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パチ7虎の穴
2026.06.08
【ロマンティックパチンカー】No.20 至高のリーチ目

隣でアステカを打つ友人Kの手が止まった。そして、投入しようと握っていたコインを下皿に放り投げ、タバコに火をつけ呟いた。
「リーチ目が出た」
リーチ目だと…!?俺は驚愕を多分に含んだ目線をKに送る。2週間前にパチスロを覚えたばかりだった俺たちは、これまでボーナスの察知をアステカルーレットにのみ依存してきた。
ある特定の出目をリーチ目と呼び、それが出ればボーナスが揃う状態になる、ということはなんとなく知っていたが、そんなもの覚えなくても楽しく打てるのがアステカだった。呆けた表情を浮かべる俺を横目に、Kは1枚掛けで青7を揃えながら言った。
「シシボで帽子ハズレはリーチ目だ」
悔しいが憧れた。高校の同級生だったKは、常に俺のライバルだった。
初めてKの家を訪れた際、お互いの実力を測るべくファミコンのキン肉マンで対戦することになった。勝てば官軍よ、と遠慮なくブロッケンJr.を選んだ俺に対して、奴はウォーズマンでもバッファローマンでもなく、キン肉マンを選択した。ははーん、こいつは通を気取ったクソ野郎なのだな、よかろう、八つ裂きにしてくれるわと意気込んだ俺だが、奴のキン肉マンさばきは超一流で、まさかの敗北を喫してしまった。
あの日から、奴との戦いは始まった。その翌週はスト2で対戦し、俺がザンギエフで4発のスクリューパイルドライバーを叩き込みリベンジを果たしたことで、奴も俺のことを好敵手として認めたようだった。
そうやってお互い切磋琢磨しながら成長してきたが、今日のところは完敗だ。俺は素直に負けを認めた。
当時、パチンコばかり打っていた俺たちにとってスロットのシマは非常に敷居の高い空間だった。まずボーナスを揃えるのに目押しが必要で、それが出来るようになったのは俺の方が先だった。
しかし、その後はスロット攻略誌を読んだものの「フラグ」であるとか「制御」の意味が全くわからず、ただアステカの7を揃える気持ちよさを味わうだけの日々を過ごしていた。
いつまでも同じ場所で足踏みし続けていた俺とは違い、奴は影で相当勉強したのだろう。その努力は認めねばならない。今日のKの横顔は、どこか凛々しく感じられた。
だが、その後に鼻で笑いながら放った奴の不用意な一言が、俺の闘争心に火をつけた。
「まあ、テメーはいつまでもミドマをリーチ目って言ってろよ」
目にもの見せてやんよ。俺は心の中で血の涙を流しつつ、そう叫んだ。
Kと別れた後コンビニに直行した俺は、目についたパチスロ攻略誌を片っ端から購入した。
ご存知ない方のために説明すると、アステカとは1999年にエレコから販売されたチャレンジタイム(CT)を搭載したBタイプで、それ以前のCT機よりも目押しの難易度が格段に下がったことから爆発的な人気を得た。
リーチ目も秀逸で、特に左リールの2連白7が枠内に停止すると、白7白7帽子(シシボ)であれば1リール小役ハズレ目、サボテン白7白7(サシシ)なら問答無用の1確目になるなど、出目によるインパクトも絶大だった。
そのためアステカは、どこのホールにも設置されているほどの人気機種で、買った全ての雑誌にアステカのリーチ目が掲載されていた。これらを完璧に頭に叩き込めば、奴に一泡ふかせることができるはずだ。
机に向かい、一つ一つの出目を覚えるその集中力は、受験の際にTarget1900を16番目の単語で投げ出した男のものとは到底思えず、俺は次々とリーチ目を脳に刻み込んでいった。
さて、この中でどの目が1番奴にかますことができるだろうか。俺は、長考に入った。サシシやデカチリは確かにインパクト抜群だ。だが、こんなメジャーなリーチ目は、すでに奴も知っているだろう。
