しくじり店長・第35話

元・店長カタギリ元・ホール店長カタギリのしくじり店長

2005年、1月。

私は新年早々、大きな不安をいくつも抱えていた。その原因の全ては新年一発目となる新台入替で導入される機種、『CRアントニオ猪木という名のパチンコ機』に関するものであった。

大当り確率、315分の1。確率変動突入率と継続率が共に80パーセントの新規則機。だが時短が付いていない、というスペックが果たしてユーザーに受け入れられるのだろうか？この台を稼働させるために、どういった販促活動を行うべきなのか？そして何よりも、お客さんの少ないウチみたいな店が40台も導入して、しっかりと稼働させることが出来るのだろうか？そんなことばかりを考えているうちに、どんどん時間が流れていったのである。

今回の導入を独断で決めたのは、大のプロレスファンであるコンサルのトオヤマさんだ。パチスロで大人気となったアントニオ猪木、そのビッグネームを冠した初のパチンコ機が大ヒットしない訳がないじゃないか。それが彼の言い分である。

他店には真似の出来ない大量導入で一気に稼働をアップさせよう、と自信満々の笑顔を浮かべて意気込む上司に対して、私は胸中の不安の数々を打ち明けることが出来なかったのだ。

しかしながら私にとってもアントニオ猪木は、少年時代の英雄である。コブラツイスト、卍固め、延髄斬りといった数々のフィニッシュ・ホールドで観客を魅了した彼のパチンコ機。それが自身の店に導入されるとなれば、私の闘魂も再び燃え上がるというものだ。

アントニオ猪木さんは言いました。「危ぶむなかれ、危ぶめば道は無し」と。ならば、ここはビビッたってしょうがない。

また彼は、こうも言いました。「（試合に）出る前に負けること考えるバカいるかよ！」と。

そして、私の出した結論はこうでした。あれこれと考える前にまずは一歩を踏み出して、結果のことは考えまいと。 ……ま、パチンコ店の責任者が何も考えなくていい訳は無いのですが。

そこで、トオヤマさんを含めたスタッフと一緒に考えた結果、とにかく販促に力を入れるという結論になりました。ひとまず出来ることだけやろう、お金のことは考えないようにしようと。巨大アドバルーンの設置、新聞折り込みチラシの配布エリア拡大、最寄り駅のみならず、近隣の駅にまでターゲットを広げるための駅貼りポスター掲示、電車内の中吊りポスター。ここまでやれば当日は少なくとも満席になるだろう、そうなるに違いない。自信は無かったが、そう自分に言い聞かせていたのです。

だがしかし、そんなに甘くはないのが世の中。一千万円を大幅に超えた機械代に加えて、数百万円の広告宣伝費を投じて迎えた新台入替は、結果として大失敗に終わってしまいました。

満を持して迎えた新装初日に開店を待つお客様の数は、わずか10数人。開店時刻には半分ほど席は埋まったものの、満席には程遠い稼働状況。黄色いハッピにねじりハチマキ姿で得意のマイクパフォーマンスを披露する私も、いまひとつ喉に力が入らない有様でした。

「こんばんは、ラッシャー木村です。 ……こういうのいりませんね、はい、いりません。本日は大勢様……　はい、大勢様と言い切っちゃいましょう、ご指名ご来店いただきまして、誠にありがとうございます。本日は赤コーナー、じゃなくて正面入り口の新台コーナーに『CRアントニオ猪木という名のパチンコ機』を大量導入してのお出迎えでございますれば、どちらのお客さまにも出玉のワンダーランドを体感して頂きますよう、釘をミッチリ、ガッチリ開けてのご案内となってございます…… ただいまのお時間、若干の…… いや、まだまだお席の余裕がございます！！是非とも最新台コーナーの猪木、ご挑戦くださいませ！！迷わず打てよ、打てばわかるさ、元気があれば、何でも出来る！！ 10連チャン、20連チャン目指してはりきってお出し、お取り下さいませ……」

