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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2021.07.20
震災後のパチスロライター~日陰暮らし~#04
――「もしもし!?」
母親「ああ、フミヒコ? 母です~」
――「いや、分がってる! 無事だったが!?」
母親「なんてもにぇ。お父さんもなんてもにぇ」
訳:なんともない。お父さんもなんともない。
実家と連絡が取れたのは、本震から2日後だったと記憶している。実家付近の震度は4~5と発表されていたため、無事だろうと予想はしていたが……。
――「それは良がった。家は? 小屋どが大丈夫な?」
母親「大丈夫だ。少し荷物崩っちゃげど、なんてもにぇ」
――「いや~良がったな~。揺れ大っきいっけが?」
母親「んだな。震度5はあったべな~」
――「ああ、そう。そこそこデガがったんだね」
母親「今お父さんさ代わる」
この世の終わり。
3秒ほど待つと、受話器から懐かしい親父の声がした。
親父「おう、心配かげだな」
――「ああ、無事みだいで安心した」
親父「ちょうどウチの横の坂、お母さんと上ってでよ」
――「ああ、本震のどぎな?」
親父「んだんだ。したらもう、経験したごどないような激震よ」
――「そだい? でも震度5なんて、何度が経験してっぺ?」
親父「いや~、あれは今まで経験ないな? んねが? 母ちゃん」
受話器越しに遠くから「んだな。あれは5なんね(そうだね、あれは5じゃない)」という母親の声が聞こえた。
――「は~、ほだい揺れだが」
親父「んだ。もう立ってらんにぇくて、母ちゃんと抱ぎ合って座り込んだのったな」
訳:そう。もう立っていられなくて、母ちゃんと抱き合って座り込んだんだ。
――「ハッハ、幸せな最期さなるどごだっけね?」
親父「んだず。この世の終わり来たがど思ったもんな」
この世の終わりが来た。
親父はそう感じ、母親と抱き合って坂道に座り込んだらしい。震源地からの正確な距離は分からないが、仙台駅から直線距離で概ね60km。そんな山形の内陸部でも、死を覚悟するほどの揺れだったそうな。
親父「墓はもう大荒れよ。墓石傾いだり、石灯篭倒っちぇだり」
――「まあ、生きてる人が無事なら良いったな」
親父「んだな。お前は? 奥さんも無事が?」
――「こっちはなんてごどない。原発の影響は?」
親父「ん~、直接的にはほどんどないって話だな。風評被害はあるだろげど」
――「まあ、これ以上悪化すねどいいげど」
親父「んだな。お前の仕事は? 問題ないのが?」
――「仕事………」
まさか東北に住む親父から心配されるとは。たしかに第三次産業の中でも、特に娯楽色の強い業種だ。世間からの風当たりは強くなるだろう。
――「まあ、今のどごろは大丈夫」
親父「んだが。まあ、そっちも気ィ付けで」
――「うん。じゃあ余震さ気ィ付けで」
電話を切りテレビに視線を移すと、原発の水素爆発の映像が流れていた。この時点で爆発していたのは、まだ1号機だけ。とはいえ、原発の稼働は言うまでもなく停止している。電力が足りなくなれば当然……。
カミさん「お義父さんとお義母さん、無事で良かったね」
横で電話を聞いていたカミさんが口を開いた。俺は視線をテレビに向けたまま「そうだね」と返す。
カミさん「今日、締め切りあるんでしょ?」
――「そうだね……もう少ししたらやるよ」
これまで経験したことのない大震災が起ころうとも、締め切りは変わらずやって来る。首都直下型の大地震が起こり、印刷所が完全に止まれば話は別だろうが、そうでもない限り出版業は止まらないのだろう。
しかし、俺の心は萎えきっていた。
稼働停止。
連日の報道は、思った以上に〝効いて〟いた。阪神・淡路大震災は中学2~3年の頃。まだ心が成熟していなかったからか、東北から遠かったせいか、ショックではあったが心にそこまで深いダメージを受けた記憶はない。
対して〝東日本大震災〟と名付けられたこの震災は相当に効いていた。自分が東北人だからではなく、家庭を持ち、シンプルに大人になったせいかもしれない。
本震から3日・4日・5日……と経つにつれ、どんどん露わになる被害状況。福島第一原発は3号機・4号機も爆発。首都圏は電力不足に陥り、もちろん世間は猛烈な自粛ムードに包まれる。
報道番組の間では、同じCMばかりが繰り返し繰り返し流れている。震災直後は気にならなかったが、こうも同じCMを見続けると、流れるたび精神を削られる実感があった。