「ねえ、入った?いや、入ってないって!え…絶対入っちゃってるじゃんこれ!」という、一聴するとまるで10代の仲睦まじい男女の会話であるかのような、ぱっと見入ってなさそうだが実はボーナス確定、いま欲しいのはそんなリーチ目だ。
そして、ある目に心が囚われた。派手さは全くない。本当にこれがリーチ目なのだろうか。マニアックさ全開だ。気に入った。この目でボーナスを察知することができれば、きっと奴も俺にひれ伏すはずだ。
いつの間にか夜が明けるどころか、時計の短針はまもなく10の数字に到達しようとしている。高鳴る胸の鼓動は、眠ることを許してくれそうもない。Kのことだ、恐らく今日もあの店でアステカを打っているだろう。そのリーチ目に「未成年」と名付けた俺は、決着をつけるべく玄関を飛び出した。
案の定、Kは行きつけのホールでアステカを打っていた。挨拶もそこそこに奴の隣の席を確保した俺は、さっそくプレイを開始する。そして、左リール2連白7の上の方をできるだけ下段に狙う。間違ってサシシが停止しまったら1リール確定目につき、チャレンジは失敗となる。
注意深く目押しをして、左リールにササシが止まれば中リールにはボサシ、ボサシが止まれば右リールにはサボテン付きの青7を狙う。
「おらあ!おらあ!」
修行僧のように同じ箇所を狙い続けること約300ゲーム、ついに運命の瞬間が訪れた。右リール中段に青7が停止したのだ。
下段に白7がテンパイし、右リール中段に青7という一見なんでもないバラケ目であるのにこれでボーナスが入っているとは、なんとも粋な目ではないか。出目に酔いしれつつKの顎を掴み、こちらを向かせ叫んだ。
「おまえ、この目知らねえだろ!俺はこの出目にみせいね…」
「おお!ササシサボコブかよ!渋い目知ってんじゃねえかテメー!」
「…お、おぬーん」
鬼の首でもとったかのように叫んだ矢先、被せ気味に放たれたKの謎の言葉に不覚にも「おう」と「うん」の間に生まれた子供のような、なんとも間の抜けた相槌を打ってしまった。俺の動揺を悟ったのか、Kはニヤリと笑った。
「え、まさか知らねえの?右が中段青7じゃなくてもササシからサボテンが小Vはリーチ目でササシサボコブって言うんだぜ。まあ、知ってるよな、フツー」
「おぬーん」
いいだろう。その後、感情を押し殺しつつ無表情で白7を揃えた俺は、ボーナスを消化しながら無言で頷いた。アステカでは負けた。完膚なきまでの敗北だ。
だが、パチスロは他にもある。新たなる台で今度こそリーチ目を極め、必ずや貴様に打ち勝ってみせる。
ハズレ確定のCT抽選ルーレットを睨みつけながら、心の中でそう誓った。
Kを倒すべく修行の道を歩み始めた俺だったが、そんなことは早々にどうでもよくなった。リーチ目を知ることで、より一層パチスロにハマった俺たちは、競い合うように熱くなれる台を探した。
まず俺たちを狂わせたのが花火だ。セオリー通り左リール上段にBARを狙いハサミ押し、小役がテンパれば中リールに氷付きの赤7を目押しして何も揃わなければボーナス確定と、それだけなら何の変哲もないパチスロ機だが、花火には「遅れ」があった。
スタート音が遅れればチェリーorボーナス。普段当たり前のように停止する左リールBAR上段が遅れを伴えば1リール確定目に昇格となる。これが、灼熱だった。
この「遅れ1確」に取り憑かれた俺たちは、来る日も来る日も花火ばかり打っていた。そんな俺たちをより深く沼に沈めたのが、液晶付きの花火ともいえる名機中の名機「ドンちゃん2」だ。
出会いは最悪だった。ドンちゃん2のリール配列は一見花火と似ているようで、大幅にリニューアルされていた。とりわけ不満を感じたのがゲチェナだ。花火では左上段BARから右リールゲチェナ停止は問答無用の2確目だったのに対し、ドンちゃん2ではBARの位置が変わったことによりゲチェナがリプレイハズレ目と、格下げ感が否めない配列に変更されていたのだ。
