【3周年レポ】公式チームのちょっといい話。

異様な光景だった。
100万円100人ノリ打ち当日である。
白シャツのオッサンが無言でハンドルを握っていた。
5人で並んで、ただ無言で盤面に向き合いながら──。

真顔で「地獄少女」を打つのはカタギリさんだった。
もう300ほど回していたが、その間に来た演出らしい演出は青保留1回だけらしい。
腹の調子が悪いのか1時間に3回くらいトイレに行っていた。

その隣ではタイルまんさんが「ロボゲイシャ」と睨み合っている。
これが初打ちらしく、打ち始めこそ初見の演出に一喜一憂していたが、今では死んだマグロのような目で台の向こう側を睨んでいる。

さらにその隣では右キモさんが「渡る世間は鬼ばかり」と向き合っていた。
一度アツそうな展開から2分くらいありそうなスペシャルリーチに進んだ時には菩薩のような笑みを浮かべおられたものだったが、外したあとは別の世界に意識が飛んでいた。
彼の心にはピン子役物がいくら飛び出そうが、もう何も届いていない。

そしてその隣ではのぶねこさんが「一騎当千」を打っていた。
正直、無茶苦茶回っていた。が、一番何も起きてなかった。
カスりもしていない。ただオッパイが揺れているだけである。
いつしか彼の目はスマホに注がれるようになっていた。
ツイッターである。オッパイよりも青い鳥。彼の目はそう告げていた。

俺はその横で、「キャプテンハーロック」を打っていた。
麒麟絵柄、金文字、ストーリーリーチ。凡そアツそうな総ての予告が絡んだリーチを外したあとは、ひたすら周りを観察することに集中していた。
残りのパッキーは50点。開始早々軍資金の半分を溶かした計算になる。

5人並んで、5人ともである。
誰も当たっていない。
ハマり続ける事、90分。
誰もである。

並んで打って、誰が最初に当てるか勝負しましょう！
──最初はそんなノリだった。
やった俺ロボゲイシャじゃん、打って見たかったからラッキー。
僕も渡る世間は鬼ばかり打ってみたかったんですよねウフフ。
ハーロックってコレいいの？　これオモロイの？　そうなの？　ワーイ！
──最初はそんなノリだったのだ。

「左を狙いなさい」

カタギリさんがうっかり通常時に右打ちして地獄少女に怒られた時、俺の隣に人影が現れた。

ニットキャップの熟女だった。
赤い口紅。
夜の街を思わせる強めのパフューム。
6台のシマのうち5台を白シャツのオッサンが占拠する中、1台空いた「エヴァ」に座る。

……いいのかい母ちゃん、このシマは今、暗黒時代だぜ？

喉元まで出かかった訓戒を飲み込んで、ハーロックに向き合う。
何度目かのストーリーリーチ。☆は4.5である。今日もう3回くらい外したヤツだ。
となりののぶねこさんも最初の2回は「おおコレ熱いんじゃないですか！」とか言ってくれてたけど、今はもう何も反応すらしない。ツイッターに夢中である。
そして当たり前のように今回もハズした。
もうダメである。何が来ても当たんねぇ。

一方、隣では熟女が慣れた手つきでサンドに手を伸ばし、貸玉ボタンを押していた。
下皿に払い出される銀色の球が打ち出し口に吸い込まれて盤面を跳ね始める。
ややあって「残酷な天使のテーゼ」のテーマが流れた。
擬似連である。あーアレね。保留がネェから擬似連が選ばれやすくなってんだよな。
おれパチンコあんまり打たないけど知ってる。それ知ってるヤツだし──。
ストーリー系のリーチに発展した熟女の台。
ザトウムシのような形の使徒と対決するやつだ。
ATフィールドをブチ破れ！　とかそういうやつである。
俺はこの時、その演出を「ハイワロだ」と思った。
なんせ俺はメーカーから台まで何もかも違えど、キリン柄に金文字を絡めたヤツすら外している。疑似2のみのザトウムシがなんだというのだ。
おばちゃんゴメン。それ熱くない。
申し訳ないけど外れる。悪い！　メンゴッ！
プッシュしろッ！　ボタンが輝く！
握りこぶしを陸奥圓明流の奥義『無空波』の形でボタンに当てる熟女。
勢い良く拳を突き出す。
バシュン！

ズシャシャシャキュインキュインッピロポポォォッ！ピロポポォォ！

「！！？」

普通に当たった。
オスイチである。

朝5時起きのボンクラ5人が死んだ目で打ってる横でのオスイチ。

これには色々な感情が湧いた。
深海から立ち上るメタンガスの泡のように。
弾けては消え、新たに生まれ。
最後に残ったのは「祝福」の感情であった。

「ウワァァァ！　おめでとうございます！！」

大きな声で祝福すると、すぐに右隣ののぶねこさんが立ち上がり「写真撮ってもいいですか！？」と撮影許可を取っていた。流石仕事が早い。ツイートするつもりだろう。
気づいたら、タイルまんさんも、右キモさんも、カタギリさんも笑顔になっていた。
口々に祝福の言葉を述べる。
嬉しそうに右打ちしながら、熟女が会釈を返した。

「ありがとう。ところで、今日は何やってんの？　あなたたち」
「あ、なんかねぇ、イベントっす。パチ7って言うんですけど……」
「パチセブゥン？　何それ。そうなの。へぇ……」
「お母さん、今日はこの台狙ってたんですか？」
「うん。昨日これ、2発で終わってたからサァ」
「なるほどォ！　なんか分かんないけど、狙いバッチシっすね！」
「ウフフ。あとなんかあなたたちが座ってて、コレだけ空いてたからさ。何かあるんじゃないのって思って」
「マジですか！　俺らのおかげ……？　よっしゃ出玉半分くれよ！　なんつってエヘヘ」
「ウフフ──」

結果、『キモフラット11』チームはこの時の1パチでの負けのボトムがキツくて上位入賞ならず。スロットを攻めた俺っクラスさんやチュウさんぺこさんの頑張りで何とか最下位は免れるも、1パチ組のボンクラ加減が仇となった感じだった。
だが、試合を終えた我々の気持ちは清々しかった。
かけがえの無い戦友（とも）と出会えたからである。

あの時──あの熟女は間違いなく。
我々のチームメンバーであった。

26