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元・ホール店長カタギリのしくじり店長
2018.01.10
しくじり店長・第61話『入替で失うもの』
稼働の落ちてきた撤去候補の遊パチやライトミドル機を無造作に並べただけのシマを、名機揃いのバラエティコーナーと描かれた安っぽい装飾を施して稼働アップに期待したのが数ヶ月前。そんな貧乏ホールにありがちな小細工を仕掛けるずっと昔から、このシマで黙々と打ち続けている一人の年輩男性。
昭和の人情ドラマに出てくる名脇役といった風情の、地味なジャケットと皺の目立つ色褪せたスラックス。人の良さそうな丸顔と整った口髭、そして茶色いレンズのサングラスの向こう側に覗くつぶらな瞳が何とも可愛らしい、中肉中背のオッちゃんである。
古くからの常連客という事実は誰もが知っているのに、本当の名前を知る者はいない。長年この店で働くスタッフはもちろん他の常連客さえも、彼の名を尋ねると首を傾げるばかりなのだ。ドラム式のパチンコが大好きで、最近ではこのシマにポツリと置かれている『CRフィーバーキングブレイド』が彼の指定席だった。
入店時の混雑を避けるように開店してから5分後に現れて、日が暮れる頃に店を出る。店内で過ごす半日間の視線は、常にキングブレイドのドラムに注がれている。焦らすように小刻みに進むアクションや、透過式のドラム上に颯爽と現れる夢々ちゃん達といった様々な演出が繰り広げられる盤面と対峙するだけで、ほぼ誰とも会話を交わすことのない時間を過ごして帰宅するのが彼の日課だ。
来店される理由が古くからの馴染みの店だからなのか、それともこの店にしか置いていない台だからなのか、それは私にもわからない。ただひとつ間違いないのは彼にとって、ここは居心地の良い場所なのだ。だからこそ朝も早くから毎日のように足を運び、日が暮れるまでハンドルを握り続けるのだ。その気持ちなら、私にも理解できる。それならば可能な限り、同じ状況を提供し続けたい。
だが、その思いは、予想外の形で崩れ去ることになってしまった。ブレイドおじさんのお陰で、名機揃いのバラエティコーナーでも突出した稼動となったキングブレイドに目を付けた男がいたのだ。
「……ん? バラエティのキング何とかって台だけ、馬鹿に数字が良いね。これ、増台しちゃおうよ!」
控えめな数値の並んだデータ表を片手に声を弾ませる部長に、私は即座に反論する。
「いや、この台は一人のお客さんによる数値なんスよ、この人が来ない日はほとんど稼動ゼロになりますから、増台しても数字が割れるだけですよ!」
ウチの会社の上司たちは総じて、部下の話に耳を傾けたりしない。自分が決めたら、その決定は絶対なのだ。もちろん、部長とて例外ではない。 その数週間後、私の意に反して行われたキングブレイド増台の新装初日。
台数が増えたことよりも、心配なのは設置場所だ。キングブレイドはバラエティコーナーではなく、入り口付近のライトミドルコーナーへと移設されてしまったのだ。来店客の出入りが多く、背後の狭い通路を人が行き交うこの場所で、ブレイドおじさんは今まで通り長く遊んでくれるのだろうか。
午前10時5分。彼は来た。ここまでは普段通り。違うのは、あるべき場所から見慣れた台が消え失せている光景だ。悄然と立ち尽くし、困惑する中年男性に「キングブレイドは、あちらに移動になりましたよ!」と声をかけて誘導する。隣を歩く氏の表情は鉄の仮面を被っているかのように固いままで、好きな台が撤去を免れたという安堵感は漂っていない。これはまずいな、私はそう予感した。
今日は新装初日、名前負けした名機コーナーの看板の元にあった万年釘のブレイドも赤字仕様。それにも関わらず、予想通りブレイドおじさんの表情からは元気さが窺えない。そこはやっぱり、彼にとって落ち着かない場所なのだ。いくら箱を積もうが、どれほど投資が嵩もうが、毎日とっぷり日が暮れるまで打ち続けてきた彼はその日、まだ日の高い時間にも関わらず3箱ほどの出玉を流して店内から姿を消してしまったのである。
その翌日も、さらにその翌日も、ブレイドさんは規則正しく、開店から5分後の店内に来てくれた。今までと違ったのは、遊技機種と退店時刻だ。キングブレイド一筋だった彼は時折、安っぽいスチールボードに子供っぽいフォントで描かれた「バラエティコーナー」のPOPの下に並んだ馴染みの無い機種に軽く付き合って、またすぐに席を立つという行為を何度か繰り返して午後3時前に、あるいは正午過ぎに早めの撤退をすることが目立つようになってきたのだ。
「増台しても、やっぱり安い機械はダメだ、撤去だな!」
下落したブレイドの数字を見て軽々と吐き捨てた部長のセリフを耳にした時は、だから言ったじゃないですか、という言葉が喉元まで飛び出した。その本音を呑み込んで、スミマセン私の努力不足でしたと諳んじたような言葉と共に頭を下げて、こう続けた。
「撤去しないで、元の通りに1台だけバラエティに残したいのですが」
