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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2023.02.28
ビギナーズラック~SLOT魔法少女まどか☆マギカ~【後編】
前回のあらすじ
導入以来1年半にわたり避けつづけてきた「SLOT魔法少女まどか☆マギカ」だが、攻略誌の誌面実戦にて遂に初打ちを迎えることとなったラッシー。しかし朝イチから投資が止まらず、苦手意識をさらに強める結果になりつつあった。そして総投資額を数えたくなくなった頃、いよいよ〝穢れ〟がMAXまで貯まり――
前編(①)はこちら
▲5号機「SLOT魔法少女まどか☆マギカ」
確定画面にはエピソードボーナス確定の白7揃いが表示されている。高望みはしない。1,500枚から2,000枚くらい返ってくればそれでいい。
編集Y「いいスか? 肝心なのは揃えたあとですからね」
そう言いながら、スマホを構える編集Y。俺はコクコクと小さく頷き、慎重に白7を狙った。
――「いくぞ!? せ~の……」
第3停止で中段に美しく白7が並び、すぐさま停止ボタンから指を離した。
ぶっ壊れ。
「テテテ~テ~、テテテ~テ~」
台からゆったりとしたBGMが流れはじめた。液晶の映像は主人公〝まどか〟の足元からはじまり、そこからゆっくり顔に向けてパンアップしていく。けたたましく鳴る効果音はないし、興奮を掻き立てたり、祝福するようなド派手なBGMでもない。
『あ、終わった』
初打ちゆえ何のエピソードか皆目見当もつかないが、こんなゆるやかな始まりかたでアツいわけがない。もう17年ほどパチスロを打っているのだ。たとえ初見の機種でも、その演出やBGMから良いか悪いかくらいは瞬時に分かる。
俺は敗北を悟り、苦笑いを浮かべ編集Yのほうを向いた。せめて嗤ってくれないか。この時代に乗り遅れ、超人気機種に拒絶された哀れな男を……
――「……ん?」
編集Yの様子がおかしい。ブツブツと何かを呟いているようだが、店内BGMにかき消されよく聞き取れない。そして手をガタガタと震わせながら、しきりにカメラのシャッターを切り続けている。
心配になるほど酒を飲むYのことだ、そろそろガソリンが切れたのであろう。
――「おい、しっかりしろて。なにエピだ?」
編集Y「…んな…ある……ない…ズルい」
辛うじて聞き取れた〝ズルい〟という言葉。
――「は? ズルいって何? なにエピ?」
編集Y「……かよ、なんで…」
編集Yは、まるで何かに取り憑かれたようにシャッターを切り続けている。液晶画面では大きな杖のようなモノを持った〝まどか〟が、魔法少女と思しき少女たちの元を巡り、穢れを浄化していくような映像が続いている。
――「だ~か~ら~、なにエピなんだってんだよ?」
編集Y「……カミかよ。そうだ……きっと」
声が小さくて聞き取れない。カミとは何だ?
――「は? なんて?」
編集Y「あなたは神ですか?」
――「ちょ、こわいこわいこわい」
編集Y「まどエピです。まどかエピソードですよ!」
――「へっ???」
思わず液晶を指さした。おそらく目は真ん丸になっていたハズだ。
――「これが………まどエピ?」
ドン引き。
んなバカなことがあるか! まどエピを引けば上位特化ゾーン「アルティメットバトル」確定と聞いている。平均上乗せについては諸説あるが、+200Gくらいとかなんとか。そんなプレミアが、そう易々と当たってくれるわけがない。
――「なあ、キミの間違いじゃ」
編集Y「ちょっと黙って!!」
――「え? ええっ………」
俺が主役の誌面企画だ。なのにYのスマホのレンズはまるで俺に向いておらず、液晶画面を向いたっきり。誌面のハイライトで使う写真なんて、一か所に1~2点くらいだ。そんなに撮っても使うはずないのだが、Yは気でも触れたかのようにシャッターを切り続けている。
俺は完全に引いてしまった。
編集Yの豹変ぶりに対してだ。
これが本当に〝まどエピ〟であれば、もちろん踊りだしたいほど嬉しい。一切見せ場がなかったページが一気に華やかになるからだ。しかし、喜びを味わう余裕もない。俺は大人しくYが正気を取り戻すのを待つことにした。
およそ1分半後――
やっとリールが回転をはじめ、俺はプレイに戻った。
編集Y「いや~、感動したっス! マジ神っス!!」
――「感動? いや俺、キミに引いてんだけど」
Yのほうを向かず、真っすぐ台のほうを見ながら言った。
編集Y「す、すみません! つい気が動転して」
――「キミ、めっちゃ怖かったんだけど?」
編集Y「ごめんなさい。穢れからの〝まどエピ〟を生で見たの初めてだったもんで」
――「へー、そんなレアなんだ」
編集Y「めちゃくちゃレアっスよ! それは……それは……」
編集Yは興奮を抑えている風でもなく、少し落ち込んでいるように言った。俺は少しばかり彼の情緒が心配になった。
嫉妬。
この頃はたしかな情報がなかったが、のちに広まった情報によると……
穢れMAX時のボーナス振り分け | |
---|---|
ボーナス種別 | 振り分け率 |
さやか・杏子・マミ エピソード合算 |