その惨状を目の当たりにしたトオヤマさんが、ホールの片隅で苦虫を噛み潰した天龍源一郎のような顔をしていたのが今も忘れられません。そして彼の口数と新台コーナーの客数は、日を追うごとにみるみる減少、翌週には見事な巨大通路が完成して試合終了となりましたとさ。

1995年1月4日、東京ドームでの試合を終えたアントニオ猪木さんはまた、こうもおっしゃっておりました。「そろそろ潮時でしょうね」と。

結局のところ、もともと信頼されていないホールが大量に新台を入れたところで、パチンコファンは見向きもしないのだ。ユーザーの目線の先にあるのは機械ではなく、店の現状なのだ。悲しいかな、そのことに気付いたのが随分と先になってしまった私はその時もまた、「う～ん、やっぱり時短ナシという機械のスペックに問題があったんだな」という、頓珍漢な結論で自分を納得させてしまっていたのである。悲しいですよね、バカという生き物って……。

カタギリ・今週の1枚

昨年の打ち納めはエヴァ11でした。

今作はハニカム柄は大当り確定、という話を聞いていた私。このハニカム初号機保留が出た時には「ムハッ！」という変な声が出てしまいました。

そんな大晦日は、プラス29Kで終了して少年のような笑顔で1年を終えることが出来ましたが、正月休みの2日間でジャスト80Kヤラれて白骨化しました。

どうやら今年も、例年通りのリズムで生きていくことになりそうです。皆さまどうぞ、そこんとこヨロシクお願いいたします。

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この記事へのコメント（12 件）

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/01/23; あっきさま。

おお、そうなんスね！
当サイトのライターや漫画家の皆様も、そちら方面の人たちが多くいらしゃるので、是非ツイッター等もチェックしてみてください！
パチンコ・パチスロ好きの面白い人達がたくさんいらっしゃいますよ！
こちらこそ引き続きヨロシクお願いいたします～。

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/01/23; ★★犬★★さま。

そうそう！　
あ～、さすが犬さん、よく覚えてらっしゃる！
確か、お嬢様っぽい娘とギャルっぽい娘がいたんだよな～。

台自体の作りは悪くなかったんスよね、適正台数ならもう少し長く稼働したのになぁ。

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/01/23; ままどおるの神さま。

確かにやりすぎですよね～。
壮大な通路が完成しましたからね……

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/01/23; すろさま。

その鉄則、頭で理解していても身体がついていかないんスよね～。
私はおそらく死ぬまで治りません（笑）！

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/01/23; はらいそさま。

スロの闘魂チャンスは気持ち良かったなあ。
『道』を引くまで打つつもりでしたが、ドえらい金額を失いましてヤメました。
設定も1、2、3、ダーというのが当時、私の周囲で流行したギャグでした。

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/01/23; 元店員ユイリィさま。

個人的には『スキージャンプペア』は好きでしたが、04基準機以降の平和のパチンコには苦戦……
いや、迷走とまで言いたくなるようなイメージがありますねぇ。
2008年の戦国乙女で大きく舵を切った感がありますｗ

あっき: 投稿日：2017/01/12; 経営って難しいですよね。
絶対、この台が必ず当たると言うことないんだなと思いますよ。

私は、いまカラオケの仕事からコンビニに転職しましたよ。元々、コンビニいましたからノウハウはなんとかなるのですが、如何せん人手不足ですな笑

なにかと、忙しい中でもこのコラムは逃しませんよ笑

今年もよろしくです

★★犬★★: 投稿日：2017/01/12; この機種は昔好んで打ってましたね！
ラウンドガールがとても可愛いんですよね。
ダブルアタッカー採用で下のアタッカーはほぼ取りこぼしが無いので
気持ちが良かったです。
確か全回転でも通常大当りがあったと記憶してますね。
ネギが怒っていた思い出があります（笑）

トリオレの三男: 投稿日：2017/01/11; あの猪木好きでした！
ただ４０台はやりすぎですw

すろ: 投稿日：2017/01/11; 少し勝たせて味を染めさせ大きく負けさせる。玄人の鉄則よ。

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元・店長カタギリ: 代表作：しくじり店長

シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。タイトルは「しくじり店長」。パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。