「クソが!ゲチェナが出るたびに反応しちまうじゃねえか!」
「だよなあ。7上段狙いにすれば2確だけど無理だよな。俺、花火打ちすぎてBAR狙うのがDNAに刻まれちまったみてえだわ」
そんな愚痴を言いつつも、ボーナス中の複合役による獲得枚数の魅力には抗えずにドンちゃん2を打ち続けていたある日、その評価が一変する出来事に遭遇した。
その頃俺たちは、出現率が都市伝説レベルといわれる「喧嘩仲直り」を出したら煙草10カートン、という勝負を行っていた。そのため常に演出を赤ドンに設定していたのだが、その日の1ゲーム目に変更を忘れており、レバーオンとともに金魚すくい演出が発生し、青ドンが黄色の金魚を捕獲した。
舌打ちしつつ、はいはい、提灯ね、と左右のボタンを押した瞬間強烈な違和感に我が右手が止まった。なんと、右リールにゲチェナが停止しているではないか。
「に、に、2確ぅぅぅぅ!!」
思わず立ち上がり叫んだ。Kも何事かとこちらを向く。震える手で中リールを止めると、当たり前のようにリプレイがハズれた。演出は提灯orボーナスで、リールはリプレイorボーナスにつき、ゲチェナが2リール確定目に昇格したのだ。
身体がブルブルと震え出した。アルゼさん、あんた…。なんちゅう台をだしてくれたんや、なんちゅう台を…。
きっとこの時の俺は、生まれ故郷の鮎を食った京極さんのような顔をしていただろう。Kも満面の笑みを浮かべながら言った。
「おいおい、とんでもなく熱いじゃねえかよドン2よお!」
その日のボーナスはそれ1回きりで、しかもバケだった。ボロ負けだったが、帰り道Kと夕日に向かってタバコをふかしながら語った。
「パチスロ、おもしろすぎるだろ!!」
そして、このドンちゃん2をきっかけに俺たちは加速度的にパチスロにハマっていったのだった。
そして今、あの頃の熱い気持ちを思い出させてくれる台に出会ってしまった。

5号機以降、雨後の筍のようにリリースされた「液晶を活かすためにチャンス役成立後はRTに突入し連続演出成功後にボーナス確定」のようなノーマルタイプが肌に合わず、いつしかジャグラーやハナハナ、アクロス系の台ばかりを打つようになっていた。
人それぞれ好みはあるだろう。だが俺は、ノーマルタイプは出目を楽しみたい。液晶はその出目をより熱くさせるスパイスであり、チャンス目やRTなど、俺には不要なのだ。
そんな俺の好みに超どストライクだったのが、シェイクだ。こんな台を開発してくれる人がまだパチスロ界にいたのか、と感心させられたほどだ。
初打ちの際、演出なしでBAR下段からリプレイベルのダブルテンパイがハズれ、あっさりとボーナスが確定して思った。これこそが俺の求めていたパチスロだ。
さて、今回の対戦相手はもちろんシェイクなのだが、この台を選んだ理由はただ好きだから、だけではない。
俺がこれまで揃えたシェイクのBIGは計10回だが、その内継続JACをひいたのは2回のみだ。この数値は明らかにおかしい。
この現象を相性が悪いとか、引き弱という言葉で片付けるような男にロマンティックパチンカーを名乗る資格はない。真のロマンティストであれば、こう考える。
「恐らくいま、俺の体内には継続JACが貯まっている」
この、貯めに貯めた継続JACを放出できれば、どんな設定でもシェイクと戦うことができるはずだ。
今回の戦略は、設定不問でシェイクに全ツッパ。いつになく自信に満ちた表情で開店を待ち、無事シェイクを確保した俺は、ポツリと呟いた。
「勝ったな」
1万円札を豪快にサンドにぶち込み、いざ実戦スタートだ。
