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4、ある男性の休み前
4、ある男性の休み前
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おにぎり煎餅さん
ちょっとしたお話を書いていけたらなと思います。よろしくお願いします。 - 投稿日:2017/11/21 00:59
この物語はフィクションです。実際の人物、団体とは一切関係ございません。
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時刻は深夜2時。
僕は、店内にかけられた時計を
ぼーっと眺めていた。
ここはチェーンの喫茶店。
3時間ほど前に無くなったカップの中身。
底では残ったコーヒーが
三日月を描いていた。
目の前では高校時代の友人、タツヤが
熱を込めて力説している。
このコーヒーカップに
まだコーヒーが、なみなみ注がれていた時からだ。
だから、みんなで幸せになろうっていう話なんだよ!
キラキラした目で説得を続けるタツヤ。
僕には一切届いていない。
チェーンの喫茶店って
こんな遅い時間までやってるもんなんだな
なんてことを考えて適当にうなずいていた。
ここは県内の繁華街。
そこに位置する喫茶店。
周りには、夜の仕事を終えた人がちらほらいた。
顔だけばっちり決まったギャル。
バッキバキに立った髪のホスト。
着物姿のママ。
強面のおじさん。
そんな中で僕は、
付き合いの長い友人から
ネットワークビジネスの勧誘を受けていた。
自分がネットワークビジネスを始めたきっかけ。
商品の説明。
儲かる仕組みの説明。
そんなことを話されていた。
僕も営業畑で育った人間なので、
彼の言葉の裏側、
彼の言葉の道筋、
彼の言葉の組立、
すべてが手に取るようにわかってしまう。
まず相手に共感し安心させる。
そして商品を価値づけする。
儲かるシステムの説明。
いい事しかないでしょ?
なんで始めないの?
逃げ道を、
一つ一つ、
ふさいでいくのだ。
それが手に取るようにわかる。
今、ここを埋めようとしているなって。
だから、僕には届かない。
お前の言葉じゃないから、
届かない。
僕は別にネットワークビジネスを
肯定も否定もしない。
それが儲かると思ったのなら、
やること自体は別に悪いわけではないし、
自己責任でどうぞ、と思う。
ただ、それをよく思わない人もいるぞ。
僕は、少し冷ややかな目でタツヤを見ていた。
でも、お前には届かない。
マニュアルを必死に話すお前には
届かない。
腕組みをして、
どうやって帰ろうか
明日は何をしようか
パチンコでも行こうか
何日だっけ?
あそこイベ日か…
なんて考えていると、
そんなに考えてくれているなんて嬉しい!
と、的外れな言葉が飛んでくる。
びっくりした。
天下一閃か。
ぼーっとしてたら
急に玉が入って喋りだす
天下一閃か。
あぁ、うん。
という言葉を心でかろうじてひねり出し、
無くなっているカップに口をつける。
どうやって切り抜けようか。
この状況。
断るのはたやすい。
タチが悪いのは、
こいつが旧友だということだ。
ズルい。
珍古店で、クソみたいな調整、設定の台を
ついつい打ってしまうのと似ている。
その当時の思い出が、
席を立たせてくれない。
呪縛に似たようなものだ。
思い出、
記憶、
過去。
人間はそれがあるから生きて行けるけれど、
それがあるから苦しむこともある。
今のお前は、
僕をどう見ている?
金に見えるのか?
友人として見えるのか?
