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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2018.10.02
『衝撃的な出会い』~イミソーレという魔物~
大きく安堵の溜め息をつき、握っていたシャープペンシルを机上に放った。担当ページのラフを切り終えると、時刻は25時を回っていた。
パチスロ攻略誌の編集作業において、最も大変なのがラフを切ること。当然、ラフを切り終えたあとも仕事は山ほどあるが、編集作業のウエイトの約6割はラフだと思う。ラフを切る大変さに比べたら、素材集めも校正作業も、デザートのようなものだ。
★きっかけの深夜電話
手描きのラフをスキャンしてデザイン会社に送ると、俺はスグにイスを並べ、その上に横になった。素材集めは3時間もあれば十分。5~6時間は寝ても構わないだろう。幸い同僚は1人もおらず、編集部内は静まりかえっている。寝るには最高のコンディションだ。目覚ましをセットし目を瞑ると、スグに睡魔が襲ってきた――。
トゥル…トゥルルルル…トゥルルルル…トゥルルルル…
眠りに落ちる寸前で目が覚めた。鳴っているのは編集部の電話だ。こんな時間に掛かってくるのは、きっとロクな内容ではない。それにとっくに勤務時間外だ。無視しても構わないだろう。掛布団代わりのダウンジャケットを頭まで被り、ギュッと目を閉じた。しかし、呼び出し音が止む気配は一向にない。ついには根負けし、渋々受話器を取った。
――「はい、○○出版です」
C氏「おつです、ライターのCです」
C氏は攻略ライターで、幾度となく一緒にページを作った先輩だ。すでに現役を退いているが、当時は第一線で活躍している売れっ子だった。
――「お疲れ様です、五十嵐です」
C氏「おお、お疲れさん! 今編集部に誰かいる?」
――「いえ、自分1人ですが」
C氏「そうか…ねえ、イミソーレって知ってる?」
――「ええ、エマの沖スロですね」
C氏「そう、それ!」
――「メンソ(めんそーれ-30)と同じ筐体で、デカいハイビスカス絵柄の」
C氏「そうそう、詳しく知ってる?」
――「いえ、顔を知ってるくらいで」
C氏「本に詳細がなくて困ってるんだ」
――「担当は○○さんかな…どうかされましたか?」
C氏「いやね、昨日打ったら万枚出ちゃって」
こんな時間に万枚自慢だろうか。そもそもイミソーレは、万枚が出るような仕様なのか!?
▲4号機「イミソーレ-30」(E.M.A)
2004年の末にE.M.A(エマ)からリリースされたAタイプストック機。ボーナス絵柄にもなっている3コマブチ抜きの巨大ハイビスカス絵柄が大きな特徴。RT解除(=ボーナス放出)契機のメインは規定ゲーム数消化で、その振り分けは複数のモードで管理されている。モード間の行き来により、意図的な連チャンやハマリを実現していた。なお、小役解除や完全ハズレによる自力解除もあり、中段チェリーは50%でRT解除と激アツだった。
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――「おめでとうございます!」
C氏「ありがとう。訳も分からず万枚出たから、どんな仕様か気になってね」
――「あいにく僕は分からなくて…」
C氏「また、改めるよ。お疲れさん」
――「お疲れ様です」
受話器を置き、再び並べたイスに横になった。 イミソで万枚か…。沖スロはパイオニアのストック機くらいしか打たないので詳しく知らないが、一撃性は前作「メンソ」のほうが高いハズ。メンソでの万枚達成は何度も聞いているが、イミソでも万枚が出るとは…。いずれにせよ打たない俺には縁のない話だ。そんなことを考えながら眠りについた。
★衝撃的な初戦
校了を迎え自由の身になると、またホールに入り浸る打つ日々が訪れた。校了の翌朝、俺はさっそく虎さんと抽選の列に並んでいた。この日のイベント内容は単純明快。設定5・6・5が並びで投入されるのである。その並びが何ヶ所用意され、何の機種に入るかは明かされない。それでも従来の傾向から予想出来たため、かなり立ち回りやすいイベントの1つだった。
虎さん「もし早い番号だったら確定札に行けよ」
――「そんな番号引けませんから」
5・6・5並びのうち1ヶ所だけは、開店時点で明かされる。いわゆる「確定札」が刺されているのだ。よって入場番号が3番以内なら、その時点で事実上設定5以上確定となる。そして抽選の結果は――
虎さん「くぅ~、微妙。38番だったわ。ラッシーは?」
――「え…これ…俺には2番に見えますが」
虎さん「バッカ! マジで2番だよ! やったな」
――「マジか、ツイてる! 頑張ります!」
そう、俺はこの局面で2番を引いたのである。虎さんと銭形や吉宗を楽しむつもりでいたが、もはや機種などどうでもいい。高設定であることが最優先だ。さて、カイジになるか、それとも北斗か…。
いざ開店!
モタモタしていると後続に台を取られる恐れもある。店内に入り、1番入場客を追うと…
――「え、ウソだろ!? ソコって…」
沖スロコーナーにまっしぐら!
