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元・ホール店長カタギリのしくじり店長
2017.03.22
しくじり店長・第40話『ストック飛ばし』
北斗の拳・吉宗・番長の3機種が、土日は全台設定④以上。
そのインパクト絶大な謳い文句は、瞬く間に多くのユーザーの知るところとなり、週末の店内は万枚を夢見るファンの熱気がみなぎっていた。 しかしながらイベントの放出に必要な予算は、それを上回る回収で補うのがパチ屋の必定。 我々は遂に禁断の領域に足を踏み入れ、大きな代償を支払うことになる。
ある日の閉店後、見覚えのある怪しげなカバンを持ってやって来たコンサルのトオヤマ氏。その中身は想像通り、旧型の携帯型ゲーム機のような銀色の機器。かつてサガワ課長が仕入れてきた打ち込み機と寸分違わぬ、いかがわしい物体である。
「え、またアレを使うの……?」
と、目配せしながら声を交わす私とコジマ店長。そんな二人の胸中を見透かしたかのように、不敵に笑うトオヤマさん。
※編注:37話で少し触れましたが、当時はコジマ店長とカタギリ店長のW店長体制。
「コジマくん、カタギリさん、コレは前のヤツと違うからね、……ま、見てよ」
困惑する我々をホールに連れ出した彼は『押忍! 番長』の台の扉を開けると、慣れた手つきで基板に怪しげな機器を接続した。
「この手順は間違えないでね。 あ、コジマくん、ここで設定変更ね」
台湾のヒットマンみたいな表情で、コジマ店長が番長の設定を『1』に打ち替える。
「設定変更後に1ゲーム回した後に、この画面に出た数字が1280ならオッケー。その数字になるまで、何度でも設定変更してね」
1280という数字、それは『押忍!番長』の最大天井ゲーム数である。つまり、この機器は店側が意図的に天井を仕込む代物だった。
「それと、もう一点。 バラエティーコーナーに設置されている台は、すべてストックを消しましょう」
……これぞ、悪名高き『ストック飛ばし』である。内部に貯留されたボーナスストックを閉店後に全て消してしまえば、朝イチからの連チャンは発生しなくなる。だが、スタッフのミスによってストックが消滅した吉宗で客も飛ばした苦い経験を持つ私は、その提案にはどうしても賛同したくはなかった。
しかしながら……
「これで平日はしっかり回収してください、そうしないと土日の営業に支障が出るからね」
真顔でそう言い放つコンサルの指示に、反論できるほどの気骨は無かった。意図的な天井の仕込みと、バラエティーコーナーのストック飛ばし。それが華やかな放出イベントの裏側で行われていた、忘れ難い事実である。
幸か不幸か、『押忍! 番長』には特定役解除が存在するため、店側の仕込みに気付いてクレームを入れるお客様は皆無であった。しかしながらストック飛ばしの弊害は、一目瞭然の天井超えである。稀に発生する苦情に対する店側の言い訳は「静電気による機械トラブル」の一点張り。所詮は機械、故障や誤作動はつきものだ、という言い逃れで対応するのだ。
だが、それで納得しないお客様も当然ながら存在する。それが数少ない常連客のひとり、私と同世代の気さくな兄ちゃん、マコト君だった。
「おいおい店長!! これ絶対ストック飛ばしだろ!!さすがにこれは納得できねーよ!! きちんと説明してくれよ!!」
普段は勝ったら満面の笑顔で、負けても悔し紛れの苦笑いで話しかけてくる陽気な彼が、天井を突き抜けたデータカウンタを指さしながら、物凄い剣幕で絶叫している。
「……い、いや、こういう機械のトラブルはごく稀に起こることですから」
「……店長、そういうマニュアル対応はもういいよ、ホントの事を言えないのもわかるし。ただ、俺はこの店が好きだから毎日、こうやって負けても負けても来てるんだよ。ホントは設定なんか使ってないのわかるよ、週末イベントで出している分、他の台で設定なんか使えないでしょ。ただ、俺は人として聞きたいよ。この状況、アンタ本当に満足?」
マコト君は全部、お見通しだった。 今までは感情を押し殺して淡々と嘘を並べてきた私も、彼の言葉にだけは胸が痛んだ。私は事務所で待機していたトオヤマさんに一部始終を報告したが、当然ながら彼は首を横に振るだけ。
「……お客様、ストックが無くなっているのはデータを見ても明らかですね、その件についてはウチの機械の整備不良です、申し訳ありません。ただ、他のお客様にもこれまで同様のケースで補償したこともありませんので、これ以上の対応は出来ません」
「……わかった、だったら俺はもう、この店には来ない。でも最後に、アンタの上の人間と話しをさせてほしい。 客のことをどう思っているのか、どういう気持ちで客がサンドに金を入れているのか、それだけでも聞いて欲しいんだわ」
「上の者と話しても、結論は変わりませんが、それでも大丈夫ですか?」
「それでいいよ。 俺もこの店が好きだったし、最後に話ができればそれで気も済むから」
