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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2021.08.03
美しい世界~脳が変わった瞬間~#05
「金沢に帰って来ない?」
お義母さんからそう提案されたのは、東日本震災から2週間ほど経った頃だった。もちろん放射能や輪番停電といった、諸々の状況を心配しての提案である。
「関東の放射能汚染レベルは、報道されているよりもっと高いのでは!?」。そんな噂も流れたが、俺ら夫婦はさほど気にしていなかった。直ちに人体に影響が出るレベルであれば、とっくに政治機能が地方へと移転しているハズである。
政財界の要人が東京から動かなければ、東京近郊は十分安全ということだろう。
相変わらず仕事量はそのまんま。被災地へのボランティア受付も始まっているが、仕事を抜けると生活を維持できない。もちろん1度手放した仕事が戻って来る保証もない。
人を幸せにできる人間になりたい。
二十歳の頃はそんな風に思っていたし、きっとそうなれるだろうと思っていた。しかし、10年と経たないうちにしがないフリーランスに。その自分の小ささを呪った。
せめて、ほかのみんなと少しでも苦しみを分け合いたい。そんな気持ちもあったが、なんのいたずらか我が家はそれすらも許されなかった。
後ろめたさ。
電力不足に伴う輪番停電が実施されたのは、震災発生後3日目にあたる3月14日から。当然ウチも冷蔵庫・冷凍庫を整理する必要があるため、ネットで停電になる時間帯を調べた。
しかし、調べても調べても停電時間が分からない。
さらに調べ続けると、うちは地域の特性上、輪番停電の対象外であることが分かった。近所には大きな医療施設が密集しており、電力を止めてしまうと医療現場がマヒしてしまう。
そのため、ウチの近隣一帯は輪番停電の対象から除外されたというわけだ。これを「ラッキー」と受け止められるほど精神が図太いならラクなのだろうが、俺もカミさんもそういったメンタルは持ち合わせていなかった。
世間が大変なときに、ウチはなんの役にも立てない。もちろんムダな電力を使わぬよう、必要最低限の家電以外はコンセントから抜いている。それでも「輪番停電に参加していない」という後ろめたさから逃れることはできなかった。
心配なのはカミさんの精神状態だ。専業主婦であるうえに、この強烈な自粛ムード。外出の機会は近所への買い物くらいで、あとはテレビで震災の情報を観ているだけである。
体外受精させた卵(らん)をカミさんの体に戻したのは、震災発生から1週間を過ぎた頃だ。何度目の挑戦になるかは、もう数えていないから分からない。「もしかしたらウチにはもう……」。そんな気持ちも当然あったが、絶対に口に出すわけにはいかなかった。
「日本がそんな大変な時期に不妊治療かよw」と言われても仕方ないが、ウチにはもう時間がなかった。当時のカミさんは38歳。人によって捉え方は違うだろうが、初産はそろそろ難しくなる年齢である。
芸能人・著名人がさも当たり前のように40代で出産するため、40代でも十分授かれるイメージがある。しかし、実際はそう簡単ではナイらしい。芸能人の高齢出産の陰には、大きな運と努力があるはずだ。
厳しい現実。
ここからは卵子のお話しにお付き合い頂きたい。というのも、男性だけに限らず女性も卵子について誤解している場合が多いためだ。将来、自分の子どもが欲しいと思うならば、これは必ず知っておいてほしい。
卵子は言うなればストック方式で、数に限りがある。子どもの頃から生産・ストックされ、概ね十代半ばで生産が終わるらしい。以降、新たに卵子が作られることはなく、あとは放出される一方となる。
もちろん作られた卵子の数は人によって大きく異なり、極端に多い人もいれば、極端に少ない人もいる。言うまでもなく卵子がなくなれば妊娠することはない。どんなに願い努力しても、卵子がなければ叶わない。
「芸能人が40代で妊娠してるから私も大丈夫」は危険な考え方だ。既述の通り卵子の最大個数は人によって大きく異なるため、20代のうちに放出しきってしまう人もいる。当然、30代前半でラストを迎える人もいる。
そして不妊治療にはお金が掛かる。難易度が高くなるほど医療費も嵩んでいく。40代での不妊治療・出産には、それだけ運と努力が必要になるわけだ。もちろん2度目以降の出産であれば話も違うのだが……。
この話を医師から聞いた際、なぜこんな大事なことを学校で教えてくれなかったのかと怒りを覚えた。生理が続いていれば、当たり前に授かれるものだと思っていた。ことはそう単純ではナイのである。
子どもだけがすべてじゃない。
仮に授かれないとしても、夫婦として幸せに暮らしていける自信はある。とはいえ、当のカミさんが子どもを欲しがっている。ウチの両親も口にこそ出さないが、心待ちにしているのは明らかだ。
「震災が落ち着いて、気持ちも落ち着くまで待とう」
そう言って、カミさんの貴重な30代最後の時間を取るわけにはいかなかった。いつが「最後の卵子」かなど、現代の医学を持ってしても分からない。
世間が大変な時期であれ、挑戦は止められなかった。仮に身勝手だと指をさされても、やはり俺たち夫婦は子どもが欲しかった。
気分転換。
お義母さんが帰省を勧めたのは、体外受精を試みた直後だから…という理由もあっただろう。もし授かっているのなら、より安全な金沢で安静にしてほしい。そんな願いがあったハズだ。
たしかに俺の仕事はパソコンさえあればどこででもできる。まだメーカー取材も少ないため、帰省しても大きな影響はない。
