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インタビュー・ウィズ・スロッター(稀にパチンカー)

インタビュー・ウィズ・スロッター(稀にパチンカー)

2019.10.17

まるで町工場。5人で作った運命の『天龍』マルホン営業本部長『バイヤー田中』の物語

あしの あしの   インタビュー・ウィズ・スロッター(稀にパチンカー)

▲左がマルホン工業営業本部長のバイヤー田中さん

チワッスあしのっす! さぁ今回のターゲットは出ましたドン! 最近色々な動画メディアで目にする謎の方、『バイヤー田中』さんです! 

エプロン姿でマルホンの台を紹介するあの優しそうなおじさん……というとピンと来る方も多いのではないでしょうか。 名前は知ってるけど、バイヤー田中さんって何者……? 演者さん? ライター? と疑問に思っている方も、もしかしたらいらっしゃるかも知れませんね。なんと氏はパチンコメーカーの老舗「マルホン工業」の営業本部長さんなのです。

しかも、よくアイドルが警察のPRで一日署長! とかやってるみたいな肩書だけの役職じゃなくてガチ。正真正銘のモノホンの営業部長さんです。つまり氏が出演する動画は「マルホンの営業本部長がエプロン姿で動画に出て自分のとこの新台とかを紹介してる」という、なんとも前代未聞の作りになってるんですね。

こりゃすげえ! インタビューせねば……! というわけでインタビューウィズスロッター、42人目はマルホン工業の営業本部長『バイヤー田中』さんにスポットをあててみましょう。
 

バイヤー田中さん基本データ
☆48歳・A型
☆マルホン工業株式会社営業本部長
☆吊りバンドの小学生時代
☆ポートボールの選抜出場経験あり
☆青春はラグビーと共に
☆佐野量子好き


「はじめまして田中さん、あしのと申します!」

「はじめまして。バイヤー田中です。インタビュー記事いつも拝見しております」

「わお! 恐縮です……! ありがとうございます! で、今日はですね、田中さんに色々と人生についてお聞きしたいと思いまして、ここマルホンさんの社屋にずうずうしくも来ちゃってるわけですけども……。実は自分、メーカーの応接室に潜入するのコレが初めてでして……ちょっと緊張というか……」

「あ、そうなんですか。ウチは全然大丈夫ですよ。緊張しなくて。よかったらタバコどうぞ」

「え、吸っていいんですか」

「どうぞどうぞ。もう砕けた感じで大丈夫です。マルホンテイストで」

「マルホンテイスト……!」

「はい。もうこの応接室の事をね。僕は『喫茶マルホン』って呼んでるんですけども。お客さんとかにも『ちょっとこの辺(上野村)でお茶飲みたいとか、一服したいとかがあったら言ってくださいね。喫茶マルホンにどうぞ』って。僕いっつも言ってるんです」

「うわ、すっごいフランク」

「フランクですよ。マルホンテイストです」

「なるほど。マルホンテイスト……!」

「はい。あとですねぇ、僕ちょっと心配なのが、果たして僕の人生に興味がある人が居るのかなぁって。今朝もインタビューについてカミさんに相談したくらいで。誰が読むんだろう……みたいな」

「いやー大丈夫ですそこは。だって営業本部長がエプロン姿で新台紹介してるとかそれだけで謎なんで、気になってる人も多いと思うんですよね」

「まあ、営業本部長って言っても名前だけですよ。他にやる人が居ないだけで……」

「またまたァ。なんだかんだマルホンさんは老舗ですからねぇ……。そういえばマルホンさんって社員数ってどのくらいいらっしゃるんですか?」

「今ですか? 5人です」

「……え」

「はい。5人です」

「……あッ! マルホン! そうだ。マルホンさん……! うわ、完全に失念してました。そうだ、マルホンさんじゃないかここ……!」


──そう。 だいたいの方がご存知の話だと思うけど、マルホン工業株式会社さんは2015年に民事再生手続きの開始決定を受けている。要するに一回倒産しかかった過去があるのだ。当時はネット上でもかなり話題になっていたので鮮明に覚えているのだけど、迂闊すぎる事にオイラはこの時、その事実をすっぽり忘れていた。

隣で写真撮影に勤しむ編集長が困惑した顔で口を開く。

(え、おい。あしの。マジで忘れてたの?)
(はい。完全に失念してました)
(おいおい……。ある種、今日はそれを聞きにきた的なアレだぞ)
(あっぶねぇ……。早めに気づいて良かった……)
(次、同じことやったら……な?)  