ネットの情報によると、CMに出演している親子に対し誹謗中傷が集まっているらしい。被災地では混乱に乗じた窃盗も起きているそうな。救いのない国だと思った。
俺のパチスロ熱は完全に冷え切った。電力不足からくるホールの輪番休業のせいではないし、自身への批判を恐れたせいでもない。
日本がこんな大変な時期に、呑気にパチスロを楽しめるわけがない。大袈裟な表現になるが、たとえるならば犠牲者のご遺体の傍でパチスロを打つような気分だ。とてもじゃないが楽しめる気がしない。
当時のブログに「こんな時こそ俺はパチスロを打ちます!」というコメントが届いた。考え方は人それぞれでいい。「俺と同じであれ!」とは思わない。だから反発する気も起きなかった。でも、俺には無理だったのである。
パチスロは仕事の一環であるものの、もちろん娯楽。言うまでもなく〝楽しむもの〟だ。日を追うごとに増えていく死者数を見ていると、楽しむことはできなかった。
ライターの仕事。
来店をメインとしているライター・演者は、ものの見事に仕事が激減。そりゃそうだろう。生活用品のCMすら流せないほどの自粛ムードだ。パチンコのパの字すら口に出せない状況である。
一方、我々のような〝書き〟がメインのライターはというと、意外なほど影響がなかった。どんなにテレビや新聞が被災地の惨状を伝えようと、原稿の依頼は絶えずやってくる。
ホール実戦こそできないものの、元々稼働の必要がない新台記事や回顧記事はいつもと変わらない。収入への影響は極めて軽微で、無かったと言ってもいいほどだ。
それでも稼働がないぶん時間は増える。都内で1人暮らしをしている義理の妹も心配で、カミさんと一緒に何度も訪ねた。それでも余った時間はひたすらテレビやネットで震災の情報を貪り、そのたび己の無力さに打ちひしがれた。
自衛隊や公務員・インフラ企業の人々は、寝る間も惜しんで働いている。芸人やタレントだって立派だ。まだバラエティ番組は無いに等しいが、それでも人を笑顔にする人もいる。
なのに俺はなんだ。パチスロライターなどクソの役にも立たない。人を笑わせることもできない。被災地のためにできることなんて募金くらいだ。いつぞやの母親の言葉を思い出した。
「自衛隊に入ってはどうか?」
あのとき首を縦に振っていれば、今ごろ被災地でスコップを手にしていたかもしれない。どうしてこんな役立たずに育ってしまったのだろう。
そんな悶々とした日々が2週間ほど続いた頃。義理の妹の家から帰る際、ふと地元の商店街の掲示板に目が止まった。
「商工会青年団 支援物資募集」
立派な男たち。
我が街の商店街は、結構前から窮地に追い込まれている印象があった。いや、我が街だけではない。きっと全国の商店街がそうだ。スーパーや大型商業施設の進出により、商店街の売り上げは大きく低迷している。
加えてこの猛烈な自粛ムードだ。商店街の人々も、決して楽な生活ではないだろう。それでも我が街の商工会は近隣の商工会と連携し、被災地に支援物資を送ることを決めたのである。
帰宅後にさっそく商工会青年団のHPを見てみると、我が街の青年団の面々はほぼ自分と同世代。1つ2つ年下もいる。なんと立派なのだろう。そんな彼らが被災地のために動いているとき、自分はなにをウジウジしているのか。
仕事も生活もあるためボランティアに行くことはできない。ならばせめて、彼らを応援できないだろうか。自分の代わりに救援物資を届けてもらえないだろうか――。
さらにHPを読み進めると、募集している支援物資の一覧があった。
ロープ、スコップ、新しい雑巾、ゴミ袋、賞味期限まで余裕がある保存食、未使用の日用品(トイレットペーパー・ティッシュなど)、軍手(すべり止めが付いたもの)……
すべり止めが付いた軍手? それなら街はずれの金物屋にあったハズ。がれきやゴミの撤去作業に使うのだろう。これならまとまった量が用意できるかもしれない。俺はカミさんを連れ、財布だけを持って再び家を出た。
買占め疑惑。
家から5分ほど歩くと目的の金物屋に着いた。スコップなども売っているが、さすがに重くて数は運べない。やはり軍手が良さそうだ。店内を少し歩くと、すぐに大きな段ボールに積まれた軍手を発見。さっそく店員に声を掛けた。
――「すみません、このすべり止めが付いた軍手を段ボールごとください」
店員「段ボールごと? これ全部ですか?」
――「ほかにも在庫があるなら、この段ボールに入るだけください」
店員「はあ………少々お待ちください」
