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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2020.11.24
詰んだ5分後にツモった話~初代・蒼天の拳~
薄手の半袖シャツに袖を通し、お気に入りのキャップを雑にかぶった。乱暴に足を突っ込んだAIR JORDAN1もくたびれちゃいるが、この履きツブしたルーズな感じがまた愛おしい。
カミさん「帰りは遅くなるんだよね?」
――「うーん…まだ分からないけど」
カミさん「分かったらメールでもして」
――「了解」
カミさん「お薬…ちゃんと飲んでね」
――「うん、ちゃんと持ったから」
〝お薬〟とは言っちゃいるが、どの程度効果があるかは分からない。都内の有名な漢方薬局で手にした代物で、なんでも原材料はタツノオトシゴらしい。深く考えると具合が悪くなりそうなので、あまり考えないようにしている。
カミさんが口コミから拾ってきた情報によれば、男性側の不妊治療に効果的だそうな。飲みたいか・飲みたくないかの2択で言えば後者だが、カミさんは俺より遥かに辛い思いをしている。少しでも彼女の気休めになるのなら、飲まないという選択肢はない。
漢方に科学的根拠はナイと嗤う人もいるが、すがれるならば藁にもすがる。当時の俺たちはそこまで追い詰められていた。今なお現在進行形で同じ思いをしている人がきっといるだろう。
――「じゃあ、いってきます」
カミさん「いってらっしゃい」
狭い階段を駆け下り、駐輪場からママチャリを引っ張り出した。目的のホールまでは2駅。普段であれば電車で向かう距離だが、今日だけはチャリを選んだ。そんな気分だった。
飼い犬。
タイヤの空気が抜けていたのだろう。久々に漕いだペダルは重かった。用水路沿いの道を真っ直ぐ進んだ。街路樹からはセミたちの合唱。今日も暑くなりそうだ。しばらく走ると、小さな交叉点で赤信号に捕まった。車はおろか、渡る者も1人とていない。
無人の交叉点をボーっと眺め、ただただ信号が変わるのを待った。俺以外、誰もいない静かな交叉点。仮に信号を無視しても、捕まることはないだろう。それでも絶対に無視はしない。いや、できないのである。
いつ、どこで、誰に見られているか分からない。知名度が低くとも、それがメディアに露出する人間の鉄則。常に誰かに見られているつもりで行動しなければならない。
――「チッ……」
不意に漏れた舌打ち。思い出したのは昨夜のことだ。俺は今ごろ留置場にいるべきだった。
昨夜は同業者数人が集う飲み会があった。そこで、思いがけない言葉を浴びることになったのである。
センパイ「子どもは出来たか?」
――「いえ、それがまだでして…」
たとえ親族とて、こんなストレートに訊くのはオススメできない。ズケズケと土足で踏み込んで来たのは、センパイも同じ経験をし、長きに亘り苦しんだからだろう。
センパイ「医者はなんて言ってる?」
――「俺もカミさんも問題は無く、あとはタイミング次第だと」
センパイ「ん~、簡単だよ」
――「!? なにがです?」
センパイ「嫁が古いからだよ」
――「………は?」
耳を疑うとはこのことだ。きょとんとする俺にセンパイは続けた。
センパイ「嫁が古いから子どもができない。簡単だろ?」
――「な!? ………」
全身の血液が一瞬で沸騰するような感覚を覚え、不覚にも震えてしまった。センパイと俺はそこそこ親しい間柄ではあるが、それでも言っていいことと悪いことがある。
センパイのツラまでは60cmほど。立ち上がれば余裕で拳は届いたし、スグ横にある麦焼酎の酒瓶を掴むこともできた。ここは殴るべきシーンだ。不妊治療に苦しむカミさん。それに対する最上級の侮辱。