マルホン工業株式会社・営業本部長「バイヤー田中」さんのインタビューは、こうして幕を開けた──……。 
 


 

ポートボールの選抜選手。

「……ゴホン。では気を取り直しまして、田中さん、お生まれはどちらですか?」

「生まれは台東区です。鶯谷の辺りですね」

「あ、そうなんですね。めっちゃ近い。子供の頃はどんな子でした?」

「子供の頃……。僕は今もこんな体型なんですけど、子供の頃はもっとこんなで──」

「あ、体格良かったんですねぇ。なんか子供の頃、体デカくて困った事とかありますか?」

「あります。台東区の小学校って制服なんですよ。でも僕の体に合うサイズの既製品が無かったんですね。だから僕だけ他の子と微妙に違う、なんか似た服を制服にして……で、みんなベルトなのに僕だけ吊りバンドでこう……」

「吊りバンド。それってサスペンダー? ですか」

「いやもう、そんなサスペンダーなんてオシャレなやつじゃないですよ、もう吊りバンドですねアレは」

「どんなんだろう(笑) 当時は普段どんな遊びをされてました?」

「まあ普通にドロケイとか、あと駄菓子屋に行ったり──。当時はゲームとか無かったんで、外で遊んで……。あと球技ですね。僕は特に野球が大好きでした。ひたすらやってましたよ」

「おお、野球。ポジションはどこでしょう」

「そりゃもう、キャッチャーに決まってるじゃないですかこんな太ってるのに。吊りバンドですよ?」

「(笑)」

「で、お陰様で野球肘っていうね……。こういう肘になって」

「野球肘……。これ、なんでこんな……くの字? というか逆くの字? みたいになってるんでしょう」

「──ボール投げすぎると軟骨がねぇ、何か無くなるんですよ。これが酷くなると高校球児とかも手術とかすることになるヤツで……」

「へぇ! 初めて間近で見ました……」

「まあこうなるくらいハマってましたねぇ。野球ばっかり……。鶯谷の、今はホテルになってるんですけど、当時はまだ空き地だった所に忍び込んではみんなで野球やって──。懐かしいですねぇ」

「なるほどなぁ……。野球はその後もずっとやってた感じですか?」

「いえ、途中からはご存知か分からないですけどポートボールというのにハマって──」

「わあ! ポートボール! 懐かしい!」 
 

▲こんなやつです。ポートボール。

「あ、良かった。通じました(笑) 僕ポートボールの大会で選抜に選ばれたこともありますよ」

「うお、ポートボールに選抜とかあるんだ……」

「はい、ありました。台東区の小学校が参加する大会ですけどね」

「じゃあもう、スポーツ少年だったんですねぇ。ちなみに勉強はどうでした?」

「勉強もやってました。うち実は母親が公文を開いてて──」

「おぉ。実家が公文」

「はい。だから僕も母親を手伝って、採点係みたいなのをやったりしてましたねぇ」

「おお、すごい。それはアレっすね。なんか自動的に賢くなっていきそうですねぇ」

「流石にそんな事は無かったですけどね(笑) ああ、勉強といえば……。僕、鶯谷に住んでたんで、よく亡くなったお爺ちゃんから『上野の山を一周してこい!』って言われてたんですね。それって幼稚園・小学校・中学・高校でぐるっと上野近辺の名門校を一周して、ゴールが東大っていう……つまり『勉強して東大に入れ』って意味なんですけども」

「へぇ! 何かオシャレな言い回しですねぇ!」

「はい。でも『上野の山を一周してこい!』って意味が分かんないじゃないですか。だからほんとに一周回るのかなぁって思ってて。『わかった!』って返事して。なんなら『僕上野の山を一周する!』って宣言して、よく親戚から笑われてましたね。あれ、何で笑うの? みたいな」

「あら可愛い。素直な子供だったんですねぇ」

「そう。そして太ってるという。こうやって吊りバンドして──」

「すごい可愛いじゃないですか。海外のドラマに出てきそう。めっちゃドーナツ食ってるポジションで」

「(笑)」

「しかしバイヤー田中さんは、何か健康的というか……なんだろう。アド兄・どくまむしさんラインと申しますか、いい意味で毒気がない少年時代ですね。人によっては幼稚園時代くらいからバキバキに屈折してるんで……。早い人は小学生でパチンコにハマったり──」

「あっ。それあります」

「おッ!?」

「小学校のころかなぁ。うちの父親はそんなにパチンコを打つ人じゃなかったんですけど、ホントにたまにね、パチンコ連れて行って貰った記憶があります。その頃からねぇ、割と好きだったんですよね」

