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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2023.01.17
真っ黒オアシス~ホール潜入調査②~
※はじめにお読みください
当エピソードは2015年頃のお話です。実話ではございますが、半ばフィクションとして捉えていただけますと幸いです。現存するホール・法人とは一切関係ございませんので、具体的な店舗名を挙げるなどの行為はお控えいただくようお願いいたします。
前回のあらすじ
今より8年ほど前のお話。新装狙いに失敗し趣味打ちに切り替えたラッシーは、先輩ライターから噂で聞いた怪しげなホールへ。すでに広告宣伝規制後だが、未だに4号機時代と変わらぬ札イベントを開催しているらしい。遊技業組合に加盟していないと予想できるが、そんな店舗が本当に現存しているのだろうか。恐る恐るホール内に入ると、そこには目を疑うような光景が広がっていた―――!!
前編(①)はこちら
▲5号機「新鬼武者」(ロデオ)
どうせ負けるなら大好きな新鬼武者で負けたい。それに打ち慣れた新鬼武者なら、設定推測の練度にも自信がある。まずはどの札から検証すべきか。
新鬼武者の設置は全5台で、札は「偶」が1台、「奇」が2台、「変」が2台。時刻はまもなく15時になろうとしているが、どの台も朝イチから1Gも回っていない。今なお名機と謳われる新鬼武者だが、この店ではどういうワケか人気がナイらしい。
まず「偶」はナイ。新鬼武者は奇数設定でのドデカい上乗せこそが魅力だと思っている。もしも本当に偶数設定だった場合、マグレの一撃が無くなるのはかなり厳しい。個人的には設定2より1のほうが嬉しいくらいだ。
となると「奇」を狙うべきだが、ずっと設定1のまま放置されている恐れもある。そのぶん天井が近くなっている可能性もあるが、データ表示器は古く、前日閉店時のゲーム数を知る術はない。最悪を想定し、ボーナス後即ヤメされていると考えるべきだ。
5号機「新鬼武者」の天井機能
ボーナス間1,400Gハマリで天井状態へ。以降のボーナス or 特定役(レア役や共通ベル・1枚役)で89%継続のART「蒼剣RUSH」が当選。前兆(潜伏)を経由して突入に至る。ちなみに天井到達がART中の場合は、到達後のボーナス or 特定役で89%継続のART初当たりをストックし、消化中のART終了後に天井ARTがスタート。
となると、狙うは必然「変」。
文字通りに受け取れば設定変更の意味だろう。そしておそらく設定は1。据え置きの1よりも、設定変更の1のほうが少しだけスタートダッシュに期待できる。あくまで〝本当に設定変更していれば〟だが。
設定変更時_状態振り分け | ||
---|---|---|
設定 | 低確 | 通常 |
1~4 | 70% | 5% |
5・6 | 55% | 5% |
設定 | 高確 | 超高確 |
1~4 | 20% | 5% |
5・6 | 35% | 5% |
難しいことはない。「変」の2台を打ち、リールのガックンおよび高確挙動を確認できれば変更した=札にも少しは信憑性があると判断できる。変更でも必ず高確に行くとは限らないが、シマが朝イチの状況である限り、まずはそこから確かめるのが定石。
ジーンズのポケットから財布を取り出し、ゆっくりと「変」の札が刺さった席についた。
札の真偽。
ガックンを確認でき早くも変更濃厚となったが、打ち始めて数ゲームが経過しても高確らしい挙動はナシ。仮に高確だとしても易々と挙動を確認できるとは限らない。千円ぶんのメダルでじっくり観察しよう。そう思っていたが……
――「おっ、いいぞ」
打ち始めから10Gを過ぎたところでスイカが成立。高確中なら低設定域でもART当選を期待できるが……
スイカ成立時_ART当選率 | ||
---|---|---|
設定 | 低確・通常中 | 高確中 |
1 | 1.2% | 31.7% |
2 | 38.5% | |
3 | ||
4 | 1.8% | 64.7% |
5 | 3.7% | |
6 | 5.5% |
※超高確は全設定共通で100%
ART非当選でも高確だった可能性は残るが、それでもヤメて次の「変」に移動する動機にはなるだろう。そんなことを考えながら演出を見守ると、一丁前に前兆挙動がスタート。
まさか本当に高確だった!?
