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現実人力調査 カタギリQ
2026.08.09
カタギリQ 第12話 〜特別編〜

数週間前の朝、未就学児が公園の砂場で握ったミニトゲトゲボール入り砂団子を喉に詰め込まれたような嫌な感覚で目覚めましてね。 その違和感と共に咳ATが残り800ゲームぐらいあるんじゃねえか、ぐらいの勢いで延々とゴホゴホ出続けるのでスグに病院へ直行。品格を失った武者小路実篤みたいな顔をした老医者から貰った咳止めと咽頭痛を抑えるヤクブーツを服用して家でおとなしくしていたんです。
ところがその薬も効果がイマイチ、かつ違和感発生から5日目には声がほとんど出なくなっちゃって、職場でも「おつかれさまです」と言ったつもりが「ボヅガデザバデズ」というダイイングメッセージめいた単語が口から微かに漏れるだけに。 わかりやすく言うと黒魔法を詠唱する本間朋晃選手が社内をウロウロしているだけみたいな感じになっちゃったんです。
当然、その間も咳が衰える気配ナシ。さらには何故か特殊スキルの『過敏嗅覚』まで発動してしまい、パチ屋に入店したわずか数秒後に鼻からの刺激により咳ラッシュが発動する有様。ズーッとゴホゴホやってるオッさんが隣に座っていたらあまりにも迷惑過ぎるので、即座に退店しましたよ。
結局、2週間以上も咳が収まらないのはヤバ過ぎるので今度はレベル高めの病院へとサラリーマン金太郎ムーブで直行。週3で油そばを食ってそうなドクターの元で胸部のATだかBT、もしくはCTみたいなアルファベット・キャメラで胸部を撮影。 その結果「肺と気管支に炎症っぽい何かがあるみたいですね」というバカ売れシフォンケーキのようなフンワリした診断を下され、現在は100回ぐらい首を傾げながら自宅で安静にしております。
ちなみにハイレベルドクターからは麻薬と同じ扱いですから、などと強迫めいた言葉と共に効き目の強いハイポーションみたいな咳止めを処方されましたが、 それでもなお通常時がやや長めになったものの時々ゲッホゲホラッシュ(※咳ラッシュの上位ATバージョン)突入、といった状況であります。 ようするに私は今、パチンコ店に入れないカラダになっているのです。 パチ屋に入れなきゃ実戦どころじゃないので、今回は緊急クエストとして急病になる直前に立ち寄ったスロゲーセンでの遊技レポートを、 妖怪・痰がらみ咳ジジイが人生で初めてパチスロを打った時の思い出と共に語らせていただきます。我ながらなんという嫌な名前だ……。
夏・体験物語
今を遡ること36年前の1990年の、とある夏の一日。
その日も額から流れ落ちる汗も気にせず開店時刻を待ち続ける、逆走全力少年ことカタギリ君。 時給620円の総菜売りのバイトで稼いだお金、その全てを無造作に財布に突っ込んで軍艦マーチが流れ始めた店内へ颯爽と突入、 目指すは本日のお宝台。そう、当時から今と変わらず朝っぱらからパチ屋に通っていたんです。ちなみに 昨日はそこそこ負け、一昨日はちょい勝ち。その前の日の結果はもう覚えてない。 そんな感じで適度に遊ばせてもらいつつも確実に負け額を積み重ねていくスタイルでしたね。ここもまた、今も昔も同じですわ。
ところが、その日の勝負台だったハネモノ『ウチのポチ』は普段とは様子が違ったのです。違って微小ながらも持ち玉が増えていく好調台。 出玉が少なくなったところで大当り、さらに速攻で当たって出玉を伸ばすといった一進一退の攻防戦を経て、 開店から3時間ほど経過した店内に「○○番台、予定数に達しました」と自動音声が鳴り響いたのです。
銀玉がギッシリ詰まった小箱が4箱弱。この3,000発の出玉こそが長時間に及ぶ激闘の終わりを告げる『打ち止め』の証。 投資額を差し引いた勝利の証は夏目漱石の描かれた薄水色の紙幣がわずかに1枚。いわゆるショボ勝ち。 それでも大事なのは金額じゃない。人生初の打ち止めの達成感と満足感。その有り余る喜びで心は満たされていたのです。 景品交換を終えて夏の匂いが染み込んだアスファルトの上を自転車で疾走する私の心は、Vゾーンに飛び込む瞬間のパチンコ玉みたいに勝利を掴み取った喜びで弾みきっていたのでした。
はじめてのパチスロ
ところが、その帰り道。
「いよう、ケンちゃああん、ひっさしぶりぃぃ!!」