「あ、好きだったんですね!」

「はい。なんか好きで……。夏休みの自由研究とかで工作とかあるじゃないですか。あれで僕パチンコ作ってたような記憶はありますね」

「ほぇぇ。やっぱり、この業界の方って何かしらパチンコと接点あるんだなぁ……。ちなみに当時好きだった台って覚えてます? これマルホンの台だったりしたら超ドラマティックなんですけども」

「絶ッ対無いですねぇ!」

「断言……!」

「もしそうだったとしても違うって言いたいですねぇ!」

「何かそういう『ちょっといい話』的なのはマルホンテイストとは……」

「そう。違うんですよね。そういうんじゃないんですよ。だから断言したいですね。絶対無いです」

「(笑) あと何か、幼少期で『これはちょっと人とは違うだろうな』みたいなエピソードとかありますか?」

「んー……。そうですね。うちのお爺ちゃんが魚釣りが大好きで、よく連れて行ってもらってたんですよ。僕の友達とかも一緒に。土日なんですけど、前日の夜中の一時とか二時から出発して──……。どこに行ったかもよく覚えてないんですけど、すごい田舎の方ですよね」

「あー……。子供の時分の夜中のお出かけはテンション上がりますよねぇ」

「はい。すごい楽しくて。ワクワクしました……。ちゃんと整備された漁場みたいな所じゃなくて、川で釣るんですよ。だからトイレが無いじゃないですか。で、だいたい僕お腹痛くなるんですよね。しょうがないから毎回茂みでうんちしてましたねぇ」

「唐突に下ネタ……!」

「釣りは楽しかったんですけど、外でうんちするのが嫌で。最終的にあんまり行きたく無くなる……みたいな。でも行きたいから行くんですよ。そしたらやっぱりお腹が痛くなって、そして茂みに隠れて、自然の中でうんちをさせてもらう……。これは他にはなかなか無いエピソードだと思います」

「ありがとうございます(笑)」
 


 

中高大一貫! 男子校でのラグビーとの出会い。

「では田中さん、中学はどうでした?」

「小学校の頃ポートボールやってたんで、中学に入ったらバスケやろうって。そう思ってたんですね。でもやっぱり体型がこうなんで、みんなの前で『バスケ部入りたいです』っていうと笑われると思ったんですよ。だから部活の勧誘会みたいなのがあったときに敢えてバスケ部の所に行かなかったんですね。あとからこっそり行こうと思って。そうすると『おいキミ良い体してるじゃない!』みたいな感じで先輩から誘われたんですね。それがラグビー部だったんですよ」

「おおラグビー。今(2019年)大人気の」

「そう。ラグビーですよ。ただラグビーって当時はヤカンでこうやって水かけてみたいな、すごいキツいイメージがあって。ちょっとヤダなぁって。そしたらその先輩が『ウチのラグビー部は負けた事がないんだよ!』って。あ、負けたことがないんだ。名門なんだと思って。それが決め手になって入ったんですよね。そしたらなんてことはない、ラグビー部はまだ出来たばっかで試合したことがなかったっていう──」

「お、落語っぽい! 作りましたね?」

「いやこれホントの事なんですよ。ホントなんです。で、結局ラグビー部に入ることになって、その魅力の虜になって、ずっとラグビーばっかりやってましたねぇ……」

「へぇ……。中学でラグビー部って初めて聞きました。あるんですねぇ」

「東京は少ないですね。大阪は結構あるみたいです」

「ですよねぇ。珍しいなぁ。怪我とかされました?」

「しましたねぇ。だからこんな顔になって……」

「(笑) なんか当時ラクビーやってる時の印象深いエピソードみたいなのありますか?」

「えーと……。合宿ですかね。全国のラグビー部のメッカみたいな所でやる合宿で、僕も楽しみにしてたんですけど、行った初日にまずいきなり試合があるんですよね。そこで僕なんか知らないけど当たったか何かで目がボコォッて腫れて。こんなんなって。あとの日程全部見学っていう」

「(笑)」

「あとは……ああそうだ、僕当時のあだ名が『ぶーにゃん』だったんですよ。アニメの『オヨネコぶーにゃん』から来てるんですけど、ラグビー部でもそういう風に呼ばれてて……。で、ラグビーやってる先輩とか結構頭がアレな人とかもいて、一回真剣に『ねぇ、ぶーにゃんはさぁ、ぶーが名字? にゃんが名字?』って聞かれた事ありますね。中国人かと思われてて」

