話を作るお時間3

まるで蒸し器の中に放り込まれた様な暑さの駅構内で俺は着信をとった。


もしもし。

「あー…もしもし。今時間大丈夫か？」

サッサと用件話せよ。

「昨日は申し訳なかった」

申し訳なかった？おめーら2人は揃いも揃って能無しだな。謝れば済むのか？

「許してほしい」

…お前正気か？

「許してほしいから電話したんだ。用件はそれだけだ」

なるほどね。じゃあ答えはノーだ。許さねーよ。許す素材が無いからな！許してほしい言う人間の態度じゃないだろ。

「態度？じゃあどうすればいいんだ？」

逆に聞くけどよ？俺の立場になってみろや。そんな言葉の使い方で許してほしいとか上から目線で言われて許すか？

「別に上から目線で話してない。敬語使えばいいのか？」

てめぇはどんだけ人を馬鹿にすりゃ気がすむんだよ！！！


一応人前だし俺はグッとブレーキをかけていた。
感情をとにかく押し殺せ…。とにかく…。
そう念じていたが…駄目だった。
1度ブレーキを離しアクセルを踏み始めればあとはどこまでもどこまでも加速するだけだった。


「どうすればいいんだよ」

相当馬鹿らしいな！いいか？今この場で許すなんて選択肢は無い！まず電話で許しを乞いてんじゃねー！中学生かボケカス！人に謝るっつーのはなぁ！ちゃんと目の前で頭下げるのが礼儀なんだよ！！


感情の制御が効かなくなると比例して声のボリュームも壊れていった。
通り行く人達は俺を関わるべき人間では無いという冷ややかな目でチラ見していった。
典型的にコソコソ話してる奴らもいた。
そんな奴らなんか見向きもせず俺は電話の向こう側にいる敵と戦っていた。

「それなら今から少し会ってくれよ」

いちいちイラつくな！会ってくれじゃねーだろ？お願いしますだろ？その辺が上から目線で話してるっつってんだよ！そんな奴と会いたくもねーわ！あと少しってなんだ？

「予定あるんだよ」


何かが音を立てた。
目の前が白くなった。白い靄が段々と濃くなっていった。そして自然と笑えてきた。


そうか。やっぱもう謝らなくていいわ。

「謝れとか謝るなとかどっちなんだよ」

謝らなくていいよ。もう許す事もないから。

「は？」

馬鹿さ加減に飽きた。悪いと思ってるなら今日会った時に言えただろ？それも無かったよな？そしてこの電話で許してほしい。更に予定あるから手短にって事だよな？

「…まぁ」

いきなりヘラヘラと話し始めた俺に電話越しでも異様な空気を感じたのか男は少し躊躇した感じで答えた。


お前の気持ちは十分理解できたよ。ハナから謝る気は無いよね？ならもう話しても意味ないのよ。だから謝らなくていい。マジで。

「謝る気あるから電…」

大概にしとけや！！！いつまでも調子乗ってんじゃねーぞ！！田舎帰る準備しとけカス！！てめぇとはこれまでだ！！2度と連絡してくんじゃねーよ！！


そう言って一方的に通話を終了した。いつの間にかホームまで歩いてたらしく電車を待つ人達の視線がこちらに向いていたが、すぐ逸らされた。
ケータイの電源を切り電車のドアにもたれて外を見ていた。
ただ見ていた。

人付き合い…友達…そんなもんクソでしかない。
いらねーな。邪魔でしかない。上っ面だけ。
全員死ね。
いやおかしいか。
俺が全部嫌になってんだから俺がいなくなりゃ全部解決か。
でも苦しいのとか痛いのは嫌だな（笑）
生きるって…面倒くせーな。


続く

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