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私も 2/4
私も 2/4
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咲夜 一咲(サキヤイッサ)さん
月一ペースでコラム書いてます 偏見もあるので生暖かく見守って下さい - 投稿日:2016/04/02 21:16
今日は並びの熱いイベント日だ
ここで良い台を掴まないと生活が苦しい
もうすぐ開店時間
前に居るのは5人なら多分、取れるだろう
桜は、まだ、そのつぼみを寒さから守るために開こうとしない
そんな空の下、俺は2時間以上は我慢して並んだんだ
店舗に入れば空気は適温になるが、それが逆に寒空に慣れた体には堪える
だが、それも打ってる内に慣れるだろう
そんな事を考えている内に人の接近に気づかなかった
「日向、ねぇ、やっぱり、日向よね? 私、葵だよ、覚えてる?」
君くらいの美人を忘れる訳、ないだろう
キザではなく本心で思うが、それを口にする事は出来ない
「そろそろ開店します。恐れ入りますが順番にお並び下さい」
店員に丁寧に咎められ葵は手提げかばんから紙とペンを取り出し素早く数字を書いた
「これ、私の番号。私も行かなきゃならないから。後でいいから必ず電話して!」
必ず連絡してね、という声が遠のく中、俺は店舗の中に吸い込まれていく
今日は、いいだけ稼げた
一気に月のノルマを達成できただけの大当たりを引けた
そういえば、ポケットに入れた携帯番号
本当は無視したい所だが葵が俺を心配してるのは多分、本当だろう
それを無視するのは気が引ける
ショートメールを送る事にしよう
『題名:葵へ 本文:俺は元気だ 心配無い』
すると、1分程で返事が来た
『題名:久しぶり 本文:通話は出来ないのかな?
久しぶりに、ゆっくり話をしたいの』
『題名:Re:久しぶり 本文:すまないが、俺は会う気がない。
会って何を話せばいいのかも分からない』
『題名:ごめんなさい 本文:そうだよね…
あんな事があった後だもんね
でも、ちゃんと日向の顔が見たい
わがままだけど、ほっとけない』
もしかしたら、何かが変わるかもしれない
そんな希望が、あるいは気まぐれが、そうさせたのかもしれない
『題名:Re:ごめんなさい 本文:分かった
明日は一日、時間がある』
『題名:ありがとう(´人`) 本文:じゃあ、明日、11時に今日居た
パチンコ屋さんで待ち合わせでいい?』
打ちに行く以外で店舗に向かう事なんか、そうそう無い
おそらく、俺が、あの辺に住んでるんだと思ってるんだろう
地下鉄で10分はかかるんだが、それは、いつものデータ取りから比べれば些細な労力だ
次の日、俺は11時ちょっと前に店舗前に着いた
中は賑わっていたが、やはり昨日よりは出玉は良くないようだ
空き台も、ちらほら見受ける
昨日とは同じ店とは思えない
「ごめん、待ってた?」と、店舗の様子を外から覗いてる俺に葵は声をかけてきた
俺は首を横に振ると葵は安堵した顔をした
「良かった。あ、他にも、もう一人居るんだけど、いいかな?」
俺の返事を待つ間もなく「こんにちは。私、四葉って言うの、よろしく」と間に入ってきたのはこの前、葵と一緒に居たショートカットの女の子だ
「四葉っ、ごめんね、日向」
「あなた、喋れないの?」
グイグイくる女の子だな、まるで初対面の俺に苛立ってるみたいに
いや、苛立ってるのか?
