歴代人気投稿
- パチセブントップ
- コミュニティ
- パチ7自由帳トップ|ブログコミュニティ
- コラム(ブログ)詳細
光の射す方へ 一
光の射す方へ 一
-
さん
- 投稿日:2016/07/16 12:03
一、 畑屋の場合
彼にはその二時間が、一瞬のように思えた。
過ぎ去ったというより時間はむしろ停滞していた。百二十分の間に起こった出来事が漫画のコマのように場面ごとに切り取られて記憶に張り付いていた。時の流れを感じない、奇妙な感覚だけが残った。
脳が麻痺している、と彼はようやく両手を降ろして声には出さず呟いた。
畑屋は平日のパチンコ屋にいた。地方都市の駅前にある、古くも新しくもない店だった。正午を回ったばかりで、客は老人と営業回りを抜け出してきたであろうサラリーマンしか見当たらない。小奇麗なポロシャツを着た四十代の畑屋はその中で異質な存在だった。妻と子供を連れて休日のショッピングモールにでもいたほうがよっぽど似合うと、彼自身も知っていた。
だがこの場所は少しばかり浮いただけの彼など意にも介さない。畑屋はそのこともよくわかっていて、店に入ったあとは周りを一切気にせず居ることができた。
その彼にとって、最後とも言える審判が下された。
ようやく借りることのできた、最後の金が無くなった。
何ゲーム回した?最高で何枚出た?どんな展開があった?どうやって全部のメダルを飲まれた?
忘れたわけじゃない。だが目の前にある機械を触った実感は消え失せていた。二時間の間に焦燥と期待が数秒ごとに駆け巡って、最後の50枚が無くなったとき、すべての感情は失われていた。
夢中で回している間は麻痺して滞っていた思考が急速に動き始めた。まず最初に浮かんだのは、これ以上金を手に入れる当てがあるか?ということ。友人、家族、頭の中で知人の顔を順番にさらった。だがもう誰かから借りるのは無理だということは彼には考える前からわかっていた。収入のない男に、消費者金融が今以上貸してくれるはずもない。
生活費に回すべき金をすべて使った後悔は不思議となかった。ただ、もっと続きを打ちたかった。
金の問題じゃないんだ、と彼は自分に言い聞かせた。その後すぐに、勝てるに越したことはないと思い直した。彼も勿論、このまま打ったとして必ず勝てると信じているわけではない。とは言え、可能性があるなら縋りたかった。
しばらく諦めがつかず、店の中を放浪していた。打つ金もないのに、わかったような顔をしてデータを確認して回った。午後三時を過ぎた頃、彼はようやく理解した。もうここにいても打つことはできないのだと。
今から家に帰れば、ちょうど小学生の息子が学校から帰ってくる頃だ。妻もパートが休みで家にいる。罪悪感はない。妻と会えば平気な顔をして言うのだろう。親に金を借りることはできなかったし、仕事も見つからなかったと。
いかにも名残惜しそうに、畑屋は店を後にした。彼と入れ違いで、若い女が足早に中へと入って行った。特に興味は持たない。平日の昼間からこんな場所にいて哀れなことだと、自分を棚に上げて思っただけだ。彼はスーツを着た男たちが行き交う駅の改札に消えていった。
その女がすれ違ったあと振り返って、彼の姿が見えなくなるまで目で追っていたことには、気づきもしなかった。
続く
6
さんの
共有する
コメントを送る
パチ7自由帳月間賞│特集記事
パチ7自由帳ランキング
-
9 2
-
5 6
-
4 2
-
3 2
-
2 0
-
2 2
-
1 0
-
1 1
-
1 2
-
0 0
このコラムへのコメント(6 件)
ありがとうございます(*^-^*)
ありがとうございます。最終的にはタイトル通りの予定なので安心してください(笑)
面白い…けど、こういうの読むと辛い…でも読んでしまいます。
そんな内容でした。
表現がリアルで素敵です。
続き待ってます。
コメントありがとうございますm(_ _)m
頑張って続き書きます!