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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2022.03.15
初当って2分でドッキュン~初代パチスロ『モンキーターン』~
虎さん「ダメだな、今日はもうアガるか?」
――「そうっスね」
虎さんとの1年ぶりの連れスロは、開店からわずか5時間後の午後2時に終わった。虎さんは大手交通機関に就職したが、パチスロの腕は未だ衰えていないらしい。
休みの日は朝イチから打ちに行き、就職後も収支がマイナスになった月は1度もナイそうな。パチスロで勝った金を小遣いにし、給料は丸ごと貯金に回しているとのこと。
将来のため堅実に貯蓄するあたりが、いかにも虎さんらしい。一般社会に出ても変わっていないことに少し安堵し、思わず俺の口角が緩んだ。
――「居酒屋の開店まで、どうしましょうかね?」
虎さん「だな……羽物でも打つか?」
――「マジすか?」
虎さん「隣の店の羽物なら、派手さはないけど堅く勝てんだよ」
編集部を辞めてからの虎さんはパチンコも打つ。それは就職後も変わらないようで、勝てる機種を見つければ休日を終日パチンコに費やすこともあるそうだ。
――「じゃあ、教えてもらいましょうかね」
虎さん「おう、じゃあ行こうか」
そうしてホールを出ようとした瞬間、視界の端に水色の筐体を捉え足が止まった。
虎さん「ん、どうした?」
――「いや、あの台……」
前々から打ちたいと思っていた機種が1台だけ空いている。イベント対象ではナイため設定は望めないが、今後のために少し打っておきたかった。
斬新なシステム。
虎さん「ああ、モンキーターンか」
――「そうっス」
▲5号機パチスロ「モンキーターン」(山佐)
2011年の早春に登場した5号機ART機の代表格で、ARTのみで出玉を増やすタイプ。
ART「SGラッシュ」は純増約2.0枚/Gで、最大の特徴はその継続システムだ。1セットは50G+αで、ゲーム数の上乗せもアリ。そしてゲーム数を消化しきると、継続ジャッジのレースに発展。主人公の波多野が勝利すれば次セットへ継続となる。 |
重要なのは各セットの継続率だ。従来のART機は初当り時に継続率が決定すると、概ねART終了まで継続率が変わらない。継続率が変わるのは、基本的にART中に改めてART初当りをストックした場合に限られる。
しかし、パチスロ「モンキーターン(以下、モンキーターン)」はまったく違った。初当り時に決したシナリオにより毎セットの継続率が変動するという、斬新な継続シナリオを採用していたのである。
継続システムの違い
一般的な継続管理のARTで 65%継続を射止めた場合 |
|
---|---|
1セット目 | 65%継続 |
2セット目 | |
3セット目 | |
4セット目 | |
5セット目 |
▲同じ初当り内では継続率が変わらない
パチスロ「モンキーターン」で シナリオ3が選択された場合 |
|
---|---|
1セット目 | 75%継続 |
2セット目 | 80%継続 |
3セット目 | 10%継続 |
4セット目 | 50%継続 |
5セット目 | 10%継続 |
▲毎セットで継続率が変化
例えばシナリオ3の3セット目は継続が10%と厳しいが、それを乗り切れば4セット目は50%で継続する。さらにSGラッシュにはセット数上乗せもあるため、上手く絡めば継続率の低いセットを自力で乗り切ることも可能。
加えてモンキーターンには大きな特徴があった。ART当選ルートは①CZ「超抜チャレンジ」クリア、②規定ゲーム数到達の2つで、この②が当時としては斬新だった。導入当時は4号機ストック機にならい「ゲーム数解除」と表記されていた。
5号機で最初に規定ゲーム数到達によるART当選を採用したのは、2009年にSANYOからリリースされた「パチスロ天外魔境 卍MARU」だ。コアなファンから愛された機種だが、誰もが知る大ヒットマシンとは言い難い。
〝元祖〟は「天外魔境」だが、それを世に広め〝なくてはならないもの〟にしたのは「モンキーターン」だと言えるのではなかろうか。
正直に言えば、俺は「継続シナリオ」にあまり良い印象を抱いていなかった。従来の継続率管理なら、高継続率を射止めれば一発で勝負が決まる。80%継続以上を射止めたときの〝無敵感〟が好きだった。