いや、まさか……
液晶は前兆ステージの「百鬼モード」へ移行。ARTにさえ入れてしまえば間違いが起こり得るのが、新鬼武者の奇数設定だ。百鬼モードのBGMを聞くだけで、否が応でも鼓動は高鳴る。頭は冷静でも、身体はあの興奮を覚えているらしい。
変更だとしても、そんな簡単に当たるわけがない。そんな簡単な機種じゃない。そう自分の胸に言い聞かせながらプレイしていると……
――「つ、強いな随分」
本前兆でよく見られる強めの演出が頻発! そしてラストの連続演出もあっけなく勝利し、BETボタンを押すと―――
台「ウラァァァ~! 蒼剣ラッシュ!!」
――「わ~~~~~!!」
当たりやがった! 朝イチのスイカ一発で!! まず高確以上だったと判断して構わない。つまり「変」は本当に設定変更していたということか!!?
現代のホールで「分かりやすいガセ」を見る機会はほとんどなくなった。プレイヤーが賢くなり、分かりやすいガセはネット上で簡単に炎上してしまう。しかし、札イベントが当たり前に開催されていた〝あの頃〟は違った。
ネット上に掲示板はあったが、SNSと違って閲覧者は限定的。それゆえガセイベントやガセ札も当たり前だった。まあ、だからこその広告宣伝規制なのだが……。
こんな破天荒な野良パチ屋なのに、バカ正直に札を使っているのか!? いや、札が正しいと判断するのは早すぎる。たまたま俺が数多あるガセ札の中から〝ホンモノ〟を選んだ可能性も考えられる。まだ「ホンモノもありそう」といった程度にすぎない。
このARTは上乗せナシで駆け抜け、継続も叶わず単発で終了。もちろん内心では〝間違い〟を期待していたが、これは遊技ではない。調査なのだ! 札がホンモノかもしれない。それが分かっただけでも十分な収穫と言えるだろう。
スグにARTで獲得した100枚弱の出玉を持って次の「変」札台へ移動したいところだが、出玉を持っての台移動は禁止とある。ならば出玉を流して移動すればいいだけの話だが……
――「………(くそ、なんだってんだ)」
例の店員が背後から見ているのである! その距離およそ2.5m。一見さんだからと警戒しているのだろう。稼働時に必ずメモを採る俺も、ここではライターだとバレたくないためメモは採っていないが……。
――「………(とにかく目立つ行動は控えよう)」
こんな環境で少量のメダルを流すなど難しい。ガチガチの立ち回りなど、到底できる雰囲気ではない。あたりを見回すと、立ち回っていそうな客など1人とていない。ただの1人もだ。
これだけヒントになりそうな札が刺さっていても、リセットを狙ってカニ歩く客もいない。誰もが思い思いに好きな機種を楽しんでいる。そういった雰囲気だ。
――「……なるほど。そうか」
少しだけ、この店の存在意義が分かった気がした。
オアシス。
件のホールはターミナル駅を有する大きな街にあり、もちろん近隣には競合するライバル店も多い。こんな突飛な営業方針を貫くのは、単純にライバル店との争いを避けるためという理由もあるだろうが、それだけではナイのかもしれない。
かつての俺は、この街でガチガチに立ち回っていた。師匠である虎さんと行動を共にしていた頃だ。色んなホールを渡り歩き、たくさんのプロたちとしのぎを削る毎日だった。
自宅近くのホールに腰を据えたのは、いいマイホを見つけたからという理由もあるが、そういったプロとの激しい競争に疲れたからという側面もある。虎さんと一緒にいても基本はピン打ち。それでも納得できる程度に勝てていたが、正直に言えば疲れたのだ。数多いるプロや軍団との争いに。
近隣店に行けば、否が応でも厳しい台取り合戦に巻き込まれる。たとえバラエティー狙いでも、朝の抽選では長蛇の列に飲み込まれる。そしてプレイ中も、常にゾーン狙い・ハマリ台狙いのプロから監視される。
