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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2019.07.23
『リスタート』~闘病生活~
胸や腕には引っ張られるような感覚があった。重い瞼を開けると、視界の左端に鉄の棒らしきモノが起立していた。幾重にも重なった機械音は、ヘタクソなオーケストラのようにバラバラのリズムを刻んでいる。
自由が利く右手で枕元にあったメガネを掛け辺りを見回したが、薄暗くてあまり見えない。傍らに聳える鉄の棒は点滴で、医療機器から伸びた無数の触手は胸や腕に吸い付いていた。室内に起き上がっている人の気配はなく、様々な機器のランプだけが明滅を繰り返している。
頭痛は変わらず居座り続けているが、少しばかり和らいだ気がしないでもない。麻酔、あるいは強めの鎮痛剤を投与されたのだろう。煙草を吸いたいが、この状況では叶いそうにない。そもそも、自分の私物がどこに行ったのかさえ思い出せなかった。
集中治療室。
暇を持て余し点滴を眺めていると、眠りに落ちる前の医師とのやりとりを思い出した。
医師「ここから2つの治療を進めていきます」
――「2つ?」
医師「まず破れた毛細血管を膨らませます」
――「膨らませる?」
医師「破れた風船を想像してください」
――「クシャクシャになってるってこと?」
医師「そうです。それを内部から膨らませます」
――「は、はい…」
簡単に言いやがる。
医師「そして2つ目。髄液ってご存知ですか?」
――「脳の周りを満たしている液体?」
医師「そうです。基本は無色透明なのですが…」
――「毛細血管が破れたから血が混じってるんですね」
医師「そうです。無色透明に戻るまでは頭痛が続くかと」
――「はぁ…」
どれほど時間が掛かるだろう。いや、この際時間なんてどうだっていい。後遺症が残るか否か。そのほうが重要だ。
医師「まずはココで2日間、点滴で収縮した毛細血管を膨らましますね」
――「…お願いします」
医師「で、膨らんだら一般病棟へ移って頂きます」
――「分かりました」
退屈すぎる。一刻も早く一般病棟へ移りたい。俺を余計に苛立たせたのは「時計」だった。特別好きというワケではないが、俺は時計に囲まれていないと落ち着かない。たとえば4畳半の仕事部屋でも、3方向に時計を置いている。とにかく時間感覚の喪失が大嫌いなのだ。しかし、見渡した範囲に時計はない。どうにかヒントを探そうと各計器を見回していた頃、ガサゴソとビニールカーテンをかき分ける音が聞こえた。誰かが入って来たらしい。
看護師「こちらです」
親父「お~、おぎったが!」
母親「なんだてこんなごどに」
両親だった。俺が眠っている間に山形から来たらしい。ご存じの通り山形は田舎だが、東京まではさほど遠くない。正午に山形を出れば、夕方前には東京に着く。親父の腕時計をチラリと見たら、18時を過ぎたところだった。
――「わざわざゴメンね」
親父「喋るいんだがしたん?」
――「平気だよ。頭は痛いけど」
母親「とりあえずヒドぐなくて良がったちゃ~」
――「説明は聞いだの?」
母親「んだ、先生がら聞いだ」
――「そう。そんなわけでしばらく入院します」
親父「ああ、手術なくて良がったな~」
――「え!? しゅ…手術しないの?」
母親「は? 手術しないって聞いだよ?」
看護師「ええ、手術はしない方向です」
――「ま…マジすか!!」
くも膜下出血で手術ナシ! そんなことがあろうとは!! 先日のクラッシュフリーズぶりの朗報だった。興奮のせいか少しばかり頭痛が強まった。
――「あだだ…」
親父「ほれ、興奮すんなて」
母親「とりあえず明日も様子見に来っがら」
――「ありがとう」
親父「先生が言うには、そだい深刻んねみだいだな」
――「それはよかった」
