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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2022.10.25
未経験の緊張感~パチスロ業界の裏側②~
※極秘の仕事を受けるようになった経緯は前編『極秘の仕事~パチスロのウラ側~』から。
「お待ちしておりました。すぐに向かいます」
インターフォン越しの声は心なしか硬かった。先方も我々同様に緊張しているのだろうか。しばらくしてガラスドアの奥にある重厚なドアが開き、作業服姿の男が姿を現した。年齢は40代後半から50代前半といったところか。
男「こんな遠くまでご足労いただき、ありがとうございます」
K先輩「いえいえ、とんでもない!」
――「こちらこそ、2日間お世話になります!」
男「さあさあ、中へお入りください」
重厚なドアの奥には、案の定、エレベーターが待っていた。促されるまま乗り込むと、しばしの静寂。このとき自分の鼓動が早くなるのを感じ、少し恥ずかしくなった。学生の社会科見学でもないのだが、年甲斐もなくドキドキしている。
男「着きました。どうぞ」
K先輩に続きエレベーターを降りると、薄暗い廊下に出た。
男「こちらです」
人々の営み。
男に続いて右へ歩くと、すぐに大きな部屋に出た。白い長机が数え切れないほど並べられており、左手の大きな窓からは陽光が降り注いでいる。外からは堅牢な黒い箱に見えた建物だが、窓は思いのほか大きく開放感すら感じられる。
男「こちらが食堂です。お弁当を食べたり、休憩をするスペースですね」
K先輩「食堂! 大きいですね」
ふと、大きな窓の外から楽しげな話声が聞こえてくることに気が付いた。視線を向けると作業服を着た若者たちがズラリと並んでおり、タバコを吸いながら楽しそうに談笑していた。
男「すみません、ちょうどいま休憩中なものでして」
――「いえ、構いません」
男「おタバコ、吸われます?」
K先輩「はい、まあ……」
男「喫煙所は、その窓を出たところです。狭苦しいところですが」
K先輩「いえ、あるだけありがたいです」
ホッとした表情のK先輩。どうやら禁煙の必要はなさそうだ。
それにしても……
俺は想像していた光景との違いに驚いていた。なんとなく、本当になんとなくだが、パチンコ・パチスロの工場は年配の作業員ばかりが働いているものだと思っていた。もちろん若者もいるだろうが数は少なく、40~60代が中心だろうと予想していた。
しかし、現実は少し違った。 軽く見回した感じでは、30過ぎの自分より若く見える人が多い。20代前半と思しき若者も少なくない。我々からすればある種の聖域ともいえるパチンコ・パチスロ工場も、現地の若者にとってはごくごく普通の就職先の1つなのかもしれない。
ここに就職し、家庭を築き、地元に根付く。我々が長い間夢中になっている遊技機の裏にも、当然だがちゃんと人の営みがあるのだ。
男「では、そちらにおかけください」
促されるまま食堂の1番廊下側にある机の周りに腰かけたが、すぐさまバッグから名刺を取り出し立ち上がった。
高まる緊張。
男「はじめまして、わたくし機械検査課(仮称)・課長の〇〇と申します」
K先輩「〇〇出版・編集デスクのKと申します。頂戴します」
――「攻略誌・Hでライターを務めております五十嵐です。頂戴します」
課長「ライター……頂戴します」
一通り名刺交換を終えイスに腰かけると、課長が口を開いた。
課長「え~、お話は伝わっているでしょうか?」
K先輩「ええ、ざっくりと概要だけは伺っております」
課長「現在、製造中の機械で新しい試みをしておりまして、それに何か不備がないか、気付いたことや意見をお聞かせいただきたいのです」
――「はい、承知しました」
課長「で、大変申し訳ないのですが、なにせまだ発表どころか試験に持ち込む前の段階ですので、情報漏洩には細心の注意を払っていただく必要があります」
K先輩「もちろん、存じ上げております」
課長「つきまして、こちらの書類にサインと捺印をお願いしたいのですが……印鑑はお持ちですよね?」
――「はい」
印鑑を持ってくるようにと事前に通達があった。いわゆる念書のようなものだ。もしも情報が漏洩し損害を与えたら、当然責任を問われるというわけである。甲は乙は…といった堅苦しい書類に目を通し、サイン・捺印を行うと、徐々に重圧が押し寄せてきた。
この仕事をしていると、発表前の機種に触れる機会は少なくない。しかし、こんな風にサイン・捺印を求められるケースはない。守秘義務は常時課せられているが、いつも以上に厳重な情報の取り扱いが求められる。
課長「ありがとうございます。では、さっそく現場にご案内してよろしいでしょうか?」
K先輩「構いません、お願いします」
課長のあとに続き、先ほど通った廊下を逆方向に歩いた。食堂が明るいせいで、廊下はひと際暗く感じる。廊下の右手には縦長のロッカーが数十個、ビッシリと並んでいる。どこの事務所にもありそうなものだが、その数の多さに驚く。
突き当りにある電子ロックが掛かったドアの前で課長が振り返った。
課長「こちらですが……何か急ぎの連絡とかありませんか?」
K先輩「連絡!?」
顔を見合わせるK先輩と俺。
課長「会社やご家族に連絡はありませんか?」
――「いえ……大丈夫です」
課長「この部屋、携帯電話の持ち込みができませんで、そのロッカーに私物と一緒に預けていただきたいのです」
K先輩「な、なるほど! 承知しました」
ケータイを持ち込めない開発室があるとは聞いているが、どうやらここも同じらしい。少々不便ではあるものの、この制限が、むしろ俺たちを興奮させた。
今から本当に〝見てはいけないモノ〟を見るのである!
