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俺とキンバリー

★機種に関する話 | コラム

俺とキンバリー

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たれめさん
ストップボタン押すために仕事してる
投稿日:2017/01/10 15:01

南アフリカ共和国の西部に、キンバリーという都市がある。ゴールドラッシュ時に栄え、主な産業はダイヤモンド採掘。その為、1867年にイギリスの植民地となることもあれば、後に紛争の資金源となるダイヤモンドに対する取り決めを成す会合の開催地となるなど、さながら暴力と平和とダイヤモンドが輪になってタンゴを踊る狂気の街である。

今回の台もそれに因み、資本家・マフィア・警察・政治家の思惑が複雑に絡み合い、愛と金と宗教の地平線の果てにフィクサーが笑う、一大スペクタクル巨編が如き様相を呈している。(※注 個人的見解)




初めて見たとき、呆気にとられた。

その日の俺は、日雇いの仕事の給料を取りに行った帰りだった。拘束時間と疲労に見合っているとも思えない僅かばかりの賃金とやるせない気持ちを財布に詰め、いっその事全部使い切ってやろうと、半ば捨て鉢な気持ちでホールをフラフラと徘徊していた。
とはいっても、スロットを打つ以上勝ちたいと思うのは当然のこと。少ない軍資金での勝負となれば悠長にART機を打ってる場合ではない。Aタイプで一波掴んで、気持ちよく帰ろう。ジャグラーの島を2周ほど見回した後、関東には珍しい沖スロの島を見に行った。


ハナはそんなに得意じゃないんだよなぁ…そう何気なく顔を向けた先に、奴はいた。
怪しく紫に光る筐体の上部に王冠を携え、下パネルには髭に覆われニヤリと笑った口元が描かれている。輝く金歯がその不気味さと秘めた力を象徴しているかのようだった。


なんだこれ…キンバリー…初めて見る台だな…打ってみよう。


知らない台は取り敢えず打ってみたくなるのがスロッターの性というもの。着席し遊戯説明書に目を通す。


フリー打ちでも取りこぼしなし、チェリーならチャンス
トビウオランプが光ればボーナス
マルチボーナス採用。好きな絵柄で揃えられる。


取り敢えず分かったのはこんなところだった。


最初はオーソドックスに、左リールをBAR狙いをしてみるか…ん?なんだ?やたらと滑るな…。
再び遊戯説明書に目を落とすと、滑り発生時に音が発生するとのこと。なるほど、音と滑りを楽しむ台なのね。そう解釈し打ち続ける。
それにしても変わった台だなぁ。メイン子役のプラムとベルの払い出しが6枚のせいか、割とポコポコ落ちてくるし、目押しいらないから無感情で淡々と回しちゃってるぞ…。
探り探り打つこと数分、軍資金の三分の一が溶けようかというところで、事件は起きた。


適当に左リールを止めた時、何か違和感があった。
…ん?チェリーが中段に止まってるな…。
そう気づくのと第三停止を離すのがほぼ同時だった。
次の瞬間、台から全ての光が消えた。何が起こったのかも分からず台に吸い込まれたかのような感覚を覚え、呆然とする俺を嘲笑うように、「ガーッハッハッハッハッ!」と野太い男の笑い声が響く。
中段チェリーはボーナス確定なのだと気づいたのは、たっぷり五秒間放心した後だった。



なるほどなるほど…いいじゃない!全消灯とは粋な演出を搭載してるじゃないか。興奮しながらレバーを叩くと、潮騒を思わせる「ザーッザーッ」という音とともに両サイドのランプが下から光り遅れてトビウオランプが躍動感あふれる光を放った。それはまさしく、天高く飛び魚が舞う様を表していた。
生き生きと光るトビウオランプの光は青だった。ここで遊戯説明書の一文を思い出し、再び目を通す。「ランプの色が白以外ならBIG濃厚⁉︎」、そう書かれている。ほうほう、ならばせっかくだから髭図柄で揃えよう。それが人情ってものだ。意気揚々と左リールに髭図柄を狙ったところ、なぜかズルリと滑って4コマ上のBARを引き込んで来た。


…状況を整理しよう。
1.ランプが白以外なのでBIG
2.BIGは7揃い・BAR揃い・髭揃いの三つ
3.本機はマルチボーナス採用、つまりフラグは同一なのでどの図柄でも揃えられる。



なぜこの状況で、ほぼ4コマ滑ってBARを引き込むのか。REGが77BARと髭髭BARだから、もしかしたらBARが滑って来たらBIG濃厚ってしたかったのか?じゃあ順押しで髭揃えるにはわざわざBARから遠い方の髭を狙わにゃならんのか?
様々な疑問を抱えながらBIGを消化する。まだ暫く打とうと思いながら回し、割と早めに2度目の当たりを引いた。ランプの色は白。BIGか…はたまたREGか…。ここでふと配列を見直してみる。右リールの髭の4コマ上にBARがいる…ということは右の枠内に髭を狙って止まればBIG確定か?恐る恐る右を止める…ズルッ…上段にBAR。あーREGってことかなー…中左と7を狙う…揃わない。
……なんでだよ…なんで頑なにBAR引き込むんだよ…結局BIGだったのに…もうわけわかんねぇよ…。


こうして、終始台に翻弄されながらの実戦ではあったが、その後はこの魅惑のトビウオにどっぷりと嵌って行くこととなった。



キンバリーの魅力はズバリ、「間」にある。
従来の沖スロであるならばレバーを叩いた瞬間、ハイビスカスなり蝶々なりの告知ランプがチカチカと光りボーナスを告知する。キンバリーの場合、まず光るのはトビウオではなくサイドランプであり、順番としては潮騒の音→サイドランプ→トビウオとなる。
まず音が聴こえる。昇る光でボーナスを察知してからトビウオが光るまでのわずかな「間」、それこそが最大の魅力のように感じる。その間に思うことはただ一つ、「色変われ」だ。ヘソのやや下、丹田と呼ばれる辺りに力を込め、トビウオが光るまでのわずかな時間に「色変われ色変われ色変われ」と唱える。願いが通じ、カラフルに輝くトビウオ。無情にも白だがまだ希望は残っているトビウオ。その結果が出るまでの「間」を楽しむのだ。



今でも、時折熱に浮かされたかのようにキンバリーを打ちたくなることがある。撤去されるまでに見ることが叶わなかった、高設定濃厚となる虹色に輝くトビウオが見たくてたまらなくなる時がある。


沖スロといったら、キングでもクイーンでもドラゴンでも、ましてやハイビでもマハロでもマタドールでもアクビでも沖ドキでもセブンバーでもトリプルクラウンでもなく、キンバリーだろ!
俺は今でも笑顔でそう答えては友人にポカンとされる。いや、キンバリーなどと呼び捨てにするのは烏滸がましい。……先輩…そうキンバリー先輩だ…。貴方は俺に30πの面白さを伝えてくれた偉大な先輩だ。またいつの日か、あの豪快な笑い声を聞かせて下さい先輩。

3

たれめさんの

※本記事はユーザー投稿コンテンツです。

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