この街のちゃんとしたホールは、どこだってそうなのだ。例外なんてない。どこに行っても常時緊張感が付いて回る。それに疲れた人々が最後に流れ着くのが〝ここ〟なのだ。
悪く言えばプロが見向きもしない極小ホール。いや、プロに仕事をさせないホールと言うべきか。しかし、よく言えば……
オアシス。
この街のホールに疲れ、ウンザリしきった者たちの受け皿。それがこの時代遅れのパチ屋なのだろう。もちろん健全化を目指す業界と逆行する経営方針は賞賛できないが、とはいえ罪と簡単に断じれるほど俺は偉くない。
地獄へと真っすぐ伸びるスランプグラフを描きつつも、楽しそうに頷きながらプレイしている常連と思しき客たち。俺にはその気持ちが痛いほど分かった。エンジョイ勢にとって、この街はあまりにも厳しすぎる。
耳を疑うひと言。
もはや、これ以上打つ理由はない。このホールがなぜゆえ存在し続けられるかは、おぼろげながら察しがついた。札は昔のイベント同様、ホンモノもあればガセもあるのだろう。おそらく常連客のほとんどは、札の真偽などさほど気にしちゃいない。
のびのびと好きな機種を打てる環境で、昔のように札に惑わされながら遊びたい。そんな感覚のはずだ。そんな予想をしているうちに、背後にいた店員の姿は消えていた。おそらくワンオペなので、カウンター業務に戻ったのだろう。
このメダルを使い切ったらヤメて帰るか? いや、もう1台の「変」も打ってみるべきか。そんなことを考えながらゆっくり回していると、残り20枚をきったところで強チェリーからBIGが当選!
このBIGからはARTに繋がらなかったが、まだ新鬼武者を打ち続けられることに少しだけ嬉しくなった。やはり俺も、ここの常連たちと変わらないらしい。自嘲ぎみに笑い、ダラダラとプレイを続けていると……
店員「ちょっとよろしいですか」
――「ひぇっ!!?」
不意に肩を叩かれ変な声が出た。振り向くと例の店員が笑みを浮かべていた。
――「な、なんでしょう?」
店員「会員カードをお作りになりませんか?」
――「………はぁ」
また打ちに来る可能性は極めて低い。組合非加盟というだけで違法ではないが、やはり攻略誌のライターという立場上、このアウトローなパチ屋への出入りはあまり適切でない気がする。正直に言えば個人情報を伝えるのも怖いし、ここは当然お断りで……
店員「ポイントを貯めると設定6が打てます!」
――「………は???」
完全アウト!!
店員「ですから、ポイントが最大まで貯まれば設定6をご用意します」
――「な、な、な……なに言ってんスか?」
脳の処理が追いつかない。なにを言っているのだ、この男は。たしかに4号機時代はそういったサービスがあった。ガソリンスタンドをいくつも経営する某法人は、ガソリンを入れるたびポイントが貯まり、最大まで貯まれば系列ホールで設定6を打てた。
また、会員になれば誕生月に1度だけ高設定確定台を打てるホールもあった。しかし、そんなサービスはとうの昔に絶滅している。アウト中のアウトなのだ。完全にやってはいけないサービス。さすがにこれは限度を超えている。しかし――
知りたい!
サービスの全容を!!
会員にはならない。いや、立場上なってはいけないんだ。ただ、なにをどうしたらこの時代にそんなサービスを実現できるのか。そこが知りたい! 知るだけでいい!!
――「ぽ、ポイントって何スか?」
店員「当店のポイントは………」
店バレ等を考慮し、ポイントシステムの詳細は割愛させていただこう。ただの来店ポイントとは違い、そう易々とは貯められないシステムとだけお伝えしておく。
店員「ポイントはオマケ程度に捉えてください」
――「オマケ?」
貯めれば設定6を打てるという夢のようなポイントなのに、オマケとは一体どういうわけか?