しかし、俺にはそれができなかった。決してラクではないけれど、それなり軌道に乗っているライター生活。それを一瞬で失うことが恐くて、ブレーキが掛かったのである。
無論、いかなる理由があるにしろ暴力はいけない。そんなことは分かりきっているが、俺はあの局面でなお拳を振るわない自分に失望していた。幸せにすると誓った女性を侮辱されても、黙ることしかできなかった自分に。
センパイは酔っていたのだろうか。いつもと変わらぬ様子だったから、酔っていないように見えた。それが余計に怒りを増幅させた。
汗をぬぐい視線を上げると、信号は青に変わっていた。
――「クソが…」
ゆっくりとペダルにチカラを込めた。あんなことがあった翌日も、変わらずホールに向かっている。そんな自分に吐き気がした。
――「ブン殴るべきだった」
小さく呟いたが、俺にそんなことなどできないことは分かりきっていた。急がずとも抽選には余裕で間に合う。それでも俺は力強くペダルを漕いだ。
終了の合図。
駅にほど近い角を曲がると人だかりが見えたが、さほど驚きはなかった。やはり今回も厳しい勝負になるらしい。人混みをかき分け、ホールの駐輪場にチャリを停めた。
この日の狙いは、導入から2ヶ月が経過した「パチスロ蒼天の拳」だった。
▲5号機「パチスロ蒼天の拳」(サミー)
2010年の5月にサミーから登場。主にARTで出玉を増やすゲーム性だが、約300枚獲得可能なBBを2種類搭載しているため、ジャンルとしてはボーナス+ART機にあたる。
ART「死合の刻」は1セット40Gのセット数管理で、セット数を上乗せすることでロング継続を目指す。純増は約1.7枚/G。 |
エウレカに新鬼武者、そして蒼天。この頃の5号機市場は、かつてない盛り上がりを見せていた。
「5号機になればパチスロは終わる」。4号機末期には、そう面白おかしく報じる写真週刊誌も少なくなかった。あの記事を書いた記者たちは、この光景をどう見ているだろう。ライバルが増え立ち回りは厳しくなるが、それでも俺は不思議と誇らしさを感じていた。
抽選人数は150人強と多かったが、それもそのはず。この日のイベント内容は「蒼天が1/2で設定6」。今、最も旬な機種の半6イベントだ。人が集まるのも当然と言える。
蒼天の設置は16台。つまり6の投入は8台だ。まずは抽選で16番以内を引く必要があるが…周囲を見回すと、やはり溜め息が漏れた。
プロの軍団は以前から多いが、最近は大学生と思しきプレイヤーも増えた。面白い機種が増えたことにより、ライトユーザーも急増したのだろう。彼らの怖いところは、その数に他ならない。
アツいイベントがあると知れば、友達を誘って大人数で押し寄せる。俺のようなピンの打ち手は抽選でも厳しいが、並び順ともなると到底太刀打ちできない。彼らは友達さえいれば何時間でも平気で並ぶ。
それは某店の開店3時間前に並びに行ったときのこと。ホールの入り口前を陣取った彼らは、大貧民で大いに盛り上がっていた。その姿を見た瞬間、俺の胸中では白旗が上がったのである。
彼らはどこでもトランプ1つで遊び場に変える。そして時間の流れや捉え方が、かろうじて社会人である俺とはまるで違うのだ。この地域で立ち回れるのも、あと少しかもしれない。そんな風に感じていた。
抽選負けの恐れは極めて高い。いや、むしろ抽選負けが自然。ダメで元々だ。そう思い、抽選箱をまさぐると…
20番!!
――「なっ!!?」
思わず声が漏れた。3ケタなら諦めもつくが、ギリギリ届かないという残酷な結果。いや、実際の入場で2~3番早まることもよくある。それに全員が蒼天に行くとは限らない。わずか4番早まれば蒼天に座れるのだ!
理解不能。
午前9時、開店――
残念ながら俺より前の欠番はなかった。抽選通りの20番入場。しかし、エウレカや新鬼に走る人もいるかもしれない。わずかな希望を胸に蒼天のシマへ向かうと……
満席!!
