『意地』～巨人の星3～

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

――「ええ…明後日には戻れます。では失礼します」

閉じたケータイをポケットへ入れようとしたが、ふと手が止まった。小さな黒のトートバッグにケータイとタバコを放り、傍らに立つ棒を掴む。

ガラガラガラガラ…
ガラガラガラガラ…

喫煙所がある屋上の床に凹凸があるため、点滴スタンドがうるさく鳴く。点滴バッグの中の透明な液体は、騒音に合わせ派手に踊っている。

大学病院へ担ぎ込まれたのは前日のこと。そろそろ誌面作りも佳境という状況で高熱が出た。かかりつけに相談したら「手におえないから紹介状を書く」と言われ、この大学病院まで送られたというワケだ。明確な病名はナイらしい。栄養失調、脱水症、寝不足、過度のストレスで満貫といったところだろう。

早く編集部に戻らねば。
ラフが12ページも残っている。
(※ラフ＝ページの設計図)

社員契約ではナイものの、俺はすっかり一級の社畜へと成長。身体よりも誌面作りが最優先だった。当時所属していた班は新人が多く、とても俺の担当機種など任せられない。このとき担当していたのが、注目の新台「巨人の星3」だった。

▲4号機「巨人の星3」(アリストクラート)

2005年の秋に登場した人気シリーズ第3弾。通称は巨人3(スリー)で、Aタイプのストック機だ。ボーナス放出のメイン契機は規定ゲーム数消化だが、最も重要なのはリプレイの連続によるボーナス放出だ。
リプレイが3連すればRT解除(＝ボーナス放出)抽選が行われ、リプレイが4連すればボーナス確定となる。そのリプレイの連続を促すのが「真・特訓モード(以下、特訓と略)」だ。特訓は12Gor22G継続で、消化中はリプレイ確率が飛躍的にアップする。

滞在状態	リプレイ確率
通常時	約1/7.1
特訓中	約1/2.2

特訓中のリプレイ確率は約1/2.2と極めて高いため、突入すればリプレイ3・4連によるボーナス放出が一気に現実的となる。なお、特訓には連チャン性があるが、それについてはのちに譲るとしよう。

初代「巨人の星」は大ヒット。次作「巨人の星2」も初代ほどではないものの、そこそこのヒットと言える。それゆえ巨人3の注目度は高く、扱うページ数も多かった。同期や先輩は当然俺と同等か、それ以上のページ数を抱えている。俺のページをフォローする余裕はナイはずだ。やっぱり俺が早く戻り、特集を完成させねばならない！

★フリーランスの意地。

電話の翌々日――。

俺は予定通り定時に出社した。すでに編集期間も終盤に差し掛かっているため、同じ班のメンバーはほとんど揃っていた。

編集長「おい、大丈夫かよ」
――「もう平気っすよ」

進行係「もう1日ぐらい休んでも…」
――「ウソつけ！あと1日休んだら進行的にアウトでしょ」

進行係「…よく分かってるね」
――「大丈夫、今から遅れを取り戻すから」

編集長「ムチャすんなよ！」
――「ご心配お掛けしました」

病み上がりのハズなのに、俺はむしろ滾っていた。こんな十分な休息は、編集部に入って以来、初めてかもしれない。いつもこの頃になると執拗に襲い掛かってくる睡魔も、当然ながら影を潜めている。編集作業3日分の遅れを取り戻すことは容易でないが、今の俺ならできる気がする！

まずは病欠中にあがってきた解析数値とにらめっこ。何度か取材に行っているため、基本的なゲーム性は十分理解している。それに解析数値といっても、まだ初期の段階だ。主にメイン基板まわりの数値のため、そこまで難しくはない。解析が難解になるのはサブ基板の内容に入ってからと決まっている。

過去にも何度か書いているが、我が編集部は4班態勢だ。各班が1誌ずつ担当しており、それぞれ月刊誌を作っている。つまり毎週1冊をリリースしていることになる。ゆえに各機種の担当編集も、編集部内に4人いることになる。

たとえば「巨人3」担当なら…
A誌　B誌　C誌　D誌
各班に1人ずつ＝合計4人

いざとなれば他の班の担当編集がフォローに入ることも可能だが、会社員ではナイため「フォローされる＝収入がなくなる」ということになる。いや、むしろ金銭面よりも「体調を崩して穴をあけた」という事実が残ることこそ、フリーランスにとっては大きなマイナスなのだ。

本来であれば高熱を出した日に実戦する予定だったが、それが叶わなかったため、実戦的なページは別の班の担当編集に訊きながら作成することに。それでも実際の作業は断固自分1人で行う。あと数か月もすれば、いよいよフリーライターの立場になるのだ。弱さは決して見せられない！意地でも特集を作り上げてみせる！

周りから心配されつつも、数日後には滞りなくページが完成。退院から1週間後には無事に校了を迎えた。体調はすこぶる良好！あの休みと点滴が効いたのかもしれない。元気が有り余っている俺は、校了翌日から連日ホールへと出向き、貪るように巨人3を打ち倒した。

