聖域〈サンクチュアリ〉

中学の頃から首都圏に住んでいるため、満員電車にはずっと苦しめられていました。日本で有数と言われる総武線快速や東西線のラッシュも、数えきれないくらい経験してきました。

私の学生時代、満員電車のマナー違反で最も槍玉に挙げられていたのが、ヘッドホンの音漏れです。
上げた手を下ろすこともできないほど混雑している車内で、シャカシャカ音がするのは確かに苛立ちます。

しかしながら、そんな音よりもクチャラーが噛むガムの音の方が余程不愉快だと感じておりましたし、一番許せなかったのが、満員電車で新聞を読む老眼のオッサンでした。

確かに日本の経済を支えているのはあなた方かもしれません。ですが、私の背中を利用して目一杯距離をとり新聞を読むのは、どうなのでしょうか。
車内マナー喚起の案内に一番に載せるべきは、ヘッドホン云々ではなく「老眼の新聞」だろうが！と心の中で叫びながら、憂鬱な日々を過ごしておりました。

現在ではスマホが普及し、新聞に苦しめられることは少なくなりましたが、そのスマホもこんなに混んでいるのにどうしても見たいのですか、と思うことはあります。

が、しかし。

満員電車では「混んでいるし不愉快なのはみんな一緒だから私も我慢しよう」と、なんとか思えるのですが、空いている車内でも心を悩まされることがあるのです。


皆様は車内がガラガラでどの座席も選びたい放題、という状況でどのポジションを狙って座りますか。

大多数の方が、端を選ぶのではないでしょうか？

端は確かに快適です。車内に人が増えてきても、座られるのは片側だけです。

ですが、それは罠なのです。

座りのポジションで人気なのが端だとすると、立ちの場合に圧倒的に人気なのが、ドア付近です。このドア付近にクソ野郎が立ってしまった場合、快適だった車内があっという間に修行タイムとなるのです。


ドア付近に立つ輩が座席の手すり部分を利用し、まるで荒川静香がイナバウアーをキメるかの如く、座っているあなたを圧迫してきた経験はありませんか？

さらに、ダウンジャケットを着ていたり、リュックを背負っているともう最悪です。天国だった端の席が、一気に地獄へと早変わりです。
もし岸田政権が、「端の手すりを利用してイナバウアーをキメるやつの脳天に毒針をさしても無罪」という法案を通せば、支持率が劇的に回復することは、間違いありません。

では、座席は中央がいいかと言われればそれもNOです。ここから、隣に座る奴ガチャが始まるのです。
そして、男性が座った場合、危険信号点滅です。

私の経験上、男性はおよそ8割が肩幅より足を開いて座ります。

例えば7人がけの座席の場合、一人あたりに与えられたスペースは座席の長さ÷7で、その空間は一人一人に与えられた、いわば「聖域」なのです。

彼らは上半身はそれを守っているにも関わらず、なぜ足は他人の聖域にいとも容易く踏み込むのでしょうか。また、男性同士で隣になった場合、彼らは膝と膝がぶつかっても平気でいられるのでしょうか。

しかし、女性ならば安心かというと、そういうわけでもありません。またも、あくまで私自身の経験上ですが、女性は手荷物に注意を払わない方が多く、例えばリュックサックを抱えていたとしても、ショルダーベルトの長さ調整のビロビロにまで注意を払っている方があまりおらず、思いっきり私の太ももに垂れ下がり、ストレスを与えられる場合が多々あるのです。

ですので、「人が増えてきたらもはや立つ」。これが正解です。その場合、やはり快適なのはドア付近なので、「けっこう空いているのに、ピッコロ大魔王みたいにドア付近に立っている奴がいるなあ」と思ったら高確率で私ですので、もしもお見かけの際はお声を掛けて下さい。


そして、ここからが本題なのですが、パチンコ屋にも足を大きく開いたり組んだりして、他人の聖域を侵す不届者がけっこういませんか？


私はかつて給料が入るたび、「家賃が6万、光熱費が2万、スマホが1万でパチンコが8万」と、しっかりパチンコを家計の支出として計算していました。

パチンコで負けるなんて、当たり前のことだと思っていたのです。

何故ならば、私は入店に抽選が必須で高設定が溢れているような優良店よりも、常に人気がなく「もし俺がこなかったらこの従業員たちの給料はどうするのだろうか」と、思わず余計な心配をしてしまうようなお店に通っていたからです。

パチンコはもちろん回らず、スロットの設定もおそらく全台ピンでしょう。

しかしながらそういった店には私が最も忌み嫌う「聖域侵し野郎」が存在しないため、純粋にパチンコを楽しむことができたのです。

熱いリーチを外し台パンする人もいるし、音量が操作できるなら、とマックスに設定する人もいます。

私はそれらは全く気になりません。

隣でひっきりなしにタバコを吸われようが、奇声を放とうが全裸になろうが、台の楽しみ方は人それぞれですから、自由にして頂いていいのです。
しかしながら、聖域を侵す奴だけは我慢ならんのです。

何故、足を閉じるという簡単な行為ができない？

そう思うと胸が苛立ちに支配され、台に集中できなくなってしまうのです。

いつの日かラーメン一蘭の「味集中カウンター」のように「スロット集中ボックス」を作って頂ければ、その店は大繁盛店になり私も安心して毎日通えると思うので、その日を心待ちにしております。

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