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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2022.07.19
激闘の予感!?~Persona4 The SLOT~①
収録場所は駅からスグのホールだった。駅の出口からホール裏の集合場所まで1分もかからないが、まるで水の中を歩いてきたかのように靴下まで濡れていた。これからが本番だというのに、すでに大負けした気分である。
日の出前から降り始めた雨は、まだまだ止む気配がない。叩きつけるような強い雨は久しぶりだった。いや、編集部へ出掛ける機会が減ったぶん、気にならなくなっただけかもしれない。
集合場所でスタッフと雑談を交えつつ1日の流れを確認していると、集合時間ぴったりに懐かしい声が聞こえた。
Mさん「おはよー! 雨ヤバい、最悪なんだけど」
――「おはようございます! ご無沙汰です」
Mさん「久しぶりだねラッシー。元気してた?」
――「まあ、ボチボチっスね」
口では最悪などと言いながらも、Mさんは昔と変わらぬ笑顔だった。というか、Mさんはニュートラルな状態でもにこやかなのである。そこがスタッフやファンに支持されているのだろう。
MさんはCS番組に引っ張りだこの人気女性ライターだ。年齢はおそらく同世代だが、記憶が正しくばライター歴は俺より2年ほど長い。女性ではあるが、俺からすれば頼れる先輩だ。
Mさん「ラッシーなに打つの?」
――「いやいや、なんで対戦相手にいきなり機種教えんスか!」
Mさん「別にいいでしょ! じゃあ、アタシなに打てばいいと思う?」
――「いや、知りませんよ! なんで対戦相手に訊くんスかw」
Mさん「とにかく荒い機種が打ちたいの! 一発で勝負決めるような」
――「えぇ……そんな無茶しちゃいます?」
Mさん「当たり前でしょ! 今日は勝負していい日だから」
――「まあ、たしかにそうかもしれませんが」
この番組は、数あるパチスロ番組の中でも〝少し特殊な番組〟だった。その特殊ルールが、のちにあんなドラマを巻き起こすとは露ほども思っていなかった――。
特殊ルールと出演者心理。
入場抽選後に屋根のある駐輪場でオープニング撮影を終えると、スグに開店時間を迎えた。Mさんは俺より少し先に入場。男顔負けの豪快な性格だ。おそらく宣言通り一撃性の高い機種を取りにいったハズ。
俺はいかにも設定が入りそうな看板機種には目もくれず、真っすぐバラエティーコーナーへ向かった。勝負を捨てたと思われても仕方ないが、これには色々と考えがあった。
まずはじめに、この番組は今から9年ほど前の番組だということをご理解いただきたい。現在では時勢的にというべきか、コンプライアンス的に実現不可能な内容となっている。
番組のルール
①1対1の差枚数勝負
②機種縛りはナシ(台移動も自由)
③勝者は敗者の出玉をすべて貰える
④敗者には上限つきの負け補償アリ
最大の特徴は③の「勝者総取り」ルール。いくらプラス収支を叩き出そうと、対人戦で敗れれば出玉をすべて勝者に奪われてしまう。
このようなルールから、出演者には以下のような心理が働く。「いっぱい出しても、相手に負けたらもったいない」。そりゃそうだろう。たとえ差枚数が+5,000枚でも、相手が自分を少しでも上回れば5,000枚を丸ごと取られてしまうのだ。
必然、勝負しないという戦略も浮かんでくる。たとえばノーマルタイプや一撃性の低い機種を打ち、ワンチャン勝てれば御の字。負けても〝取られて悔しくない出玉にとどめる〟という思考が働くのである。
出演者のみんなが守りに入れば面白くないし、出玉を没収され大量投資だけが残るのもさすがに理不尽がすぎる。そんなわけで、敗者には一定額までの補償が用意された。
要するに「ある程度まで補償するから、なるべく画になる機種を打て」というわけだ。負け補償は基本的に使った額をそのまま補償するが、際限なくとはいかないため、割と低めに上限が設けられている。さすがに無策で爆裂マシンに特攻できるほどの余裕は無い。
余談になるが負け補償アリの収録は極めて珍しく、思い返す限りこの番組くらいしかない。近年は俺の周りから出玉没収などという理不尽な番組がなくなったため、自然と「負け補償」というワードも死語になった。
打つのは一撃性の高いAT機かART機に限られる。とはいえ、ひたすら一撃を狙うのも芸がない。できることなら〝俺にしかできない機種選び〟を見せたい。そんな思いから脇目もふらずバラエティーコーナーへ向かった。
異色のマシン。
案の定、バラエティーコーナーの壁際に3台並んだ〝黄色い猫耳〟に先客はいなかった。
5号機「Persona4 The SLOT」(ニューギン)
