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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2020.03.03
3枚戦争~譲れない戦い。閉店保証~
宵越しの書き仕事が片付いたのは、日が傾きかけた頃だった。冷めたコーヒーを飲み干し、PCの電源を落とす。そして電源が落ち切るのを待たずに身支度を進めた。
――「んじゃ、ちょっと出て来るね」
カミさん「帰りは?」
――「夕飯までには戻るよ」
カミさん「じゃあ用意してるね」
――「ありがと! いってきます!」
跳ねるように家を出た。爆裂ART機が市民権を獲得して久しいが、この時間から高設定をツモれるとは思えない。となればやることは1つ――。
遊び打ちしかない!
大きな仕事を終えたあとは、いつもガードが甘くなる。仕事終わりに打ち散らかし、大敗することも珍しくない。しかし、分かっちゃいるけどヤメられない。もはや店選びなどどうでもいい。仕事を無事に終えた今日くらいは、好きな機種を思い切り打ってやろう!
そんな破滅思考で、駅前の小さなホールへ飛び込んだ。
かつての名店。
小さなホールと言うと、少しばかり語弊がある。関東圏では誰もが知るチェーン店だが、我が街の駅前店は規模が小さく、パチスロの設置は130台程度。4号機時代はオール設定イベント(※) などで遠方からも客を集める名店だったが、5号機時代に入ってからは客が離れ、今ではすっかり高齢者の社交場となっている。
オール設定イベントとは?
各シマに必ず設定1から6までが投入されるイベントのこと。3台ジマなら2機種合わせて1シマ扱いになるケースもある。12台ジマなら設定1から6までがそれぞれ2台ずつ投入される |
案の定、2階パチスロフロアは閑散としていて、時代遅れのユーロビートだけが虚しく響いていた。それもそのはず、このホールには爆裂ART機がほとんどない。戦国無双が4台あるだけで、マーベルもマジハロもなかった。これでは若い客が離れて当然だ。
ボックスで入っているのはジャグとニューパルくらいで、あとはマイナー機が1・2台ずつ置かれている形である。この「デカいバラエティーコーナー」と化している現状からも「すでに戦うことをヤメた店」だと分かる。プロなら踵を返すところだが、同じく戦う気がないこの日の俺にはピッタリの場所だった。
そして俺のお目当ては、フロアのちょうど中央にあった。
5号機「空手バカ一代」(ゴールドオリンピア)
2007年の1月にデビューしたボーナス+RT機。ゴッドハンドの異名を持つ極真空手の創始者「大山倍達」が主人公の漫画「空手バカ一代」とのタイアップ機だ。ベル・ベル・リプレイの突入リプレイが揃えばRT「百人組手」に突入。通常時からの突入は稀で、ボーナス後のチャンスゾーン(CZ)からの突入がメインとなる。
ボーナスは大別すると空手BIG・ノーマルBIG・チャンスボーナス(CB)・REGの4種類で、各ボーナス後はそれぞれ異なるCZへ移行する。要するにボーナスの種類により、RT期待度が大きく変化するわけだ。 この機種の最大の魅力はRT性能にある。純増こそ約0.5枚/Gと控えめだが、終了条件は①10000G消化or②ボーナス成立の2つのみ。つまり、実質的には次回ボーナスまで継続する無限RTなのである。 |
残念ながら空手バカ一代の出玉率は低い。
各設定の出玉率 | |||
設定 | 出玉率 | ||
1 | 96.6% | ||
2 | 98.5% | ||
3 | 100.9% | ||
4 | 102.3% | ||
5 | 104.1% | ||
6 | 105.7% |
設定6でも105.7%、設定1に至っては96.6%とかなり厳しい。それでもライター仲間にはファンが多かった。理由は言うまでもなく一撃性。RT突入ルートはほぼボーナス経由で、そのRTもボーナス成立を契機に終了する。つまりRTにさえ入れてしまえば、ある程度まとまった出玉が得られるのである。
俺も例に漏れずハマっていたが、本気で立ち回ろうと思ったことはほとんどない。言うまでもなくホール側の扱いが悪いためだ。導入から半年が経ち、設置そのものも激減。その結果、入替に消極的なこの店だけに残った形となっていた。
設置はわずかに2台。すでに18時になろうとしているが、いずれも朝イチ0Gのまま放置されている。どちらに座っても設定はお察しなので、なんとなく右の台へと腰かけた。
さて、今日はいくら負けるだろう。小さく自虐的に笑い、サンドに千円札を投じた。
はじまり。
最初のチャンスは投資2Kで訪れた。リプレイが連続し「牛殺し演出」に発展! この機種は通常リプレイでもボーナス同時当選を期待でき、ボーナス成立後はリプレイ確率がアップする。言うなれば「アクアビーナス」(平和)と同様の流れだ。リプレイが3連もすればボーナス成立後の可能性が高い。主人公の大山倍達が雷電号(牛)を倒せばボーナス確定だ!