――「まさか…沖スロか!?」
沖スロコーナーに入ると、札が刺さった3台の真ん中に1番入場客が座っていた。慌ててその隣に着席したが…この機種は――!? スグに記憶が蘇えった。そう。10日ほど前、Cさんから電話で聞かされた「イミソーレ-30」だ。
打ったことはナイが、設定5を捨てるという選択肢はナイ。ガラケーで情報を収集しつつ打ち始めると、スグに虎さんがやって来た。
虎さん「今日は随分シブい機種が確定台じゃねーか」
――「そうなんすよ。初打ちですもん」
虎さん「まあ、メンソよりはマイルドだし楽しめるっしょ」
――「だと良いですけど。虎さんは何を?」
虎さん「なーに、吉宗の4台シマだよ」
――「なるほど。そのシマに入れば中の2台は5・6ですもんね」
4台シマに設定565が投入された際のイメージ
左から3台が対象…『 ■ ■ ■ □ 』
右から3台が対象…『 □ ■ ■ ■ 』
必然的に中の2台は設定5or6となる
虎さん「そう。もう北斗も取れなかったからな」
――「頑張ってください!」
虎さんが去ってまもなく、投資3Kで「ピピピッ」と告知音が発生。なろほど、ケータイで調べた通りだ。設定変更後は専用のモードに移行し、192G以内の振り分けが約40%にも上る。早いゲーム数で喰いついてくれて助かった。あとはこのボーナスで上位モードへ移行すれば嬉しいが…。
この「イミソ」はJACゲーム中こそが勝負所。JACハズレ確率は1/256で、JACハズレの1/8でスーパーモードへと移行する。スーパーモードは5G以内のボーナス放出確定で、かつループ率も約75%と極めて高い。JACハズレを引いたボーナス後はクラッシュフリーズ発生に期待。レバーONで「スピン♪」という効果音が鳴ればクラッシュ確定で、ドットに流星が流れスーパーモードへの移行を祝福してくれる。
さらりと書いたが、スーパーモードへの道程は簡単ではナイ。JACハズレはたまに引くものの、フリーズは一向に起こらない。やはり1/8の壁は地味に高いのだ。だが、俺がイミソに腰を据える機会などそうはない。今日を逃したら、次はいつ打てるか分からない。射止めるなら今日しかない!
設定5の機械割は108%程度と言われているが、それはおそらくスーパーモードへの移行も考慮した数値だろう。入場抽選で2番を引いた俺だ。きっと引ける! 否、絶対に引いてみせる――!!
★パチスロ、どうかしてる
数時間後――
引き戻しモードの天井である192Gを目指しブン回していると、突然肩を叩かれた。
虎さん「どうよ調子は? 2箱か」
――「いや…もう怖いっす」
虎さん「どした? そんなに投資イッてんの?」
――「そういう意味でなく…」
虎さん「俺のシマは対象じゃなかったから、適当に漫喫でゴロゴロしてるわ」
――「止まらないんす……」
虎さん「止まらない…何が?」
「ピピピピッ」っと告知音が鳴り、ビクンと驚く2人。すかさず大きなハイビスカス絵柄を狙うと、またもやBIGが揃った。
――「ボーナスですよ。ボーナスが止まらないんす!!」
虎さん「え!? クラッシュ引いたの?」
――「引いてないけど止まらないんす!」
虎さん「でもたった2箱じゃん」
――「別積みが9箱あるんで、現在11箱です」
虎さん「な!? …ウソだろ? イミソってそんな台なの?」
――「リセットからずっと192G超えてないですもん」
虎さん「マジか! 隣の6より出てんじゃん!」
そう、俺は朝イチのリセットから16時の現在に至るまで、ずっと192G以内をグルグルしていたのである! スーパーモードなど必要なかったのだ。
――「もう訳が分からない。少し具合悪くなってきました」
虎さん「何言ってんだよ! 回せ回せ!」
――「もうすぐ万枚なんで、万枚出たらもういいかな…」
虎さん「バッカ! こんなチャンス2度とねーぞ!」
俺は疲弊しきっていた。校了明けの体力が戻っていない状況で、この強烈な展開。加えて隣の6に座っている軍団メンバーは、俺の展開が気に入らないらしく、露骨に機嫌を悪くしている。
そして17時すぎ――
この日初めて192Gを超え、やっと静寂が訪れた。
――「虎さん、この台打ちます?」
虎さん「正気か?」
――「もう帰って寝たいんすよ」
虎さん「マジかよ…ホントにもらっていいの?」
――「ええ、勝ち額の50%くれとか言いませんから」
虎さん「ありがとう! ゆっくり休めよ」
結果、流した枚数は10700枚ほど。まさかスーパーモードに頼らずとも、これほどまで出続けるとは。C氏が上気して電話を掛けてきたのもうなずける。 実際は様々なモード移行を繰り返し、たまたま短い規定ゲーム数が選ばれ続けただけだろう。移行=ほぼ天井のハマリモードにも移行したかもしれないが、運よく小役解除で乗り切ったのかもしれない。
あんなにも遠かった万枚。ついこの前、やっとの思いで達成した万枚。その万枚が、こんなに簡単にポロッと転がってくるとは。もちろん嬉しさはあったが、それ以上に「パチスロ、どうかしてるな」とわずかに恐怖を覚えた一戦でした。
その夜――
閉店時間の少し前、虎さんからメールが届いた。
虎さん「36K負けたよ…全くヤレる気しなかった」
――「すみません…なんかスミマセン」
俺から引き継いだ直後に天井直前まで連れて行かれ、その後も大ハマリの連続だったそうな。ほら、パチスロって怖い。あのまま打ち続けたら、万枚が取り消しになっていたかもしれないもの。虎さん、犠牲にしちゃってスミマセン!
それ以降、俺が寝ても覚めてもイミソのことしか考えられなくなったのは言うまでもない。イベントでも積極的にイミソを狙うようになった。イミソはメンソに比べると不遇な機種だったが、俺は未だメンソよりイミソのほうが面白かったと思っている。一撃性ではメンソに分があるが、イミソはリスクが比較的小さいうえ、十分な一撃性を有している。
世間の流行にとらわれず、好きな機種を追い続ける。それもそれで幸せなスロ人生。イミソはそう思わせてくれた機種でした。ATが主流になると予想される6号機時代。またそんな機種に出会いたい。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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