「お腹イタイ(笑)」

「その先輩はトライの手前の5メートルラインの所で思いっきり『トラーイ!』っていいながら倒れ込んでノットリリースザボールの反則取られてましたねぇ。……まあ、そんな感じで。とりあえず、ラグビーに限った話じゃないんですけど、ウチの学校は男子校だったんですね。だから独特のね。絆とか上下関係、横のつながりみたいなのがあるんですよ。そういうのは学ばせて貰いましたねぇ。貴重な経験でした」

「へぇ。男子校かぁ……。男子校あるあるみたいな話あります?」

「ありますよ。まず昼食を学校に持ってくるパン屋さんが普通に年配の方だったんですけど、周りに女性が居なさすぎてどんどんキレイに見えてくるんですよね。これはもう全国の男子校共通のあるあるだと思います」

「うわ、ありそう……!」

「あとコッチね。コッチの人もいました。これもあるあるです」

「あー、センシティブなアレか。なんて書けばいいんだろうなコレ。ええと、別のチームの人ですね」

「そう。いました」

「どんな感じだったんですか?」

「んーとねぇ……。ある時僕が腕時計をどっかに置き忘れてたことがあるんですけど、その子が取っといてくれたんですね。で僕は下の名前をヒサヤっていうんですけど、喋り方がもう『ヒサヤァァン、腕時計忘れてたヨォォン』って、そして僕の手に腕時計を渡したあと、爪でね。僕の手のひらを、こうやってソワァァって。やりやがったんですよ。あ、コイツ間違いねぇなと。ソワァァァってやるんだもん。ビックリしてホント」

「その彼? は見た目はどうだったんですか?」

「ヒゲが濃かったです」

「(笑)」

「あとはもう思い出と言えば、ひたすらラグビーですよねぇ。僕の行ってた学校は中高一貫だったんですけど、ずっとラグビー……」

「ちなみに当時、好きな人とかは居なかったんですか?」

「もう、佐野量子」

「(笑)」

「なんで笑うの(笑)」

「いやなんかポイなーって」

「そうかなぁ(笑) 佐野量子はねぇ、ラグビー部のキャプテンも好きだったんですよ。僕はサブキャプテンみたいな感じなんですけど、ある時二人でイベントに参加して……。なんかマルバツゲームみたいなので最後まで勝ち残ったらなんと佐野量子とソフトボールが出来るという」

「激アツじゃないですか……!」

「2問目で間違えましたけどね」

「ンー残念……。ラグビーはその後もずっとやられてたんですか?」

「はい。大学行って社会人になってからも……。なんならマルホンに入ってからもやってましたよ。クラブチームに所属して」

「……ガチ勢!」

「未だにやりたいですもんねラグビー」

「今はもうやってらっしゃらないんですね」

「はい。ある時に膝の靭帯をやっちゃって……、スーツの下にギブスしてたんですけど、やっぱり仕事に支障がでるんですよね。しかも怪我したなんて会社に言えないんで。ダマでギブスですよ。流石に仕事に支障が出るようになっちゃうとプレイヤーとしては厳しいかなぁと思って、それで一線は退きました」

「トータルで何年くらいやってたんですか? ラグビー」

「それこそ12歳から40歳くらいまでなんで、長いですよね」

「うわ……すごいな……。じゃ高校の時とかって、プロ目指したりとか考えてたり……」

「プロの選手じゃなくてねぇ、指導員を目指してました」

「あ、指導員。なるほど」

「はい。だから大学も指導員の資格が取れる体育大学を受験したんですけど、そういう所って入試に体力測定があるんですよね。懸垂だとかね。僕もそれ受けたんですけど、100m走の時に隣にジョイナーみたいな格好してる男がいて」

「あー、あの片ッぽだけタイツでもう片方はむき出しみたいな」

「そう! うわ、ジョイナーの格好してる男がいる……ああコレはガチのやつだとおもって。でヨーイドンで走るじゃないですか。もう『ドン』って鳴った瞬間テュンッて10mくらい先にいるんですよ」

「(笑)」

「あー、体育大学は無理だコレと。『ドン』で10m進むような人が行く大学じゃ、体力で勝てないなと思って。指導員にはなりたかったんですけど、無理だわと。だからそっちは諦めて、そのままエスカレーターに乗って進学しました」

