、あとお風呂場も見させて頂けますか?」
――「ええ、もちろん」
男を引き連れ、新品の匂いが充満するお風呂場へ。
男「この浴槽あるじゃないですか? これ、ココ開けられるんですよ」
そう言うと、男はおもむろに浴槽の側面をパカリと開いた。
――「え!? そこ簡単に開けられるんですか?」
男「そうなんですよ~」
男は得意げな表情で続ける。
男「水回りにこんなスペースがあると、どうなります?」
――「……カビが繁殖する?」
男「そう、おっしゃる通り!」
男はファイルを取り出し、パラパラとページをめくった。
男「この写真、これと同型の浴槽ですよね?」
――「はい、同型ですね」
男がページをめくると……
男「それがたった半年でこう!」
――「エ゛エ゛!? マジで……?」
そこには開いた浴槽の側面に、ビッシリと生えたカビの写真が!!
男「ここは普段開けないから、直接触れることはありません」
――「それはそうだけど」
男「そう、カビは1箇所で繁殖始めると広がりますからね」
――「ですよね。つまり……」
男「浴室すべてにカビの繁殖が拡大するということです」
――「そうなりますよね?」
最新設備のお風呂場に、まさかこんな落とし穴があったとは! この側面を開けなければ、目をつむることはできる。しかし、カビが側面の中だけにとどまってくれるとは思い難い。
男「なので、ここにも防カビのコーティングをオススメしております」
――「ほう、カビが生えなくなるやつ?」
男「そうです。これも十数年ほど効果が持続します」
――「なるほど」
男「今回特にオススメしているのは、この2点の施工ですね」
――「はあ……」
これから子どもが入るお風呂だ。そこがカビだらけでは、いつ病気になるとも分からない。俺とカミさんだけなら我慢できるが、子どもに影響が出るとなると……。
沖縄の男。
男を伴いリビングへ移動した。
男「しかし……ご主人、まだお若いですね?」
――「いや、もう30ですけど」
男「いや~、30で住宅購入とはご立派ですね」
――「いやいや、田舎の友達に比べれば遅いほうですよ」
男「ほう、ご出身はどちらで?」
――「東北の山形です」
男「あ~、いいところですね~。私も田舎から出てきたもんで」
――「へ~、どちらなんですか?」
男「沖縄です。嫁さんと娘二人を置いて来てるんですよ」
――「へ~、いいじゃないですか! 沖縄!」
男は窓から空を見つめ、寂しそうに続ける。
男「ほんとはコッチに家建てて家族を呼びたいんですがね。情けないかな、この歳になっても、こうやって現場に出ているというわけです」
――「………」
一人田舎を離れ、こうして家族のために働いているのだろう。1年ほど前の俺なら、その尊さが分からなかったかもしれない。
しかし、もうすぐ子どもが生まれる今なら分かる。親は子どものためになら頑張って働ける。俺も子を授かり、やっと親のありがたみを理解したのだ。
男「そんなわけでご主人、施工はいかがいたしましょう?」
――「壁紙とお風呂場でいくらになります?」
男「そうですね……総額で48万円になります」
――「よ、よんじゅっ……!?」
ハッキリと〝めまい〟がした。
頼れる女。
――「48万!? いやいや、ムリムリムリ」
まもなく子どもが生まれるというのに、ここにきて48万の出費などありえない! カビの繁殖は防ぎたいが、ない袖は振れない!