もちろんモンキーターンにもそれに相当する「ずっと高継続率シナリオ」は存在するが、基本的には毎セットで継続率が変動すると思っていい。そのハラハラ感と、最低継続率10%というのが気に入らなかった。しかし……
印象深い取材。
ピカピカの新台の前に座り、メモ用紙に名前・設定・日付を書き込む。入ったばかりの新人編集・新人ライターならワクワクするところだが、歴が長くなるにつれプレッシャーも生まれる。
データを採りつつ得をする打ち方・面白い打ち方を探るのは、それだけカロリーを消費するのである。3人の編集と並び、いざデータ採りスタート。が、そこで気が付いた。さっきまで隣にいたはずの編集Sがいない。
――「あれ? Sどこ行った?」
若手編集「ああ、Sさんはアッチです」
――「あっち!?」
編集Sは俺らと離れ、ショールームの隅で別の機種を打とうとしていた。俺らが4人がかりで「天下布武2」のデータを採ろうとしているのに対し、1人で別の機種を試打しようとしているわけである。
2機種同時取材は珍しくないが、人員を割くなら当然1:1が望ましい。しかし「天下布武2」4人に対し、「アッチの機種」は1人だ。どう見てもバランスがおかしい。
この「アッチの機種」こそモンキーターンだった。
要するに「天下布武2」が本命機種で、「モンキーターン」は……ということだろう。そう思っていたのだが……
2時間後――
――「おーい…おまいら戻ってこーい!」
編集一同「キャッキャッキャ!!」
――「……………」
モンキーターンに人だかりができ、天下布武2のデータ採りは俺1人という状況に!!
編集A「ぐああ~、榎木キター」
編集B「終わったー」
編集S「いや、でもスタートで女カットイン出てたし……」
台「うぉぉぉ、Vモンキーィィィ~~~!」
編集一同「ワーーーーーッ!!」
――「……………」
編集部員の全員がモンキーターンに夢中!! どうなってんだよ! 本命機種はコッチやろがい!! しかしウチの編集部員たちが、ああも夢中になるとは只事ではない。
どんな機種にでもときめいてワクワクできるのは、この世界に入って初めの1年くらいだ。徐々に目が肥え、機種への評価は厳しくなる。特に取材はお金を使わないぶん興奮も薄くなり、冷静に機種を見てしまう。なのに……
編集一同「うおぉおお! 青島キターーー!!」
目の肥えた編集部員を漏れなく興奮させてしまうとは! しかし、稀に「ショールームでだけ面白かった機種」も存在する。導入後にお金を使って打ってみると「あれ? なんか違う……」ということもよくある。
その類かもしれない。
いずれにせよ俺の仕事は天下布武2のデータを採り、あわよくば面白い打ち方を見つけること。ヨソはヨソ、ウチはウチ! 熱気に流されてはいけない。そう思い、1人粛々と天下布武2と向き合った。が………
導入後も編集部のモンキーターン熱は変わらない! いや、むしろ加速していると言っていい!! 誰もが口を開けば「全速モードがどう」とか、「究極Vモンキーかました」とか。
そこまで言われると天邪鬼の俺も打ちたくなるが、導入以来ずっと高稼働が続いていて座れない! こんな経験は「エヴァまご」や「蒼天の拳」以来だ。そうして初打ちが叶わないまま、2週間ほどが経過していたわけである――。
チャンス目一閃。
虎さん「なかなか空かねーから俺も打ててねーんだよ」
――「そうなんスよ。編集部でもやたら評価高くて」
虎さん「俺も打ちてーけど、設定が入りそうな日まで我慢するわ」
――「じゃあ、俺ちょっと打ってみていいっスか?」
虎さん「おお、いいよ。じゃあ、俺そこの休憩所でジャンプ読んでるから」
――「え? 羽物打ちに行かないんスか?」
虎さんは俺の肩をポンポンと叩き、笑みを浮かべる。
虎さん「やっぱライターさんの初ART見て感想聞きたいじゃん?」
――「いや絶対バカにしてますよね?」
虎さん「ソンナコト……ナイヨ」
――「はいはい、人柱になりますよ! 当たったら呼びますね」
こうして虎さんを1人待たせ、軽くモンキーターンを初打ちしてみることに。今日はすでに18,000円も負けている。深追いするつもりはない。ただ、みんなが夢中になる理由の1つでも体験できればそれでいい。
打ち始めは約350G。空き台は1つしかなかったし、詳しいゾーンなども分かっていないから適当だ。そこから2度ほどCZ「超抜チャレンジ」をスルーし、12,000円を使ったところで前兆ステージ「優出モード」へ。
液晶周りのオーラは黄色止まりでスルーを覚悟したが、浜岡とのライバルレース(連続演出)に勝利しART初当り!