しかし、これがまさかのスカ!! 呆然とする俺。しかし、ハズれるのも無理はない。空手バカ一代のボーナス確率は、当時においてもかなり重めの部類だった。
設定別のボーナス合算確率 | |||
設定 | ボーナス合算 | ||
1 | 1/341.2 | ||
2 | 1/324.4 | ||
3 | 1/293.8 | ||
4 | 1/284.9 | ||
5 | 1/274.2 | ||
6 | 1/269.7 |
そう易々と当たってくれる機種ではない。ちなみにリプレイの同時当選期待度も、決して高くはなかった。
通常リプレイ同時当選期待度 | |||
設定 | 同時当選期待度 | ||
1 | 0.87% | ||
2 | 0.94% | ||
3 | 1.03% | ||
4 | 1.10% | ||
5 | 1.15% | ||
6 | 1.14% |
閑散としたホールの中でも、特に不人気の機種なのだ。まず設定は1と見ていい。期待した俺がバカだった。そう肩を落としていたが、そこから追加2Kで1・2枚役(※) から対決演出に発展。対戦相手はエクスキュースナー。この機種において、最も勝利期待度の高い相手である!
※1枚役と2枚役の重複フラグ
牛殺し演出をハズして間もないため不安はあったが、連続演出中にリプレイが2連続し勝利を確信。大山先生の必殺技「虚空空中三段蹴り」も炸裂し、危なげなくこの日はじめてとなるボーナス確定画面へ。
ここで重要となるのがボーナスの種類。それにより獲得枚数とRT期待度が大きく異なる。
各ボーナスの獲得枚数と移行先CZ | |||
ボーナスの種類 | 獲得枚数 | 移行先CZ | |
空手BIG | 約320枚 | 荒行CZ | |
ノーマルBIG | 約200枚 | 修行CZ | |
CB | 約100枚 | 陳修行CZ | |
REG | 約100枚 | 隠れ修行CZ |
各CZの継続ゲーム数とRT期待度 | |||
CZの種類 | 継続ゲーム数 | RT期待度 | |
荒行CZ | 最大5000G | 約50% | |
修行CZ | 最大5000G | 約25% | |
陳修行CZ | 最大3G | 約70% | |
隠れ修行CZ | 1G固定 | 約10% |
実は各CZのRT突入率に設定差があるが、CZの強弱は概ね上記の通り。最上位ボーナスの空手BIGなら、約320枚を獲得できるうえにRT突入も期待できる。また、CBは獲得枚数こそ少ないものの、RT突入率は約70%とかなり高い。つまり、最も恐れるべきはREG成立ということになる。
肝心の初ボーナスは、まずまずと言えるノーマルBIG。消化後に移行する修行CZのRT期待度は約25%と低めだが、それでもどうにかできそうなのが、この台の面白いところ。CZの仕組みは極めて単純だ。
CZ中に突入リプレイが成立すればRT「百人組手」へ移行し、転落リプレイが成立すれば文字通り通常時へ。継続ゲーム数が長い荒行CZと修行CZは、いかに早く突入リプレイを引けるかの勝負だ。
ちなみに修行CZの各リプレイ確率は……
修行CZ中の特殊リプレイ確率 | |||
設定 | 突入リプレイ | 転落リプレイ | |
1 | 1/199.8 | 1/50.0 | |
2 | 1/194.5 | 1/65.0 | |
3 | 1/199.8 | 1/50.0 | |
4 | 1/194.5 | 1/65.0 | |
5 | 1/179.6 | 1/50.0 | |
6 | 1/187.3 | 1/65.0 |
設定1だと仮定すれば、約1/50より早く約1/200を引くとRTに突入するわけだ。なお、陳修行と隠れ修行は継続ゲーム数が極端に短いため、規定ゲーム数消化による終了がほとんど。こちらも3Gと1Gの間に突入リプレイを引けるか否かがカギとなる。
ボーナスを消化し終え修行CZへ。とはいえ、RTは実質「無限RT」だ。こちらも易々とは入ってくれない。あまり期待せず淡々と消化していると、レバーONで液晶に月夜が浮かび上がった。突入リプレイ成立を期待できる代表的な演出で、大山先生が手刀で石を割ればRTに突入する。恐る恐るリール上に拳絵柄(BAR)を狙うと…
難なく中段(無効ライン)に拳絵柄が揃い、液晶で石がパカリ! 一発目のボーナスから早速RTへと突入したのである!
