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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2020.12.22
新たな時代~壊れゆくライター像~
――「ウエッ、ゴホッゴホッ……」
大型トラックが黒い排ガスを吐きながら真横を通り過ぎ、思わず咳き込んだ。しかし、立ち止まっている暇などない。必死に呼吸を整え走り続けた。
――「ハァ、ハァ…まだかよ…」
ホール情報サイトによると、実戦店は最寄り駅から徒歩10分。立体駐車場を完備した、そこそこデカいホールだ。駅から7分ほど歩いたあと、3分ほど走っている。とっくに着いていないとおかしい頃合いだ。なのに、まだ看板の1枚すら見えやしない。
――「ハァハァ……これはさすがに」
開店前に敗北。
堪らずペースを落とした。疲れたわけではない。認めねばならないからだ。「駅から反対方向へ向かってしまった」と。
――「クッ…もうこれしか方法がねえ」
大きな交叉点で反対側に亘り、来た道を戻りつつ道路を睨んだ。が、タクシーは1台とて見えない。車はひっきりなしに行き交い、延々と排ガスをぶつけてくるが、肝心のタクシーが通らない。
――「俺が道を間違えるなんて…」
特技も才能も持ち合わせていないが、唯一、方向感覚にだけは自信があった。まず道に迷うことなどない。初めての街でも、自分が来た方向や目的地の方向は感覚的に分かる。しかし、そんな俺でも「駅から目的地の方向」を真逆に捉えてしまったらしい。
当然スマホがあればこんな悲劇は起こらないが、当時はまだガラケー。加えてホールのホームページに記載されている地図も、なんのヒントにもならない雑なものが多かった。
堪らずガラケーを取り出し、番組プロディーサーに電話した。
プロディーサー「おはよう、どうした?」
――「すみません! 道を間違えたみたいで」
通話しつつも道路のチェックは欠かさない。
プロデューサー「抽選まであと15分だぞ。頑張って」
――「だいぶ駅から反対方向来ちゃったんで、間に合うかどうか」
プロデューサー「まあ、とりあえず安全に向かって」
――「はい、ありがとうございます」
電話を切り、再び道路に目を凝らす。抽選までは15分。駅から真っ直ぐホールへ向かえば間に合う時間だが、反対方向に徒歩15分ほどの距離にいる。つまりホールまでは徒歩25分。まず足ではムリだ。
視線を道路に向けつつ、駅のほうへゆっくり歩いた。すると、先ほど渡った交叉点を曲がって1台のタクシーが現れた。逃すまいと必死に手を挙げる。停車してドアが開くなり、スグに飛び乗った。
運転手「どこまで?」
――「Gっていうホールの〇〇店にお願いします」
運転手「遊びですか? 羨ましいですね」
――「…そんなところです。とにかくお願いします!」
開店前から1K程度の負けになるが、収録に間に合うのなら安い出費だ。そんなことを考えながら、窓の外を流れる「さっき歩いたばかりの景色」を眺めた。
新世代。
――「お釣りはいらないです!」
ドラマでしか聞いたことがないセリフを口にしてタクシーを降りた。番組プロデューサーは、ずっと道路脇で俺の到着を待っていたようだ。
プロデューサー「おう、間に合ったな」
――「よかった! すみません! とりあえず抽選の列に並びます」
相当デカいイベント日らしい。目算だが、抽選人数は250人を超えている。可能なら下見をしたかったが、自宅から電車で1時間半の距離ではさすがに厳しい。完全初見のホール。こんなときは、やはり王道の看板機種を狙うのが得策だ。
蒼天に新鬼、エウレカもまだ現役。使うとしたらこの辺りだろう。あとは抽選次第だが……。引いた番号を恐る恐る確認すると――
240番!!