「おお……中高大、一貫」

「はい。中高大一貫ですね。エスカレーターです」

「大学はどうでした?」

「大学はねぇ、芝浦工業大学ってという所なんですけど、彼氏にしたくない大学No1だったんですよ」

「(笑)」

「そりゃそうだろうなぁと思いながら過ごしてましたね。そういう大学でした」

「あ、今編集長から入った最新の情報によりますと、今年の『彼氏にしたくない大学』のランキングでは芝浦工業大学は3位だそうです」

「お! 下がりましたね! 良かった!」

「(笑)」

「で、大学の思い出もひたすらラグビーですねぇ。飲み会もラグビー関連ばっかりで……。ずっとラグビー。ひたすら──」

「青春はラグビーと共に、みたいな感じでしょうか」

「そうですね。ホントそれです」
 


 

ラガーマン、スーパー営業マンへ。

「大学卒業されてからは、すぐマルホンですか?」

「いや、僕転職組なんですよ。最初は広告業界に行きました」

「おー。広告……!」

「やっぱりねぇ、そういうのは元々好きなんでしょうね。販促とか。楽しかったですよ」

「最初はラグビーの指導員さんになりたいというのがあったじゃないですか。そこから大学での生活を経て、夢の変遷というか、目標の移り変わりみたいなのがあったと思うんですけど、その辺とかどうですか?」

「やっぱりそれなりに葛藤みたいなのはありましたよ。一時期は『手に職を付けたほうが良いんだろうか』とか思って寿司職人を目指そうとしたり」

「葛藤のブレがなかなかエグいですね」

「迷走してましたね。でまあ結局広告業界に入って──」

「どうでした、社会人生活は」

「毎週のように合コンしてましたねぇ」

「(笑)」

「あと、パチンコもこの辺で打ち始めました」

「お。いよいよパチンコ……。どんなの打ってました?」

「えー……。何だろうなぁ。ホント覚えてねぇなぁ……。あれかな。西陣の『モンロー』とか。あれおっぱい出てくるんで覚えてます。あとは三共の『演歌道』とか……。でもアレ大学の頃かなぁ……。とりあえずそういう羽根物を打ってましたね」
 

▲まさかのおっぱい


「じゃあもう、広告業界時代は合コンとパチンコ……」

「あとラグビーですね」

「なるほど。……広告は何年くらいいらっしゃったんですか?」

「7~8年いましたかねぇ。それから業務用のねぇ──洗濯機のメーカーに行ったんですよ。要はコインランドリーみたいなでっかいヤツ。それを、老人ホームに入れる。企画営業っていうのなんですけど」

「あ、ここで営業を始めるんですね」

「そうですね。まあ広告のときも営業はやってたんですけども、本格的にやり始めたのはここからかなぁ……。その間もパチンコはずっと打ってて。それこそウチの『セクシーショット』とか。あれパンチラリーチとかあるんですけど、打ってましたねぇ」

「パンチラリーチ……。ちょっと調べていいですか? あ。あった。うわホントだ。テーマ『盗撮』だって」
 

▲よもやのパンチラ


「そうなんですよ。盗撮小僧がパンチラを撮影したら大当たりとかね。今完全に問題になるやつです。高校生のスカートがぴらっとめくれてパンチラすると当たりなんですよ。そんなんあります?」

「無いですね(笑)」

「で、洗濯機売りながらパチンコ打って──。2~3年くらいやってたのかなぁ……。ずっと打ってますし、一回パチンコ業界で働いてみるのもいいのかなと思って転職を決めて、当時ネットじゃなくて求人紙ですよね。デューダ。あれを見て──。僕はどうせ営業するなら作ってる所がやるのが一番良いと思ってて。洗濯機メーカーもそうですよね。自分たちで作って自分たちで売る。なんなら販促もやるみたいな。そういうところを3社・4社くらい受けて、そのうち一つがマルホンだったんですよ」

「おー、いよいよマルホン工業! 来ましたね。マルホンさんに入社する事にした決め手みたいなのはありますか?」

「ちょうど東京支社の立ち上げの時だったんですよね。立ち上げということはレールが敷かれてない……自分がやっただけできる。レールが敷かれてるのが嫌だったんですよね。だったら、もうマルホン。そうやって決めました」

「入ったばっかりの頃って、どんな事をされてました?」

「入社して一発目の台が『E3コレクション』でした。大当たり中に六本木心中が流れるヤツだったんですよね。まだ入ったばっかりなんで直接営業には関わってないんですけど、そのあと『高田純次(CR純次)』が出て、とか。そんな時期ですね。僕は前の仕事も営業でしたし自信があったんで、担当は東京とかどこでも良かったんですよ。でも蓋を開けてみると最初は栃木だたんですね。なんか凄い悔しくて。ああもうだったら北関東から旋風を起こしてやるぞと」

