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1、ある女性の休日
1、ある女性の休日
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おにぎり煎餅さん
ちょっとしたお話を書いていけたらなと思います。よろしくお願いします。 - 投稿日:2017/10/26 21:50
この物語はフィクションです。実際の人物、団体とは一切関係ございません。
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朝が来る。
太陽が昇って、朝が来る。
まだ目は開けないぞ、と誓う。
しかしそうもいっていられない。
休日なのに?
そうだ、今日は休みの日ではあるが、午前中に郵送物を済ませなければならない。
思い出し、体を起こす。
まだ目は開けない。
だいたいおかしいのだ。
太陽が昇って朝が来る。
そうじゃない、むしろ我々が回って太陽に照らされるから、
朝が来るのだ。
つまり、主体的に朝を迎えに行っている。
いや、ちげぇな
地球のせいだわ。くそ。地球くそ。
くだらないことを考えながら目を開ける。
飲み残したチューハイの缶、充電器、未使用の化粧道具が目に入る。
あぁ、今日もメイクもせずに出かけるんだろうな、私は。
そんなことを思う。
いつか使う時が来るのだろうか?
いつか、素敵な男性が目の前に現れて、その人のためにこのアイテムを使う時が来るのだろうか?
いやいいわ。疲れるわ。
糸のほつれたパンツの上からお尻を掻く。
終わってるわ。女として。
終わってるわ。人として。
いや、人としては終わりたくないな。
そう思いなおして立ち上がり、
色とりどりの缶が詰まったゴミ袋に、チューハイの缶を捨てる。
ちゃぷ
中身は流すのを忘れた。
おいおいおいおいおい。人として終わった音がしたぞ。
いや、別に飲み残しをそのまま捨てるなんて、ままあることだけれども、
このタイミングはまずい。
ああ、くそ、ゴミ袋の中でチューハイの中身が流れてる…
自分の体にも後悔、自責のようななにかドロッとしたものが、
流れて来ている気がした。
気持ちわりぃ。くそ。地球くそ。引力。
うげぇ。もう一回横になりてぇ。
さっきまで悪態をついていた地球に身を委ねそうになるが
踏みとどまる。
その手には乗らんぞ、惑星め
ふとケータイを見ると、時刻は10時。
結構寝ていた自分に驚くとともに、
10時に朝が来たなんて思っている自分が小学生以下に感じられ
へこむ。
とはいえ、まだ午前。
用事を済ませるのには間に合う。
お客様宛の封筒を持って郵便局に向かう。
もちろん、化粧はせずに。
あ、そうそう。
ちなみに上はTシャツにパーカー
下はいつ洗ったか覚えてないデニム。
眼鏡をかけてニット帽をかぶるというコーディネート。
ピーコ?かかってきやがれ。
玄関を開ける。
さむっ
11月に入り、めっきり寒くなった。
少しパーカーでは寒かったか。
私は季節感の無い子か。
いやいや、私は哺乳類だから大丈夫。
これくらいの寒さなど。
爬虫類だったら危なかったな。うん。
ここで部屋に戻ったら負けだ。
かの忌まわしい惑星に引っ張られ、
横になり、時刻は正午を回るに決まっている。
そしてあす、上司にこう言われるのだ。
「山田さん、さすがですね」
いちいち皮肉や嫌味をいう上司くそ。
なんなんだよ、一体。
そのままストレートに叱れ。
「なんでやってないんだ!」って言え。
「眠たかったんだ!」って言い返すから。
言い返せないけど。
その妄想は良くしてるけど。
ハゲ。上司ハゲくそ。
だから自分は哺乳類と考え、
体温調節のできる優れた種族であることに
誇りを持ち、マンションの階段を下りる。
まぁ、自己管理はできてないんですけど。
オートロックのドアを出ようとしたとき、
郵便受けがいっぱいになっているのを確認し
そのまま出た。
今見て部屋に戻るのとかごめんだわ。
もうここまで来ているというのに。
ここまで?
まだマンションの敷地内だわ。
グーグルマップで見たら誤差の範疇だわ。
そしてついに地上へ。
やだかっこいい。
郵便局へ向かおうとすると隣の家では
イルミネーションを取り付けていた。
家族が楽しそうに電飾の雪だるまやら、トナカイやら
庭に並べている。
早くないか?まだ11月だぞ
と心の中でツッコミを入れる。
でも楽しそうだ。
私が最後に楽しんでみたイルミネーションはいつだろうと思う。
思いを巡らせ、記憶をたどり、
そこにいたのは、浮気くそ男でした。
うげぇ。
今日はなんかよくはきそうになる。
吐けたら楽になるのかなぁ。
うげぇ。
そんな足取りでたどり着いた郵便局。
慣れた手つきで手続きを進める。
局員さんが。
私じゃないよ。
料金を支払い、出ようとすると。
見た顔が自動ドアの向こうからやってくる。
見た顔というのは、知っている顔ということだ。
別に友達とかそういうわけじゃない。
高校の時のクラスメイト。
なぜ、こんなタイミングで。
こいつ全然あってなかったのに。
そして、その隣には優しそうな顔の男性。
シカトシヨ。
そう思って自動ドアが開いた瞬間身を半身にし、
二人の左側をすり抜けるようにーーー
はるなじゃん!