ほぼ最後尾。これなら一般入場でも変わらないじゃないか! 看板機種はおろか、抑えの機種すら難しい。あとは店内に入り、とりあえず空いている台から選ぶほかない。その前にオープニング撮影だ。
エントランスの脇にある待合所。その隅でマイクを付けてもらっていると、同じくマイクを付けた女性が近づいて来た。見ない顔だ。どうやらバトル実戦の対戦相手らしい。
女性「…はじめまして、Xと申します」
――「Xさん…はじめまして、ラッシーと申します」
新人なのだろう。当時は雑誌かTVしかなかったが、見たことがない顔だ。そして、どうやら彼女も俺を知らないらしい。恐る恐る知らない相手を探る目。きっと俺の目も同じ動きをしているに違いない。
プロデューサー「まだ新人だけど、普段はスロプロなんだって」
――「プロ!? は~、スゴいっスね」
Xさん「いえいえ、そんなでもありません」
当時は女性ライターが珍しかった。我が攻略誌「H」には、女性の先輩ライターが3人。ライバル他誌もそれぞれ1~2人ほど。先輩にあたる女性ライターは、もれなく全員が凄腕だった。
長きに亘り誌上プロとして活躍している人、4号機北斗でひと財産を築いた人、そして現役誌上プロ直系の弟子にあたる人。編集部の誰もが認める実力者ばかりだった。
しかし、この頃から女性ライターが急増。ライターという肩書きではあるものの、記事を書く人はあまりいなかった。現代風に言えば演者やタレントだが、当時は適切な呼び方がなく、みな一様に「ライター」という肩書きになったわけだ。
それに「美人タレント」や「美人演者」より、「美人ライター」のほうがキャッチーなのだろう。タレントでは視聴者・読者との距離が遠く感じるが、ライターならば少し近く感じられる。
ちなみに「演者」とは、動画制作のスタッフが昔から使っていた言葉である。演じる人という意味ではなく、単純に出演者の略称といったニュアンスだ。
プロデューサー「Xは毎月60万くらい勝ってんだって」
Xさん「いや~、先月は50でしたけど」
この5号機時代に50~60は十分スゴい。しかし、少しばかり引っかかりがあった。プロ特有の〝アレ〟がナイ。この人はもしや……
プロのオーラ。
心配になるほど華奢な体。そして草食動物のような目。これまで出会った女性プロ、女性ライターとはまるで違う。スロプロの生活は過酷だ。ライバルとの台取り争いに勝たねばならないため、女性であってもそれなりのオーラを纏う。
ウチの先輩女性ライターとは、まず目の鋭さから違った。
――「……お手柔らかにお願いします」
Xさん「こちらこそ~」
こうしてXさんとのバトルがスタート。機種や時間に縛りはなく、単純な差枚数勝負だ。彼女の入場順はおよそ100番。看板機種は厳しいが、それでも選択肢は少なくない。パチスロフロアへ先に入る彼女を見送り、5分ほどあとに俺も続いた。
彼女は2年ほど前にヒットしたART機に座っていた。すでに旬を過ぎた機種ではあるが、こんなイベント日なら高設定が使われる可能性は十分ある。そして設定の偶奇も見抜きやすいため、奇数設定をスグに切り捨てられるのも強みだ。
なるほど。うまくいけば一撃も狙えるし、機種選択はさすがと言ったところか。肝心の俺はというと――
空き台が本当にナイ!
バラエティーにポツポツと空きがあるものの、さすがに打ったこともないような台と心中する気にはなれない。となると、残るは台数が多いジャグラーだ。
とはいえ、比較的スペックの優秀なジャグラーは満席に近い。立ち回るなら「アイム」一択だ。
▲5号機「アイムジャグラーEX」(北電子)
リールには7が揃えてあるため、ガックン判別も使えない。
――「1時間半も掛けて来てアイムか……」
つい本音が漏れたが、これも番組出演者の宿命。過去データから軽く上げ下げの傾向をチェックし、適当なアイムに腰を下ろした。
困惑。
数時間後――
3台目にしてようやく設定5・6らしき挙動だが、投資はすでに2万円を超えている。閉店まで打てるのならプラス収支への浮上もあるが、あと3時間ほどの実戦では厳しいだろう。いくら回収できるかだ……。
そんなことを考えながら回していると、ドル箱を小脇に抱えながら店内をウロつくXさんを発見。どうやらART機はツモり逃し、その後も打てる台が見つからないようだ。
まあ、この状況ではプロとて厳しいだろう。主要な機種は満席。抑えの機種やバラエティーも、高設定らしき台は絶賛稼働中だ。まだ高設定に座れる可能性があるとするならジャグ。それもスペックが低く、最も空き台が多いアイムくらいだろう。