名曲。
こうなると次に目指すべきは大ハマリだが、最初の目標となるのが「百人斬り」。消化中はほぼ毎ゲームで組手が発生し、大山先生が男たちをバッサバッサと倒していく。倒した人数は液晶左上にカウントされ、それが百人に達すると…至福の時間がスタートする。
「チェスト~」
「お次!」
大山先生の力強い声が響く。俺はボーナスが当たらないよう、慎重に一定のペースでレバーを叩き続けた。徐々に迫る百人斬り達成。
――「もう少し、もう少しだ(ハァハァ)」
リプレイ・ベル成立時は高確率で組手が発生するが、稀に発生せず、人数のカウントが進まない。そのノーカウントゲームがもどかしい。
――「98…99………100!!」
RT突入から140Gほどで、いよいよ百人斬りを達成! 遂に待ちに待った『アレ』が始まる!! 静かに始まるギターサウンド。そして徐々に大きくなる男の声。
「ホッ、ハッ、ホッ、ハッ…」
――「キタキタキターッ!!」
「砕け散れば~地獄へ~ひきずりこまれる定め~」
――「くぅぅ~、カッケェ~」
先程、この機種の最大の魅力は一撃性だと記したが、撤回すべきかもしれない。俺が思う1番の魅力はサウンド。この曲名すら分からないRT中の歌付きBGMが、むせ返るほど男臭くてカッコイイのである!! 純増0.5枚/Gなのに、まるで純増12枚/Gのような気分にさせてくれるのだ!
「戦うことしか知らない男の生き様~」
――「くぅ~、アツすぎるぅ~」
鳥肌が立ったままプレイを続けていると、リプレイから組手とは異なる対決に発展! これはつまり…
――「ちょ、いや…早すぎる」
無情にも液晶にはボーナス確定の文字が浮かんだ。
――「まだ歌始まったばっかなのに…」
大山先生は、俺にさらなる試練を与える。液晶に表示されたボーナスはREG! 獲得枚数は約100枚、RT突入率はわずか約10%だ。せっかくアノBGMが聴けたと思ったのに、よりにもよってREGで即終了とは。次のRT突入は一体いつに…
――「ああ!!」
REG後1G目に何気なく左リールを止めると、中段に拳絵柄が停止しているではないか! まさか…いや、待てよ。この停止形ならベル揃いもある。ちなみREG後1Gの隠れ修行は通常画面だ。その名の通り「隠れ」なのである。 なお、RT期待度は約10%と言われているが、これは設定6での話。設定1~4なら、突入リプレイ確率は1/32。これを1Gで引かねばならない。土台無理な話だが…
中段ラインに拳絵柄が揃い、まさかのRT突入!!