2分ほど待つと、ガタイのいい中年男性が姿を現した。どうやら店主らしい。
店主「あんたか? 買占めしてるってのは」
――「買占め!?」
そう、この頃は食料や日用品の買占めが問題になっていた。そのため店員が不審に思い、店主を呼びに行ったというわけである。
――「いやいや、個人でこんなに軍手いらないでしょ!」
店主「ん~、まあそうか」
――「軍手だけそんな持ってても使い道ないっスもん」
店主「まあ、そうだな」
――「商工会が支援物資を集めているのは知ってますよね?」
店主「あー、なんかそんな話聞いたな」
この金物屋は商店街から遠く離れた街はずれにある。そのため商工会には属していないのかもしれない。
――「仕事の都合でボランティアにも行けない。だからせめて商工会に支援物資を渡して、被災地に届けてもらいたいんです」
店主「ん~、なるほどな………よし、売ってやろう」
――「ありがとうございます!」
店主「ちょっと待ってろ、この段ボールに詰めれるだけ詰めてやるから」
こうして大きな段ボールいっぱいのすべり止め付き軍手を購入。が、その段ボールのデカいことデカいこと。パチスロの筐体が2つ入るくらいだろうか。
罪滅ぼし。
店主「兄ちゃん、ここまでなにで来たんだ?」
――「え? 普通に徒歩で」
店主「ウソだろ? どうやって運ぶんだ?」
――「いや、肩に担いで……」
店主「この量になると結構重いぞ」
――「いやいや、言うて軍手っしょ?」
実際に担いでみると……完全にナメてました。たしかに小柄な成人女性くらいの重みがある。ちなみに支援物資の集積所は隣駅の傍にあり、ここから1.5kmほどの距離だ。
カミさん「どうする? タクシー呼ぶ?」
――「支援物資運ぶのにタクシーって富豪かよ! 歩くわ!!」
たしかに効率を考えたらバカとしか言いようがない。それでも歩きたかった。この重みを受け止めながら。それがこの役立たずにできるせめてもの罪滅ぼし。そんな気がした。
200m歩くたびに足が止まる。重さがツラいわけでない。段ボールがデカすぎてバランスを取りにくいのである。4月前だというのに、頭から肩にかけて水を浴びたように濡れている。
カミさん「まだ1km以上あるけど大丈夫?」
――「余裕っしょ。こちとら毎日3.8km離れた小学校に徒歩で通ってたんだ」
再び段ボールを担いで歩き出す。赤みを帯びてきた日の光を見て歩調を早めた。そのとき、ふと映画学校時代の先生の言葉を思い出した。先生といっても現役の映画制作者(プロデューサー)である。
「映画作って飯食おうなんてヤツは社会のクズだ。いなくなったって誰も困らないんだから。自分の趣味・道楽で飯を食わせてもらうなら、社会のルールは必ず守れ。そして可能な限り人の役に立て」
人を楽しませる映画制作者でさえ、そんな謙虚さを持ち合わせている。パチスロライターなんて、なおさらそうあるべきだろう。生かさせていることに感謝し、チャンスがあれば少しでも社会に恩を返す―――。
憧れ。
集積所に着いたのは、日が大きく傾いた頃だった。思いのほか時間が掛かり、シャッターが閉まるギリギリに滑り込んだ形だ。対応してくれた男性は、自分と同い年くらいに見えた。
――「支援物資をお届けしました」
男性「ありがとうございます。……相当大きいですね?」
――「たいしたものではないですが……」
ガムテープを剥がし、段ボールを開けて見せた。
――「中身は全部すべり止め付きの軍手です」
男性「こんなに!? ありがとうございます」
――「では、被災地まで宜しくお願い致します」
男性「承りました。必ずお届けします!」
この男性も、どこかの店の跡取りなのかもしれない。しっかり地に足をつけ、この地域の役に立っているのだろう。それが羨ましかった。
被災地支援を自己満足だとか偽善だとか言う人もいる。まあ、それも分からないくはない。実際この突発的な行動も、ただの自己満足と言っていい。
周りには結構大きめの額を募金した先輩も何人かいた。俺にはとても真似できない額である。その先輩たちも俺と同じように、この仕事の無力さを感じていたのかもしれない。
それでも家にいて、ただ呆然とニュースを観ているよりはマシだったのではなかろうか。その発想も、しょせん自己満足かもしれないが。しない善より、する偽善のほうがいい。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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