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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2019.10.01
動画デビュー~エヴァまご肆~
階段は剥き出しのコンクリで、所々に補修の痕が見られた。ドアは木目調であるものの、いわゆるオシャレな木目ではナイ。昭和の家具によく見られた、色が暗めで光沢のある木目である。その気になれば蹴破れそうなドアだ。俺の表情は、きっと不満げだったに違いない。
――「いくらなんでも…ねえ?」
彼女「そう? 私は気に入ってるけど」
――「ちょっと古すぎじゃない?」
彼女「身分相応。これで十分でしょ」
――「そうかな…」
彼女だって、もっと綺麗なマンションに住みたいハズだ。しかし、俺の現状の収入と社会的信用を考えると…。
お世辞にも広いと言えない2DK。角部屋は一応フローリングだが、いかにも畳をひっぺがして無理矢理フローリングにしましたという雰囲気だ。
彼女「見て見て! 和室の収納が大きいの」
――「…うん、そうだね」
気になったのは収納よりも外の音。窓を開けてベランダへ出ると左手に大きなグラウンドがあり、威勢のいい運動部の声が聞こえて来た。加えてマンションの前には小さな工場もあり、せわしなくフォークリフトが走り回っている。
彼女「音が気になる?」
――「う~ん、まあこの程度なら」
彼女「この広さと角部屋で、この家賃はなかなかないから」
――「うん…探してくれてありがとう」
彼女「じゃ急いで契約しよ? 他の人に取られちゃうもん」
――「そうだね…」
2007年の夏の終わり。俺たちはボロボロの新居へと引っ越した。
引っ越しの理由。
引っ越しを決めた理由はたくさんある。例の一件で退院したのが3月。そして翌4月にはお義父さんが亡くなった。そこから3ヶ月ほどが経った7月7日に入籍。彼女の中で色んなものを整理・清算し、新たな気持ちで新婚生活を始めたかったのだろう。
前に住んでいたマンションから新居までは徒歩5分。最寄り駅も変わっていない。一見、意味のない引っ越しだが、駅が遠くなったぶん家賃は2万円ほど下がった。言うなれば格下げである。だが、この格下げこそ今の俺の評価。パチスロ攻略誌の駆け出しライターに相応しい評価なのだ。
這い上がる! このボロボロのマンションから!! その第一歩となるのが動画出演だ。
正直に書こう。当時のパチスロ攻略誌の原稿料は、一般的な出版物の原稿料より遥かに高かった。原稿料には交通費も含まれるというのも一因だが、最大の理由は別にある。パチスロを打ち続けるには金が要るためだ。時には根拠不明の攻略法を試したり、解析数値が一切通用しない〇モノを打ったり、設定が一切入らなさそうな機種を打ち続けたり…。それらを全て自腹で検証・実戦するため、攻略誌の原稿料は高かったのである。
当時の俺には、それだけで十分だった。大人しく記事さえ書いていれば不自由なく暮らしていける。本格的な5号機時代に突入すると仕事は大きく減ったが、それでも好きな書き仕事だけでも喰うには困らない。だが、それではダメだという思いもあった。
我が攻略誌Hにはスターと呼べる先輩がたくさんいた。生々しい話になるが、その先輩方の収入は俺の比ではナイ。さらなる高みを目指すなら、ただの攻略ライターに甘んじているわけにはいかない。動画でも活躍できるようなタレント性を身に付ける必要があった――。