呼ばれた。どうも、わたくし、はるなと申します。
くそ。不意に名前を呼ばれたとき、人は無視できない。
なぜか耳が、心が、体が君を覚えている。
こんな歌あったよね?とにかく反応してしまった。
ああ!ゆき久しぶりだね!
とびきりの作り笑顔を添えて。
今度引っ越すから、
旦那さんと一緒に、郵便物の届け先住所を変更しに来たらしい。
別に私は、あなたがなぜここにいるのか興味もないし、
聞きたいわけでもなければ、話したいわけでもない
別にそんな情報を頂きましても、
今や年賀状も送らなければ
あけおメールも送る間柄じゃねえわ。
一人でやれよ。それくらい。
へぇー!結婚してたんだね!おめでとう!
心と口の動きが東京とリオデジャネイロくらい距離がある。
共通点はオリンピックぐらいなもんだろう。
はるな!今度家でパーティーするから来なよ!
新居はそのためにリビングとキッチン繋げててさぁ
行かない。絶対行かない。つーか誘う気ないだろ。
自慢したいだけさね、あんたは。
じゃあまた連絡するね!またね、はるな!
聞いてなかった。半分くらい聞いてなかったけれども。
開放の言葉だけは聞き取った。
うんまたね!
来世で。
弱い自分です。こんな強がりばかり言っちゃってさぁ。
本当はうらやましい。妬み、嫉み。
合わせて嫉妬。
SHIT
つまり、くそ。
休日の午前を嫌な気分でしか過ごしてないぞ。
ちょっとおしゃれなカフェでランチでもしようかしら。
なんて思って郵便局の窓に映る、自分を見つめる。
浮くわ。こんな格好じゃ。
メリーポピンズばりに浮くわ。
むしろメリーポピンズの格好のが浮かないくらいだわ。
おとなしく帰るか、と思ったとき、
目に入ったのは新台入替のノボリ。
パチンコ、か
月に一回くらい、ふとしたタイミングで入る。
今日は嫌なことがあったから、午後はバランスをとるために
神様がいい事を用意してくれているのでは?
そんな淡い期待を持ち、いこうかと思う。
パチンコ屋の窓に映る自分は…
きっと浮かないだろう。
入店する。
相変わらずうるさいのと、タバコと空調の変な臭いがするところだ。
でもなぜか安心する。自分はここにいてもいいんだという感覚。
パチンコ店には本当に色んな人が居る。
いいスーツを着た人、スウェットの人。
いい靴を履いた人、クロックスの人。
化粧をした人、すっぴんの人。
おじいちゃん、おばあちゃん。
おじちゃん、おばちゃん。
お兄さん、お姉さん。
私。
カフェやレストランなんて目じゃない。
大型ショッピングモールを超えるほどの幅広い層がここには居る。
あ、パチンコ屋には子供いねぇわ。
盛ったな、はるな。
いやいや、なんのなんの。
それでも私を迎え入れてくれるくらいには
パチンコ屋という建物は寛容だ。
高級ブランド店は見習った方が良い。
金がなさそうと思ったら声もかけて来ねぇなんてよ。
あんまりじゃねぇか
GU●CIよ。お前のことだ。
悪態を心の中でつきながら、目指したのはパチンコの場所。
スロットはよくわかんない。なんか難しそうだし。
パチンコならとりあえず分かる。
浮気くそ男が教えてくれたからね。
あなたが私にくれたもの
値札付きのクリスマスプレゼント。
あなたが私にくれたもの
知らない女とのキスの写メ。
あなたが私にくれたもの
海の打ち方とオカルト打法。
浮気くそ男、くそ。
とりあえず、今日は海を打たないことは決めた。
何打とうかな。
ミドルか、ライトミドルか、甘デジか。
ふうむ。
でっかい提灯が目に入る。
仕事人か。
いいや、今日はこれで。
私休日に仕事してる仕事人だし。
おあつらえ向きだわ。
打ち始める。
私を包み込むような筐体が、妙に心地よい。
周囲と断絶されたような、私のプライベートスペースのようで。
パチンコ玉ははじき出され、
ヘソに入ったり、
アウトにいったり、
一般入賞口に入ったり、
アウトにいったり。
アウトにいった玉はあれだな。
まるで私だね。
かわいいね。
一般入賞口に入ったのは、ゆきみたいなやつだね。
人並みの幸せで、それ以上でも以下でもないね。
ウザいね。
画面では主水が古い町並みを歩いている。
まぁ時代劇だから古い町並みという表現が正しいのかわからないが。
仕事人というのはどうやら
暗殺者らしい。
みなそれぞれ本業がありながら、裁かれない悪を裁く
ダークヒーローみたいな存在だ。
ちょっと違うか?