総投資は19本、そこに至るまでに何一つドラマはなく、バケをひいてはのまれ、ビッグをひいては継続せず、常人であれば精神が崩壊するような展開をひたすら耐え続けた。
初BIGでさっそく終了JACをひいた際には「ククク…また貯まったねえ」と魔女のような笑みを浮かべる余裕があったが、その後BIG間で750ゲームハマりやっと当選したナディアがまたしても303枚で終わった直後には、JAROに「絶対に40%は嘘です!」と電話しそうになった。
しかし、幾多の困難を乗り越え、遂にたどり着いた。残りクレジットはあとわずか、これを呑まれたら流石の俺も力尽きるかもしれない。そんなタイミングでひいたBIGで、ついにSJACに当選したのだ。
頭の中で、ふんどし姿の屈強な男たちが打ち鳴らす和太鼓のビートが響き渡った。祭りの始まりだ。
そのボーナスは592枚で終わるも直後、75G、60G、126G、とストック機を彷彿とさせる回転数でビッグに当選、当たり前のように継続JACをひきまくり、あっという間にクレジットは2000を超えた。
こうなると、悩ましくなるのがやめ時だ。
ここに至るまで珍しくきちんとカウントしていた小役はベルが1、スイカとチェリーは高設定を示唆していたが、1番肝心なボーナス確率、これが「偶数」モロだしだった。
6はない。これまでの人生経験が脳裏に囁く。だとすると、残すは「2」。この俺が、シェイクにおいて最も夢がないと感じ、できれば避けたいと思っていた設定である。
そんな想いが生じたからには、一刻もはやくやめるのが正解だ。だが、立てなかった。肉体が、いや、細胞がこの台から離れることを拒んでいる。
シェイクは本当に素晴らしい台だと思う。どんなにダメな演出からでも不意打ちのようにリーチ目が降臨するし、BT中は中毒になるほど熱い。
だが、唯一の欠点を発見した。面白すぎて、やめ時がないのだ。
だらだらと打ち続け、少しずつ減っていくクレジットをぼんやり眺めていると、突如EQ演出が発生した。
左リールにBARを狙うと下段に停止、イコライザーはハズレorボーナスをナビしている。そして、何も考えずにハサミ押しで右リールを止めた俺の前に、衝撃の目が停止した。

「に、に、2確ぅぅぅぅ!!」
下段にナディアの姿があった。いわゆるゲチェナディだ。その2リール確定目は、本日1番の出目だった。これこそまさに、至高のリーチ目だ。
身体中に満足感が膨張していく。ボーナスはバケだったが、もはやそんなことはどうでもよかった。礼儀としてそのバケで得たクレジット分を消化した俺は、席を立った。ここが最高のやめ時であることに、もはや疑いの余地はなかった。
以下結果である。
投資 19K
回収 1501枚(28K)
total +9K
写真に収めた至高のリーチ目を眺めた。なんとも素晴らしい出目だ。6号機の時代となった今でも、あの頃のように熱狂できるマシンに出会えるとは、夢にも思わなかった。
ふと、思った。Kはまだ、パチスロを打っているだろうか。
打っていなくてもかまわない。とりあえず、この写真を送ってみよう。Kのことだ、きっとすぐに電話してくるに違いない。
その時は、こう言ってやろうと決めている。
「パチスロ、まだまだおもしろすぎるぞ!」
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- ダスト
- 代表作:ロマンティックパチンカー
ルパンでパチンコを覚え、アステカでパチスロを覚え、ミリオンゴッドでギャンブルを覚えました。子供が生まれた時に一旦現役から退きましたが、先日7年ぶりにパチンコ屋に行き、再び悪い心に火がつきました。リハビリ感覚で、ハネモノ、遊パチから始めようと思います。
プレイスタイルはロマン打ち、愛があれば確率なんて超越できると信じています。嫌いな言葉は下ブレです。