――「マジか~~~!!」
この窮地を乗り切った俺は、そこから順調にハマり、出玉を徐々に増やしていった。
3枚を巡る争い。
「遅くなるから晩御飯は先に食べてて」 そうカミさんにメールしたのが19時頃。その後もボーナスとRTのループはほとんど途切れず、出玉は緩やかに2000枚を突破! どのCZからでもRTに入るような状況である。
そして、案の定RT中に閉店を迎えることに。取りきれない形にはなったが、これだけ出れば文句ナシだ! データ表示器のスランプグラフを見る限り、出玉は3000枚近くある。まさか遊び打ちでこんな幸運を拾うことになるとは。よし、肩トン(※) される限界まで回そう。そう思ったのだが――
※店員から肩を叩かれ閉店を知らされること
店員「はい、遊技ヤメてください」
――「あ、でも今リプレイでクレジット落とせないから、リプレイ途切れるまで回していいすか?」
店員「ダメです!」
――「ええ!?」
驚いた。RT中やART中に閉店を迎えた際は「リプレイが途切れてクレジットを落とせるようになるまで回してOK」というのが一般的。しかし、ココではそれも認めないということだろう。ひとこと言いたいところだが、ハウスルールを把握していなかった俺が悪い。ここは折れるしかない。
――「じゃあクレジットの50枚は保証してくれるんですね?」
店員「いいえ、保証は47枚です」
――「え? なんで!?」
店員「クレジット47枚じゃないですか」
――「は? いやいや、ここに3枚BETされてありますよね?」
BETの3枚を指さす俺。しかし店員は真顔で首を横に振った。
店員「それは無効です」
――「はいぃ? なんで?」
店員「それもう抽選終わってるんで」
――「ええ? まだレバー叩いてないのに?」
店員「パチスロはBETした瞬間に抽選ですよ。知らないんですか?」
――「はぁ~???」
店員「店員の僕が言うんだから間違いありません」
――「な…んなバカな!!」
たかが3枚だ。これだけ出ていれば3枚くらい有ろうと無かろうと大差はナイ。しかし――
これはこの大手チェーンの公式見解なのだろうか。だとしたら、なかなか大きな話である。この店舗に限れば1日1~2人程度の犠牲で済むが、チェーン全体で同様の対応をしていれば、ひと月で結構な額になっていく。そこをクリアにしない限り譲りたくはない。
彼が実際どれほどパチスロを理解しているかは分からない。でも、彼は日頃からこの対応をしているのだろう。きっと彼は俺を「パチスロを知らないヤツ」だと決めつけ、誤った持論で論破しようとしているのだ。
ここで俺が屈したら、きっと明日以降も同様の対応が続けられる。この店に集まる老人たちは、きっとなす術なく論破されるだろう。そんなことがあっていいのか――。
――「いやね、正直3枚はどうでもいいです」
店員「では47枚お渡ししますので」
――「いや、申し訳ないけど上の人とお話させてもら…」
すると、我々の様子を見ていたのだろう。幹部社員らしき店員が駆け寄ってきた。
幹部「どうされました?」
――「いや、この方がね」
俺がことの経緯を説明すると…
幹部「お客様の言う通りでございます」
幹部は1つも否定せず素直に聞き入れ、すんなりと50枚を保証してくれた。
幹部「お手間を取らせてすみませんでした」
――「いえ。ただパチスロに詳しいヤツはゴロゴロいます。あまりヘタな対応をすると、○○○○(大手チェーン)の看板に傷がつきますよ」
幹部「おっしゃる通りです」
幹部曰く、普段はBETぶんの3枚もしっかり保証しているそうな。彼がたまたま「BETぶんは保証しない」と思い込んでいただけらしい。このチェーン店が「行ってはいけない店」でないことに、少しだけホッとした。
流したメダルは約2900枚。およそ54000円の大勝ちだったが、少しモヤモヤした気持ちで帰宅することとなった。
客側が「たかが3枚」と捉えるのは構わない。でもホール側が客のメダルを「たかが3枚」と捉えるのは許し難い。ホールにとってはウン万枚・ウン十万枚ある中の3枚でも、客にとっては大切な3枚なのだ。
あれから干支が一周し、我ながら面倒な客だったなと今になって思う。今でも不当にメダルを取られるのは1枚だってイヤだが、だいぶ丸くなった気はしている。それを象徴するような出来事が先日あった。
ホッパーエラーが発生し呼び出しボタンを押すと、研修中の名札を付けた女性店員が対応に来てくれた。重いドアを開けホッパーを引き出し、どうにかメダルの補充を終えリセットボタンを押した。すると、チョロチョロと出て来た払い出しメダルを手に取り、再びホッパーの中に戻したのである! 貰えるハズの数枚が、不当に貰えなかったのだ。
オジサンは、もう何も言わなかったよね。ニッコリ笑っていましたよ。女性にだけ甘いって? そりゃそうでしょう、男ですから。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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