そりゃそうね。誰もがイベント内容を知ったうえで来ているのだから。あとは大人しく別の店に移動するだけだが、せめてリセット状況だけでも目視で確認したい。
この店のことだ。イベント内容に偽りはないハズだが、せめて次の半6イベントの参考になるような傾向が見られれば……。
確認できた台は全てガックン。いつも通り全台リセットされているようだ。あとはどれぐらいの台が高確示唆ステージへ移行するかをチェックする必要がある。
設定変更時モード移行率 | |||
設定 | 低確 | 通常 | 高確 |
1 | 47.5% | 37.5% | 15.0% |
2 | 45.0% | 37.5% | 17.5% |
3 | 45.0% | 35.0% | 20.0% |
4 | 42.5% | 35.0% | 22.5% |
5 | 41.7% | 33.3% | 25.0% |
6 | 36.7% | 33.3% | 30.0% |
朝イチからほどなく章烈山・泰聖院ステージへ移行したのが9台。レア役から移行した可能性もあるため、実際の朝イチ高確はもう気持ち少なかったと予想される。そしてすでにARTが当たっている台が1つ。6の他に中間設定以上を使用している可能性もありそうだ。
そんなことを考えていると、トンと肩に小さな衝撃が。
――「あ、ごめんなさい」
ボーっと立っていたせいで、他の客にぶつかられたらしい。スグにシマ側に体を寄せると……
――「えっ!?」
目の前の台が空いている。
――「エッ? エッ?」
クレジットと下皿はカラ。リールも止まっているし、カード残高もない。瞬間悟った。さっき肩がぶつかった少年が、この台をヤメたのだ! ちなみに液晶は章烈山ステージ。すかさずケータイを下皿に放り込み、少年を呼び止めた。
――「ちょ、ちょっと! ヤメたんスか?」
少年「ああ、ヤメました。千円でイケるかと思ったけど…へへ」
――「千円!? そ、そう…打っていいの?」
少年「いいっスよ。僕、帰るんで」
全く心境が分からない。ART告知までには前兆があるのだ、千円で当たりまで漕ぎつけるのは難しいハズ…。
少年「やっぱ座るまでがピークだったな」
そう言うと彼は小さくアクビをし、友達とともにシマから出て行った。それを呆然と見送る俺。そして数秒ののちに我に返り、1万円札をサンドへ流し込んだ。
1/2で設定6。しかも朝イチすぐに章烈山ステージだ。6の可能性は十分すぎるほどある―――!!
楽しみ方。
19時過ぎ――
粘りに粘り、やっと2箱目のドル箱がカチ盛りになった。ART単発は極端に少ないものの、ロング継続に恵まれず苦しい展開が続いた。
設定6が確定する「蒼7揃い時の百裂拳チャンス→+6」は確認できていないが、ほかの設定差は概ね設定6の数値で推移している。
出玉は一時800枚を割り、そのままノマれるかとも思ったが、粘り続けた甲斐があった。確定はしていないものの、6であることは明白。あとは22時すぎまで粘れば……そんなことを考えている頃、この台を朝イチ千円でヤメていった少年が再び友達を引き連れやって来た。
少年「ちょw、俺が朝取った台2箱出てるwww」
友人「ダッサ~w 捨ててんじゃん!」
少年「マジか~w まあ、グッスリ寝れたからヨシ!」
――「………(寝てた? バイトじゃなく!?)」
少年「切り替えて麻雀行こうぜ!」
友人「おう、行こう行こう!」
少年たちはキャッキャと笑い合いながら帰って行った。今、最も旬な機種の設定6。それを朝イチ千円で捨てたのだ。俺ならしばらく立ち直れない。しかし少年はどうか。さほど気にした様子もなく、ケラケラと笑っていた。
なるほど。彼らはパチスロで「どうしても勝ちたい」というわけではないのだろう。友人たちと徹夜で遊んだあと、そのままのテンションでホールに並ぶ。抽選の結果など問題ではない。その並んでいる時間こそが、彼らにとって娯楽であり、ピークなのだ。
思えば俺も学生の頃は、よく友達と一緒に打ちに行ったものだ。あの頃は立ち回りなんて考えもせず、ただみんなでホールへ行くことが楽しかった。いつからか1人で打つことが当たり前になり、あの頃の気持ちを忘れていた。
立ち回るだけがパチスロじゃない。「誰と打つか」もまた、パチスロなのかもしれない。彼らは10年後や20年後、酒を酌み交わしながら今の日々を振り返るだろう。そうしてパチンコ・パチスロは脈々と続いて来た。
朝イチの競争が激化したのは困りモノだが、ライトユーザーがまた増えてくれた。それを実感できたことが嬉しかった。パチスロはこれから先もしばらく大丈夫だろう。そして俺の仕事も。
いっぱい働こう。これから盛り上がるパチスロの波に乗って。カミさんの希望を叶えられるのは、俺だけなのだから。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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