さらに僕の優柔不断さ、
周りを気にしすぎる悪い癖が、
離席を阻み、
膠着状態が続いていた。
誰かが水入りって叫んでくれないかなぁ。
そこの強面スーツのおじさんでもいいよ。
よれよれの汚れたエプロンを着たバイト君でもいい。
そんな都合よく名行司が現れることもなく、
僕らの席は時間が止まったように
同じ問答を繰り返していたのだった。
そもそも、なんでこんな席に居るんだろう。
思い返す。
記憶をたどる。
そうだ、同窓会で久々に会って、
ここじゃゆっくり話せないから
日を改めて、また会おうってなったんだ。
で、ここに呼ばれた。
呼ばれて、
高校みたいに馬鹿話ができる
と、思ったら。
こうなっていた。
いいよ。
僕一人だけ、
あの時の気持ちに浸って居よう。
僕とタツヤは似ていた。
高校はそれなりの進学校。
教師も生徒も
いい大学に入れること、入ることに熱心だった。
むしろ、それ以外に何もない高校だった。
話すことと言えば、
テスト、模試、偏差値、入試過去問。
まさに受験の為だけの施設。
そんななかでも異端児は居た。
良く言って、異端児。
平たく言えば、落ちこぼれ。
そのなかの二人が、僕とタツヤだ。
周りは大学進学、大手就職という
まさにレールの上を落ちないようにしていたのに対し、
線路横の石で遊んでいるようなのが
僕らだった。
タツヤは音楽が好きで、
バンドメンバーなんていない高校で
一人ギターを弾いていた。
僕はマンガが好きで、
固い文学を読む生徒ばかりの高校で
一人漫画を描いていた。
レールの上から馬鹿にされ、
夢を見すぎだと蔑まれ、
時間の無駄遣いだと貶められた。
でも、
それでも、
あの時の僕らは
今よりも、ずっと
輝いていた。
二人で食べた昼食、
二人で残った教室、
二人で帰った電車。
そこで見せてくれた
ルーズリーフに書いた
等身大のお前の歌詞。
お前の言葉。
そこで聞かせてくれた
ケータイで直に録音した
等身大のお前の旋律。
お前の感情。
だから僕も見せた。
ネームを、
マンガを、
自分を。
かけがえのないあの時が
今の僕を支えている。
自己主張の弱い僕が、
自己の無い僕が、
自分を表現できたんだ。
お前が居たから。
そうだ。
タツヤはただの友人、旧友ではない。
親友と呼ぶにふさわしい、
僕を僕で居させてくれた存在だったんだ。
そういう存在は非常に少ない。
僕の30年近い人生の中でも、
思い当たるのはタツヤと、
前に付き合っていた彼女くらいだ。
でも、
今日で、
全滅したことになる。
僕はまた、僕で居る場所を失った。
落胆して、タバコに火をつける。
自分の口から出た煙は、
天井の換気扇に吸い込まれるように昇っていき、
やがてその存在が店内に溶け込むように
消えていった。
健康にもいいサプリメントなんだよ!
タツヤのプレゼンは続く。
タバコ吸ってるやつが
健康サプリになんか興味あるかよ。
下手くそ。
タツヤに対し、悲しみと怒りが込み上げてくる。
もう眠いというのもあるのだろう。
確かにお前の目はキラキラしてるよ。
自分のビジネスに疑いは無いのだろう。
だからそんな目をしているんだ。
でも違うんだ。
俺が見たかったのは、
くすんでいても、
かすんでいても、
死んでいても、
今のお前の
お前自身の目が見たかったんだ。
夢に破れたっていいじゃないか。
夢が叶わなくたっていいじゃないか。
それで企業に就職した。
毎日が大変だ。
それでいいじゃないか。
なのに、お前は
ビジネスを成功させることで、
音楽の時間が取れるとか言うのか。
あの時の気持ちすら踏みにじるのか。
肝心の夢の話が聞けてないんだよ。
あの時のお前はどこにいる。
また、歌を、夢を、聞かせてくれよ。
うーん、まだ伝わってないかな?
タツヤが言う。
なんだ、そのクソガセセリフ予告。
伝わらねーよ。
何も届かねーよ。
微塵も、響かねぇよ。
視線をそらし、時計を見る。
時刻は3時を指していた。
膠着していたように見えた
僕らのテーブルも
時間はしっかりと進んでいた。
そう、時間はしっかりと進んでいるんだ。
いつも、
どんな時も、
戻ることはない。
戻りたい時間があっても、
神様にお願いしても、
強く思っても、
戻ることはない。
秒針は右回りに回り続ける。
地球も回り続ける。
悲しくなってきた。
こんな時、自分を出せる相手が居たら
思いっきり話せて楽になれるのに。
かつての恋人と
目の前の親友。
二人とも、もういない。
しかし、改めて二人の存在は
自分にとって大きいものだったんだと実感する。
やっぱり、僕は失って気づくことが多すぎる。
そして、僕を失う。
店員がテーブルにやってきた。
どうやら、閉店の時間らしい。
タツヤは店を変えるか?
