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元・ホール店長カタギリのしくじり店長
2018.02.21
しくじり店長・第64話『常連の意地』
「今日は大海2を打って下さいよ、大海2がオススメですから!!」
数少ない常連客を大海物語2のシマへ寄せ集めて、看板機種としてアピールする。それが再起を賭けた自店の狙いであり、成し得たかった私の願いだった。しかしながら時間にして、ものの数十分。数台を試し打ちした中年男性をメインとした常連達は一人、また一人と用意された舞台から去ってしまった。
灰皿に残された、揉み潰されて燻ったショートホープの吸殻から立ち上る紫煙。充分な重みを残したままで置き去りにされた、情熱の忘れ形見のような缶コーヒー。それらひとつひとつが僅かな期待に対する名残のように留まる光景を茫然と眺めながら、ふと我に返って彼らの背を追うかのように疑問を投げかけた。
「どうしたんですか、しっかり回りますよね」と必死にすがりつく私への答えは、実に明快だった。
「回るのと出るのは違うだろうが、馬鹿野郎!」 「いや、当る気がしねぇんだよな……」
回るけど当らない、前日の大当り回数が多くて今日は出る訳がない、古くからのパチンコファンらしい言い分だった。もちろんその言葉の裏側には、昨日まで占拠していたプロ集団が見放したシマで打っていられるか、という常連客としてのプライドも含まれているのだろう。こんな状況になっていまさら打っていられるかよ、彼らの心の声が漏れ聞こえてくるようでもあった。
さらには孤軍奮闘、着席早々の大当りから景気良くドル箱を積み上げていたご婦人も、シマの気まずい雰囲気に耐えられなくなったのだろう、玉を流してもらえないかと懇願してきた。
「いや~、せっかくの出玉をアピールしたいから、このまま積ませてもらえませんかねぇ?」 思わず本音が零れてしまった私の申し出に、困惑した表情を浮かべながらも彼女は決断を下した。
「だったら、もうヤメるから流してちょうだい。玉を出しているところ、他の人に見られたくないのよね……」 他の常連客の目が気になるから、このシマにはいたくない。それが彼女の正直な気持ちだった。積み上がったドル箱をひとつずつ計数機へと流していく作業に勤しむ私の目には、視界から少しずつ消えていった鈍色の玉が、この日までの努力が水泡と化して虚しく消えてしまうようにしか見えなかった。
こうして再び無人の空間に逆戻りしてしまった、大海物語2のシマ。そこにフラリとやってきた、プロ集団のリーダー。彼は命釘のサイズと私の顔を見比べると、気の毒そうな表情を浮かべたまま黙って立ち去っていった。どうせなら俺達が打ってやるのにと、励ますように言いたかったのだろうか。俺達を追い出してこのザマかよ、そう嘲笑いたかったのだろうか。いや、そのどちらでもなく、おそらくはこう言いたかったのではないか。
「失った信頼を取り戻す努力は、そんなに容易いものではないのだ」と。
そして、その日の夜。机の上に置かれた数日分のデータを挟んで対峙する部長と私は、張り詰めた空気に包まれていた。
「……どういうことか、説明してもらおうか」
言うまでもなく、桁違いに低下してしまった大海物語2のシマ稼働に対する追求だ。連日の赤字は想定内だが、この打ち込み数の激減に納得できない。部長の怒りは至極当然なものだ。
「スミマセン、自分が独断でプロ集団を排除して、ウチの常連さんだけに大海2のシマをオススメしました」
包み隠さず事情を説明した私の頭上に彼の怒りが爆発は覚悟の上だった。ところが上司の怒りの矛先は、私の想像とは全く違った場所に向けられていたのである。
「そんなことじゃねぇよ、ヱヴァ7の連日の数字だよ、これ、いくら何でもおかしくねぇか?」
大海2とは対照的に、プロ連中による終日フル稼働によって叩き出された大赤字の額。部長の怒りは、その一点にのみ集中していたのである。
「これ、お前はプロが集まった結果と報告しているけど、何でヱヴァのシマだけなんだよ? 海のシマと比べて、ヱヴァだけってのはおかしいだろ? お前が操作しているんだろ? だからこの結果なんだろ?」
なるほど、そういうことか。私はプロ集団を先導して私服を肥やしていると思われているのだ。 サクラを使って、自分の店で小遣い稼ぎをしていると疑われているのだ。具体的な言葉にこそしないが、お前の不正はデータからもハッキリしているぞ、冷たい表情を浮かべたままの上司は、そう言いたいのだ。
「もう、明日からはガッツリ締めて営業しろ。月間の予算計画も今夜中に修正して、俺のパソコンに送れ、いいな。社長には今回の件、俺から上手く説明しておくから、変な真似は今日で終わりにしろ!」
社長に何を、どう説明すると言うのだ。変な真似って何の話だ。弁明の機会も、反論の余地も無いのか。
それにしてもこんな時って、言葉に詰まって何も言えないもんだな。予想外の角度から頭をブン殴られて、そのままマットに沈んだボクサーも、後からこんな気分になるのかな。
余りの衝撃に何も告げられずに、ただ椅子に腰かけたまま黙っている男の姿が、自らの過ちを全面的に認めて反省する部下の振る舞いだと判断されたのだろう。部長はそれ以上の言葉を口にすることなく、最後に軽蔑した一瞥だけを残して事務所を後にしていた。
やってられないよな、こんな仕事。
誰に感謝をされるでもない、何かが報われるでもないのに、自分なりに汗を流してきた結果が裏切り者扱いかよ。なんだそれ。何なんだよ、これは。悔しいけれど、涙は出ない。込み上げてくる怒りにも、拳を握る力が湧かない。感情の糸が突然プツリと切れてしまった私は、事務所の座り心地の悪いパイプ椅子にいつまでも腰掛けていた。
ふとヤニで黄色く汚れた天井を見上げてみると、蛍光灯の薄明かりを纏った輪郭が問いかけてきた。
「オマエハ、ナニモノダ?」
その得体の知れぬ異形の影は、やがて私の姿と変貌を遂げて答えを吐き出した。
「お前は、ただの能無しだ!」
遠い昔に暗くて狭い自室の天井に浮かんだ、自分の中で蠢いていた将来への不安。それが今、具体的な姿を伴って再び眼前で囁いたのである。だが、その姿に怯える未熟さも、そこから逃げ出してしまう気力さえも、もはや今の自分の内側に持ち合わせてはいなかった。事実だけを受け入れ、今日やるべきことだけは淡々と消化していく。
そう、ようやく気付かされたのである。私は組織も、そして自分自身も変えることのできない、無能な大人に成り下がっていたという純然たる事実を。
カタギリ・今週の1枚
初代から数えて26年。当時まだ10代だった私を熱狂させたフィーバーパワフルのシンプルなのに飽きのこないゲーム性は、2018年になっても健在でありました。
写真の6ラインリーチは、発生した瞬間に6ラウンド以上の大当りが確定。40代になっても今なお熱狂の渦中で大はしゃぎしております。
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- 元・店長カタギリ
- 代表作:しくじり店長
シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、 雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。 そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。 タイトルは「しくじり店長」。 パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、 海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。
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この一件で完全に悪人に仕立て上げられましたからね。
もう、こうなってしまうと誰も信じることができなくなりましたよ。
何だか暗い話でスミマセン(笑)。
私がそうだったように。
常連と仲良く話してる、わざとらしく怪しい奴を告発する、その疑念が払拭されずに、悪の道へと進めようとする闇の勢力。
本当に恐い業界ですよね…。