私はこれで、タバコをやめました

先日7年ぶりにパチンコ屋に行ったのだが、驚いたことがある。
打ち始めて数分で、その違和感に気づいた。

誰もタバコ、吸ってねえ…！

俺は、かつて超がつくほどのヘビースモーカーだった。
「ようし、今日は1日中パチンコ打っちゃうぞ！」と、朝からホールに特攻する日には、必ずメビウスライトを4箱持参していた。
タバコを吸っている時に確変やATに入ると「火を絶やせば終わってしまう」というマイオカルトがあり、今となっては隣に座った方々に本当に申し訳ない気持ちで一杯になるのだが、ずっと煙を周囲に撒き散らし続けてきた。
パチンコ屋で吸ったタバコの煙を合わせれば、気球で地球一周できるのではないかというくらい、何本ものタバコを灰にしてきた。

パチンコ屋と雀荘と喫茶店はある意味喫煙所であると思っていたし、俺の周囲のパチンカーもほぼ喫煙者だった。
そんな、喫煙者にとって聖域であったはずのパチンコ屋が禁煙になるだなんて、時代の流れというものは恐ろしいなあ、と肌が粟立つのを感じた。

そんな俺も、禁煙してから7年経つ。
俺の意思の弱さは有名で、あまり会ったことのない親戚のババアからも「あなたは堪え性がないから」と説教を垂れられるくらいであった。

あくまで俺の考えだが、好きな人は健康を保てるならば、禁煙する必要など一切ないと思っている。

しかし、やめたいがなかなか踏ん切りがつかない、という方がいらしたら、俺でもやめられた禁煙法を紹介したいと思い、このコラムを書き始めた。もしよろしければ、ご一読して頂きたく思う。

あれは、2017年のことだった。
俺は数日前から悩み続けていた。
春の天皇賞に、2頭の有力馬が出走するのだ。

キタサンブラックと、サトノダイヤモンド。

何回馬柱を見ても、この2頭はレベルそのものが違った。はっきり言って、地球人とサイヤ人くらい違う。

当たるかどうかではなく、いくらぶっこめるか。
その週、ずっとそのことだけを考え続けていた。

レース当日、心を決め、嫁の前に仁王立ちした。
「このレース、まじで鉄板だ。馬連に5万いかせてくれ」

もちろん嫁は猛反対した。当然だ。
その前の年、荒れることで有名な夏競馬に脳を溶かされていた俺は、取り憑かれていたように毎週1レースから馬券を買い続け、わずか2ヶ月で約60万を失っていた。
そんな男の鉄板など、鉛ほどの硬度もないだろう。嫁の気持ちもわからなくはない。

だが、俺は押した。ここで引くようなら一生競馬で勝てない、そう思ったのだ。

「ギャンブルに絶対はない。しかし、吉宗で天井まで残り千円の台があったら、絶対に打つだろう？このレースはそれだ」

かつてないほど自信に満ちた俺の物言いと、あまりのしつこさに根負けした嫁は折衷案を提示してきた。
「じゃあ、せめてワイドにしたらどう？」
その時点で馬連のオッズが2.5倍、ワイドが1.5〜倍であった。
俺は嫁を叱りつけた。
「馬鹿野郎！こんな簡単に金が2倍以上に増えるチャンスなんてそうそうねえぞ！銀行もびっくりだ！びびるんじゃねえ！」

結果、1-3着だった。
レース後、我が家は静寂に包まれた。
あんなに気まずい雰囲気を味わったのは、中学の頃、机の中に隠していた裏ビデオをお母さんに見つかったあの日の夕食以来だった。

「ちっきしょおおおお！ストック飛ばしかよぉぉぉぉぉ！！」
と、渾身の逆ギレをキメたが無駄だった。

嫁は怒りを通り越し、あなたのことを心底軽蔑しています、そんな表情を浮かべていた。
さすがに謝るか、という気持ちになりヘラヘラと詫びの言葉を告げたが、無言のままだ。なんとかせねば、と思った俺は心にもない一言を口にしていた。
「じゃあ、1日最低1箱はタバコ吸ってるから5万円になるまで100日くらいやめます…」
その発言を聞いた嫁は、突然俺のアイコスをへし折った。

「おい！何してんだよ！」
「やめるならいいでしょ！！」

発売当初、アイコスは品切れが続いていた。
数ヶ月前に何日も何軒もコンビニを周回し、やっと手に入れたものを壊すとはこのアマが！と思ったが、さすがに今回は俺が悪いので、仕方なく引いた。
しばらくタバコ吸えねえのか畜生め、とその瞬間から吸いたくてたまらなくなったが、ぼろぼろに負けたこともあり、強めの酒を浴びるように飲んで、泥のように眠りについた。

翌日も強烈な喫煙欲が襲いかかってきた。
15時頃には「もうタバコを吸わなければ死ぬ」と思い、上司が席を外した瞬間、無造作に置いてあったセブンスターを一本パクって喫煙所で火をつけた。その瞬間、
「ぐわあ！くっせえ！！ゲロ以下のにおいが、ぷんぷんするぜー！！！」
と、強烈にむせ返った。
なんと俺は、数ヶ月アイコスしか吸わなかったことにより、紙巻きタバコを受け付けない体になっていたのだ。

職場でアイコスを所有していたのは俺しかおらず、依然としてどこにも売っていなかったため、強制的に禁煙するしかなくなった。絶望感でいっぱいになったが同時に「あんな臭いものを吸っていたのか…」とも思った。
タバコの嫌な香りがいつまでも口に残り、それから数日で「タバコを吸いたい」という欲も一切なくなり、あっさりと禁煙できてしまった。

あれから7年経つが、いまだに禁煙は継続中である。

この成功例を読んで頂き、タバコ辞めたいな、と思った方がいらしたら、是非とも今週のG1に参戦して頂きたい。

今のところ、俺の◎はエイシンスポッター。
鉄板度で言うと鉛どころかプリッツくらいだが、夢は見れそうだ、とだけ言っておきます。

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