再び私がトオヤマさんに話をすると、何と彼は溜息をつきながら渋い表情で自分の財布から万札を数枚取り出すと、封筒に入れて私に差し出してきたのである。
「……これで、納得させてください。俺から話すことはないので。それと、出禁の約束はお願いします」
マコト君を連れて店外に出ると、駐輪場の隅で封筒を彼に手渡した。
「これは、私の上司からです。 それと申し訳ないですが、お客様はもうウチには……」
「わかってる。 大丈夫。 今までありがとう。 店長にも嫌なことさせて、悪かったね。」
……そんな顔をしないでよ、マコト君。
勝ち誇った笑顔でも浮かべながら、唾を吐いて立ち去ってくれよ。それなのに君は大切な友達との突然の別れに困惑したような瞳で、立ち尽くしているだけなんて。本当のことを全て打ち明けて、謝りたいのはこっちだよ、マコト君……。
私はその時に見た彼の眼差しを、生涯、忘れることはないだろう。 裏切られたことに対する怒りよりも、大切な居場所を失った悲しみの方が大きいと、今にもそう叫びだしそうな喉仏も、憔悴しきった輪郭も、燃え尽きたタバコのフィルターを挟んだ指先も。
こんなことでいちいち弱気になる私は、きっとこの仕事には向いていないのだろう。私には毒を食らう勇気はあっても、皿まで飲み込む覚悟が足らないのだから。
事務所に戻り、憮然とした面持ちのトオヤマさんに頭を下げつつ事後報告を終え、ふと、そんなことを思う。
「一度でも人を騙したら、死ぬまで騙し続けなければ、相手も自分も不幸になるのだ」
いつかどこかで誰かから、そんな言葉を聞かされたような気がする。騙したことに気付かれないように、そしてまた、自分自身も騙し続けなければならない。
その意味は私の心に、冷たく重い影を縁取らせたのである。
カタギリ・今週の1枚
先日の『アラフォー連れ打ち』の賞品として、念願のダンナくん湯呑みをゲットすることができました。
撮影時に冷蔵庫にお茶が無かったので、コーラでご容赦くださいませ。
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- 元・店長カタギリ
- 代表作:しくじり店長
シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、 雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。 そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。 タイトルは「しくじり店長」。 パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、 海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。
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コメントありがとうございます!
それ言い切っちゃうの、凄いなあ……
でも、セリフ自体はとてつもなく格好いいなあ。
今度、オッサンばかりの飲み会で話のネタに使わせて頂きます(笑)。
客にストック飛ばしを指摘され「他人のためたストックなどあてにせず自分の力で勝負して下さい」と切り返した伝説のやり取りでした(笑)
客にストック飛ばしを指摘され「他人のためたストックなどあてにせず自分の力で勝負して下さい」と切り返した伝説のやり取りでした(笑)
利益を上げること、それがコンサルの仕事なので仕方ないといえばそれまでなんですけどね。
そこでしっかりと「NO」が言えなかったことは、今になって後悔していますね……
吉宗はゴトの被害が酷かったですからね、全台設定①でも利益が出なくて止むなくストック飛ばしという店も多かったと聞きます。
ウチの場合は北斗や吉宗で飛ばすことはありませんでしたが、他の店でもいろんなクレームやトラブルは多かったでしょうね。
『ハーネス飛ばし』という名称は初めて聞きましたが、ストックを飛ばす際に基板のハーネスをブッこ抜くからでしょうかねぇ。
うまいこと言うなあw
湯呑みのクオリティが高くてビックリしています!
カタギリモデルの老眼鏡とか作ってくれないかしらねw
もうちょっと生々しい話もいろいろあるんですけどね、書けるレベルだとこれぐらいですね。
最初は罪悪感で胸が締め付けられるのですが、だんだんと麻痺して普通の作業になってましたからね。
それが一番おそろしいな、と。
ジャンケンで勝って湯呑みをゲットした瞬間に編集長から、
「空気、読まねぇなぁ~!」
と言われたのですが、
それこそまさに私らしいな、と思いましたね……
パチンコ業界に肩までドップリと浸かった今になって思うのは、
この仕事は綺麗事だけでは食っていけないということなんです。
長く続けている人は、だいたいみんなストレスでメチャメチャ太るか、
極端に痩せるかのどちらかですねぇ。