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黄昏の錬金術師
黄昏の錬金術師
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ダストさん
- 投稿日:2021/07/02 11:11
6月に入り、分厚い灰色の雲が空を覆うようになるこの季節に、必ず甦る記憶がある。
朝から弱い雨がシトシトと降り続いていたあの日の昼下がり、俺は友人のKの部屋で途方に暮れながらエロ漫画のページをめくっていた。
その日の前夜、ある雑誌にモンスターハウスの大当たり判別法が載っているのを見つけた。それを見た俺とKはいきり立ち、すぐにでも確かめなければ、と叫んだのだが給料日は三日後だった。
そこで、お互いプレステ本体やソフト、漫画本、CD…ありとあらゆる売れそうなものを全てリサイクルショップに持ち込み、約二万ずつを手に入れた。
その金を握りしめ後は確認するのみ、と朝から店に突撃した。
結果から言うと、大当たり判別はできた。
しかし、「ただ、リーチ後の数字がどこで止まるか分かるだけ」で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
データ派、理論派、オカルト派…
パチンカーをそのスタイルで分けるとすると、当時の俺とKはロマン派だった。
台と熱い戦いが出来れば収支は度外視してもよい。
スーパーリーチに発展し、オバケが左上に行けば、「乗れ!!」と叫び、右下に行けば「掴め!!」と叫ぶことが醍醐味であるモンスターハウスに、この判別法ほど余計なものはなかった。
これ、オバケを応援できなくね?
そう気づいた頃には「あっ!」という間に二万を失っており、不完全燃焼のままホールを後にした俺たちは、行くあてもないままフラフラとKの家へと辿り着いたのだった。
「まだまだおさまんねえよ、クソが!」
Kはブツブツ言いながら、まだ何か売れるものがないか探していた。
全く同じ思いを噛み締めていたのだが、俺に残されたのは、オルゴデミーラ戦を目前に控えたドラクエ7のセーブデータが入ったプレステのメモリーカードのみだった。
諦めて給料日まで大人しくしてるか…そう思いながらKの部屋を見渡した。
ありとあらゆる場所に、エロ漫画が散乱している。
Kという男、唯一無二のエロ漫画コレクターであり、クラスメイト達の処分に困ったエロ漫画を引き取り続けているうちに、部屋にエロ漫画の塔が何基も出来ていた。
かわいい系から劇画、単行本まで数百冊はあるだろう。
「なあ…これ、売ってみない?」
恐る恐るKに提案したところ、奴は目を輝かせた。
「その手があったか!!俺もこれ、永遠に増え続けたらどうしようかと思ってたんだよ!もし500円とかで売れたらハネモノならワンチャンあるよな!」
…言ってみるもんだ。
我々は固く握手し、梱包作業に入った。
部屋にうず高く積まれたエロ漫画は、160サイズの段ボール5箱分あった。
それを車に積み込み、最寄りのリサイクルショップへ持ち込んだ。
「すいません、買って欲しいものがあるんですが…」
「はい、品物はなんでしょうか」
店員に聞かれ、俺は口籠もった。
は、恥ずかしい…。
エロ漫画ですって言えないっ…!
困り果ててKに助け舟を求めると、奴は仁王立ちでしっかりと店員の目を見つめながら、
「エロ漫画です!!」
と言い放った。
その眼差しは、将来この男が政界に打って出るようなことがあれば迷わず一票を投じよう、そう思わせるような力に満ち溢れていた。
そんなKの迫力に気圧されたのか、はたまた俺たちの知らないプレミア品が混ざっていたのか…
査定金額はまさかの4000円にもなった。
俺とKは奇声を上げながら車に飛び乗り、ホールへと向かった。
車内で話し合った結果、勝負する台はハネモノから現金機のルパンVへと格上げとなった。
4000円もあれば、一回はときめくことが出来るだろう。
しかしながら、二人で同時に打てば一瞬で負けることは必至だ。そこで一人が打ち、一人が応援に回るというスタイルをとることにした。過疎店で打てば他のお客様に迷惑を掛けることもない。
ホールに到着し、一目散にルパンの元へと駆けつけた。もちろん店選びは万全で、周囲に人はいない。
Kにハンドルを任せ、背後から全力で念を送った。
頼む、ルパン。俺たちに熱狂を与えてくれ。
しかしながら汚れた金で勝負しているせいか、ルパンはうんともすんとも言わず、ただ両替した500円玉が次々と吸い込まれていき、残り二枚となった。
今日は何をやってもダメな日か…諦めかけたその刹那、重苦しい空気を切り裂くかのように、予告のヘリコプターの音が閑散とした店内に響き渡った。
息を飲む。
不二子が画面左手から現れた。そのパンツの色は…
「く、く、黒パンだー!!!」
Kが叫んだ。
本機最強の予告だ。
しかし、まだ油断はできない。
その後に登場するフィアットが転ぶと銭形すら出ずに余裕で外れることもあるのが、この台の面白くもあり恐ろしいところだ。
不二子がキスして止めた数字は、青の8。
確変絵柄が直接当たることの少ないこの台で、個人的信頼度が1番高い数字だった。
俺とKは全力で盤面に手を添え、フィアットにパワーを送った。
頼む、倒れるな!!