それが無駄な足掻きだとはわかっていても、そう言わずにはいられなかった。たとえ相手が、私の意見に耳を貸さない上司だとしても。1台は撤去、もう1台は系列店への移動。最終的な判断は即座に下された。
「キングブレイド、もうすぐ無くなっちゃいます……」
撤去が決まった数日後、私は稼働を終えて立ち上がろうとしたブレイドさんに、謝罪の気持ちを込めて声をかけた。撤去台をお客さんに教えるのは御法度だ。店から外れると知られたら稼働が下がるから撤去台は告知しないのが基本である。それにも関わらず、私はブレイドおじさんに事実だけを伝えた。最後の日まで楽しんで欲しかったのだ。
その告白を受け入れたブレイドおじさんは、一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた。それでも好きな台との出会いと別れを何度も繰り返してきたブレイドさんだから、いつかこの日が来ることを覚悟はしていたのだろう。そうか、まあ普段通りに打つよ、そんな余裕を瞬時に取り戻していた。
それからの数日間は何事も無く、いつものように昔よりも短めの稼働を終えて帰宅していたブレイドさん。いよいよやってきた撤去日でさえも、その行動は何ひとつ変わらなかった。
そして迎えた新台入替日。果たしてブレイドさんは何を打つのだろう。開店時間の10時。意外な機種に座りそうだなという期待が胸に広がる。いつもの午前10時5分、もしかしたら店には来ても打つ台が無いから帰ってしまうかも知れないという不安が募る。だがその日、ブレイドさんはホールに姿を見せなかった。
次の日も、その次の日も。翌週も、翌月になっても。近隣ホールを覗いても、隣町まで足を運んでも、ハンドルを握る丸顔の紳士を見つけ出すことは叶わなかった。
「身体の調子も、何だか悪そうだったからね……」
古いアルバムから1枚、大切な写真が無くなったことに気付いたような気持ちになって、カウンターのウルトラ熟女スタッフにブレイドさんとの思い出話を語りかけたところ、彼女からポツリとそんな言葉が零れ落ちた。ブレイドとの別れを潮時と悟ったのだろうか。本当の理由はやっぱり、無口なブレイドさん本人しか知らない。
台が撤去されれば、その台を愛した誰かがいなくなってしまう。ホールが街から消えてしまえば、スタッフもお客さんも離れ離れだ。別れはいつも突然だから感謝の気持ちを忘れるな、そんな話は何度も聞かされたような気がする。だが物事の大切さなんて、失った後でなければ気付けやしない。忙殺される日々に埋没する唯の感傷に過ぎないのだ。
押し込めても蓋の閉まらない感情に心を乱されてしまう。ブレイドさんは、最後の時間を楽しめたのだろうか。そして自分は、そのために最大限の努力を行ったのだろうか。大切なパチンコファンを目に見える形で失ったこの出来事によって、私は大きく塞ぎこんでしまったのである。
カタギリ・今週の1枚
すっかり遅くなりましたが皆様、本年もよろしくお願いいたします!
写真のおみくじは、元日にフラリと立ち寄った実家の近くにあるホールで引いたもので、 正月らしいサービスに感心させられましたね。
力量相応の実績を挙げることで幸運とのことですので、大振りしないでコツコツ頑張っていきますね。
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- 元・店長カタギリ
- 代表作:しくじり店長
シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、 雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。 そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。 タイトルは「しくじり店長」。 パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、 海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。
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すっかり遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!
好きな台がどんどんホールから撤去されていくのは寂しいですよね。
ホールから消えてしまった台にも、お客さんだけでなくホールスタッフも複雑な思いが込められていることも、時にはあるんですよね。
常連さんしか打たない台を撤去するのは勇気が要りますよね。
その台を打つためだけに、わざわざ店に足を運んでくれる年配客の気持ちを考えると胸が痛みますよ。
カタギリさんの一年が良い年でありますように╰(*´︶`*)╯♡
わたしの好きな台も探したら、市内に1箇所しか設置されてませんでした……_:(´ཀ`」 ∠):
カナシイ‼︎