気分良く自転車を走らせていた俺を馴れ馴れしく大声で呼び止めたのは、中学時代の悪友のカズだ。少しだけ伸ばした後ろ髪と不自然に整えられた眉毛。何よりムカつくのが、さらに高くなった身長だ。中学時代と変わらず、今でもさぞかし女にモテているんだろう。でもまあ、関係ねえ。俺は今日、とにかく気分が良いんだ。
「おお、カズか! オメー、元気にしてたんかあ!? 最近ナニやってんだあ!?」
なにしろ人生初の打ち止めを体験したばかり。興奮の余韻はムカつく旧友との再会でも昂ぶっちゃうってもんだよ、なあ。
「……お、おお。俺かあ。俺は最近、パチスロにハマッてるわ。……ケンちゃん、パチ屋に行ったことある?」
俺より高身長のイケメンで、さらには家もそこそこの金持ちときたもんだ。中学時代のカズは根暗な貧乏人だった俺を格下に見ていたに違いない。 ナメていた相手との久々の再会で上から目線で軽く声をかけたところに、想定外のバカデカい返事。カズは少しだけ気後れしたのだろう、第一声からトーンダウンして尋ねてきた。ナメんじゃねえぞカズ、このやろう。そんな気持ちもあって思わず、話を盛ってしまう。
「あったりめえだろ。今日も朝から2台、ハネモノ打ち止めにしてきたとこだわ。パチで勝ってるから、もうすぐバイトもヤメるつもりだし!」
ホントは人生初の打ち止めに、今も感動の余韻の真っ只中。そして週末は夕方から近所のオバちゃん連中に餃子とコロッケを売りつけるバイトだよ。何しろカネが無きゃ、パチンコ打てないもんな。
するとカズの表情は一気に明るさを取り戻し、弾けるような笑顔を浮かべながら予想外の一言を放ったのだ。
「おお、んじゃ、これから駅前で一緒にパチスロ打とうぜ! ケンちゃん、スロは何を打ってんの!?」
しまった、格好つけなきゃ良かった。たいしてカネも無いし、そもそもパチスロなんて興味ねーし。 けど、ここで断るのもウソつくのも、どっちにしろダセーか。ま、付き合ってやるよ。お前のそんな笑顔を見ちゃったら断りきれねーしよ。
「いや、俺はパチばっか。スロットは打ったことねーんだよ。せっかくだから教えてくれよ」
待ってました、とばかりに輝きを増すカズの笑顔。ちょいちょいムカつく奴だけど、笑った途端に目尻が下がる、この表情で何か許せちゃうんだよなあ。
……というわけで、のろのろと自転車のペダルを踏みながら、小走りで駅前に向かうカズの背中を追いかける。 何がきっかけでパチ屋に入り浸ってんのかなあ。てか、パチスロ打ってんの生意気だなオイ。最低でも千円が無きゃ打てねーじゃん。 パチンコなんて100円ありゃあ勝負できるのによ。やっぱムカつくわ。後ろからチャリで轢いたろか。

▲はじめての機種はバニーガール。当時の設置は圧倒的に白パネルが多く、この赤パネルは初見
中学時代よりもさらにデカくなった背中をぼんやり見つめているうちに、寂れたホールに到着。20台ほど設置されているパチスロのシマには先客は一人もおらず、 カズに促されるままに入口寄りの台に2人、肩を並べて着席。 本日の戦利品となる紙幣1枚を名残惜しげにサンドに投入すると、耳障りな金属音と共にメッキの剝がれかけたメダルがジャラジャラと払い出された。
「そのメダル、下皿に入れて」
偉そうに命令した後に続けて同じサンドに迷い無く千円札をブチ込むカズ。やれ、ここにメダル3枚入れてだの入れたらレバーを叩けだの、ここにある3つのボタンを押せだのと、いちいち横からうるせえな。だいたい見よう見まねでわかるわ、それぐらい。
悪友に言われるがままに、リハビリ運動みたいな手付きで初めてのパチスロ体験。小気味良いベット音、軽快なスタート音とリール停止音。 それら全てが自分には何とも不似合いな世界での出来事のようで、あまりにも場違いな空間に足を踏み入れてしまったような罪悪感すら覚える。 何より銀玉の軌跡を追い掛けるパチンコと違って、高速で回り続けるリールには何を願えば良いのか全く理解できない。 どこが面白いんだこれ。どうなれば楽しめるんだよ、カズ。
そう心の中で思い続ける間もなく、瞬く間に筐体に吸い込まれてしまった50枚のメダル。 何より、3時間もかけてようやく手にした本日の勝利の証であり、初めての打ち止めによって手に入れた勝利の千円札を、 こんなにもあっさりと無意味に手放すことになってしまったことが本当に悔しくて、情けなかった。本当に惨めな気持ちだった。 このやろうカズ、パチスロ面白くねーじゃねーかよ。どうしてくれんだ。覚束ない手付きで打ち続ける私を無言で見つめていたカズの手元にも、既にメダルは1枚も見当たらなかった。