課長「ロッカーの鍵は無くさないようご注意ください」
――「はい、分かりました」
ロッカーに荷物を預けてドアの前に立つと、課長がドア横にある小さな機械にカードをかざし、ロック解除の音が小さく響いた。
課長「では、中へどうぞ」
異様な光景。
金属製の重厚なドアをくぐると、そこは……
K先輩「………」
――「………(な、なんじゃこりゃ!!)」
緑色の鉄骨が縦横無尽に交差しており、その中に件の機種がポツリと2台置かれている。部屋の中は無音。喫煙所にいた彼らの作業場は、こことは違う階なのだろう。
なにより目を引くのは、筐体に向けられたビームガンのような機材だ。
K先輩「おい、アレって……(小声)」
――「カメラ……ですよね?(小声)」
俺らが台の前に座ると、その右後方から筐体を捉える形でカメラが吊るされている。初めて見るタイプのカメラだが、遠隔で色んな角度に動くことは容易に想像できる。つまり―――
俺らは常時監視されている!!
K先輩と違いカメラ前で打つことには慣れているが、とはいえこれはいつもの収録とはワケが違う!!
課長「こちらがその新機種になります」
K先輩「はい……」
筐体は少々派手だが、これといって目立った特徴はナイ。一目見るなりテンションが爆上がりするようなものではなかった。
課長「〝新しい試み〟は、ぜひ打っていただいてご確認いただければと」
――「……はい、分かりました」
随分もったいぶるではないか。相当自信があるようだが、俺もK先輩もスロ歴は十余年。お蔵入りになった機種だっていくつも見てきた。ちょっとやそっとの新機能じゃ驚きもしないが……。
課長「では、気付いたことや意見はコチラの紙にご記入ください」
手渡されたバインダーには、何枚もの紙が挟まれていた。
課長「あと、ご休憩されたくなったら遠慮なく言ってください。ドアを開けますので」
K先輩「はあ、ありがとうございます」
なるほど。「全部聞こえているぞ」ということか。
課長「終業時間は18時です。それではお願い致します」
二人「はい、よろしくお願いします」
課長がドアから出て行くと、電子ロックのかかる音が小さく響いた。かつて経験したことがないタイプの緊張感だ。
K先輩「じゃあ始めようか。ん? 機種の資料がナイな」
――「なるほど。打ち方からゼロの状態で探れと」
K先輩「だね」
台の周囲には大量のメダルが置かれていた。筐体横にはサンドもあるが、電源は入っていない。俺らの会話を聞くうえで、サンドの払い出し音が邪魔になるからだろう。
台にメダルを投入してみると、案の定、音量も小さめに設定されていて、それがより一層緊張感を高めた。迂闊なことは口にできない。
K先輩「さて、リールは……」
レバーを叩き、リールを回しっぱなしにして眺めるK先輩。
K先輩「左リールはとりあえずチェリー狙いになりそうだな」
――「はい」
K先輩「右リールは適当打ちでもスイカのこぼしナイな」
――「あざす! とりあえず、しばらく打ってみましょうか」
こうして監視付き実戦が始まった。
新機能。
打ち始めてから15分が経過しても、特別変わった点は見当たらなかった。ゲーム性は昨今流行のソレで、残念ながらごくごく平凡な機種という印象だ。が……
――「おうん? ねえ、Kさん」
K先輩「どした?」
――「今、ここが〇〇〇たような気が……」
K先輩「は? 見間違いじゃなくて?」
――「見間違い……ですかね?」
K先輩「今、なに中?」
――「CZみたいなヤツです。ちょっと消化してみますね」
そして、打ち始めてみると……
――「おおう! な、なんだコレ!??」
K先輩「どしたー!?」
――「〇〇〇〇が連続してます!」
K先輩「なんだって!?」
――「なんかほぼ毎ゲームで〇〇〇〇が……」
K先輩「は? なんで急に!?」
〇〇〇〇が集中するシステムは、これまでにもたくさんあった。が、そのどれとも違うような印象だ。一体どうやって!? 注意深く筐体を観察すると……
――「ああっ!!」
K先輩「どうした?」
――「分かっちゃった! 仕組みが」
K先輩「えっ? どゆこと?」
――「これは………」
機種が特定されるため詳細は割愛させていただくが、たしかに斬新な発想の新機能だった。我々のような古くからのスロ打ちでも驚くような、いや、古くからのスロ打ち〝だからこそ〟驚くようなというべきか。
K先輩「そんなんアリなん!?」
――「分かりません。法的にOKか、内規上OKか分かりません」
K先輩「まあ、こうやって作られたってことはOKなんだろね」
――「ええ、おそらく。この発想は無かった!」
我々攻略誌の編集・ライターは、たしかにパチスロのシステムについて詳しいとは思う。しかし、規則や内規のすべてを網羅しているかといえば、そんなことはまったくない。
せいぜい「かつてこういう機種があったから、こんなことができる、こんなことならやれるハズ」と、経験した範囲から予想することしかできない。しかしメーカーの開発陣は、その何歩も先をいく!
〝受け手〟である我々より、ずっと発想が自由なのだ!!
K先輩「なるほど、俺らが呼ばれたわけだ」
――「ですね! たしかにコレは穴が無いか心配になる」
K先輩「うお~、テンション上がってきた~」
――「穴の探し甲斐がありますね!」
俺らはモニタリングされていることも忘れ、子どものように喜んでいた。きっとカメラの向こう側で、課長たちも笑っていただろう。
つづく
※メーカー関係者の方へ
本エピソードにおいて、メーカー名・機種名・システム内容を明かすことはございません。
また、工場内の描写につきましても、機密事項やセキュリティーに関する漏洩が無いよう最大限配慮いたします。守秘義務は遵守いたしますので、見守っていただけますと幸いです。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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