92.2% |
ほむら エピソード |
1.2% |
まどか エピソード |
0.4% |
裏ボーナス | 6.3% |
編集Y「これは……嫉妬です」
――「嫉妬www? ハッキリ言ったな」
Yの口から思いがけない言葉が飛び出し、ついつい笑ってしまった。
編集Y「僕、この1年くらいずっと〝まどか〟打ってるんです」
――「うん知ってる。飽きるくらい聞いてるから」
編集Y「その僕が1度も経験してないんですよ? 穢れからの〝まどエピ〟を」
――「はあ……なるほどなぁ」
編集Yは、あまりパチスロが上手ではない。いや、立ち回る知識は十分すぎるほどあるし、目押しの技術に限って言えば俺なんかよりずっと上手い。というか、パチスロ攻略誌の編集になろうなんて人間は、誰だって知識も技術も一級品だ。そうでなければ務まらない。
しかし知識や技術があっても〝楽しみたい〟を優先すると負けてしまうのがパチスロだ。Yはまさにエンジョイ勢。勝ち負けより〝打ちたい〟や〝楽しみたい〟を優先するタイプだ。もっとシンプルに言えば〝度し難いパチスロ好き〟なのである。
勝ち続けるには少し俯瞰からパチスロを見て、冷静でい続ける必要がある。悲しいかなパチスロは〝打ちたい〟や〝楽しみたい〟という感情を押し殺せるヤツほど勝てるゲームなのだ。それはどんなに時代が巡っても変わらない。現代の6号機時代も一緒だ。
きっと、これまでYは数え切れないほど穢れを放出してきたハズだ。それで1度たりとも射止められなかった〝まどエピ〟を、目の前で初打ちのオッサンに引かれたのだ。心中を察するに余りある。
編集Y「なんで僕が1年以上できないことを、そんな簡単に」
――「まあ、たまたまだけど……分かるよ」
俺だって嫉妬することはよくある。好きな機種を本気で攻める場合、どの店の特定日を狙うべきか、そしてシマの中でどの台を狙うべきかを数日前から周到に計画する。そして思い通りの入場番号を引き本命台を確保しても、ぽっと出のライバル客に負けるのである。
「台にあぶれたから仕方なく座ってやった」みたいなライバル客に、いとも簡単に出玉で敗北するのだ。
「なぜだよ!?」と。
数日間、日本中の誰よりその機種のことを考える。楽しみつつ勝つために数値やリール制御を何度も復習し、「この演出が発生したら、あそこをビタで狙ってみよう」などと脳内シミュレーションも繰り返す。
それなのに朝イチからドハマリを喰らい、ぽっと出のライバル客にタコ出しされると、ただの敗北とは比べ物にならないほど精神的ダメージを負うのである。こんなに真剣に想っていたのに、なんでこんな仕打ちに遭うのだと。なぜ俺じゃなくてアイツなんだと。
この話を某メーカーの広報さんに話したら、急に「ああ、僕のあの感情は嫉妬だったんですね。昔からずっとモヤモヤしていて、どう表現していいか分からなかったんです。やっと受け入れられそうな気がします」と言いだして笑った記憶がある。みんなきっとそうなのだ。
我々のように特定の機種に入れ込むタイプの人間は、この手の嫉妬を避けられないのだろう。パチスロを好きにならなければ、パチスロをバイトみたいなものと割り切ってさえいれば、こんな感情を抱かずに済んだのかもしれない。
初のアルティメット。
エピソードボーナス終了後、いよいよ上位特化ゾーン「アルティメットバトル」がスタート。
アルティメットバトル
基本の流れは「ワルプルギスの夜」と変わらない。1セット5G(1セット目のみ15G)の継続率管理で、継続のたびARTゲーム数を上乗せる。なお、アルティメットバトルには最低でも5セットの保証があり、6戦目以降から継続抽選が行われる。継続率は90%にも上るため、ARTゲーム数の大量上乗せを期待できる。
編集Y「平均は超えていきたいっスね」
――「分かってるけど」
編集Y「目指すは200G以上っスよ」
――「でも90%継続でしょ?」
90%継続ということは、言わずもがな10回に1回は非継続だ。これまでのパチスロ人生で、その10%にどれほど泣かされてきたか。ARTの純増は+2.2枚/Gだ。総投資は6万円を超えているはずだから、正直200G程度ではまったく足りない。
――「じゃあ、いくぞ!」
大きく頷くY。俺は肺いっぱいに空気を吸い込んだ。まずは保証を消化していく。
1戦目+10G
2戦目+20G
3戦目+10G
4戦目+10G
――「おいぃ、+10ばっかやないか!」
編集Y「そういうモンす! 次、追撃きますから!」
――「追撃?」
追撃チャンス抽選
①5の倍数セット継続時、②継続確定セット中の全役、③非継続から継続への書き換え時は追撃チャンス抽選が行われる。追撃チャンスが当選すれば文字通り追加上乗せが約束される。なお、5の倍数セット時は追撃チャンス確定なので、特化ソーン中は常に次の5の倍数セットが1つの目標となる。
5戦目+10G
そして追撃は…
編集Y「くぅ~、弱い! 一撃で+10か~」
――「弱いって言うな」
しかし呼吸さえ憚られるほどの緊張感だ。もちろん長く続いてほしいが、この息苦しさに長時間耐える自信はない。いや、ブッ倒れたっていい! ここから最低でも1,500枚は取り戻すんだ――!!