「旋風……。起こせました?」

「起こせました。北関東は商社さんもあんまり足繁く通わないんですよ。でも僕は毎日毎日車でバンバン通って──。そしたらホントに可愛がって貰えて数字が見えてきて。そしたら今度会社から茨城もやれって言われて栃木・茨城両方を見ることになって。今でこそ北関東道って繋がってますけど、当時はまだ繋がってないんで、栃木から茨城に移動するのは山道ですよ。もう旅行です。毎日ねぇ。やってましたねぇ。で、ようやく両県の数字が出来た頃に今度は『東京が薄いから来てくれ』って──」

「凱旋だ……!」

「はい。凱旋ですよ。きたなと。東京支社っていったらここですよ。上野の。地元じゃないですか。ホールも分かってるし、あそこのホールに行きたいとかここのホールがどうだとか全部書き出して回って──。大手のホールとかも全部ひっくり返していったんですよ。ダ○ナムさんとかも。ちょうど隣にいる高田さんもまさしく当時はダ○ナムの方で。

彼とはすぐ仲良くなったからどこで打ってるかとか知ってる訳ですよ。ああ、この時間はたぶんあそこにいるなぁと思ったらホールを覗いて。あ、いたいた。ウイッス! って隣に座って『次コレ出るから』って。ホールで営業ですよ」

「(笑)」

高田氏(いやもう! ホントですからね。七時以降ですよ。プライベートで打ってるのにエエッて。ウイッスじゃないですよ! てかそれここで見しちゃダメなやつじゃんって)

「高田さんはねぇ、僕にAKBを教えてくれた人なんですよ。で、AKBってねぇ、凄いんですよ。我々が思ってるより凄い。例えばホールの店長さんとかとお話してて娘さんの話題とかになると、高確率でその娘さんもAKB好きなんですよね。へぇ、誰が好きなんですかァ……。大島優子。なるほどってそれを記憶しといて。で高田さんに『高田さん、大島優子の写真ないすか』って」

高田氏(ああ、あった! それありましたねぇ)

「そう。高田さんCD一杯買ってるからめちゃくちゃ写真持ってるんですよ。で、それ貰って──。次に店長さんと会う時に……ほらこれ……大島優子です。娘さんにどうぞ。その代わり、僕からって言わないでくださいね。お父さんからのプレゼントって言ってくださいね……って。そしたらねぇ、新台買ってくれるんですよ」

「ちょっと(笑)」

「やっぱねぇ、家族を巻き込むと営業は強いんですよ。はいこれ僕じゃなくてお父さんからね、って渡すと『いいのォ?』なんて。そういう事をね。僕は彼から学びましたね」

「へぇ……! 凄いなぁ……。じゃあ折角なんで高田さん。当時のバイヤー田中さんはどうでした?」

高田氏(僕は今はもうマルホンの人間なんで言いますけど、大手のホールからするとマルホンはそんなに重要なメーカーじゃないんですよ。上野に来てもよっぽどじゃないと足を運んだりしない……。でも田中さんは単純にプレゼンが面白いんで、それを聞くため来てましたからね。だから凄い営業マンだなぁと思ってましたよ。ダ○ナムに居る時から)
 

▲左:高田さん。現在はマルホンで一緒に働く仲間になってます。


「で、僕個人の成績はさておき会社的に業績が悪い時があったんですよね。ある時それで『自宅待機』って言われた時があったんですよ。会社来なくていいって。携帯だけいつでも繋がるようにしろって。その代わり給料4掛けねって」

「……おお。なんか雲行きが」

「そうなんですよ。ただその時は2週間くらいで終わりましたけどね」

「前兆演出だ……」

「その時はねぇ、全然何も思わなくて。ああ、そういうこともあるんだなぁくらいの。当時はイチ営業マンですからね。その後に役職を頂いて、それから『ソルジャー』ですよね。これも話せる範囲でお話しちゃうと、保通協は通ってるんですけど色々あって販売を自粛する事になってて。さてどうするか……という所で2015年の3月ですよ」

「うわ出た。これ聞きたいような聞きたくないような……」

「僕当時は東京支店長だったんですけど、ある日『名古屋の本社に全員集合』って通達がきて──……」
 

マルホン民事再生という衝撃。そして運命の台「天龍」

「みんなね。東京支店の社員も『あー、これはまた自宅待機かなぁ』って。そう思ってたんですね。で朝からみんなで行って。そしたらこんな大きな封筒渡されて。開けたら『解雇通達書』って」

