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元店長カタギリのしくじり機種~歴代パチンコパチスロ事件簿~
2023.12.12
クソ台じゃないよ! ちょっとしくじっただけ! 元ホール店長が語る「キングアロー(パル工業)」のしくじり物語。
元・店長カタギリ 元店長カタギリのしくじり機種~歴代パチンコパチスロ事件簿~
時は4号機時代の1996年、初春。ヤングな若者たちは互いの目押し力を競い合うかの如く、無我夢中で左リールに青7を狙い続けていました。彼らが一心不乱にブン回していたのは、前年にホールデビューした『クランキーコンドル』。アバウトに打てば小役の取りこぼしが頻発する独特のリール制御と図柄配列をひっさげてデビューしたコンドルさん。その正体は成立小役を完全奪取とリプレイハズシを駆使すれば、出玉率が大幅アップする技術介入度激高マシン。中景品や小景品をかき集めなくとも小銭稼ぎが出来る夢のようなパチスロです、そりゃヤングメン達も飛びつきますわ。
しかしながら当時22歳、指にささくれ、若者のはしくれ、性格ひねくれ、ホールに金くれ? もうヤメてくれ! などとラッパー気分で彼らをディスっていた私はコンドル非設置店、つまり目押し自慢の若者達が誰も立ち寄らない独自の空間でひっそりと左リールにチェリー付きの赤7図柄を狙い続ける日々を過ごしておりました。
当時の私を夢中にさせていたのは、今は亡きパル工業が世に送り出した名機『ビガー』。マイルドに表現すると非ノーマル機であるビガーさん最大の魅力は、小役のひとつに過ぎないチェリーの連続入賞がビッグボーナスの前兆となる独自のゲーム性。
数ゲーム、時に10ゲーム以上も続くチェリーとハズレの連打、その先に待つのはビッグボーナスの喜びか、ガセって終わる悲しみか。コンドルの青7目押しを『勝てる上に楽しい』ものとするならばビガーの赤7目押しは『ひたすら楽しむ』ためだけの打ち方でしたが、私にとっては上段青7テンパイを超える魅力があったのです。
前置きがフロントミッションセカンドのローディング時間のように長くなりましたが、そんな名機を生み出したパル工業は同年、メーカー自らによる不正機への関与が発覚し解散の憂き目に遭います。「ああ、もうパル工業から新台は出ないってことか」と、当時の私は開店前の行列で、あるいはホールに向かう道中の電車内で悲しみに浸っていたことを時折ふと思い出すのです。とはいえ、それはせいぜい数秒。スイッチ版のフロントミッションセカンドのロード時間ぐらいの短さです。
★今回のしくじり機種は『キングアロー(パル工業)』
▲キングアロー(パル工業)
ホールデビューは1995年。パル工業が消滅してしまう前年に発表され、まさにその発端となる原因が発覚した機種であります。機種名をダイレクトに和訳すると『王様の矢』で良いのでしょうか? なんというか、景気よく連チャンしてくれそうなネーミングですよね。ま、結果的に放った矢はブーメランのように戻ってきて自社にブッ刺さってジ・エンドとなりましたけど……。
最大のしくじりポイント:言い逃れできない物的証拠。ICチップ、見つかる
パル工業は1994年から翌年にかけて、立て続けに新台をリリースいたします。最初に登場したのが機種名に「チャンス来い!」という意味を含んだ『C51』で、以降は前述の『ビガー』、さらに『V10(ブイテン)』、『パワーゴリラ』、『パワーボム』、そして今回ご紹介する『キングアロー』の計6機種です。いずれ劣らぬ射幸心を煽るネーミングですよね。剛力彩芽に匹敵する名前のインパクトです。
さて、これら6機種は前述の『ビガー』を除いては、いずれも基本的には小役前兆を介さずボーナスが成立し、即連~100ゲーム以内のボーナス連打を繰り返す『状態モノ』であったのが大きな特徴でした。稀にリプレイの連続がボーナスの前兆となる場合もありましたが、必ずしもボーナス成立時に発生する訳でもなく、かつあからさまなリプ連の後にもボーナス非成立といったケースもあったため、あたかも高齢のマジシャンの演目を見るような気分で、いつもいろいろな意味でハラハラさせられたのです。
その『リプレイの偏り』の原因は、筐体側とドア側にあるそれぞれの基板を中継するハーネスケーブルの中にコッソリと仕込まれたICチップ付きのミニ基板。マニアックに説明すると2000年代のAT機のゴトで良く見かけたタイプの先駆け、一般の方にわかりやすく説明すると、藁で包まれた納豆の中に酢漬けイカが1枚だけ入っていた、みたいな感じです。
よっちゃんイカ…… じゃなかった、ICチップが拾ってくるボーナスの乱数はリプレイの乱数付近に存在したため『結果的にボーナス直前にリプレイが連続してしまった』というカラクリだったようですね。いまさら他界したマジシャンのマジックのネタを種明かししたところでほとんど興味は湧かないと思いますが……。