その後も継続を繰り返し……
――「うおぉぉぉ、連打くそアチィ~~~」
編集Y「いけいけいけ!!」
――「うおぉぉ、一撃で20!」
編集Y「もう一声!」
――「ひえ~、また連打キター!」
1回あたりの上乗せは小さいものの、どんどん増えていく総上乗せゲーム数表示。しかし、楽しい時間はあっという間に終わりを迎える。
19戦目――
液晶の右隅に、遂に恐れていた「アルティメットバトルEND」の文字が出現。
――「えっ? 終わり?」
編集Y「あ~、あと2セット続けばまた追撃だったのに」
おそるおそるレバーを叩くと、デカデカと「TOTAL+328」文字が表示された。
――「くうぅ~、ダメか~」
編集Y「いやいや十分っスよ! ここからですから」
平均は超えられたが、大事故と大騒ぎするほどの派手さはない。しかし…
編集Y「まず初当たりの50Gでしょ? で、この328G。それに……」
――「それに?」
編集Y「アルティメットバトル後は、もう1つエピボついてくるんで」
――「ほ~、そうなんだ!」
編集Y「だから、え~と……少なく見積もっても440Gくらいは続きます」
――「お、おう。それだけあれば……」
ART中の上乗せ頻度はそこそこ高い。さらにゲーム数とレア役の両面からボーナスが狙えるうえに、特化ゾーン「ワルプルギスの夜」にも何度か入るはずだ。
編集Y「マクりましょう! ここから」
――「いやいや、さすがに3,000枚はキツいでしょ」
内心、すでに満足していた。遂に手を出した〝まどマギ〟でボロ負けかと思いきや、薄いところを通して半分くらいは返ってくる見込みができた。高設定をツモったわけでもないフラフラとした実戦内容でも、まどマギの魅力の一端くらいは見えた気がする。
仮にここから伸びず負けたとしても、きっと気持ちよく帰れるハズだ。
カネよりも大切なもの。
数時間後――
――「好きなだけ食べなさい」
編集Y「ありがとうございます!」
――「ほら、神が焼いてやろう」
編集Y「ああ、神様! お気になさらず……」
俺とYはホールのすぐそばにある焼肉屋に入った。
編集Y「いや~、まさか64,000円からマクるとは! さすがっス!!」
――「ふん、チョロいモンよ」
などと言っているが、勝ち額は全然大したことない。まどエピきっかけで始まったARTは約4,300枚の獲得で終了し、そこからほんの少しだけ減らして実戦終了となった。収支は+14,000円程度だったと記憶している。
――「ほら、食いねえ食いねえ」
編集Y「いやいや、せっかくの勝ち額がなくなっちゃいますよ」
――「いや~、カネじゃねえんだよ」
編集Y「カネじゃない?」
――「タコ負けから奇跡の生還。しかも初打ちのまどマギでコレだから」
編集Y「分らんですけど、お祝いってことですかね?」
――「まあ、そういうこと。この勝ちはまどマギからの贈り物だから」
編集Y「あざーす!!」
――「ほら、早く食って帰って寝ないと!」
編集Y「明日早いんスか?」
――「ん~、まあ明日は……」
翌日――
俺はプライベートで都内のホールにいた。
――「お、穢れMAXか。今日は早かったな」
液晶を見つめながら白7を揃えた。すると……
「テテテ~テ~、テテテ~テ~」
ゆったりとしたBGMが流れはじめ、液晶には『あの足先』が見えた。コクコクとゆっくり頷き、メモ帳に〝まどエピ〟と書き込んだ。
???「スミマセン! それ、穢れからっスよね?」
急に声を掛けてきたのは、隣で打っていた知らない少年だった。
――「そうだよ」
少年「スッゲエ! 穢れからの〝まどエピ〟はじめて見ました!!」
――「そうなんだ? 昨日も穢れから〝まどエピ〟引いたよ」
少年「はああ? 絶対ウソだwww でもマジでスゲエっス!」
――「ハハ、ありがとう」
2日連続、穢れMAXからのまどエピ放出。ここから俺が〝まどマギ〟にハマったことは、わざわざ書く必要もないだろう。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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