「うげぇ。きつい──」

「はい。だからこれねぇ、ほんとに書いて欲しいんですけど、僕を含めて全員寝耳に水なんですよ。民事再生のことは知らなかったんです。だからねぇ、戦争みたいになってるんですよ。他の拠点で怒ってる社員もいて。役員捕まえて怒鳴ってたり。泣いてる人もいたりね。東京組はもう、言ったってしょうがないから、とりあえず帰ろうって。

で帰るときに、他から耳に入ったら気分が悪いだろうし、せめて僕のお客さんだけでもと思って、電話繋がるお客さんには全部電話して事情を話して──。そしたら帰りの新幹線ではもう、椅子に座れないくらい電話が鳴り止まなくて──」

「はい──」

「民事再生っていったらもう僕はその時はこのまま潰れるんだなとしか思って無くて。ただ、中古の部品であるとかサポートで、お客さんに迷惑をかけるわけにはいかないから、しばらくは無給でもなんでもしっかり働かないといけないなと思って。ただショックも大きかったんでボンヤリですよ。どうなるか分からないけど、ただ迷惑だけはかけちゃいけないって。そういう風に思ってて。

そんな中で、電話をくれたお客さんの中には『困った事があったら何でも言ってよ』とか『人手が足りなかったウチの若いヤツをバイトでもなんでもいいから使っていいから』って言ってくれたりね。優しいんですよみんな」

「うわ、めっちゃいい話だ……」

「はい。優しさに触れましたね。ホントにありがたくて……。そしてしばらくして会社から呼び出しがあって。民事再生といっても倒産するわけじゃないから。ここから復活を目指さないといけないと。それでお前の力が必要だから残ってくれないかということで打診があって。僕は『僕を残すなら若いヤツを一人でも二人でもいいから残してくれ』って言ったんですけど、会社からはどうしてもお前の力が必要だって。それで残ることにして──。

あとは誰か一人だけ残すって言われた時に、だったらもう高田を残してくれと。それでこの二人は残ることになったんですね」

「うわぁ、なんか凄い話ですねぇ。当たり前ですけどキツかったですか?」

「そりゃキツかったですよ。ニコニコ超会議かな。あれで日工組のブースに『ソルジャー』を置いたわけですよ。生きてるアピールですよね。それで僕と高田で並んで立ってたらお客さんから『あれ! マルホン潰れたんじゃなかったの!』って。いやー生きてます! って。1日で1,000回くらい言いました」

「(笑)」

「あの時はキツかったですよ……。もう、すっぱり辞めてラーメン屋になろうかとか、色々思いました。でもねぇ、どっかのタイミングで『失うものはなんにもないな』って逆に吹っ切れて。段々燃えてきましたね。新台を売るのもお金をかけたPRが出来ないから、あーじゃあもう『ジャパネットたかた』をモチーフにして自分で売ろうって。それで『パチネット田中』っていうのを始めて。そこからこの『バイヤー田中』っていうキャラが出来たんですけども──」

「うわ、手弁当でPRするためのキャラだったんだ……!」

「そうですよ。今でもそうです。マルホンテイストです。お金も使えないし、社員も5人しか居ないし──。で、開発もね。そういう状況だったら自分たちで面白いと思うのをやらないと意味ないなと思って。それで5人で納得行くまで話し合ってコンセプトから何から決めて。そうして作ったらね、やっぱり面白いんですよ。みんなでここでテストで打ってみた時に『ああもう、これで売れなかったらもうダメだから覚悟しよう』って。そう思えたのが『天龍』なんですよ」

「きた、天龍──」

「正直ねぇ、不安も大きかったんですよ。ホントにこれでダメならもうないなって覚悟してた所だったんで……。発表会やって。翌日ですよ。出社してきたらねぇ……。うわ。って。え、FAXってこんなに動くんだ……! ってびっくりするくらい注文が来てて。嬉しかったですよ。5人しかいないんでね。その5人でもう、無言で握手して──……」

「おお……。ドラマティック……!」

「キツイ時にほんとに良くしてくれた所とか、我慢してくれた所とか。いろんな関係者がいるんですよ。これでやっと、『マルホンと付き合ってて良かった』って思ってもらえるなって。やっと恩返しができるなって。やっと、可愛がって貰えるメーカーになれるなって。それが嬉しくてねぇ……」

吊りズボンでポートボールやってた小学生時代。ラグビーに目覚めし中学生時代。パン屋のおばちゃんに見とれたり、広告業界で頑張ったり。パチンコを打ったり、マルホンの復活に携わったり。 バイヤー田中さんのその後の活躍はご存知の通り、だ!
 