ま、そんなこんなでハーネスからICチップという動かぬ証拠がホールから発見され、捜査したところ工場からも同じ部品が見つかったため残念、パル工業さんはジ・エンド。不正基板ではなく取り外し可能なパーツが出て来たところに「ヤバそうになったら部品を取れば証拠は出なくてバレませんから」みたいな裏話があったのかも知れませんな。
★元店長カタギリとキングアロー
本機と初めて対峙したのは、とある郊外の駅前店舗。記憶に誤りが無ければ新台入替の初日の昼過ぎだったはずです。片シマにズラリと一列設置されたピッカピカの新台の稼働率は7割程度。どうせ打てないだろうと考えていた私は、いささか拍子抜けしたものの、大好きなビガーの後継機ならば打っておかなければ、という妙な使命感を抱きつつ、カドから2台目の空き台に座り遊技を開始いたしました。
しかしながら最新台のシマにしては出玉はイマイチ。この手の爆裂機種、かつ新台入替初日であれば頭上にドル箱を8箱ぐらい積み上げた強面のお兄様(当時のイメージ)が何名かいらっしゃってもおかしくないのですが、数人がせいぜい1~2箱ほど持っているだけで、新装開店の活気に満ちた営業とは程遠いものでした。
さらに言うと、台の上に設置されているのは当時よく見かけた『店員呼び出しボタンだけ付いた』ランプ。そう、当日の大当り回数はもちろんボーナス終了から何ゲーム回された台なのかサッパリわからないのです。大量のメダルを吐き出してヤメられたのか、どえらい大ハマリ真っ最中なのか、はたまた可も無く不可も無い台なのか。空き台になった経緯のわからないまま座るのが当たり前でした。
鬼が出るか、蛇が出るか。
結論から言うと私の台は入店時と同レベルの拍子抜け、大ハマリもしなければ怒涛の連チャンにも遭遇しないノーマル機の中間設定のような展開でした。一方で私の左隣に座っていたお兄さんの台の挙動はサッパリで、単発ボーナスを何度か引き当てた後にフラリと姿を消してしまいました。 ところが、その空き台に近寄るや否や、おもむろに台の扉を開くスーツ姿の中年男性。当時は新装開店初日にメーカーの営業マンが立ち会うのが当然だった時代ですので、私も即座に「ああ、メーカーの人がメンテナンスか何かで開けたのね」程度にしか考えませんでしたし、実際その男性の背中に隠れてよく見えなかったものの、台の中で何やらゴソゴソと触っている様子が伺えました。
今になって思うと、この一連の行動は「ハーネスに隠された仕込みパーツの調整」だったのでしょうね。しばらく空席となっていたカド台に座ったお兄さんは僅かな投資でビッグボーナスを引き当てると、私はもちろんのこと、周囲の台でも見受けられなかった怒涛の連チャンモードへと突入。瞬く間に大量のメダルを吐き出し続けるマシンへと変貌したキングアローさん、そしてシマ端で腕組みしながらその光景を眺めていたスーツ姿の中年男性の満足気な表情は、今も忘れることができません。
……ま、結局のところ「私は何故、あの時にメダルを流してでも台移動しなかったのか」と後悔しているお話なのでした。
★まとめ~未来へと繋がれたパル工業の遺産~
状態モノと呼ばれたイリーガルマシンを世に送り出していたパル工業の行ったことは、決して許されるべきでは無く、美談として語るのも良くないのですが、それでも書かせていただきます。
ビガーにおけるチェリー連チャン、つまり『ボーナス成立前の前兆演出』は後のパチスロ業界に多大なる影響を及ぼしました。
リプ連バージョンを代表とする裏モノだけにとどまらず、後のストック機やAT機でもドットや液晶画面上でボーナス放出やAT発動前に『前兆』演出を伴います。それら全ての先駆けとなったのが、パチスロに液晶はおろかドットさえ搭載されていない時代にパル工業が生み出した『小役の連続』によりボーナスへの期待を煽る前兆演出。大当りを期待するユーザーをより楽しませるには何ができるのか、そして怒涛の連チャンを体感させるにはどうすべきなのか。その結果として辿り着いたのが『ハーネスに隠されたチップ』だったのでしょうね。
ユーザーとして気持ちはわかるし有難いですけど、うん、やっぱりやっちゃダメです。
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- 元・店長カタギリ
- 代表作:しくじり店長
シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、 雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。 そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。 タイトルは「しくじり店長」。 パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、 海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。
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