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元・ホール店長カタギリのしくじり店長
2017.06.14
しくじり店長・第46話『甘くないパチンコ生活』
規則的に開閉する電動チューリップのハネにタイミングを合わせて打ちだしを止め、丁寧に球を拾わせていく。下皿に払い出される、その数十発の銀玉の積み重ねこそが日々の糧となる。
「俺たちはこの1発の玉にメシを食わせてもらってんだ、だからしっかり拾わなきゃならねぇんだよ」
通路の端に零れ落ちていた鈍色の一球を指さしながら、トキタ班長が私に諭す。遥か昔に教わった有難い訓示を今、再び胸に蘇らせながら対峙するのは人気の甘デジ『CR北斗の拳 STV』だ。しっかり拾わせなきゃならないぞ、メシを食うために……!
パチンコ店の責任者という立場を捨て、選んだ道はパチンコ生活。その理由は「他にやるべきことが、何も思い浮かばないから」という情けない程に単純なものだ。
「まあ、大変な仕事なんやけん、長く続けんでよかったわい。 ……お金は大丈夫なん? パチンコばっかりやりよったらいけんで」
仕事を辞めたことを伝えた母の声から、安堵を上回る不安の色を感じる。
「大丈夫よ、パチンコなんて負ける遊びじゃけん。 友達の仕事とか手伝いよるし、心配いらんで」
退職金はゼロ。預貯金の額だって、ホールに取られて取られ続けてきた今では実に心もとない。1日の大当り回数次第で瞬く間に明日からの不安が膨らむ毎日。また、嘘を重ねてしまう。
私はきっと、これからも、ずっと大切な人を不安にさせないために、その場しのぎの言い訳を、いや、自分のちっぽけなプライドを守るためだけに虚勢を張り続けて生きていくのだろう。受話器の向こう側で、母はどんな顔をしているのだろうか。しかし、そんなことを考えた数十分後には、再び足は閉店間際のパチンコ屋へと向かっていた。そう、明日も戦わねばならないのだから。
幸いにして、あるいは不幸にして。私にはパチンコ店での勤務生活の中で体得した『勝ち方のコツ』があった。自分がこの店の責任者ならば、どの機種を甘く使うだろう。どの場所に、高設定台を配置するだろうか。ホールの状況は稼働が高すぎても低すぎてもダメ、自宅から遠すぎても効率が悪い。その上で対象店舗を10数店舗に絞り、イベント日を狙い打つ。調子の上がらない日は自宅の最寄り駅前にあるホールで、甘デジの止め打ちを駆使して日当を稼ぐ。そんなありきたりな立ち回りでも、十分に暮らせるだけの金額を稼ぐことができたのだ。
これならば、生活はやっていけそうだ。そう、その先の人生など考えなければ、の話だが。
木枯らし吹き荒ぶ晩秋の夕暮れ時、家路を急ぐ家族連れたちの隙間を縫うようにすり抜け、クリスマスツリーの赤と緑の眩しさから目を背けていた。「首輪の外れた飼い犬は、傍から見れば野良犬だ」と、自身に向けて吐き捨てるように呟いてみる。誰かの評価で心が揺らぐことの無い、文字通りの自由。その代償は、果てしない孤独だ。
こうして平成18年の年の瀬は手招きせずとも勝手に訪れ、彩も華も無い無常な新年を迎えたのである。
明けて翌年。半年を迎えようとしていた食うためだけのパチンコ生活にようやく危機感を覚えた私は、新たな仕事を求めてハローワークへと足を運んでいた。
早朝から手に職を掴むために、青白い仮面に澱んだ目を貼り付けたような人の群れ。その人波に身を投じると、いかに自分が世間と隔絶した生活をしていたのかを痛感させられてしまう。パソコンの前に座り画面を凝視する、スーツ姿の年配の男性。求職票を手に、長蛇の列の最後尾で祈るような表情を浮かべる乱れ髪の中年女性。その中で所在なくウロウロとしている私は、伸び放題のヒゲも相まって指名手配中の容疑者のように見えることだろう。
「……カタギリさんは、どういったお仕事をお探しなんですかね、ええ、ええ、ええ」
目の前に座っている薄毛中年が、日に何度もするであろう質問をぶつけてくる。
「ええっと、特に資格とか持ってないので、簡単な事務作業的なもの、とかで何か無いッスか?」
自信無くそう答えた私を、魚群を10回連続でハズしたような表情で見つめる薄毛先輩。
「……そういう方にはまず、職業の適性を検査するサービスを受けて頂きたいですね、ええ、ええ」
ハイ、終了と言わんばかりのファイナルアンサーを提示されて面談は約60秒でジ・エンド。言われるままに移動した先にあったのが、職業適性検査コーナーである。
「ここではまず、カタギリさんがどのような仕事に向いているのかを調べることができるんですよ」
登場したのは先ほどとは打って変わって、思わずチキンナゲットを注文したくなるようなスマイル(¥0)を浮かべたムチムチ熟女。
「ここに書いてある質問に答えて頂ければ、カタギリさんがどんな仕事に向いているのかわかりますよ!」
豊満な女性から手渡されたマークシート形式の紙。そこに書かれていた心理テストのような設問を、3浪中のエリート予備校生気分でもれなく回答。
「後日、検査の結果は出ますので今日はお帰りください、おつかれさまでした」
言われるままに熟女専門店、じゃなかった、ハローワークから退場。これで適職が見つかるのだろうか?