母親「集中治療室出だら、私らは帰るったな」
――「うん、ありがとう」
まだ法的に家族になっていない彼女は、集中治療室に入れない。だから集中治療室に居るうちは両親が付き添い、一般病棟に移ったら彼女に託し両親は帰る。まさか25にもなって、まだ両親に迷惑を掛けるとは。さすがに両親には発症のきっかけを黙っておこう…。
親父「んだら、まだ明日来っからな」
――「うん。宿はあんな?」
母親「全部彼女さんが手配してくれだよ」
親父「すぐそごのビジネスホテルさ泊まるんだ」
――「んだがしたん」
母親「彼女さん、東京駅まで迎え来てけでよ」
――「それは良がった」
母親「今がら一緒に食事さ行ぐんだ」
――「んだが。ありがとうって伝えどいで」
母親「分がた。んだらな~」
両親が帰ると再び機械音に包まれたが、さきほどまでの不快感はなかった。彼女は両親の世話も積極的にしてくれているようだ。こういう時に姉さん彼女は頼りになる。そして手術がないという事実! 俺はそっと寝返りを打ち、ゆっくりと目を閉じた。
非戦闘態勢。
翌日――。
ポタリポタリと落ちる点滴を眺めながら思った。
「なぜ俺はこんなところに…」
たまに運ばれてくる急患は一様に深刻な状況で、医療スタッフの緊張がひしひしと伝わってくる。俺はすることもなく、それをビニールカーテン越しに見守るしかない。どんな神経を持ち合わせていれば、こんな環境で落ち着いていられるのか。さらに俺を憂鬱にさせたのが「下」の問題だった。
――「ちょっとトイレに…」
看護師「はい、尿瓶ですね」
――「いやいやいや、トイレ行きますって」
看護師「トイレのたびに計器を外せと?」
――「いや…だって…」
看護師「はい、横になって出してくださいね~」
――「はい…」
看護師は女性で、年齢はおそらく30代前半。対する俺は25歳の現役バリバリ。生涯においてピークといって差し支えないほど猛っている年頃である。万が一、意図せず「戦闘態勢」に入ってしまったら…。少しも気を抜いてはならない!
――「…(互いに等速直線運動をしている座標系では、全ての物理法則は同じ形で表される。全ての慣性座標系に対し、真空中の高速度は…)」
看護師「あれ? 出ませんね。持ちましょうか?」
――「い…いえ、結構です!」
く~、意識がなかったらこんな思いをしなくて済んだものを…。ずっと点滴で水分を流し込んでいるもんだから、またトイレが近いのなんの。少しだけ軽症で済んだこと、そして自分の絶えることなき欲求を恨むのだった。
ここは俺のような元気なヤツがいる場所じゃない。早く一般病棟へ移りたい! 入院生活2日目はそんなことばかり考えていた。両親が様子を見に来たのは昼過ぎ。俺の顔を見て安心したのか、表情は昨日より柔らかい。明日、一般病棟へ移るのを見届けたら帰るとのこと。25にもなって、また親のありがたみを思い知るとは…。やはり子どもはいつまで経っても子どもなのだろう。
念願の一般病棟。
3日目の昼。集中治療室に2泊した俺は、予定通り俺は一般病棟へ移った。言わずもがな金がないため6人部屋。窓際のベッドだったことが不幸中の幸い。小さなサイドテーブルに置かれたテレビは、両親が手配してくれたらしい。窓からは近くの大学のグラウンドが見えた。元気に走り回る若者の姿が、これまでより幾らか眩しく見える。
彼女と両親は昼過ぎに来た。彼女とは2日ぶりの再会。
彼女「はい、着替えと時計。あとこれね」
数日ぶりに手にする攻略誌。我が編集部で作られた「H」と「K」の最新号。
――「ありがとう」
母親「こんなところでまでパチスロなんて」
――「これも仕事だがら」
親父「頭の別のどごろも診でもらわんなねな」
――「いやいや至って正常」
しばらくすると主治医がやって来た。
主治医「五十嵐さん、調子はどうです?」
――「頭痛がするくらいで、それ以外はなんとも」