店員「設定6の権利を得ようと頑張りすぎると、ものスゴく負けちゃうんで」
店員は自虐的に笑った。やはりそういう設定配分なのだ。高設定を粘り倒してポイントを一気に貯めるなどの正攻法は、あまり現実的ではないのだろう。たまに遊びに来て、年単位でやっとポイントが貯まる……くらいの感覚だろうか。とはいえアウトはアウトなのだが。
「設定確認できないのでは?」などの疑問もぶつけてみたが……その返答は自主規制とさせていただこう。ちなみに通報は度々されているらしい(笑)。
店員「個人情報とかいりませんので」
――「ええ!?」
ますます怖い。複数人で1枚のカードを使いまわせば容易にポイントを貯められそうだが、まるで「そんなことできるならやってみろ」と言わんばかりの自信を感じる。
店員「このカードを持ってるだけで結構です」
――「い、いやでも!」
店員「それでは、ごゆっくり」
――「あっ、あっ……」
店員は台の上にカードを置いて去っていった。これはますます長居できない。無名とはいえ、パチスロライターがこんなヤバい店に出入りしているなどと噂されたら〝事〟だ。もはや、もう1台の「変」になど構っちゃいられない。出玉を使い切って帰ろう! そう思っていたが……
――「ちょ~、なんでよ!?」
またも出玉がノマれる寸前でスイカから同時当選! しかし揃ったのはREG(鬼ボーナス)で、ほっと胸を撫でおろした。REGは平均獲得60枚なので、有って無いも同然………
いや、違う!!
REGをナメてるうちは、まだまだ素人。新鬼武者を打ち込み、一周回ると見方が変わるのだ。「REG中はフリーズ超高確」だと! このREGこそが〝真のトリガー〟だと!!
ボーナス中の7揃い成立でフリーズ発生
平行揃いならART継続率80 or 89%、斜め揃いなら89%!
【全設定共通】 ボーナス中の7揃い確率 |
||
---|---|---|
フラグ | BIG中 | REG中 |
平行7揃い | 1/16384.0 | 1/1638.4 |
斜め7揃い | 1/16384.0 | 1/1638.4 |
合算 | 1/8192.0 | 1/819.2 |
――「まさかな……」
万が一などあってはならない! 目立たず、一刻も早くこの店を出るんだ! 誰にもライターだと悟られる前に―――
――「あっ……」
鬼ボーナス中にレバーを叩くと、リールが回らず液晶に蒼鬼(主人公)が出現!
蒼鬼「へあっ!!」
――「うそ、そんな……」
蒼鬼が去った液晶には、新鬼武者のロゴが張り付いている。これは間違いない――
――「ふ、フリーズだーーー!!」
しかも斜め7揃いなのでARTの89%継続が確定!! どどど、どうしよう!? こんなところで89%引いちゃった!!
台「ウォン、ウォン、ウィン♪ ウォン、ウォン、ウィン♪」
――「ちょちょちょ! アピールすな!!」
割と静かな店内に、フリーズを祝福するド派手なSEが鳴り響く。俺は諸手を挙げて喜ぶこともできず、肩を丸めてそっとプレイを続けた。が……
――「ハァッ!!」
またも急に肩を叩かれ変な声が出た。恐る恐る振り向くと、そこにはパンチパーマでガタイのいいお兄さんが立っていた。Vシネの中から飛び出してきたような、ザ・本職といった風体である。恐怖とともにノスタルジックな気持ちも込み上げてきた。
よく見ると、腰にジャラジャラと台カギを下げている。このホールの店長、もしくはオーナーといったところか。風格から察するに、幹部なのは間違いない。
男「おう、やったな! ラッシーさん」
――「は、はあ……ら、ラッシー???」
この男、今なんと……?
男「あんた〝H〟のラッシーさんだろ?」
――「……ふぁ、ふぁい(はい)」
詰んだ。
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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