その後、10分経過――
Xさんは、まだ座らない。
20分経過――
Xさんは変わらず困り顔で店内をウロウロ。
30分経過――
Xさん、カメラマンを引き連れお散歩状態。
いや待てぇい! 気持ちは分かる。俺だって帰りたい。最低稼働ゲーム数の縛りもないのだから、ルール上ではヤメても構わない。しかし、これはTV番組なのだ。プライベート稼働とはワケが違う。
ギャラを貰っている以上、素材(=撮れ高)を作るのが出演者の仕事。ぶっちゃけ打つ台がないとしても、何かしら理由を付けて撮れ高を作らねばならない。負けると分かりきって無理矢理回すことだってある。時にピエロを演じることも出演者の仕事なのだ。
堪らず近くを通った際に声を掛けた。
――「打つ台ないよね?」
Xさん「そうなんですよ」
もう声にチカラがない。歩き疲れたのだろう。
――「でも実戦時間はあと2時間半もあるから、なにか画作らなきゃ」
Xさん「はぁ…でも打てる台が…」
――「そうだね。この稼働じゃART機は厳しそうだね」
Xさん「そうなんですよ」
――「まだ可能性があるならジャグじゃない? 」
Xさん「ジャグ???」
――「アイムなら、あまり回ってない台も多いし…」
Xさん「え………私、ジャグ打ったことないんで」
――「は?」
ジャグを打ったことがない? スロプロなのに? …いや、俺の考えが古いだけなのかもしれない。現代(※といっても大昔です)のプロはART機狙いがメインだ。ジャグなど打たないのかもしれない。
――「…そうですか。でも、もうジャグぐらいしか」
Xさん「私、打ち方分からないんでジャグ打てません」
――「打ち方が…分からない???」
彼女は何を言っているのだろう。「とんち」だろうか。それともジョークか。
――「あ~、いや…あのぅ…」
Xさん「ジャグの小役狙い、雑誌で見たことなくて」
――「なっ!?」
ジャグの小役狙いが分からない? どういうことだろう。レバーを叩いてリールを見れば済む話では?
Xさん「誰からも教わってないし」
彼女は困り顔のままだ。なるほど。どうやら俺の予想は当たっていたらしい。
新しい時代。
彼女はたしかに〝プロ〟なのだろう。収支にも偽りはナイはず。…いや、偽りはナイと信じたい。しかし、実際にウデがあるのは彼女の彼氏かノリ打ち仲間。彼女は彼氏か仲間の指示を受け、ただの打ち子のような生活をしているのでは――!?
――「あー、うん。左リールにチェリー狙えばOK」
Xさん「あ、そうなんですね」
――「あ、ベルとピエロを拾う打ち方もあるけど」
Xさん「………はぁ」
なんだろう。この初心者に無理矢理ジャグを打たせるような気分は。何か俺がスゴく悪いことをしているような感覚だ。
Xさん「あのぉ~左にチェリーが2つあるんですが、どっちを狙えば…」
――「おお!? ど、どっちでも好きなほうでいいよ」
Xさん「そうなんですね」
パチスロを始めたばかりの初心者なら分かる。微笑ましいとすら感じる。しかし、対峙しているのは、俺と同じ肩書きの「パチスロライター」だ。まさかライターにジャグの打ち方を教える日が訪れるとは――。
彼女曰く、すでにたくさん仕事の依頼が来ているそうな。新人ながら、すでに「売れている」と言っていいほどに。なるほど。もう、ライターなど不要な時代が訪れるのかもしれない。誌面にも、TV番組にも。
結局この日の俺は、ジャグの出玉を全てノマれて大逆転負け。追加投資が響き、Xさんとの差枚数勝負にも敗北。打ち方すら知らない人にも負ける。それもまたパチスロなのである。
――「1時間半かけて来て、ジャグのチェリー狙い教えただけか…」
帰りの電車の中で一人、ついつい笑ってしまった。あまりの自分の情けなさに。
後日聞いた話によれば、やはり彼女の彼氏が有名なスロプロらしい。彼女は気付いていなかったのかもしれない。勝っているのではなく、勝たされていることに。彼氏はさぞ気持ちが良かっただろう。彼女がメディアで活躍し、どんどんカネを運んでくるのだから。
ちなみに現代の攻略誌に、こういったライターはいません。少なくとも我が編集部には。1周回って、また質が問われる時代になったということでしょう。力なき者は自然と淘汰されるんですね。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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