男「まあ、落ち着いて聞いてください。今はキャンペーンもありますので」
――「キャンペーン……?」
男「もしくは、壁紙施工を水回りに限定すればいいかもしれません」
――「たしかに。ちなみにトイレとお風呂場だけなら」
男「そうですね……総額30万円」
――「さ、さんじゅう!?」
男「ですが、本日ご契約いただければ半額の15万円で」
――「半額!? マジすか!」
30万円なら即お断りだが、15万円なら……。メダル換算で7,500枚。ウン千万の借金を背負ったいまなら誤差と言える範疇だ。
男「半額は本日限り。当マンションでご契約いただけたのは4軒です」
――「なるほど……カミさんと相談させてください」
男「分かりました。私は別のご入居者さまにも案内がありますので、決まりましたらご連絡を」
そう言うと、男は名刺を置いて出て行った。当然、俺はスグさまカミさんに電話。壁紙や浴槽の欠点はもちろん、半額キャンペーンのことも詳細に話した。
カミさん「それ普通に詐欺じゃない?」
――「え?」
カミさん「それ要らない内装工事する詐欺じゃない?」
――「え? だって4軒の契約が……」
カミさん「そんなのウソに決まってんでしょ?」
――「ええ? いやでも不動産屋公認みたいな社員証付けてたし」
カミさん「そんなのナンボでも偽造できるでしょ」
――「いやいや、そんな偽造なんて……」
カミさん「そんな言うなら、管理会社に電話してみ?」
――「う……うん」
そんなわけがない。あの男は家族のために単身赴任で頑張っているんだ。働く男の目だった。家族のために働くお父さんの目だった―――
グレーな社会。
管理会社「え~、そのような業者の出入りは許可してません」
――「は?」
管理会社「ですから、そのような業者の立ち入りは許可していないので、勝手に入り込んだ業者だと思われます」
――「そ、そんな!!?」
管理会社「絶対に契約しないでください」
――「はあ……分かりました」
防犯対策バッチリのマンション。しかし、この日と翌日は搬入作業のため、マンション中のあらゆる出入口が開けっ放しになっていた。あの内装業者はそこを狙って入り込んで来たらしい。
地獄かよ! 人がやっとの思いでマイホームを買ったのに、そのスキを突いてくるとは! たしかにウン千万の借金(住宅ローン)に比べれば、15~50万など小さく感じてしまう。その油断を狙ってきたのだ。
昨今も問題になっている「要らない内装工事、要らないリフォーム」。その典型例だったのである。俺がカミさんからこってり絞られたのは言うまでもない。
あれから10年が経ち、今でもあの沖縄の男を思い出すことがある。あれは詐欺と呼ぶモノだったのだろうか?
たしかに、さも不動産会社の公認を得ているように装った点は許しがたい。そしてウチの壁紙も、特別手入れしていなくてもキレイなままだ。要らない施工だったことは間違いない。
しかし、彼にとってはそれが「当たり前の仕事」だったのでは? 要らない物を、さも要る物のように売るのは罪なのだろうか? それも営業の仕事のように思う。
年度末の道路工事もムダに感じることがあるが、それによって暮らしている人々がいる。それでギリギリ食いつないでいる人もいるかもしれない。公共としてはムダであっても、その人の家庭においては貴重な収入源なのかも。
世の中は、そうしたグレーの上に成り立っているのだろう。 完全にムダを排除した社会なら、喰いっぱぐれる人が必ず生まれる。言うまでもなく、売れないフリーライターもそうだ。
ムダを許してくれる社会だからこそ、俺も生かされているのかもしれない。家を買っても調子に乗らない。粛々と仕事をしていこう。そう思わされた経験だった。
マンション購入から2年後――
仕事で地方へ行ったときのこと。アテンド役の広告代理店勤務K氏と高速を走っていると……
K氏「ラッシーくん、マンション買ったんだ?」
――「え? なんで分かったんスか?」
K氏「名刺に分譲マンションの名前あったから」
――「ああ、なるほどっスね」
K氏「まだ一軒目?」
――「はいぃ? いや、普通一軒でしょ?」
K氏「いやいや、パチスロライターなら二~三軒持ってなきゃダメでしょ」
――「ええ!? そんな人います?」
K氏「〇〇さんとか〇〇さんとか、みんな三軒くらい持ってるよ」
――「知らんわっ!!」
ねえ、売れてる先輩方。ライターに成金イメージ作るの、ヤメてもらっていいっスか?
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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