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『新時代』～液晶と制御

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

午前8時。気温はそこまで上がっていないが、シャツには汗が滲んでいる。買って間もない原付は、まるで「これが中古たる私の職務です」と言わんばかりに、日に日に調子を落としていく。キックを25回ほど続けると、やっと頼りないエンジン音が鳴り始めた。

なるほど。バイク屋のオーナーが「バイクいじりが趣味の人じゃないと乗りこなせない」と言っていた理由が分かった。自力で直そうにも知識はナイ。近所のバイク屋に世話になるか…いや、今はそんなことを考えている場合ではない。原付に跨り、裏道から目的のホールを目指した。

「やっと…やっとアレが打てる!!」

その機種は、パチスロフロアの最も目立つ位置に鎮座していた。台数は5台とやや少なめながら、その堂々たる姿は神々しさすら感じるほどだった。

▲4号機「タイムクロスA」

山佐の液晶搭載機第1弾。仕様は至ってプレーンなノーマルAタイプで、液晶でウィンちゃんを見つけたらボーナス確定となる。しかし、この機種にはほかの液晶付きノーマルタイプと大きく異なるゲーム性があった。

あの朝の興奮は、どう言えば伝わるだろう。当時の山佐は、間違いなくパチスロ界を牽引するトップメーカーだった。人気機種を次々と生み出し、他メーカーを圧倒し続ける山佐。その山佐が、満を持して液晶機をリリースしたのである！近しい経験で言えば「ファイナルファンタジー7」の初プレイ。大好きなFFシリーズが、いよいよ3Dになった！それほどの期待・感動・衝撃だった。そして山佐は我々の期待を裏切ることなく、むしろ期待より遥か上のモノを作り上げた。　

近年パチスロを打ち始めたかたでも、タイムシリーズのストーリーはご存じだろう。タイム博士とアボット(ロボット)がタイムマシンで様々な時代を行き来し、行方不明になった孫娘「ウィンちゃん」を探す…というもの。4号機「タイムクロスA」には原始時代・古代エジプト・大航海時代・未来都市と4つの通常ステージが存在し、それぞれでゲーム性が変化した。

【各ステージの特徴】
ステージ名	特徴
原始時代	完全告知ステージボーナス成立ゲームで必ず告知
古代エジプト	チャンス予告ステージ出現する扉の種類でボーナス期待度示唆
大航海時代	小役ナビステージ小役ナビがハズれればボーナス確定
未来都市	期待度ナビステージ小役期待度＆ボーナス期待度をナビ

単純に通常ステージが4種類あるだけでなく、各ステージで演出やゲーム性が大きく異なる。ここまでは初打ち前の予習で知っていたが、通常ステージの秘密はこればかりでなかった――。

しばらく打っていると、少しずつ演出法則に気付いていく。古代エジプトはレバーONで出現する扉が重要。扉は金・銀・石の3種類で、金・銀なら小役orボーナス。扉が空いたあとの部屋が石の部屋なら、まだチャンスあり。金の部屋ならボーナスの期待大だ。また、未来都市はレバーONで「小役期待度」が表示される。たとえば「ベル→80％」なら80％でベル、残る20％がボーナスといった具合だ。無論、その際にベルの可能性が低い停止形になればリーチ目出現の可能性大となる。

そんな風に演出と出目の絡みを探り探り楽しんでいると、1人の店員さんが話しかけてきた。年齢はうちの父より上に見える。50代後半といったところか。

店員さん「面白いですよね、タイムクロス」
俺「ええ…実は今日が初打ちですけど」
店員さん「へ～、そうでしたか！気に入りましたか？」
俺「もちろん！さすが山佐って感じですね」
店員さん「液晶機第1弾でこの完成度ですもんね」
俺「筐体の操作性も良くなったし」
店員さん「そうですね。ちなみに…制御には気付きましたか？」
俺「エッ、制御…ですか？」
店員さん「おっと、まだのようですね」
俺「エッ？なにかあるんですか？」
店員さん「ちょっとした工夫が隠されているんですよ」
俺「工夫…？」
店員さん「ぜひ自分でお探しになってください」
俺「は、はぁ…」

