そのときハーデス様は、「生きろ」と言ってくれた

未曾有の水害、2015年9月の台風18号により、アパート1階にあった私の8畳城は床上どころか胸上浸水した(画像はアパート2階の友人宅で撮った写真)。



大学4年間の思い出が文字通り水に流されていくのを見ながら、明け方のベランダで友人と2人座っていた。
吸ったこともないタバコを友人にせがみ、初めて自分から肺に入れる煙にむせ、映画のワンシーンみたいだなあとぼんやり、ただぼんやりと考えていた。



この豪雨により、一時は1メートルを超えていた水位は2日ほどで下がり、私は外出できる状態になった。
部屋を失い、家具を失い、愛車のカブを失い、大事な楽器もダメになった私には、そのとき破滅願望のようなものがあったのだと思う。
友人たちがハマり、こぞって数万単位の勝ち負けを話していた、あのパチスロとかいう遊びやってやろうと考えたのだ。



機種はアナザーゴッドハーデス。
友人が8万円負けた機種だ。
私は徒歩で30分かけ、近隣のパチンコ店まで行き、何も見ずに台に座った。
ここはサンドに1000円札しか入らないホールなので、あらかじめ手持ちの2万円を全て1000円札に替えた。



そして20枚の1000円札が気付けば半分になり、瞬く間に４分の1になった。
麻痺していた後悔や自制心がどっと噴き出してきて、その辺りからレバーを叩く手が重かったのを覚えている。





何回転目かは忘れてしまったが、残りの1000円札が3枚になったころ、急に画面が割れた。
初めてパチスロを打つ私には何がなんやらで、店員さんを呼ぼうかとすら思った。

その後のことは、よく覚えていない。
覚えているのは、12万円ほどの大金を得たこと、ボタンを押すのに疲れて15枚役を結構な回数取り逃がしたこと、端玉で交換したお菓子があまり美味しくなかったことだけだ。
私にとってあまりに非日常な体験だったので、逆に些細なことしか覚えていられなかったのかもしれない。




何はともあれ、このとき得たお金で、引っ越しを行い、家財道具一式を揃えることができた。
前のアパートでは家財保険にも入っていなかったため、このお金がなければ本当に路頭に迷うところだったのだ。
それまでも、それからしばらくもパチスロに良いイメージはなかったけれど、間違いなく、このときだけはパチスロに生かされていた。
だからこそ、この場を借りて改めて言いたい。








ありがとう、ハーデス様。

















というわけで、初めてコラムを書かせてもらいました。
すっふぃーと申します。
以後よろしくお願いします。








……これ以来一度もハーデスで勝ててないんだよなあ……
ハーデス様は気難しい。

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