スロッターあらっすぃ 世界激闘篇 第8192話 戦う理由、死ぬ理由

向かい合う両者。

片方は傷だらけであり、満身創痍。
敗色濃厚。
火を見るよりも明らかだった。
だが、退かない。
届かないが、決して攻撃の手を緩め無い。
小さいが、一つずつ近付いていく。

片方は、攻撃をいなし、威力を殺し。
通りそうな攻撃も悉く躱す。
確固たる、強者としての風格。
それを体現できる実力を兼ね備える。
常に余裕をもった振る舞いであった。

傷だらけは言う。
「まだまだ。」

強者は言う。
「無駄なことを。」

無数の攻防。
どのくらいの時が経過したであろうか。

そのとき、強者はふと、天を見上げた。

明るく、月が、照らす。
風と、音と、周囲の気配を察した。

強者は言う。
「狙いがあるな。」

傷だらけは言う。
「まだまだ。」

強者には、余裕がある。
傷だらけとはちがう。
圧倒的にかつ絶対的な、埋められない【格】。

が、その【格】こそ、付け入る【隙】であると、傷だらけは知っていたのだ。

完全無欠。
天衣無縫。
それが、強者。
自分が強者たる所以。
【隙】という【弱さ】とも言えるものを自身が持ちうると改めて知り、自嘲気味に笑む。

自分は強者である。
故、周りには常に屍の山。
【弱さ】を知る前に。

しかし————
目の前の、満身創痍の、今にも事切れそうな、ちっぽけな、存在が、知らしめた。


強者は言う。
「弱者、でもないようだ。」


傷だらけは言う。
「そうでもない。」
続けて言う。
「皆、弱いものだ。」
さらに。
「無論、お前も。」


傷だらけは、今までと明らかに違う所作に入る。
強者は、これが最後になると直観した。

傷だらけはさらに続ける。
「ありったけを。」
「込める。」



そして叫んだ。

「さらば、諭吉<< no limit >>。」

汗水流して働いて得た賞与。
からさらにブッ込んで。
天井単発だったらぜってー許さねぇ。
そんな気概があった。

その刃は、神の名を持つ強者<<ミリオンゴッド>>には届きうるのかーーーー







両者を見る者が居る。
黒いスーツを身に纏い静かに笑みをたたえている。
その眼光は鋭いのか、または優しいのか。
レンズ越しには確認できない。

見る者は、両者を静かに見守っていた。
しかし、勝敗が決する直前、その身を翻し、その場から去った。
一言を残し。
「ぴぃ。」




両者が対峙するは約束の地、二ツ峰・裏[B2]<<につほう・りビーツー>>。
スーツを纏う男。
謎の言の葉。




終焉の刻は近い。









※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・店舗・地名・店長等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

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