正直、困惑していた。50代後半のおじさんからリール制御の話が出て来るとは。現在のPSメディア業界には50代で現役の大先輩がたくさんいるし、ホールでも腕の立つ50～60代をよく見かける。今であれば何も驚かない。当時のホールにも高齢のかたは大勢いたが、ゲーム性を理解しておらず、目押しもできないイメージだった。だが、この店員さんは…。

制御に工夫とは何のことか。たしかに山佐はリール制御に定評がある。液晶を搭載はしたが、今作も当然作り込んでいるハズだ。しかし、それは当時の山佐にとってごくごく普通のこと。それをわざわざ工夫とは言わないだろう。

そしてまたしばらく打ち続けると、通常ステージが原始時代に切り替わった。この原始ステージは完全告知ゆえ、出目を気にしなくてもボーナス察知が遅れることはない。正直、あまり好きなステージではなかった。

が…何かがおかしい。やたらとスベって、左→中リールで中段にベルがテンパイする。小役ハズレでリーチ目となるハズの停止形が、左リールにほぼ毎ゲーム出現する。かといって告知が発生しないところを見ると、ボーナスが成立しているわけでもなさそうだ。俺の目押しのせいか？気になって他のところを狙ってみると、今度は左→中リールで中段にリプレイがテンパイしてハズレ。何度同じところを狙っても、リプレイテンパイハズレの形が出続ける。ワケがわからない…。

困惑していると、レバーON時にハズレorボーナス対応の火山振動が発生。普段通り左リール枠内に赤7下のチェリーを狙うと、左リール中段にスイカが停止した。なんだハズレか…いや、待てよ。このステージのハズレ時は、左→中リールでベルかリプレイが中段にテンパイしている。でも今は左リール中段にスイカ…他のステージではただのハズレでも停止するけど、このステージでは逆にアツいのでは…？恐る恐るリールを止めると、第3停止後に火山が噴火しボーナス告知が発生！

俺「な、何だコレ!?　このステージだけ制御が…」
店員さん「気づきましたか？」

店員さんは近くで俺を見ていたらしく、告知が出たタイミングで話しかけてきた。

俺「なんか…このステージだけ制御が違うような」
店員さん「そうです！完全告知だけじゃ飽きられるから、この原始時代だけ制御を変えているようです」
俺「は？山佐スゲエ!!」
店員さん「左リールのハズレ目と小役ハズレ目の停止形が逆転してる感じかな」
俺「へー、そんなことできるんですね」
店員さん「原始時代のみ有効のリーチ目も存在しますよ」
俺「はー、そうなんですか！」
店員さん「ぜひ楽しんでください」
俺「ありがとうございます！」

ほんの少し話しただけでも、パチスロへの強い愛情が伝わってくる。そして接客業をやっているだけあり、品があってキリリとしている。身長こそ低いが、まさに紳士といった雰囲気だ。カッコイイ。あんなカッコイイ50代には出会ったことがない！

この「タイムクロスA」を打ったホールが、のちに俺のバイト先となる。あの紳士から学ぶことも多いハズ。そう思ったのも1つの理由だ。

――後日。
事務所に通されると、革のソファーにコワモテが2人座っていた。あの紳士とは全くイメージが違い、いかにも黒社会に生きる男といった風体だ。体の大きいほうがマネージャー、やや小さめのほうが副店長らしい。マネージャーは俺の履歴書を見もせず笑いながら言った。

マネージャー「ボウズ、ウチの店の評判はどうだ？」
俺「僕の仲間内では良いですね。高設定も使ってそうだと…」
マネージャー「ブハハハハ、聞いたか？高設定使ってそうだとよ」
副店長「ハハ、嬉しいですね」
マネージャー「今日の大花の設定教えてやれよ」
副店長「いつも通り、綺麗なベタピンです」
俺「はは…(いつも通り？)」
マネージャー「ブハハハ、キミ面白い顔するな！ヨシ、採用！」
俺「はぁ…ありがとうございます」

こうしてホールでのバイト生活が始まった。

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。

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