▲たった5人で作った運命の天龍


 

質問ラッシュと総括!

「では、尺も丁度良いので……最後に田中さん、質問ラッシュよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ!」

「コレは皆さんにお聞きしてるんですけども、巨乳と貧乳、どっちが好きですか?」

「あ、僕案外貧乳派かも……。あんまりこだわりはないですけどね」

「へぇ! 見た目巨乳好きっぽいんですけどね!」

「え、どんな見た目ですかそれ(笑)」

「では次、メーカーさんに聞くものアレなんですけども、あの世に一台持っていくなら何の機種がいいですか?」

「うわぁ……。やだなぁこの質問……。うーん、天龍……かなぁ」

「ですよねぇやっぱり」

「まぁ……打たない……ですけどね」

「なんでですか(笑)」

「いや僕有名なんですよ。自社の製品をホールで打たない男っていう。何かヤじゃないですか。何で僕が売った機械に僕が投資して売上を立てないといけないのっていう。ある意味で本末転倒じゃないですか。だから打たない。あの世でも打ちません。でも天龍を選びます。いやちょっと待って下さいね……やっぱり『ジューシーハニー2』にします」

「わかりました(笑) では次、これからメーカーに入りたい! と思ってる後輩? というか新入社員ですね。彼らにアドバイスとかありますか?」

「パチンコのことを大好きになってください。それだけですね」

「ありがとうございます。では次です。バイヤー田中さんのファンに一言お願いします」

「まずファンが居ないんですけども、もし居たとして……。声を掛けてくれるのは本当に嬉しいです。感謝ですね。いつもありがとうございます!」

「しゃ! 次で最後です。生まれ変わっても、パチンコ・パチスロ打ちますか?」

「もちろん。打ちます!」

「以上です、ありがとうございます!」

「今日はありがとうございます。お疲れさまでした……!」
 


ほい、以上がマルホン工業株式会社の営業本部長、バイヤー田中さんのインタビューでした。

やっぱりねぇ、実際に面と向かってインタビューしてみて思いましたけど、話が単純に面白かったです。なんだろう。話術というか。営業の人! って感じがしました。元じゃない現役のメーカーさんへのインタビューはこれが初めてなんですけども、いつもとちょっと毛色が違って新鮮でした!

さて人生設定。今回はもう機種は『天龍』だと思います。

しかもちょっと癖が強めの釘の方がいいかな。なんてったってラガーマンだし。どんな困難も、ゴリゴリのスクラムで正面突破するだけの体力と勇気がある方だと思いました。 というわけでバイヤー田中さんの人生設定は『キツめの天龍』。これにてノーサイド!

ちなみにこの秋には『天龍』の遺伝子を受け継ぐインフィニティシリーズの最新作、『P鳳凰∞』がリリースされます。当たり前ですけどバイヤー田中さんと本文中に登場した高田さんもガッツリ関わっていらっしゃる台なので、興味がある方は是非どうぞ。

というわけで今回のインタビューウィズスロッターはここまで。また次回お会いしましょう。チャオ!

 

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あしの
投稿日:2019/10/21
遊び人さん
イエア!  アットホームな会社さんで俺も応援したくなりました。鳳凰打ちます!
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あしの
投稿日:2019/10/21
師匠2さん
そうだ、このインタビューの直前、師匠にソルジャーとファインプレーの事ききましたね!
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あしの
投稿日:2019/10/21
*Luna*さん
そのとおり! パワフルな方でした。ラガーマンだし!イエア!
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遊び人
投稿日:2019/10/18
マルホンさん!!
民事再生の話を聞いた時は陰ながら心配しておりました。
天龍と沖7は楽しませていただきましたが、マルホンさんと言えばやはりドット!
5人では難しいかもしれませんが、自分はファンキードクターの復活を心待ちにしております。
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ししょー
投稿日:2019/10/17
おおマルホン!
ソルジャーとかファインプレーとか打ったなあ。
今5人しかいないってのは衝撃!
頑張ってください
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*Luna*
投稿日:2019/10/17
めっちゃ面白かったー!
民事再生って当事者の人は辛いだろうし、会社に残るのも大変だったと思うけど、インタビューから受けた印象だと、その状況を跳ね除けるパワーを持ってる方なんだなーって思った♪

あしの
代表作:インタビュー・ウィズ・スロッター(稀にパチンカー)

あしのマスクの中の人。インタビューウィズスロッター連載中。元『セブンラッシュ』『ニコナナ』『ギャンブルジャーナル』ライター。今は『ナナテイ』『ななプレス』でも書いてます。

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