あのときオレはクズだった　第31回　~第2部ガイド編~

田中（クズプロ田中→クズ田中→田中）あのときオレはクズだった~田中の回胴回顧録~

ささいなことがきっかけで、数ヶ月におよぶ冷戦に突入した結果は……

　長年スロ打ちをやっていると、設定とは別のところによる好不調の波というものを感じることがある。北斗の拳のデータ取りで67連、一撃万枚を達成するなど、絶好調を自覚しているときはなんとしても打ちたいもの。プライベートでも仕事でもいいから、とにかくホールで打ちたい。そう思ってはいるのだけど、人生とはうまくいかないもので、そういうときに限ってお金が一切からまない、攻略ルームでの実戦仕事が入ってくるわけだ。

　なんの機種だったかは忘れてしまったが、編集部の一階にある攻略ルームで、ういちさんと二人で金のからまないお仕事パチスロを打っていた。

　パチスロが何十台も積み上げられた狭い攻略ルームでノルマの5000Gを回すというのは、ある意味では作業。朝の10時から夕方の6時まで、他愛もない会話をしながら打つのがいつもの攻略ルームの光景だ。

ういち｢田中、最近はなに打ってんの？｣

　スロッターにとっては、いわば挨拶のようなやり取り。当時はオリンピアから出た『それ行け！マンボウ』という台をとにかく打っていたので、いかにマンボウがアツいか、そんな話を熱弁していたのだった。

ういち｢へ~、アツいねそれ。明日も打ちに行くの？｣

　そんなことを聞かれたんだと思う。そして、自分はそれに対して、こう答えた。

｢いや、明日は五島さん(塾長)と打ちに行くことになっていて、そのお店ってマンボウが入ってないんですよね。なんかボク、明日のためにこのあと、その店にデータ取りにも行かなきゃいけないですし、大変ですよ。本当はボク、マンボウが打ちたいんですけどね……｣

　そう答えたわけだが、ういちさんは真っ直ぐな性格だし、正義感の強い人。僕のことを思ってくれたのだろう。すぐさま塾長おじさんに連絡をして、伝えたのである。田中は、本当はマンボウが打ちたいのだ。あんたのために閉店時のデータを取っている場合ではないのだ。好きな台を打たせてあげなよと、そんなことを言ってくれたわけだ。

　まあ、普通の大人のやり取りであれば、ああ、そうなんだと。じゃあ別にいいやとなるんだろうが、ういちさんと同じく塾長おじさんもこれまた己の感情に忠実な、真っ直ぐな性格をしているので、その言葉を聞いた瞬間、こうなったわけだ。

塾長｢てめぇ田中コノヤロー。行きたくないならカゲでこそこそ言ってないで、俺に直接言えってんだよ。あったまきた。もうお前なんか二度と誘わねー。二度と一緒になんか打ちに行かねー｣

　そう言って、烈火のごとく怒ったのである。

　結果的にはボクが陰でこそこそ言ったわけで、それを耳にした塾長おじさんが気を悪くするのは仕方がない。それでも、いい年をした大人。そんなやりとりがあったとしても次に会えば普通に会話をするだろうし、第一、マンボウが打ちたいとか、そんな理由でケンカなんてするはずもないわけで、自分としてはそんなことはもう忘れかけていたんだけど、これをきっかけに塾長おじさんは本当に、自分と一切、口をきいてくれなくなった。

　編集部で会って挨拶をしても、返答なし。一緒にデータ取りに行っても、会話なし。もしかしたらすぐに謝れば事は大きくならなかったのかもしれないが、それ以降、近づいたらブン殴られるんじゃないかと思うとなんだか怖くなり、意識的に自分は、塾長おじさんから距離を取るようになった。

　そんな日々が三ヵ月も続いただろうか。その日はたしかマッパチのお二人のライブがあって、ライブに参加した後に居酒屋の座敷で打ち上げという名の宴会をすることになった。ライターも編集者も読者さんも、みんなが盛り上がる宴会の席でも自分は塾長おじさんからもっとも遠い席に座って、目立たないように、こそこそと飲んでいた。