主治医「うんうん。明日、造影剤を投与してCTを撮りましょう」
――「造影剤?」
主治医「そう。CTでよりハッキリと血管を見るための薬ですね」
――「はぁ…」
主治医「副作用で気持ち悪くなったりすることもありますが」
――「えっ…」
主治医「少し酔っ払ったような感覚になる人もいるんです」
――「…分かりました」
親父「まあ、その程度どうってことねーよ」
母親「お母さんなんて頭開いだんだじぇ」
――「知ってるわ」
主治医「では、またあとで伺います」
――「ありがとうございます」
一般病棟に移り自由度は増した。雑誌も読めるし、テレビだって観られる。何より嬉しいのは飯を食えることだ。点滴をしているため腹は空かないが、それでも「食べたい」という衝動はずっとあった。そして点滴を引き摺りながらではあるが、自分でトイレに行けるようになったことも嬉しい。
が、やはり完治には程遠い。当然ながら退院の時期は知らされず、これからは連日検査になるだろう。また窓から大学のグラウンドを眺めた。再びあんな風に走り回れるのだろうか…。
両親は夕方の新幹線で帰った。彼女が毎日経過報告することを約束すると、安心した様子だった。両親をエレベーターまで送った俺と彼女は、そのままケータイが使える休憩所へ。まずは編集部へ状況を報告し、次いでS先輩への代打依頼。先輩は「ほんとに僕でいいの?」などと言いながらも、快く引き受けてくれた。
苦痛の日々。
一般的なくも膜下出血患者に比べると、俺の入院生活など生温かったに違いない。しかしながら25の青年にとっては十分すぎるほど苦痛で、逃げ出したいと思ったことは1度や2度ではなかった。
まずはカテーテル検査。足の付け根からカテーテルという長い管を入れ、血管内に造影剤を投与してCTスキャンを撮る。造影剤による大きな副作用はなかったが、説明された通り地味な副作用はあった。どう例えたらいいだろう。たしかに酒に酔った感覚に似ているが、全身をイヤな臭いが駆け巡っているイメージだ。すり潰したタマネギの汁を、直接血管に注入されているような。おそらく実際は匂いなどしていないが、吐く息にもタマネギを丸齧りしたような臭みを感じた。「気持ち悪い」。そのひと言に尽きる。
そして髄液の検査。背中を丸めて背骨と背骨の間に針を刺し髄液を抜き取る。麻酔をするため痛みはほとんどナイが、その行為そのものが恐ろしい! ちょっとのミスで身体に麻痺が残るんじゃないかと気が気じゃなかった。普通の採血でも恐ろしいのに…。
頭痛が少し治まり始めた入院5日目には食欲が完全復活。病院食では足りなくなり、彼女におかずを持って来てもらうことに。このとき食べた鶏の照り焼きの美味さたるや! 入院中は自由に食べられないので、普段よりも食に対する憧れが強くなる。「退院したらアレを食べるんだ」というリストをケータイにメモしていたら、あっという間にメニューが30を超えた。「食べたいときに食べられる」という普段の生活が、いかに恵まれているかを思い知った。
この頃になるとだいぶ余裕が出て来たらしく、病院から出られないことへの強いストレスを感じるようになった。具体的には「知らない人と同じ部屋に居る」というストレスである。家族と住んでいる現在でさえ、仕事部屋に引き籠る俺である。知らない人とカーテン1枚を隔てたとこにいるというのが苦痛だった。特に俺を悩ませたのが…
――「耳栓持ってきてくれない?」
彼女「え? なんで?」
――「食事時になれば分かるよ」
昼食時――
隣のベッド「クッチャクッチャクッチャ…ゲプゥ~」
彼女「…なるほどね」
隣のベッド「ぷ~っ」
――「O…Oh…」
一人暮らしを数年続け、そこから彼女と2人きりの生活が1年強。おじいちゃんの生活音がこんなにも食欲を削ぐとは…。これからおじさんになる自分も気を付けねばならないと気付かされる経験だった。