懐かしの収録現場。
街は駅へと向かう人たちで溢れていた。俺はそれに逆行する形で歩きづらさを感じ、堪らず薄暗い路地へ入った。鼻にまとわりつく異臭と壁際を走り抜ける大きなネズミが、新宿らしさを際立たせる。
シャッターが降りたホールの前に着くと、スグにプロデューサーであるY氏(制作会社・社長)へ電話した。
――「ラッシーです。着きました」
Y氏「おう、隣に階段あるだろ? 3階まで上がって来て」
――「分かりました。スグに行きます」
山のように積まれたゴミ袋を避け、大きな金属製の扉を開けて薄暗い階段を上った。3階のドアをノックするとY氏が迎えてくれた。
Y氏「おう、おはよう」
――「おはようございます。ご無沙汰しております」
23時を過ぎていても「おはよう」。少し懐かしさを感じた。
Yさん「もうAも来てるよ」
――「あら、早いですね」
Aさんは攻略誌Hで売出し中の先輩ライターだ。近年は誌面の仕事だけでなく、TV番組でも活躍している。その勢いは凄まじく、デビューから2年と経たずスターの仲間入りを果たした人物だ。
中に入るとすでに照明が焚かれおり、床には何本ものケーブルが這っていた。AD時代に何度も見てきたが、今回は立場が違う。抑えていたはずの緊張が一気に溢れてきた。
スタッフさんの顔は全員知っている。カメラマンと音声さんは専門学校時代の講師で、音声さんに至っては録音コースの師匠だ。そしてディレクター(D)。AD時代にお世話になった方であり、我が専門学校の先輩にもあたる。知った顔だからこそ、余計に緊張が増したのかもしれない。
――「今日はよろしくお願いします!」
A先輩「はは、そんな緊張しなくていいよ」
――「とは言われましても」
A先輩「まあ、任せてくれれば大丈夫だから」
――「ありがとうございます…」
A先輩「エヴァまごは打った?」
――「もちろん! ここ5日間くらいずっと打ってました」
A先輩「そりゃ心強い。じゃあ簡単な解説は任せたよ」
――「任せてください! バッチリ予習して来ましたから」
A先輩「ラッシーはそういうとこマジメだよな」
――「つまんないヤツみたいな言い方っすね」
A先輩「んなことないよ! まあ、気楽にいこう」
――「ありがとうございます!」
こうして出演者として初めての収録がスタート。ここで結果を残すしかない! 汗ばんだ拳をギュッと握った。
初出演のデキ。
D「おい、姿勢!」
――「は、はいっ」
D「違う! もっとアゴ引けってんだ!!」
――「はい、すみません」
これまで誰からも指摘されず、あまり意識する機会がなかった遊技姿勢。動画ではそんなところまで見られるのか…。いや、落ち着け! エヴァまごの基礎知識は解説に十分なほど身に付けているし、会話の受け答えも何度もシミュレーションしてきた。落ち着いてさばけば大丈夫だ。
A先輩「今作はチェリー同時当選も多いけど、チェリー成立時に特にボーナス期待度が高い演出とかある?」
――「あ…あ…ありますね。あの…ゲ、ゲ、ゲンドウと」
D「声が小っせえよ! ハッキリ喋れ!!」
A先輩「大丈夫、落ち着いて」
――「あと次回予告からの」
D「もうボーナス当たってるよ!」
――「あっ…す、す、スイマセン」
A先輩「じゃ、先にボーナス最速揃え解説しちゃって」
――「は、はい。え~と、ベルとスイカを取らなきゃいけないんで」
A先輩「ボーナス優先制御だからね」
――「あっ、で、ですです。で、まず中リール枠上・上段に黄7を…あれ?」
なぜか狙ったところが全く止まらない!