すると期待に応えるかのように、フィアットは見事に壁を突き抜けた。
「ルパーンさ〜んせ〜い」
お馴染みのテーマ曲とともに、ルパンが現れた。
これまで黒パンとルパンのコンボで外れたことがない。
実戦上大当たり確定だ。
今日という一日は、この瞬間のためにあったのか。
一瞬たりともまばたきはせぬ!そう決意した視界の先でルパンが掃除機で数字を吸い込み始めた。
5を吸い込み…6を吸い込み…7を吸い込み…
8を吸い込み!?
ドカーン
「ありゃりゃりゃりゃ〜」
掃除機が壊れ、ルパンは去っていった。
俺とKは口も聞けずに呆然としていた。
二人して十数秒間、ザ・ワールドに時を止められたかのように固まっていた。
そして時が動き出し、自分が痙攣していることに気づいた。
俺は、泣いているのか?
しかしながら喉の奥から湧き出てきたのは、けたたましい笑い声だった。
見ると、Kも震えながら笑っていた。
もはや、残りの二枚の500円玉は使う必要がなかった。
「こんなに熱い思いさせやがって、やっぱパチンコってたまんねえなあ!」
肩を組んで店を出ると雨は上がっており、梅雨の時期には珍しいオレンジ色の夕焼けが広がっていた。
まるで俺たちを祝福するかのように、美しい空だった。
今日は勝ちでいいだろう!
二人で43000円負けたわけだが、そう思った。
Kもそう思っていたに違いない。
満足した俺たちは、いつか訪れるであろう次の戦いに備え残りの金を握りしめ、デイリーヤマザキでコミックジャンボとペンギンクラブを一冊ずつ購入したのだった。
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ダストさんの
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このコラムへのコメント(16 件)
読んで頂きありがとうございます!
僕はどちらかというと沖圭一郎先生が提唱していたマミフ派でした笑
ミドマ懐かしい……
読んで頂いてありがとうございます!
そういってもらえると、あの頃クズで過ごした時間も無駄ではなかったかと錯覚できます笑
特に政界のくだりが大好きです!
読んで頂いてありがとうございます!
今はブックオフしかないけど昔は街にいろんな中古屋がありませんでしたか?できるだけ高く買ってくれそうな店選びから勝負は始まっていました笑
ふじおまもおもしろかったですね!各リーチにルパンのキャラがでたらプレミア、コンプリートしました。ジェットコースターにのる五右衛門がでたとき声が出ましたよ。
思えばこのあとのルパンザサード、ポリゴンのあれを出したあたりから平和がおかしくなったような気がします…
この頃の平和は好きだったのに···(遠い目)
自分も古本を売ってパチ屋に行った経験がありますが、後悔しか無いですね(笑)
読んで頂いてありがとうございます!
今の台って派手じゃないと売れないんですかね?
モンスターでツルツル4連続したときの心臓がとまりそうな興奮、派手じゃなくても全然楽しかったですよね!
モンスターハウスもひたすら打った。未だにサミタで回してるもん。
当時はパチンコが輝いてたなあ。いつからだろう、全く打たなくなってしまったのは。
あの熱い時代が戻って欲しい
読んで頂いてありがとうございます!
ルパン現金機、最高でしたよね!
自分は千葉に住んでいるのですがどうしてもうちたくなってピーワールドで検索し、群馬の山奥までいきました。
○高生だった当時、百発百中リーチになった瞬間に
「あれ、台壊れたかもしれない」って色んな意味でドキドキしたのはいい思い出。