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元・ホール店長カタギリのしくじり店長
2018.04.18
しくじり店長・第68話『遅悔』
閉店まで残り一ヶ月となったホールでも、日々の業務だけは淡々と消化せねばならない。
最終営業日までに貯玉の清算を促す文言と、お客様への感謝の気持ちが綴られたポスターを店内に貼り出しながら、ふと思う。きっと今頃は会員のお客様の手元にも、同様の文面が記されたダイレクトメールが届いている頃だなあ。桜の舞い散る季節を前に、少しだけ早い永遠のお別れだなあ。まるで他人事のように、最後の春の訪れを待っていた。
「閉めちゃうのかい、寂しくなるねぇ」「何だよ、俺の行くとこ無くなるじゃねぇか」もはや片手で数えられるほどの人数になってしまった常連客からの声も、嫌味や皮肉にしか聞こえなかった。この街にはまだ、いくらでもパチンコ屋があるじゃないか。思い出を刻むための行き場なんて、ウチじゃなくても良いだろうが。ふとした弾みで零れ落ちそうになる本音を、軽い会釈と曖昧な返答で誤魔化していた。
追憶の一片
それは閉店まであと10日足らずとなった、とある日の午後。景品カウンターの前に立ち尽くす、年老いた女性。閉店を告げる貼り紙を見つめる彼女は祈りを捧げるかのように佇み、声をかけることさえ憚られるような凛とした背を向けていた。困惑の視線を彼女と私に交互に向けていたカウンター嬢に変わり、不動の老女の目線に腰を落とす。
「お客様、会員カードはお持ちですか?」
その問いかけで我を取り戻した彼女は閉店を惜しむ挨拶の後で突然、滔々と昔話を語り始めたのである。年老いたその姿に似合わない、力強い口調で。青春を思い出したかのような、澱み無い表情で。
「私は30年以上前から、この街に住んでいるの。あの頃は今よりも、ずっとずっと田んぼだらけだったわね、駅前に銀行があるでしょう、あれが出来る前は喫茶店があってね、そこがアタシの店だったのよ。ちょうどその頃だったのよね、ここのパチンコ屋さんが出来たのは。当時の店長さんがアタシの店にコーヒーをしょっちゅう飲みに来てくれてね、随分とイイ男だったわよ、アタシはすっかりファンになっちゃってね。ここのパチンコ屋さんにも通うようになったのよ。店長さんはいつの間にか姿を見なくなったけど、アタシはパチンコがヤメられなくなっちゃってねぇ。ここに来るのはもう年に数回になっちゃったけど。……そう、無くなっちゃうのね」
虚空を見つめながら息もつけないほどの勢いで話す彼女の横顔に、私は乙女の影を見ていた。
「アタシぐらいの年齢になっちゃうとね、大切なものはみんな無くなっちゃうの。親も、先生も、ダンナも、親友だって、みんなどんどん先にいなくなっちゃってねぇ、思い出のある場所も、景色も、気付いたらいつの間にか変わっていっちゃうのよね。ここのお店も、そのひとつなの。アタシにとって、大切なひとつ。」
遠い記憶を手繰り寄せながら故人の思い出話に花を咲かせる彼女の傍で、カサ地蔵のように立ち尽くす私。でもスミマセン、呼び出しランプが付いているのでちょっと行ってきますね……
報われた一言
「最近アナタ、ちっとも元気が無かったわねぇ。お店が無くなっちゃうから、だったのかしら。心配していたのよ、ここに来た頃はすごく元気だったから。いつも、ひとりで店の中を走り回って頑張っていたわねぇ。カッコ良かったわよ、アタシが好きだった店長さんほどじゃないけど。」
彼女の視線は、いつの間にか私に向けられていた。幼さすら漂わせていた横顔も、正面から見ると年齢相応の人生を歩んできた証が目立つ。だが、その瞳だけはキラキラと輝いて、まるでいたずらっ子のようだ。
冴えない私はいつも、こんな時にどんな言葉をかけて良いのかわからない。友達をからかうみたいに笑顔を浮かべている彼女に、何か気の効いた台詞でお礼を言いたかった。想いを伝えようとしたその前に、視界が滲んで、何も見えなくなってしまった。
「それじゃあ、今まで、本当にありがとうね、店長さん、またどこかでお会いしましょうね。」
左手を振りながらヨロヨロと歩く彼女の小さな歩幅を見送った後で、ようやく心の中で呟いた。こちらこそ、ありがとうございます。でも、最後の約束はきっと叶いません、私はもう、店長ではなくなってしまうのですから。
遅すぎる後悔
その日を境にして、大勢の方々が店にやってきた。僕の話にしっかり耳を傾けてくれたのはカタギリさんだけでしたと、新台のセールストークよりも熱く語ってくれた営業マンのT君。参ったね、大事な話し相手がいなくなっちゃうよとボヤいてくれた広告代理店のNさん。褒められることも叱られることも少ない、誰かの視線を感じないような立場にいた自分を見てくれていた彼らの言葉は、私の人生の救いになった。実らなかった努力が、期待に応えられなかった無念が報われたような気がした。
おそらくは気のせいだが、それでも、やっぱり嬉しかった。誰かの些細な一言で救われる人生がある、そう気付かせてもらえたことに感謝したい。
それと同時に、湧き上がってきた感情はやはり後悔である。お前は本当に努力していたのか、期待に応えようとしていたのか。託すべき相手に手渡すこと無く、バトンを握りしめたまま力尽きて倒れてしまった最終走者。その胸中は、もう疾走しなくても良いという安堵感で満たされていたはずだった。それなのに何故、この期に及んで自分は再び溢れ出しそうな悔しさを味わっているのだろうか………。
ホールはあらゆる意味で、勝負の舞台なのだ。主役の座を降りる時に悔しくない訳ないだろう。
悔しくないフリをして、自分を騙せる訳がないだろう。だが、もう手遅れなのだ。
閉店は、いよいよ明日に迫っているのだから。
カタギリ・今週の1枚
左中段赤からのハサミ右ゲチェナ。中に何を狙うか悩んでいた私は、もういない。
キラーマシンのような気分でスブナ狙い、そんな自分が最近ちょっと嫌いです。
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- 元・店長カタギリ
- 代表作:しくじり店長
シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、 雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。 そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。 タイトルは「しくじり店長」。 パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、 海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。
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カタギリさんのお話は毎回考えさせられる…
強く皆さんにも、
読み返し推奨します٩( ᐛ )و