――「当たりましたよー」
虎さん「長かったな。ジャンプ読み終わったわ」
――「すんませんね」
虎さん「さて、どんなARTかね」
――「継続率が毎セット変わるらしいんですが」
虎さん「知ってる。1セット目10%とかあんだろ?」
――「そうなんスよね~。単発は困るなぁ」
優出モード中に追加投資したため、本日の総投資は31,000円。全額返ってくるとは思っちゃいないが、単発駆け抜けだけはどうにか避けたい。それでは面白さが分からないからだ。
準備状態を経由し、いよいよARTがスタート。
虎さん「おう、結構頻繁にベル立つな」
――「そうすね。ベルじゃなくてペラって呼ぶみたいですけど」
虎さん「ふーん、払い出し9枚で純増2枚か」
――「払い出し少ないぶん、安定して増えそうっスね」
そんな話をしていると、レバーONで液晶に白い服の男が割り込んできた。彼が「洞口」だと覚えるのは、まだ少し先のことである。
虎さん「なんか来たな。白だけど」
――「サムそうっスね。通常時の演出でもコイツに負けましたし」
押し順ナビ非発生のため、左リールにピンクBARを狙う。すると、案の定チェリーもスイカも出現せず、左下段にピンクBARが止まった。
――「ハズレか」
そして中・右リールをフリー打ちすると……
台「ドドドドドゴォ~~~ン!!」
液晶にデカデカと表示される「+200GET!」の文字!
――「うっわ~~~!!」
虎さん「な、なんじゃソレ!?」
――「ちゃ、チャンス目(※)です。ペラの小Vで」
虎さん「は? なにこれ…200G乗ったの?」
※弱チャンス目
恐る恐るレバーを叩くと、ARTの残りゲーム数が238Gになっているではないか!!
――「に……200G乗ってるぅぅぅ!!」
虎さん「ウッソだろオイ!」
ART開始からわずか2分で200Gの上乗せ。さらにそこから20Gほどで強チャンス目を引き30Gを上乗せる。
――「ヤベエ、めっちゃ乗るwww」
虎さん「マジか…ん? なんか演出続いてね?」
――「……たしかに」
心酔。
強チャンス目で30Gを乗せたあと、2G連続で第3停止後にエンジン音が鳴り、同時にリール窓の右にあるドラゴンのランプが光っている。なにかを煽っている……!?
そして次ゲーム。レバーONでライバル艇が出現したが、普通に押し順ナビも発生している。首を捻りつつリールを止めると、第3停止後にPUSHボタンが出現! 押してみると…
台「プキュキュキュキューン! 全速モード突入!」
虎さん「はあ?」
――「と、特化ゾーンだーーー!」
虎さん「は? 1回の強チャンス目で直乗せと特化ゾーン重複したってこと?」
――「たぶんそうっスね!」
虎さん「マジかよ」
当選した全速は10G継続だったが……
――「ヤベエ! 見て虎さん、ペラ引くたび乗せてる!!」
虎さん「はあ? アッチぃ!! マジかよ!」
レア役は引けなかったが、ペラが4回揃ってトータル40Gの上乗せ。全速終わりで冷静にART残りゲーム数をチェックすると、277Gだった!
――「虎さん!」
虎さん「おう、どうした?」
――「好き。俺、この台好きっス!!」
虎さん「そら、そうなるよな」
初当りから5分強。たったそれだけの短い時間で、俺と虎さんの心をガッチリと掴んだモンキーターン。
――「へへへ、ごめんなさいね。羽物でも打っててください」
虎さん「マジかよ。次のレースだけ見たら、隣の店行くわ」
――「次のレースが何時間先か分かりませんよ?」
虎さん「ドヤりすぎぃぃぃ!!」
このARTは2連で終わることになるが、1セット目が長く続いたおかげでおよそ2,000枚を獲得。この日の差枚数も少ないながらプラスとなった。
初打ちの1セット目からこれだけの大爆発。一瞬で心を奪われたことは言うまでもない。これをきっかけに、俺は仕事でもプライベートでもモンキーターンを打ちまくることになる。
そして、これがのちに思わぬドラマを生む―――。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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