何故だか分からないが不快なら立ち去ろう
やはり簡単に人を信用してはならないんだ
幼馴染だとしても信じた俺が馬鹿なんだ
きびすを返す俺に「待って!ごめんなさい、違うの、待って!話を聞いて」
って葵は必死に引きとめようとするので俺も足を止めた
「四葉も待って。落ち着いて」
「だって、コイツ……」
「とにかく、あっちのカフェで落ち着いて話しよ?」
渋々、という顔を露骨に表しながら四葉は黙って俺を見ている
なんなんだ、一体
カフェに着くと、二人はアイスコーヒーを頼んだ
俺は、メニューの中からオレンジジュースを指差し注文を終えると空気がどんどん重くなっていく
気まずい雰囲気を打ち破ろうと葵は口を開いた
「急に色々と、ごめんね。でも、心配してたんだよ、ずっと。あの日から声をかけようって。でも、なんて声をかけたらいいのかも分からなくて」
昔から葵は、そうだった
小学生の頃、俺が運動会で長距離走をしていた時の事だ
足をひっかけて派手に転んでしまった
足を痛めて動けない俺を後続の奴らは見向きもせずに追い抜いていった
そんな中、葵は
葵だけが俺の近くで立ち止まり大丈夫?って声をかけてくれた
俺は、それで泣いてしまった
人の優しさに俺の気持ちは満たされ心にあふれた感情は涙になってこぼれ出た
葵は昔から、そういう優しい人間だ
だから、俺も、こいつなら信じてもいいかと思って今日、ここに来たんだ
「私が、もたもたしている間に日向、高校も辞めちゃうし。ごめんね、何もしてあげれ」
謝る葵を遮って、四葉が割って入ってくる
「あんたさ、いい加減、何か言ったら?」
葵が止めるのも聞かず四葉は、せきを切ったかのように続ける
「葵が、こんだけ心配してんだよ、なんか言ったらどうなの?」
「四葉、止めて」
「男なのに、いつまでウジウジしてるの?なんか言ってよ」
「四葉っ!」
これは、隠していては駄目だ
俺は用意しておいた紙とペンを取り出した
不思議そうな顔をしている二人を尻目に俺は文字を書き続けた
『オレはしゃべれない』
「はぁ?なんで?」と不機嫌そうにしてた顔の眉間をさらに寄せた四葉を無視し俺は書き続ける
『対人恐怖症の一種で人前だと声を発せれない』
続けて、俺は更に書き続ける
『医者にも見てもらったがキッカケが無いと治せない、と言われた』
『でも、オレは、このままでいい。 もう、だれも信じたくない』
「でも、日向。今すぐに私たちを信じて、って言っても難しいと思うけど、でもね。私たちは絶対に日向の味方だから」
『おまえにオレのなにがわかる』
書きなぐった文字に怒りが、悲しみが浮かんでくる
俺は財布から千円札を取り出し、机に投げ置いた
「待ちな、あんた」
席を立つ俺に、また四葉は噛み付いてきた
「悪いけど、あんたの事は葵から聞いてる」
先ほどまでの苦みばしった表情は和らいでるが真っ直ぐな目は俺に視線を外す事を許さなかった
「あなたの家に起こった悲劇は確かに可愛そうだとは思う。……4年前、あんたの家族はあんたの父親の無理心中に巻き込まれ、あんただけが生き延びた」
そう、俺の家族は5年前に崩壊した
いや、崩壊自体は、それよりも少し前からだったか
自営業で小さな部品工場を営んでいた
父を含め3人ほどの工場で小さいながらも、なんとか切り盛りをしていた
だが、信用していた取引先が父を裏切った
多額の負債を父に背負わせ取引先の会社は音信不通になった
その負債を、なんとか返そうと頑張ろうと四方八方、金策に走ったが、その努力も空しく
工場をたたんで、全てを金に換えても、まだ返しきれないほどの借金が残っていた
裏切り、責任感、不条理、その全てが父をおかしくしていった
ある日、家に帰ると
母は目を見開いて力なく横たわっていた
意味を理解できず固まる俺の背後から父は首を絞めてきた
そこから先は、よく覚えていない
思い出したくも無い
気づいた時には今まで行った事のない隣町の見知らぬ公園のベンチに座っていた
裸足のまま走ったせいか、足の裏は汚れと少しばかりの出血で黒くなっていた
だが、足の痛みよりも
首に残った指の跡から感じる苦しみの方が辛かった
まだ、絞められた指の感触が残っている
気持ち悪い
俺は、思わず首をかきむしった
何も無いはずの首にまとわり付く感触をかき消すために、かきむしった
何度も何度も