放射能の心配はなさそうだし、余震もほとんどなくなった。とはいえ「安全だから」と意地になって神奈川にいても、特別いいことなんてない。
カミさんも実家でのんびりできたほうが良いハズだ。カミさんが高校生の頃よく通ったという兼六園に行くのもいい。きっと気分転換になるだろう。
金沢。
金沢の街は少し寂しく見えた。平日なら駅前でも人通りは少ないが、やはりここも自粛ムードが大きく影響しているのだろう。
「遠くまで、ごくろうさんでしたね~」
久々に会ったお義母さんにも、やはり笑顔はなかった。震災以降も頻繁に電話していたが、それでもカミさんのことが心配だったのだろう。
家を出たのは、あの商工会青年団に救援物資を渡した数日後。滞在は1週間と決めていた。1週間後に婦人科での検診があるためである。
俺が出掛けたのは墓参りと兼六園の散歩くらい。神奈川にいる時と変わらず、パソコンに向かう時間がほとんどだった。夜になればホールへ行く時間もあったが、まだパチスロを楽しむ余裕はなく、ホールを覗く気にもなれない。
カミさんはたびたび中学・高校時代の友人に会いに行き、目に見えて表情が明るくなった。しかし、心中はどうか分からない。もう小学生の子どもがいる友達も多い。
気分転換になっただろうか。
それとも余計な重圧を与えてしまっただろうか。
そんな心配をしながらも、俺はキーボードを叩くほかなかった。
美しい世界。
金沢から神奈川に戻った翌日、俺はカミさんとともに婦人科へ向かった。卵を体に戻す前段階でダメとなれば、電話でお知らせが来る。今回はすでに体に戻したあとだ。ここからは実際に検診を受けないと分からない。
ちなみに妊娠しているかどうかは、卵を戻してから2~3週間もすれば分かるらしい。ドラマでよく見る「できちゃったみたい…」は、割と『事』から早めに訪れるのである。そりゃあ男が「俺の子?」と言っちゃう気持ちも分からんでもない。
この検診は、すでに何度か経験している。そのたび傷ついてきた。もう慰めの言葉のバリエーションも尽きてきた。今日はなんと言ったら………。
医師「あ~、順調ですね。おめでとうございます」
カミさん「ええ!?」
――「は? え? どういうこと?」
医師「おめでたです。まだ小さいですが」
カミさん「ええ~~~!!」
――「ほ……ホントですか? 妊娠してるんですか!?」
医師「ええ、まだしばらく安静にして頂いて……」
カミさん「う…うぅ…よかった」
――「よかったーーッ!! よかったね~」
俺は医師の目も憚らず、ベッドの横たわるカミさんの手を握った。
医師「まだ小さいから見えづらいですが、順調なので安心してください」
――「ありがとうございます!!」
とは言いながら、まったくもって実感がない。ドラマでよく見る胚のエコー画像が見えないためだ。それっぽいのはあるが、気のせいと言ってしまえばそんな気もしてしまう。
医師「では奥様に残って頂いて、看護師からこれからの説明を致します」
カミさん「……うう…ふぁい……」
医師「しばらく掛かりますので、旦那様はお帰りになられて結構です」
――「え!? そうですか……」
泣いているカミさんに「終わったら連絡して」と告げて診察室を出た。「おめでとう」はまだ早い。俺らはそれほど慎重になっていた。
どうやら俺は父親になるらしい。いとこの中でもぶっちぎりの年下で、子どもの扱いなどまったく分からない俺が。少し子ども嫌いなこの俺が――。
「ありがとうございます」と見慣れた受付にも小さく一礼し婦人科を出た。
外は3月下旬にしては日差しが強い。その眩しさに、思わず瞼をぎゅっと閉じた。そして2秒ほど経っただろうか。再び目を開けると………
――「な…なんだコレ……!?」
婦人科の向いにある大きなオフィスビル。その周囲はちょっとした公園になっていて、小さな子どもを連れたママたちが集まっていた。
その子たちの、なんと可愛いことか!!!
――「うそ…子どもが……可愛い???」
正直に言えば、子どもを可愛いと思ったのはこの時が初めてだった! 強い日差しに目がヤラれただけかもしれない。しっかり足に力を入れ、駅に向かって歩き始めた。
すると、駅前ロータリーにもたくさんの子どもが。その美しさ、可愛らしさに思わず足が止まる。
知らなかった!
俺のいる世界が、こんなにも美しく可愛い子どもたちで溢れていたなんて。こんなにも世界が美しいなんて!!
右腕に水が当たった感触があった。笑っている自覚はあった。しかし、どうやら泣いてもいたらしい。顔を隠しながら歩道橋の陰へと逃げ込んだ。
見慣れた駅前だ。なのに、なぜこんなにも景色が変わって見えるのか。明確な答えは分からないが、脳が父親モードに切り替わったのかもしれない。いや、そうに決まっている!
なにか納得できるロジックが欲しかった。仮定でもいい。理解し納得しないと、泣き笑いが止みそうにない。
これが子を持つ親の景色―――
人類が知性を持って以来、ずっと繰り返してきたであろう景色。きっとウチの親父も母親も、この景色を見たのだろう。あの喫煙所のおじさんも、あのケータイショップのおばさんも……。
街中の子どもが、こんなにも可愛いだなんて。さっきまで苦手だった子どもが発する高い声も、今では小鳥のさえずりのようだ。
俺は涙を拭いてガードレールに腰かけた。そして遠くの子どもたちを見ながら、カミさんからの連絡を待った。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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