えー私だったら誰殺してもらおう?
そんな思いに至った時、ハッとわれに返る。
悪態はつくが、殺したいと思ったことなどはないな。
晴らせぬ恨み、そんなものはないな。
うん。
上司もムカつくけど、殺したいとは思わない。
たまにご飯おごってくれるし、つらいときには愚痴を聞いてくれる。
何より漫画の話をイキイキとする上司はおもしろい。
ゆきもなんだかんだ言って、高校時代は一緒に遊んだし、
文化祭では一緒に看板作ったっけ。
懐かしいなぁ。
浮気くそ男も最後こそ最悪だったけど、あいつといるときは楽しかった。
私が仕事遅くなった時も、ご飯食べずに掃除して待っててくれた時もあった。
あいつと迎える朝は今と違って心地よかった。
なにより、あいつといた時、私は女でいた。
許す気はないけど。
そんなことを考えてるうちに、
40分前に入れた一万円がなくなった。
画面では主水が古い町並みを歩いている。
あぁ良かった。
今日は激アツリーチも無ければ、期待できるポイントもなかった。
つまり、天誅を受けるような悪人などいなかったということなんだろう。
今日は平和で良かった。
京楽だけど。
席を立ち、パチンコ屋を後にする。
まだまだ太陽はてっぺんにはいない。
時刻は12時。
家に帰って、
郵便受けを綺麗にして、
チューハイのゴミ袋を移し替えて、
化粧品も試して、
おしゃれなカフェでランチでも取ろう。
それでまだ、この気分でいられたならば、
上司に完了のメールを送ろう。
ゆきにメールもしてみよう。
浮気くそ男には送らない。
いや別に、クソだから送らないのではなく、
上司にメールすることや
ゆきに久々に連絡することと
あいつをこのまま忘れることが、
進むということだと思うからだ。
家に着く。オートロックの扉を開けて、郵便受けの前に立つ。
口から今にも吐き出しそうなDMやチラシを咥えているその姿は
今朝の私に酷似している。
少し気分が落ちそうになるが、ぐっとこらえ、
一言
「さぁ、仕事だぜ」
39
おにぎり煎餅さんの
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このコラムへのコメント(32 件)
のぞき見…それは主人公の心情が、てんちょ ぴぃさんにうまく伝わったということですね。
嬉しいです。
読み入って頂けるなんて、文章を書くものとして、至上の喜びです。
これからも没入感を感じる文を書けたらと思います。
あぁ、憧れのゴルシ先生から…すみません、取り乱しました。
ありがとうございます。
ゴルシ先生のギャグも、少しダークさを感じられるマンガも好きです。
「心地よい」なんて素敵な評価でしょう。
これからもさわやかな読後感を意識しつつ、みなさんに楽しんで頂けるような文章を書いていきたいです。
全文読んで頂きましてありがとうございます。
他の方と比べると、少し、いやだいぶ長いですね。
惹きつけられると言っていただけると書いてよかったと心の底から思います。
次回以降も特に大きなドラマはないと思いますが、ぜひ読みにきてあげてください。
非常に良くできていらっしゃって、読みいってしまいました。
読み終わった今。全てが心地よいです
全て読ませていただき、とても惹き付けられる文章に圧倒されました( ´ ω ` )
普段のありそうな日常を文章力で面白く伝える感じがたまりません(//∇//)
次回以降もありましたら楽しみにしてますので、また是非読ませてください(*ˊᵕˋ*) ੈ
ぱない、ありがとうございます。
引き込まれたなんて言っていただけると、恐縮します。
すごく主観的な文章でしたので、読まれる方が物語に入りこめるのかという心配もありました。
それでもペリコさんの頭の中に届いたようで、良かったです。
物書きとしては本当にそれがうれしくもあり、快感です。
次更新できましたら、また読みに来ていただけると嬉しいです。
すごく面白かったと言っていただけて嬉しいです。
次作、近いうちに更新できればと思っておりますので、ぜひ読んでやってくださいね。