「……ん、やっぱ今日はヤメとくか。そこのコンビニでビール買って一緒に飲もうぜ!」
よほど落ち込んだ顔をしていたであろう俺の心情を察してか、あるいは自身への怒りに気付いたか。またしてもカズの誘いに乗る形で、あっさりと店を後にすることに。

▲バニーの定番といえばこの『ズレ目』。その美しさに誰もが魅了されたに違いない
その後、俺たちは駅前の噴水広場のベンチで再び肩を並べて、生意気に乾杯した。少し背伸びをしていた俺たちには、まだビールは苦かったくせに、それでも「やっぱ夏のビールは最高だよなあ!」とうそぶきながら、アイツはまた目尻を下げた。それを見て、俺もようやく笑顔を取り戻せた。自分から誘ってきたくせに、カズはビールをおごってくれなかった。自腹で買ったバドワイザーの分だけ、今日はマイナス収支になってしまったじゃねえか。
軽く酔っぱらったのか、カズは別れ際にまたしても大声を張り上げた。
「近いうち、一緒にバンドやらねーか! 俺とケンちゃん、あとマコッち。ドラムは誰がいいかな。いずれにしても、イケメンバンド結成だな!!」
カズはそういって、また無邪気に笑った。嬉しかった、というより驚いたわ。俺のこともイケメンと思ってくれていたのかよ。てか、もしかすると、お前、そんなに俺のことを見下してなかったのか? 俺が卑屈になっていただけだったのか? ビールもおごってくれなかったし。ああ、それはパチンコ勝ってるってウソをついちゃった、俺のせいか。ごめんな。悪かったよ。
そして、現代に戻る
はい、というわけで36年前のその日。はじめてのパチスロは私にとっては非常に退屈で、ぶっちゃけ2度とパチスロは打たないぞと心に決めるほど苦痛な体験だったのです。それがどうして変わってしまったのかは、また別の機会に。
ちなみに記念すべきパチスロ初打ち機種は2号機『バニーガール』でした。私と同世代、もしくはそれ以上のオールドユーザーで本機を打ったことが無い人はほぼいないのではないか、と思えるほど当時のパチスロコーナーではメジャーな存在でしたね。今回のエピソードで登場したホールも全台がバニーガール1機種だけしか設置されていませんでした。なにしろパチスロ4号機導入前のこの頃、ホールの主役はパチンコの保留玉連チャン機。パチスロの客付きが良い店はあまり見かけませんでした。あ、ごく普通のスロット限定のお話ですよ?
さてバニーちゃんといえばボーナスフラグ成立時(および成立後)に小役が非テンパイ型となる通称『ズレ目』と、ボーナスの連チャン以外にもプラムやベルが超高確率で揃い続けてメダルが増える『小役の集中』が搭載されていることで人気を博した、パチスロ史上にも燦然と輝く名機のひとつでございますね。スリーセブンを揃えた瞬間に爆音で流れ出すファンファーレがあまりにも気持ち良すぎるのも大きな魅力のひとつでした。
ま、この時ははそんなことさえ知らず無機質に向き合ってしまいましたが。 今回の実戦ではスロゲーセンということもあって座って即座に小役の集中60ゲーム、集中終了後に即レギュラー、ビッグ、ビッグのボーナス3連から再度、小役の集中とバニーガールの出し方のお手本みたいな順調な展開で楽しませていただきました。
やっぱりハネモノとノーマルパチスロは時間消費型の緩く遊べる調整にしてくれないと機械本来の面白さが伝わりにくいな、と私は常々そう思っています。出率100%以下、つまり打てば打つほど玉やメダルが減り続ける調整のハネモノやノーマルスロットで遊ぶのは、長引く咳と同じぐらい延々と続く苦行ですから……。
というわけで本日は以上でございます。 皆さん、健康あってのパチンコ・パチスロですからどうかお身体にお気をつけて!
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- 元・店長カタギリ
- 代表作:しくじり店長 しくじりサウナ店長
情熱だけでパチンコとパチスロを35年以上に渡って打ち続けている、スイカ泥棒みたいな顔をしたパチ7の古参ライター。
元・ホール店長のくせに理論的な立ち回りが全くできないため、各方面から嫌な顔をされていることでも有名。