2013年の初秋に登場したART機。ニューギン伝統の通称:猫耳筐体に、レモンのごとく発色がいい黄色のボディーという強烈な見た目も大きな特徴の1つ。いわゆるリアルボーナスは非搭載で、基本的にはARTのみで出玉を増やすタイプだ。
通称は「ペルソナ4」、もしくは「P4」。
直撃ARTもあるが、初当たりは主に擬似ボーナス(以下、ボーナスと略)となる。初当たり契機は多数あり、メインとなるのは①規定ゲーム数消化、②レア役による抽選、③CZ経由の3ルート。ちなみに連チャンゾーン(天国モードの天井)は201Gとなかなか長い。
特徴的なのは②のレア役による抽選だ。通常時のレア役成立時は、状態の低確・高確に応じ確変・初当たり抽選が行われる。無論、初当たりが当選すればボーナス or ARTだが、確変が当選した場合も実質的には初当たりが約束される。
確変移行後は、文字通り初当たり当選率が大幅アップ。レア役だけでなくハズレでも高確率で初当たりとなるため、実質的には確変移行≒初当たりと捉えて構わない。
ボーナスは純増2.2枚/Gのゲーム数管理。継続ゲーム数は30~100Gとなっているが、基本的には30Gと思っていい。この継続ゲーム数抽選システムにも一工夫あるのだが、長くなるので割愛させていただこう。
とにかくボーナス開始時と消化中にART抽選が行われ、ボーナス後半のバトル演出に勝利すればART確定という点さえ押さえておけばOK。無論、雑に言えばボーナスの継続ゲーム数が長いほどART当選を期待できる。
本機最大の特徴であるART性能については、本編中にておいおい紹介していこう。
攻略誌「H」において、俺はペルソナ4の担当ライターだった。ペルソナ4は、いわゆるメジャー機種ではないため、担当ライターでなければ打っていたかも怪しい。しかし、これがなかなかクセのある隠れた名機だったのである!
勝手な使命感。
ペルソナ4の小冊子に書かれたキャッチコピーは「これが、パチスロ!?」。一見すると笑っちゃうようなコピーだが、実際にプレイしてみると、そのコピーの秀逸さに驚かされる。
機種コンセプトは「パチスロにパチンコのスタイルを融合させた〝パチスタ〟第一弾」。いかにもパチンコメーカーが考えそうなコンセプトで、生粋のパチスロ派である俺からすればイヤな予感しかしなかった。
しかし、これが悔しいかな素晴らしいデキだったのである!
先述した確変システムに加え、パチンコライクな「セグ判別機能」も搭載。前兆ステージ移行時などでボタンを長押しすると、液晶右下にあるセグが点灯する。そのパターンによって本前兆期待度を推し測れるのである。
パチンコをほとんど打たない俺でも、一時期はセグを見ての潜伏確変狙いを実践していた。きっと同じようなスロッターも多いことだろう。その世代にはグッとくる演出の1つだった。
また、ペルソナ4はパチスロには珍しく通常時も常にBGMが流れているマシンだった。そこもまたパチンコっぽいポイントの1つ。正直に言えば常にBGMが流れている機種は嫌いだが、ペルソナ4はそのBGMがあまりにカッコイイのである!
このBGMは原作ゲームの楽曲なのだが、とてつもなく中毒性が高く、「BGMを聴くためにだけにペルソナ4を打っている」と豪語するプレイヤーもいるほどだった。かく言う俺もBGMにドハマリし、PSVITA本体とソフトを購入してしまったほどである。
もちろんパチスロとしての魅力も十分に備えている。
ART「P4ラッシュ」は純増2.2枚/Gの継続率管理で、1セットは30G以上。特筆すべきは継続率で、80% or 93%と極めて高い。加えてゲーム数上乗せもあり、上乗せ特化ゾーンも多数備えている。
つまり、ひと度ARTにさえブチ込んでしまえばどうにかなる気がするマシンなのである!!
そう、この〝メジャーではないマシンの魅力を伝えること〟こそ俺の仕事! 現在においてもその気概を持っているつもりだが、当時の俺はより強くそう思っていた。
必ずしもとは言わないが、CS番組の第一線で活躍する有名ライター・演者は、メジャー機種ばかりを打ちがちな傾向がある。これはいわゆるマイナー機に接する機会が少ないためだ。
有名ライターともなれば、大手メーカーの案件を受ける機会も多い。そうなると導入前からメジャー機種に触れるため、自然と詳しくなったメジャー機種ばかりを打ちがちになる。
そして日々の来店や収録でも、設置台数が多く高設定も入りやすいメジャー機種ばかりを打ちがちになる。特に歴史に残るような名機がある時期は、どの番組を見ても似たような機種しか打たれていない。
よほどの物好きでない限り、わざわざ収録で打つ機会が少ないマイナー機を勉強してまで打つ有名ライターはいない。ちなみに近年はマイナー機を嬉々として打ち倒す超一流演者も増えてきたが、彼らの登場はまだ少し先の話。
俺は第一線で活躍するライター・演者に比べ、番組出演の機会が圧倒的に少ない。リーグ戦番組を降りたあとは、もはやレアキャラ扱いだ。
〝だからこそ〟だ!
