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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2022.01.18
フリーライター父になる~キレイな産声~
急な右カーブを抜けると、列車は大きな川の上を滑るように走った。水面が弾く日差しはさほど強くないが、それでも俺の目の奥に鈍痛を与えるには十分だった。
ほどなく緩やかな左カーブに入り、徐々に速度を落とすと、見慣れた駅へゆっくりと滑り込んだ。
つい先日までカミさんと過ごした街。この駅に降り立つことも、もうあまりないかもしれない。飽きるほど見たはずの何気ない景色が、急に美しく見えた。
改札を出るとスグに右へ向い、石畳の商店街を奥へ奥へと急いだ。気を抜くとこの勢いのまま先日まで住んでいたボロマンションに向かってしまいそうだ。
馴染みの歯医者の前を通り過ぎ、ダウンのファスナーを開けた。次いで感覚を失った両手を白い息で温め、そのままの流れで腕時計に目をやった。
まもなく午前8時。
俺は顔を上げ、再び早足で商店街の奥へ奥へと進んだ。
父の記憶。
早朝にもかかわらず、病院の待合室には20人ほどの人影があった。まだ受付もはじまっていないハズだが、近隣でも指折りの大きな病院ゆえ、時間外の急患も多いのだろう。
かく言う俺も、この病院に急患として訪れたことがあった。5年ほど前に〝くも膜下出血〟を発症したときのことである。思えばこの病院には世話になりっぱなしだ。
そんなことを考えながらも歩調は緩めない。まだ明かりが少ない広々とした廊下を進むと、徐々に待合室のざわめきが遠ざかり緊張感を高めた。
突き当りでエレベーターに乗るとすかさず「6」のボタンを押し、せわしなく「しめる」を押す。普段なら気にならないエレベーターの移動時間も、やはり少し長く感じる。
6階は何度も訪れた真昼と変わらない様子だった。大袈裟な物言いをすれば戦場。看護師たちが忙しく歩き回り、遠慮のない大声も聞こえてくる。
エレベーターホールから病室へ向かうと、フワリと朝食の匂いが鼻先を撫でた。その瞬間、ギュウゥゥゥと情けなく鳴く腹。普段であればあまりソソらない病院食の匂いも、今の俺には十分効いて、空腹であることを思い出した。
病室に入るや歩調を緩め、足音を立てぬよう歩いた。奥へ進むと、逆光の中にカミさんのシルエットが浮かんでいた。
――「おはよう! どう?」
カミさん「やっと来た! おはよう」
――「寝てなくて大丈夫?」
カミさん「今は座ってるほうがラクだから」
――「そうなんだ!?」
カミさん「寝たり座ったりの繰り返し。波があるから」
どうやらカミさんの病室の朝食はまだらしい。俺は周りのベッドの妊婦たちに軽く会釈し、カミさんのベッドの隣にある丸イスに腰かけた。
――「とりあえず間に合ってよかった」
カミさん「はは、そんな簡単に生まれないよ」
「破水しました」とお義母さんから連絡を受けたのが午前2時過ぎ。俺は前日の夜から編集部で編集作業をしていた。電話を受けてスグに向かおうと思ったが、破水からスグには産まれないとのことなので、校了を間近に控えた仕事を片付けることにした。
ソワソワしながらどうにか仕事を終え、病院に着いたのが8時過ぎというわけである。
カミさん「ウチのお父さんみたいになるかと思ったよ」
――「いやいや、まさか……」
すでに他界しているお義父さんは、高校の体育教師だった。晩年は石川の陸上協会で選手の育成に心血を注ぎ、遠征で全国を飛び回っていたらしい。
そのせいで一度出掛けるとなかなか帰ってこず、妹が生まれたときも顔すら見せなかったらしい。カミさんと妹は6つ離れているため、一人で出産に挑む母の姿がしっかり記憶に残っているそうだ。
だから妊娠が分かった頃から、ずっと言い続けているのである。「ウチのお父さんみたいにはなるな」と。
出版業。
カミさん「まさか出産の日にも徹夜で編集部から来るとはね」
――「ごめん、ちょうど校了前だったから」
過去に行った二度の海外旅行も、徹夜明けで飛行機に飛び乗っている。前もって計画していても、出版業はなかなかスケジュール調整が難しい。
看護師「五十嵐さーん、朝ご飯でーす」
カミさん「ありがとうございます」
看護師「食べられないかもしれないけど、出産いつになるか分からないから」
カミさん「はい、じゃあ少しだけ」
看護師「陣痛の波はどうです?」
カミさんと看護師が陣痛の周期について話していると、俺には強烈な睡魔が襲ってきた。
カミさん「おーい、寝てんの?」
――「え? まさか。大丈夫大丈夫!」
カミさん「ご飯食べた?」
――「いや、昨晩からなにも」
カミさん「私ちょっとしか食べないから、少し食べる?」
――「いやいや、いいよ。あとでテキトーに食べるから」
看護師「あら、旦那さん夜勤明け?」
カミさん「そうなんですよ~。こんな日にも」
――「……すいません」
看護師「今の陣痛のペースだと、たぶん日があるうちは産まれないわね」
――「そうなんですか!?」
看護師「陣痛はじまってからも長いんですよ」