そして翌週。先日の適正検査の答えを聞くため、半年ぶりにスーツを着てハローワークへ向かうと、スマイル熟女が再び登場。
「あらカタギリさん、スーツを着るとマトモな人に見えますね! では、さっそく本題に入ります。今回、カタギリさんに最も適した職業がわかりましたよ!」
「マジっすか! 自分に向いている仕事って、いったい何ですかっ!?」
「カタギリさんに最適な職業は……」
「私に向いている仕事は……!?」
「芸能リポーターですね!!」
「……げ、芸能リポーターですかっ!?」
予想の遥か上空にある返答に、思わず熟女の目を凝視する。しかしながら、彼女のブ厚い唇の隙間からは、さらに予想を下回る返答が飛び出してきた。
「……芸能リポーターって、どうやったらなれるのかしらね?」
だから、それが知りたくてハローワークに来てんじゃねぇかよおおおっっっ!!! 結局、その日は何の進展も無いまま面談終了。
その足でパチ屋に飛び込んで座った『CRエヴァンゲリオン 奇跡の価値は』を打って、3万円近い金額をロストして気絶寸前で帰宅。もう少し先の話になります、私の再就職は……。
カタギリ・今週の1枚
最近のお気に入り機種である『CR Another』のアナログ抽選にドハマリしております。時短中に役モノルートへ玉が向かった時の悲鳴(?)と、クルーンで回転中の警報音、そして転がり落ちた玉が回転体のVにビシッと飛び込んだ時の高揚感と、どれも一級品。
玉のアクションに一喜一憂できるパチンコ、もっと増えてくれないかなぁ。
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- 元・店長カタギリ
- 代表作:しくじり店長
シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、 雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。 そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。 タイトルは「しくじり店長」。 パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、 海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。
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自分の適性にどこで気が付けるか、なんですかね?
私はパチンコが大好きだから、という理由でこの仕事を選びましたが、天職かどうかと聞かれたら首を傾げてしまいます。
なかなか難しい話ですよね。
ガバガバのハンドルを分解して、中から取り出した小銭を募金箱に投入。
そのあと、組み立てに失敗して玉が飛ばなくなるトラブル発生。
昔のパチ屋の店員あるあるです(笑)。
調べてみたら、まだ初代を設置しているホールは意外に多いんですね!
10年以上も昔の台を大事に使ってくれているホール、素晴らしいですな。
違った道を歩んだ自分の姿を、時を経て振り返る。
有名な女性芸能人と結婚した寿司職人にマイクを向ける私。
……う~ん、
交わるようで交わらないような「もしも」の世界を想像するのも楽しいですな!
ミーハーな私にとってはある意味、天職だったのかも知れません。
……が、
自らのスキャンダルで失職する可能性も、ある……。
(ライフルを片手にダンディーなコメント返し)
北斗STV懐かしい!ハンドルがばがばで、100円挟んだらスルリとハンドルの中へ飲み込まれた苦い思い出(笑)
16歳で勤め始めた土建会社の職人さんとのやり取りに疲れて転職しようと診断受け
『寿司職人』
と言われたあの日、全力で抗って今の私があります。
ミ◯ネ屋にカタギリ様が出ていたかもしれない未来・・
カタギリさんが本当にリポーターになってたら今ごろは若手俳優に突撃してるころですね。
お互い美人局には注意しましょう(なんの話だ)