★理の向こう。

それは校了から1週間が経ち、すっかり巨人3にも慣れたある日のこと。その日も朝イチから巨人3を打っていた。幸い連日高設定を投入する優良店を見つけたため、これまでの収支は上々。しかし、この日は2台の設定推測で投資が膨らみ、3台目にしてやっとこ高設定と思しき台へ辿り着いたのだった。この台で大きくプラスにならなければ、この日の収支は大幅なマイナス。ここ数日で積み上げた勝ち分が台無しになってしまう。

入れたり出したり一進一退の攻防を続けていると、夕方過ぎにチャンスが訪れた。ボーナスがひとしきり連チャンし、出玉に余裕がある状況下で中段チェリーを引いたのである！

とはいっても、中段チェリーはプレミアフラグではない。確率は1/364程度と軽く、昨今の機種でいえば強チェリーのようなもの。では、なぜ俺が興奮したかといえば、特訓ループのチャンスとなるためだ。

巨人3の特訓発動システムは以下の通り。

①まずは「特訓状態」移行を目指す 　
■角チェリー　■中段チェリー　■リプレイ3連
角チェリーと中段チェリー成立時は、特訓状態移行抽選が行われる。また、リプレイ3連時も特訓状態移行抽選が行われる。

特訓状態移行率(設定1～6)
角チェリー　　…6.7％　～　15.6％
中段チェリー　…設定不問で50％
リプレイ3連　 …25.0％～　40.7％

中段チェリー成立時は設定を問わず1/2で特訓状態へ！

②特訓状態はゲーム数管理 　
移行契機によって継続ゲーム数を抽選
角チェリー　　…平均21.7G
中段チェリー …平均28.8G
リプレイ3連　 …平均63.8G

最も長く滞在するのはリプレイ3連からの移行時だが、通常時のリプレイ確率は約1/7.1のため、移行機会そのものが少ない。

③特訓状態中のベル・スイカで発動抽選 　　
特訓発動率(設定1～6)
ベル　　…32.8％　～　39.1％
スイカ　…設定不問で75.2％

特訓状態中にベルを引けば、特訓発動の大チャンス。スイカは設定不問で特訓発動の期待大だ！要するに特訓状態中は、いかにメイン役であるベルを引けるかが重要となる。

さっきまでの連チャンで、投資分の大半は回収できた。この中段チェリーの1/2さえクリアすれば、逆転勝利を期待できる。あとはベルを引きまくるだけだ！ベル確率は約1/9.6。中段チェリーから移行した特訓状態の平均継続ゲーム数は28.8Gだから、ベルは3回くらい引けるハズ。ベルでの特訓発動率は約33～39％だから、特訓1回は期待できることになる。ちなみに特訓1回あたりのボーナス期待度は約42％。ボーナスを放出すれば、もちろん規定ゲーム数(128G以内)による連チャンも期待できる！

ここさえモノにすればマクれる！とにかくベルだ！スイカなんて高望みはしない。ベルでいい。ベルを重ねて特訓を発動させるんだ!!

10G経過――
ベルはまだナシ

ベル確率は約1/9.6だから、引けなくても仕方がない。なお、一徹「飛雄馬！」→明子「うふふ」でリプレイ揃いや、新聞→第3停止明子「うふふ」といった特訓状態濃厚演出が発生しているため、特訓状態へはしっかり上がったと思われる。あとはベルを引くだけだ。

20G経過――
未だベルなし

いやいや、頼むよ俺の右腕。なぜあとひと押しでマクれるっていう大事な局面で、ベルが2倍ハマリしてんだよ!?　せめて2回、いや1回でもいい。ベルを引かせてくれ…

30G経過――
まさかのベル未成立！

おいおい、もう特訓状態の平均継続ゲーム数終わってるよ!　でもまあ、あくまで平均だから。中段チェリーからの移行なら、最大50Gまで振り分けあるし…。

50G経過――
奇跡のベル未成立!!

ちょ～、シャレになってねんだよ！ 50G間メイン小役を引けないってなんだよ。これまでのパチスロ人生で、こんなことあったかな？なぜこのタイミングで？もう絶対に特訓状態終わったじゃねーかよ…

120G経過――
無慈悲なベル未成立!!!

ウソだろ…。メイン役が120Gもの間に1度も立たないなんて。そんなことがあっていいの？当然コイン持ちもシャレにならないほど悪いし。

ぎ、ギブアップ…。

もう、これムリ。
AI(人工知能)積んでるよ！
とびきり性格が悪いヤツ!!

そこそこのチャンスをかつてないほど豪快に空振りし、軽く精神が崩壊。もはや設定がどうとかの問題じゃない。暖かい布団に入りたい。そんな一心で、ほどなく席を立った。

結局ベルが成立したのは、中段チェリー出現の次ゲームから数え128G後のことだった。ええ、意地になって回しましたよ。こんなのに意地なんて見せたくなかった。なぜ、よりにもよって中段チェリー成立のあとにこんな悲劇が…。

この日の収支は－1万円ほどに。軽傷と言える程度だけど、心には大きな傷ができました。数学が苦手だから分からないけど、約1/9.6を127Gもスルーするのって、おそらく天文学的な確率でしょう。

パチスロってこんな悲劇も起こるんですね。確率の恐ろしさを身を持って経験した実戦でした。ちなみにスロ歴が19年になった今も、これよりヒドい確率のブレは経験してないですね。ベルフラグが消滅したと思いましたもん。

アナタにもこんな悲劇が起こるかもしれませんよ。

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。