陣痛がはじまってから実際に生まれるまで、半日や十数時間は当たり前。丸一日かかることも珍しくないそうな。
カミさん「一旦、家帰ったら?」
看護師「それがいいですよ。立ち合いに間に合うよう連絡しますんで」
たしかに産婦人科の病室で俺が寝ているわけにもいかない。
――「なら一旦帰ってまた来ます。分娩室入る前にシャワーも浴びておかなきゃだし」
カミさん「そうだね。少し寝ておいて」
こうして俺は電車に揺られ一旦帰宅。病院からの連絡を待つことにした。
遺伝vs看護師
――「ただいま帰りました」
お義母さん「あら、お疲れさんやじ」
新居に引っ越してきたのは2日前。身重のカミさんと俺だけでは頼りないため、お義母さんが金沢から手伝いに来てくれていた。
お義母さん「病院寄ってきました?」
――「ええ、もちろん。夜になるだろうとのことで」
お義母さん「どうかしらね~?」
――「え?」
お義母さん「あの子(カミさん)、陣痛はじまってから2時間で出てきたから」
――「ええ!? 早くても数時間はかかるって言われましたけど……」
お義母さん「あらほうけ? まあ、とりあえずご飯でも食べて休みなっし」
――「はい。けど、もう眠いんでとりあえず寝ます」
お義母さん「あら、じゃあ起きたらご飯にしましょう」
――「ありがとうございます」
お義母さんは陣痛のはじめから出産まで早かったそうだが、看護師がああ言っているのだ。早くとも夕方にはなるだろう。まずは寝て、起きたらスグにご飯とシャワーを済ませ、病院からの連絡を待つとしよう。が………
お義母さん「起きてください! 連絡がありましたよ!」
――「えっ!? 連絡?」
夕方まで寝てしまったのだろうか!? 急いで枕元の目覚まし時計を見ると……まさかまさかの午前11時。床に就いて2時間も経っていない。
――「もう連絡来たんですか?」
お義母さん「そうそう、早く準備しまっし!」
――「えええ!?」
カミさんがお義母さんと似ているのは、どうやら容姿だけじゃないらしい。遺伝のせいかは定かでないが、やはり陣痛開始から出産までの間が短いようだ。く~、遺伝が看護師の経験則をも打ち砕くとは!!
スグにベッドから飛び起き、デジカメを充電したのち風呂場へ。分娩室に入るのだから、シャワーを浴びておく必要がある。
お義母さん「急ぎまっし! 急ぎまっし!」
――「は、はい! スグ出ます!」
いや囚人か! こんなに急かされながらシャワーを浴びることになるなんて!! 頭から足先までボディソープで洗いあげ、一気にシャワーで流した。この日ほど坊主頭でよかったと思ったことはない。
風呂場を出ると体を拭くのもそこそこに、キレイな服へと着替えた。寝起きでは気付かなかったが、腹は相当に空いている。ケータイでタクシーを呼びながら湯を沸かし、待ち時間でカップヌードルを飲むように食べた。
――「とりあえず先に出ますね!」
お義母さん「私もあとで向かうさかい」
分娩室やその前室にあたる待機室には、講習を受けた者しか入れない。原則的に一人限りなので、今回は俺だけ。お義母さんが孫と対面するのは、無事に出産が終わったあとになる。
マンションを出ると、ほどなく黒いタクシーが現れた。スグに乗り込み一息つくと、自分が緊張していることに気が付いた。
子どもは元気で生まれてきてくれるだろうか。そして、いわゆる高齢出産だ。カミさんも無事だろうか……。
パパ待ち。
産婦人科がある6階に着くや、スグに看護師に飛びついた。
――「あ、あの! 五十嵐です!!」
看護師「あ、五十嵐さん!? もう分娩室に入ってください」
――「わかりました!」
デジカメを用意しつつ、早足で分娩室へ向かう。正直に言うと、立ち会うのは少し怖かった。大人になると、すっかり血が怖くなる。そして絶叫するカミさんを、なにもできず見ているのもツラい。立ち合いのお父さんが気絶することもあるそうな……。
気絶しちゃったらどうしよう……
分娩室の前室で手を消毒し、マスクを付けて分娩室に入った。
――「五十嵐です! よろしくお願いします!」
医師や看護師は振り向きもせず、返事もなかった。すでにカミさんの下半身へと意識を集中させているらしい。肝心のカミさんは……
カミさん「よかった。間に合った」
――「うん、よかった」
カミさんの顔色は見たことがないくらい青い。が、声はしっかりしており、意外にもケロッとしている。その顔はもっと苦悶に歪んでいると思ったが……。
手は握れない。出産時の妊婦は思い切り力むため、旦那の手を握りつぶすこともあるそうな。ちなみにカミさんの手は、俺の1.5倍ほどデカい。まず無事では済むまい。
※注:筆者は極端に手が小さい
俺は少し離れたところでデジカメを構えた。手の平から滲んだ汗でカメラが滑る。
医師「お、来るぞ!」
看護師A「来ますね」
医師「やっぱりパパ待ちだった」
看護師B「パパ待ちですね」
看護師C「パパ待ちでしたねー」
――「………(パパ待ち???)」
初めて聞く言葉だが、なんとなくニュアンスは理解できる。おそらく赤ちゃんがパパの到着を待っている状況を、この産婦人科医たちはそう呼んでいるのだろう。
言わば「産婦人科あるある」、オカルトみたいなものだろうか。
ドラマと違う!!