と聞いてきたが、
丁重にお断りした。
もう3時、正直帰れないから、
一夜を語り明かしたいけれど、
お前とはそんな気になれない。
今のお前とは。
店を出る。
外は寒い。
深夜になり、クリスマスの電飾も
電源が落ちている。
街は静かだ。
別れ際、
また話が聞きたくなったら連絡して
と言われた。
しません。
あなたのその話は聞きたくありません。
心の中で返す。
それは前の彼女に言われたセリフだった。
引きずってるんだなぁ。
やっぱり。
自分で自分を嘲笑する。
タツヤと別れ、漫喫に泊まった。
あいつに振られ、泊まった漫喫だった。
奇妙なこともあるもんだな。
いやいや、自分がここ以外知らないだけだ。
運命でも、縁でも、巡り合わせでもない、
自分の意志で来ているんだ。
きっと、感傷に浸りたいだけなのかもしれない。
フラットシートの部屋に入り、
横になる。
色んな思いが駆け巡る。
口から出た言葉は、
自分の素直な気持ちだった。
あいつに会いたいなぁ。
目を閉じた。
目を覚ます。
12時。
よほど疲れていたのだろうか。
思いのほか寝ていた。
こんな状況でも。
こんな情況でも。
起きてホールに向かう。
今日はイベ日だったはずだ。
彼女とよく来た日だ。
何を求めているんだろう、僕は。
情けない男だ。
適当に空いている台を探す。
すると、海物語INJAPANが空いていた。
あいつと並びで打ったっけ。
ジャパンモードの曲アレンジが良いね
なんて言ってたな。
咲乱舞で一緒にはしゃいだな。
ラウンド消化を美人出玉にしたら、少しむくれてた。
色んな思い出が駆け巡る。
席に座って一万円をサンドに入れる。
左隣は連荘中だ。
いいなぁ、俺も気晴らしにこれくらい出したいなぁ。
連荘させたいときは、お祭りモードを選択する。
まぁ、オカルト。
なんかお祭り騒ぎになりそうじゃない。
ハンドルを捻り、玉を弾く。
法被姿のワリンがかわいいんだよな。
とりあえずワリンに会いたいな。
なんて思ってタバコを咥える。
左の分煙ボードを引っ張り、
右の分煙ボードを引っ張る。
気づく。
――――――――――はるな?
僕がワリンよりも先に会ったのは、
マリンでもなく、
ウリンでもない、
サムよりも会えないと思っていた、
前の彼女だった。
7
おにぎり煎餅さんの
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このコラムへのコメント(8 件)
はい、繋がっておりました。
細かい所にちょこちょこ伏線は挟んでいたのですが、気づかないですよね(笑)
仰る通り、もう終盤です。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
今まで読んで頂いてありがとうございます。
運命が交差、少し面はゆいですが、この二人の運命をどうぞ見守ってあげてください。
そうですね、物語の登場人物たちは、その物語でしか覗くことはできませんが、私たちは自分の人生を終えるまで、しっかりと生き抜かないとなりません。
この物語も読んで頂いている方の為にもしっかりと完結させたいと思います。
人はだれしも、未来について、今の自分について悩むことはあるはずです。
それって辛いことかもしれませんが、大切なことですよね。
そうですね、また違う作品も書いてみたいと思いますので、またお願いしますね。
唐突にファイナルファンタジーXのCM コピーが思い浮かびました
なにか自分にもあったことのように感じ胸を締め付けられるような気分になりました。
実際の自分の人生は物語のようにうまいこといかずにもがきながら進むんでしょうが、どうかこのお話は冬空のように透き通った気分になれる終わりになることを期待しています。
なんか色々未来について考えてた昔を思い出して泣ける。
このお話はいつか終わりを迎えるのかもしれないけれど、
ずっと続いてほしい。違う作品も読みたくなる。
期待して待っております。
それまでまた何度も読ませてもらいますね。