――「あわわ、ちょ…なんで…」
A先輩「大丈夫、落ち着いてやり直そう」
D「ったく、目押しもできね~のかよ」
――「す…すみません」
そう、この時の俺は絵に描いたように緊張していたのである。もう何も見えていないし、何も聞こえていない状況。完全なパニック状態に陥っていた。Dからの圧が一層緊張を増幅させる。
A先輩「ボーナス中は、チェリーだけハズすんだよね?」
――「そうです、スイカは獲得して…」
D「手を止めるな! 回しながら喋れ!!」
――「は、はい! スミマセン」
A先輩「まあまあ、そんな言わずに」
――「すみません、すみません」
まるで水中で打っているような気分だった。完全に溺れている。シミュレーションなど、何の役にも立たなかった。
A先輩「お、私にも次回予告が! 第2停止でまだ続いていて…」
D「おいラッシー、手ェ止めろよ!」
――「え? 今度は手止めるんですか?」
D「そんくらい雰囲気で察しろよ!」
A先輩「まあまあ、そんなの分からないよね」
――「す、すみません…」
何度も経験した収録現場。しかし、スタッフ側と出演者側でこうも違うとは!! その後も俺の緊張がとけることはなかった。
A先輩「ラッシーは割とエヴァ世代だよね? リアルタイムで観てた?」
――「そ、そっすね…」
A先輩「あ、えー、私はリツコ派なんだけど、ラッシーは誰派なの?」
――「えっ…いや…別に…」
A先輩「じゃ、じゃあパチスロ打たない日は何して過ごしてんの?」
――「…特に何もしてないっすね」
A先輩「そうなんだ…」
先輩の優しいパスをことごとくスルー! 断固スルーなのである!! というか、この日の俺はそれがパスであることさえ気付かなかった。「何でパチスロに関係ないこと訊くんだよ」とさえ思っていた。必死にフォローしてくれていたA先輩の気遣いに全く気付かなかったのだ。
ああ、十数年ぶりに思い出しながら書いていると胸が痛い。
D「まずパチスロどうのこうのじゃねーな。その前の問題だ」
A先輩「いやいや、私だって初めてはこんな感じでしたし。なあラッシー、気ィ落とすなって」
――「す、すみません」
こうして終始ガチガチのまま初めての収録は終了。言うまでもなく、俺は敗北感でいっぱいだった。ホールを出ると、瞼に夏の日差しが突き刺ささった。あの時目が痛かったのは、そのせいだったのだろうか。
逃げの思考。
収録から1週間ほど経ったある日。俺は打ち合わせのため編集部へ向かった。フロアに着いて挨拶回りをしていると、遠くから「ラッシー!」との声が。顔を上げると編集長が手招きしているではないか! いやな予感がした。
編集長「おう、完パケ見たぞ」
――「完パケ…ですか?」
完パケとは、動画を放送できる状態に仕上げたモノ。いわゆる納品データだ。CS番組の完パケは、放送前に制作会社から編集部へと送られてくる。
編集長「この前、お前が出たヤツ」
――「あっ…ご、ご覧になりました?」
編集長「お、おう…」
――「…どうでした?」
編集長「いやもう…どうもこうも…ヒドい」
――「で、ですよね…」
編集長「Aくんが可哀想」
――「す、すみません」
この時、悟ったのだった。俺は動画に出てはいけない人間なのだと。薄々「人前で喋るのは得意じゃない」と気付いていたハズなのに、特に根拠もなく「やってみれば出来るでしょ」などと思っていた。が、それは大きな誤りだった。
いつもCS番組で観ていた先輩方は、楽しくパチスロを打っている「だけ」に見えた。しかし実際はスゴいことをやっていたのである。解説をこなしつつ、視聴者を笑わせるトークも交える。もちろん涼しい顔でビタ押しもキメる。これが簡単そうに見えて、実際にやってみるとなかなか難しい。
いざカメラが回ると何もできない! 普段できていることでさえ、全くできなくなるのだ。
編集長「まあ、慣れもあるからな」
――「…はい」
編集長「まずは緊張しないようになることからだな」
――「はぁ…精進します」
とは言ったものの、俺はすっかり動画に出ることがイヤになっていた。やはり俺はタレントになんてならなくていい。ホールと家を往復し、ひたすら記事を書き続けるライターでいい。文章だけを書いて喰っていけるなら、それでも構わないだろう。身の丈にあった仕事をしよう。
こうして俺は動画での活躍を早々に諦め、脇役に徹することを決めたのだった。日の光りなんて浴びなくていい。裏方で十分だ。だが、そのためには攻略ライターとして他者に負けてはならない。誌面からも居場所がなくなってしまったら、いよいよ生きる道が閉ざされる。
動画でヤレないのなら、せめて誌面でだけでも活躍せねば。これまで以上にライター業にチカラを入れよう。そして文章だけで喰っていこう。そう心に決めたのだった。
「あの日」が来るまでは――。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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