カミさんは息を荒くし、聞いているのが辛くなるほどの唸り声を上げた。俺は恐怖で縮こまり、分娩台から4歩ほど離れたところで目をグッと細めながら見守る。
看護師B「はい、五十嵐さん頑張ってー!」
看護師C「もう頭見えてますよ、はいもう1回」
怖い怖い怖い怖い……!!
こんな状況に置かれたとき、男とはなんと頼りないものか。なにもできない。怖くて直視すら難しい。ただひたすら、ただひたすら祈るしかないっ!!
医師「ほら、もうちょっと!」
看護師A「ほら! ほらほらほら……出た~」
看護師B「あ~、出てきたね~ぇ」
看護師C「五十嵐さん、女の子ですよ!」
えっ!? 出た!!? 出たの!?
たぶん女の子だろうということは事前の検診で分かっていた。ただ、稀に男の子でも隠し持っているケースがあるらしい。だから実際に出てくるまで「確定」は出ないそうだ。逆に見えれば「男の子」と断定できるのだが……。
看護師C「ほら、へその緒チョッキンしてママのところ行きましょね~」
えっ!? えっ!? チョッキン怖い怖い怖い!!
てか………産声が聞こえないんですが!!!?? ドラマなどではスグに産声が上がり、それから「生まれました~! 元気な女の子ですよ!」じゃない!? 産声が聞こえないんですが!!!
不安に耐えかね分娩台に近づき赤ちゃんを確認。すると、その直後……
「オアァア! オアァア! オアァア……」
高音の大きな産声が分娩室中に響き、ホッと胸をなでおろした。
カミさん「はぁあ…はぁあ…キレイな声」
――「ははは、なにその感想」
思わず笑ってしまった。産声にキレイも汚いもあるだろうか。しかしカミさんは今でも言う。ウチの子の産声は、とてもキレイな高音だったと。
看護師C「ほら~、ママですよ~」
軽く拭かれた赤ちゃんがカミさんの横に寝かされた。顔を真っ赤にして泣いている。
カミさん「やっと会えたね~。こんにちは~」
――「こんにちは~。よく来てくれたね」
俺は何度も何度も震える手でシャッターを切った。カミさんは汗と涙で濡れたまま、愛おしそうに赤ちゃんを見ている。
――「〝ママ〟ありがとう…ありがとう!」
カミさん「……うん」
カミさんの頭をそっと撫でた。
11時から本格的な陣痛がはじまり、分娩所要時間はおよそ2時間半。午後1時、無事に娘が誕生した。分娩所要時間がこんなに短いのは、少しだけレアケースらしい。
俺は例に漏れず感動していた。現世人類だけじゃない。我々の祖先は、誰もがこの尊い過程を経て命を繋いできたのだろう。
ウチの両親も、きっとこうして俺を迎えてくれたのだろう。のちに売れないパチスロライターになる俺を。
その後、分娩室を出てお義母さんと対面。お義母さんも大きな荷を降ろしたように、晴れやかな笑顔で初孫を喜んだ。
カミさんと娘は、そのまま5日ほど入院。俺は忙しい時期のため、お義母さんにはしばらくカミさんをサポートしてもらうこととなった。
間違いなくこの日が、我が生涯において最も重要な1日となった。TVに出演してはバカをして、ネットを開けば当たり前に叩かれる。そんなパチスロライターも、カメラの外では普通に父であり、母なのである。
もしかしたら、あの美人ライターも………!?
どんなに世間から後ろ指を指されようとも、この子のためになら頑張ろう。いよいよ俺にもそんな存在が現れた。ますます仕事を頑張ろう。そう誓った1日だった。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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