少しの痛みを感じるが、それよりも、この感触を消したかった
何度も何度も何度も何度も
かきむしりすぎて首から血が出ようとも
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
首から出る血が襟を赤く染める頃に警官が俺の奇行を制止に来た
そして、一旦落ちついて警官と一緒に戻った家には
人形のように力なく横たわる母と
どす黒い顔をして天井からぶら下がってるロープに首をかけている父が居た
俺の記憶は、また、そこで途切れた
徐々に戻る意識の中でおぼろげながら覚えているのは
学校を中退し
病院のベッドで無気力に眠るか
医者に、よく分からない治療を受けてる状態だという事
そして、病院の待合室で、ふと目にしたパチスロ雑誌
パチスロなら他人と接しなくても即日で、それなりのお金を稼げる
それに気づいてから俺はパチスロの勉強をし18歳になってから調べた店舗で打ち始めた
最初に、ある程度とんとん拍子で勝てた事もあり俺は退院をしてすぐにスロ専業のプロとして現在に至る
四葉に言われて走馬灯のように自分の過去を振り返るのに2、3秒だったろう
「あんたも」という四葉の言葉に我に変える
「あんたも色々、大変なのは分かる。でもね、大変なのは、あんただけじゃない」
今まで、まっすぐ見てきた目が少しだけ陰りをおびて伏目がちになる
「私もさ、父さんを事故で亡くしてさ」
さっきまでの強気な口調はなりを潜め別人のように落ち着いた口調で続けた
「私の不注意だったんだ。交差点をボーっとして渡ろうとしたら信号無視の車が突っ込んできてね。急な事で私は動けなかった」
「あぁ、死ぬんだって思った瞬間に私をドンって父さんが押してくれた」
「本来は私が倒れていたはずの所で父さんは血を吐いて動かなくなっていた。私は自分を責めたよ。私が気をつけてれば父さんは死ななくて済んだのにって」
「自分で自分を許せなくて苦しくて死にたくなったのを葵が止めてくれた。『ずっと一緒に居るから。もう、一人で苦しませないから』って」
「だから、私は今、こうして元気にしていれる。葵は私の命の恩人だ」
「四葉……」
「その葵の負担になる、あんたの存在が正直に言うと嫌だった」
そうか、だから俺に敵意をむき出しにしていたのか
「それに加えて平日の昼間からパチンコするような人なら、もう平気なんだろうって勝手に思ってた」
「でも、事情を詳しく知らなかったからって私のした態度とかも良いことじゃない」
「だから、謝らせて。ごめん」
葵は、いい奴に巡り会ったな
大恩があるとはいえ、ここまで葵の事を考えて一緒に行動してる
自分が悪い事をキチンと認めれる
だが……
俺は、忘れかけていたペンと紙を手に取った
『よつばさん、オレは、そこまで気にしてない』
「そう?でも、私、結構、性格がキツいの自覚あるから」
『葵、ありがとう』
「いやいや、とんでもないよ。私、まだ何もしてないよ」
『でも、やっぱり、すぐには信用なんて出来ない』
「まぁ、そうだろうね。いきなりは、ね」
『けど、変わろうと努力はしようと思う』
「日向っ!」
今にも泣き出しそうな顔を我慢してるのは俺にも分かる
葵は昔から、泣き虫のくせに頑張り屋で人を気遣える人間だった
『今は、まだ声を出して話せないが連絡先の交換くらいはしよう』
「うん……うん」
それが嬉しくて、なのか
安心して、なのか
葵は大粒の涙を流して頷いている
「私も、いいかな?」
「私も、あんたの相談に乗ってあげる。葵だけの負担にしたくないし」
少しだけ申し訳なさそうな顔をして四葉は続けた
「それに、初対面のあんたに色々と悪い事しちゃったから、そのお詫びにさ」
そして、俺は葵と四葉の連絡先をスマホに登録した
店舗からのメール登録以外に登録するのが初めてで
やり方の分からない俺は早速、四葉の世話になってしまった
4
咲夜 一咲(サキヤイッサ)さんの
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このコラムへのコメント(4 件)
コメントありがとうございます
ただ、本当の女の子は、もっと女の子らしいメールにするんだろうけど俺には、これで精一杯ですw
コメントありがとうございます
続きは、また夜に…
コメントに困りますね(苦笑)
続きが気になります(^^;)