ういち｢おい、田中～。ちょっとこっちにきて｣

　まだ宴会が始まって間もないころに、一番遠くの席から、そんな声が聞こえてきた。ういちさんが座っているのは、塾長おじさんのとなりの席。行きたくないなあ。そう思いながらもそばに行くと、ういちさんは開口一番、こう言った。

ういち｢悪かった。オレが原因でもあるから、もう、この場でいま仲直りしてくれよ｣

　それを聞いて、おじさんが口を開く。

塾長｢なあ、田中。オレがされてイヤなことって、お前ならわかるだろ？｣

　はい、わかりますと、すみませんでしたと謝って、その場はなんとか丸くおさまりかけていたのだが、塾長おじさんが再び口を開く。

塾長｢陰でこそこそするからオレは怒るんだぞ。言いたいことがあったら直接、言えば怒んないんだから。お前、これだけ一緒にいたら、俺の性格なんてわかるだろ。よし、わかった。お前、なんか思っていることがあるなら、いま全部言ってみろ｣

　たしかに、こそこそしていた自分が悪かった。面と向かって話せば、ちゃんと受け止めてくれるのだ。そう思って、正直に話すことにした。

｢一緒に打ちに行くのは良いけど、前日にデータを取りに行くのはイヤです。一緒に飲みに行くのは楽しいんですけど、キャバクラはそんなにボク、好きじゃないんですよね。それと、一緒に打っているときに隣の人が明らかに高設定じゃないとわかったとき、その人に見えるところでガッツポーズするの、あれ、恥ずかしいです。それとそれと……｣

　気がついたら、塾長おじさんの顔が怒りに震えていた。

塾長｢てめぇ、この野郎。そんなこと思ってたのかよ。ブン殴ってやるからいますぐオモテ出ろっ‼｣

　自分がなんでも全部言えっていったのに……。

これが知る人ぞ知る、｢オモテでろ事件｣の真相である。

　それ以来、自分は塾長おじさんには遠慮せずに、なんでも話すようになって、さらに距離が縮まったように思う。いまはもちろん、良い先輩であり、兄貴のような存在であり、ときには父親みたいな存在で……って、とってつけたようなフォローに聞こえます？　フォローしとかないと、また口をきいてくれなくなるんだってばっ‼

あのとき打っていた「それ行け！マンボウ」

【メーカー】オリンピア　【販売年月日】2003年2月　【タイプ】Aタイプ(ストック)
2003年2月に導入されたオリンピアの『それ行け！マンボウ』の魅力は、なんと言ってもそのボーナス放出システムにある。チャンス目を契機に決闘ステージに突入すると、成立した小役によって敵キャラにダメージを与えることができ、敵のHPをゼロにできればボーナス確定。レアキャラの｢バッドタンゴ｣を倒すことができれば、以後、敗北するまでは敵のHPが激低の状態からバトルがスタートするので、大連チャンの可能性大となった。

クズの成績表：★★★★★（それ、言う？）

「よし、わかった。お前、なんか思っていることがあるなら、いま全部言ってみろ」

これって割と有名な本当に言ったら怒られるフラグのやつですよね？普通の人間であれば、ここは「いえ、とんでもねぇ。なんもないっすよ(ｴﾍｯ)」ってなもんですよ。これで丸く収まりますよね。

いっちゃうんだもんね。それとそれとっていっちゃうんだもんね。

田中氏の素晴らしき活動はコチラから！

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田中（クズプロ田中→クズ田中→田中）: 代表作：あのときオレはクズだった~田中の回胴回顧録~

パチスロ好きが高じて21歳の時にパチスロ必勝ガイドにてライターデビュー。若手時代は勝ちキャラだったものの徐々にクズっぷりを発揮し、昼はギャンブル、夜は酒をモットーに活動を行う。30歳で思い立ってフィリピンに英語留学へ行き、2012年の2月より世界の子ども支援を行うNPO法人セブンスピリットを設立。フィリピンのセブ島でNPO活動をしながら執筆も行っている。