さらに俺を苦しめたのが、発症のきっかけにもなった〇欲である。頭痛が治まり始めるや否や、待ってましたと言わんばかりに脳内に拡がる〇欲。今でこそ落ち着いたが(たぶん)、25の青年にとって5日は十分すぎるほどのチャージ期間だ。そして健全な男児であれば、やはりナースに惹かれないわけがない。セクハラだの職業差別だのと言われても惹かれてしまうのである。男児の「そういう目」を止めるには、もうナース服禁止法案を通し…いや、この話は長くなるので割愛しよう。とにかく懲りもせず、悶々とした日々を過ごしていた。
吉報。
入院6日目。彼女との面会中に主治医が現れ、遂に待ちわびた吉報が…。
主治医「昨日の結果も良好ですね」
――「ありがとうございます」
主治医「頭痛はどうですか」
――「ほぼナイです」
主治医「髄液も綺麗になりましたし、明日退院でいいでしょう」
――「え!? 急に?」
主治医「まだ入院していたいですか?」
――「いやいや、とんでもない!」
彼女「良かったじゃん!」
たった1週間! くも膜下出血なのに手術もなく、たった1週間の入院で済むとは!!
――「このあと後遺症が出るようなことは?」
主治医「まずないでしょうね」
――「ホントですか!?」
彼女「ありがとうございます!」
主治医「ただ五十嵐さん、血圧が相当高いですね」
――「はあ、そのようですね」
主治医「血圧を下げるよう食生活に気を付けてください」
彼女「気を付けさせます!」
――「…はい」
こうして大事には至らず、わずか1週間でシャバへ戻れることが決まった。スグに彼女とケータイを使える休憩所へ。まずは両親への報告。予想より遥かに早く届いた吉報に両親とも大喜び! 一時は婚約も解消されるのではと心配していたようだ。
両親への報告を終えると病室へ戻った。この苦痛まみれの生活も、あと一晩だけ。テレビも明日には返却し、荷物もまとめ…
ふと、サイドテーブルに置かれた攻略誌「H」が目に止まった。
入院した1週間前は「H」の校了明けスグ。次号の誌面作りが始まるのは、まだこれからだ。校了までには3週間近くある。これなら…
――「ごめん、また休憩所まで付き合ってくれない?」
彼女「えっ? また電話?」
――「そう、急ぎの連絡忘れてたんだ」
彼女「もう、まだ病人なんだからね」
――「ごめんて、分かってるから」
彼女は小さく溜め息をつき、俺の手を引っ張った。
3日ぶりの声だった。
編集長「おう、生きてっか?」
――「ギンギンすよ!」
編集長「連絡ないからいよいよかと思ってな」
――「まさか。明日退院します!」
編集長「は? 早くね?」
――「そうなんすよ。まさかの1週間でした」
編集長「おま…まさか仮病じゃ…」
――「なわけあるか! 子どもか!」
編集長「だ、だよな。もう仕事できんの?」
――「本誌に間に合うかと思いまして」
編集長「だな、編集のみんなにも言っとくよ」
――「ありがとうございます!」
編集長「フォローしたライターにも礼言っとけよ」
――「スグに連絡します。Sさんにも」
編集長「そうだな、まだ実戦前だろうから」
――「振り回して申し訳ないことしましたね」
編集長「まあ、アイツも心配してたし喜んでくれると思うよ」
――「ありがとうございます。また近々編集部に顔出します」
編集長「ムリすんなよ。…おめでとう」
――「ありがとうございます! では、また」
編集長「おう、お疲れ~」
通話を切ってすぐ、電話帳でS先輩を探した。いや、その前に付き合わせている彼女にジュースでも…。視線を上げると、彼女は迷惑そうでもなく笑っていた。
また明日から日常が始まる。
そんな当たり前が嬉しかった。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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