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ひそやかに。
ひそやかに。
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RIOさん
- 投稿日:2019/10/20 14:18
「この道に出るのか…!」
朝イチの顧客訪問を終えてたまたま目にした景色は、かつて私が住んでいた街のそれであった。馴染みだったクリーニング店に、激安の惣菜屋、あの頃のまま閉じているシャッターでさえ、さながら同窓会の気分にさせてくれる。
「コッペパン屋なんてなかったけどね。」
10月の午前中、鉛色の曇天、うろ覚えの街並みに、いやでも郷愁にかられる。
早めの昼食にしようと、私は車を停めて街を歩き出した。駅前の歩道は賑わいこそないが、それでも絶えず人の流れを感じ、今も変わらず、街が街であることを誇っている。
「10年弱じゃ、なんも変わんねぇか。」
この街に住んでいたあの頃は、私にとって分岐点だったように思う。
背伸びをして借りた家賃9万円のアパートでアキコと同棲し、彼女には内緒でちょくちょくマイと夜遊びする日々だった。人より数年遅かったが、就職して社会人デビューしたのはこのアパートからである。
敷金、礼金を貯めたホールで、スロットの年間収支がプラスに転じたのもこの頃だった。
「あのホール、少し覗いてみるか。」
駅前の大型スーパーの地下にあるホール。多店舗展開をしているが、チェーン展開は大規模か中規模か、知るところではない。L型のワンフロアにパチンコ、スロットが配置され、奥まった円形のシマで私はいつものようにスロットを打っていた。
1,000Gほど回したところだったか、ポケットで震えを感じた。
アキコからのLINEだ。
「またG(ホール)にいるの?」
絵文字がないのは不機嫌な証拠だった。
16:30。こんな時間まで寝てたくせに、私の悠久のひとときまで貪ろうとする。彼女は学生時代の友人だったが、不遇にも職を失い、私の家に転がりこんできた。1週間と待たずして手を出した私は、半年ほど彼女を養っている状態だ。
時を同じくして、マイからも着信があった。
「ん、バケか…。」
LINEで返信を作りながら、私はボーナスを揃えた。"勝ったらメシ!"アキコはたいがいそれで納得してくれる。夕飯のため、レバーオンに力も入りそうだが、最近のジンクスはソフトタッチである。レバーを触ったか触らないか、撫でるように絶妙な打感でヒキを呼びよせるのだ。
マイにはひと言。
「今日はツレと飲みに行きたいから、一万円貸してください。」
我ながらなかなかのクズっぷり。
さらに1,000Gほど回しただろうか。夕飯の時間は刻一刻と近づいている。なけなしの下皿を揉みつつプラマイゼロ。サイフはほぼカラに近い。そしてマイからの快諾の返信もまだない。
「よし、ビッグ!」
ここでビッグは正直でかい。
18:30。タイムリミットを考えると、負けはないうえに、2人分のラーメン代くらいは残せる。煮えきらなかったのか、快諾の返信をよこさないマイにこう伝えた。
「今日はダイジョブそうだわ!」
ビッグを消化し、お楽しみのチャンスゾーン。わくわくしながら打ちだすと、ほどなくしてマイからの連絡もきた。
「一万、いいよ!」
それは突然の返信だった。
耳を疑ったが、間違いなく軍艦マーチ。
成立G数はどう考えても2Gか3Gだろう。
初めての経験に驚いたが、今となってはなんのことはない。3G以内の軍艦マーチが搭載されたのだ。
消化後3G即ヤメで、無事アキコの機嫌を取り戻すことができた。
木枯らしの吹く夜で、湯豆腐が美味しかったことを覚えている。
「えっ、無くなってる!?」
地下に降りる階段の入り口は、門扉で閉められ、その一角だけまるで駅前とは思えない寂しさを湛えている。10年変わらぬ街の中で、私の思い出のホールだけ、その時を止めていた。
「どっかで打って帰るか。」
少し茫然とした私だったが、その晩は地元のホールに足を運んだ。
今や定番シリーズの4代目となったあの機種を打って帰路についた。
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