その少ない機会を効果的に使い、マイナー機の魅力を世に広める必要がある!! ペルソナ4をバラエティーコーナーの隅で死なせはしない!!
小さな違和感。
――「などと魅力を語らせていただきましたが、簡単に出る機種ではございません」
カメラに向かって保険をかけた。そう、俺はこの機種に惚れちゃいるが、残念ながらずっとずっと〝片思い〟なのである。ART継続率は最低でも80%なのに、実戦上では不思議と平均の5連にちっとも届かない!!
――「なぜかART継続しないし、上乗せもてんでしない。だけど面白いんスよね~」
目の端が苦笑するカメラマンとディレクターを捉えた。『今回の見せ場はMさんがメインか』と諦めたような顔だった。ちなみにMさんは別のフロアに向かったらしい。案の定、多台数設置のメジャー機種を狙いにいったのだろう。
――「じゃあ、打ちながら軽く説明していきまーす」
設定変更後はモードがリセットされ、伴い規定ゲーム数もリセットされる。一応、朝イチの201Gまではややチャンスだ。
設定変更時_天国移行率 | ||
---|---|---|
設定 | 天国Aへ | 天国Bへ |
1 | 11.5% | 1.0% |
2 | ||
3 | ||
4 | 19.0% | |
5 | ||
6 | 24.0% |
勝算がまるでナイわけではない。ペルソナ4の設置台数は、小さな店舗なら1~2台が当たり前。しかし、この日の実戦店は3台並び。ギリギリではあるものの、シマのテイを成している。
加えて今日はイベント日だ。1台くらい高設定が入っていても……、いや、4くらいは入っていてほしい! これが〝望んで買った3台〟であれば、入れてきてもおかしくないハズ!?
が、期待に反し201Gをスルー。こうなるとペルソナ4は怖い。最大天井は1784Gだ。さすがに最大まで連れていかれた経験はナイが、仮に連れていかれれば、言うまでもなく負け補償の上限など軽く突破してしまう。それも撮れ高ナシで……だ。
――「クッ…あとはレア役かCZに期待しましょう」
201G抜けで台移動も考えたが、なにせゾーンは201Gもある。やみくもにローラー作戦というわけにもいかない。少々怖くはあるものの、そのまま続行することに。すると……
――「おん? めっちゃメーター上がるな」
通常画面の下部にある絆メーターは、一部を除くレア役成立時にアップ抽選が行われ、アップするほどレア役成立時のCZ当選率が高くなる。ちなみにこのアップ抽選にもランクが存在するが、長くなるので割愛させていただこう。
そしてしばらくすると、この日初となるCZが当選!
CZの継続ゲーム数は10G or 20G or 無限の3段階で、もちろん無限であれば初当たり確定。消化中はベル入賞とレア役成立でカードを獲得し、最終的なカードの枚数に応じ初当たり(ボーナス・ART)抽選が行われる。
――「まあ、基本は10G継続です」
具体的なCZ成功率は明らかになっていないが、10G継続で獲得できるカードはせいぜい1~2枚。1~2枚でのクリアは容易ではない。が……
――「継続した! 20Gです」
朝イチ1発目のCZから20G継続とは幸先がいい! が、20G継続しても集めたカードは2枚だけで、当然の如く初当たりはナシ。肩を落として打ち続けると、ほどなく2度目のCZが当選。すると……
――「ああ! また20G継続だ!!」
なんと2度目のCZも20G継続! 導入以来しつこく打ち続けているが、こんな経験は1度も……
――「いや、待てよ。まさか……?」
CZゲーム数振り分け | ||
---|---|---|
設定 | 10G | 20G |
1 | 89.0% | 10.0% |
2 | 86.5% | 12.5% |
3 | 89.0% | 10.0% |
4 | 83.4% | 15.6% |
5 | 86.5% | 12.5% |
6 | 83.4% | 15.6% |
※無限は全設定共通で1.0%
CZゲーム数の設定差は小さい。たしかに小さいが、設定1・3はたったの10%だ。それを朝イチから2連続で引くだろうか!? いずれにせよ、自分にとっては初めての経験である。
――「なんか……いつもと違う気がする」
この時は、まだほんの小さな違和感だった。
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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