SENZIN研究『恋』：SENZINの恋愛

タイルまん SENZIN伝

今回は、読者からいただいたSENZINの、淡いのか淡くないのかよく分からない恋のお話である。今、恋にお悩み中の方々には是非とも読んでいただきたい。

読者の方をT嬢としよう。

T嬢はやさしさが滲み出ているような見目麗しき女性である。その見た目に反して、リノやGODシリーズなどの荒々しい機種を非常に好む方。だが、時間や財布の中身が厳しい時は低貸しにて好きな機種を打つのだという。

T嬢はその日、財布の中身が寂しい時によく行くホールで、低貸しのパチンコを打っていた。当たりはしたが単発、出玉も全て飲まれてしまった。

「ジュースでも飲んで、流れを変えよう」

と自動販売機に向けて歩を進めるT嬢は、自動販売機の前で四つん這いで蹲る痩せ型の男性SENZINを発見した。

(えっ!?)

T嬢は焦った。 SENZINは四つん這いで蹲りながらモゾモゾと動いている。急に体調を崩してしまったのだろうか!? 嫌な予感がしたT嬢は急いで駆け寄った。大丈夫ですか？と声を掛けようと近寄るとSENZINの周りに小銭が飛び散っていることに気が付いた。

どうやら財布から小銭をばら撒いてしまい、拾い集めているだけだったようだ。

(なんだよっ！焦った！)

T嬢はSENZINが苦しんでいない事に安堵はしたが、目の前で四つん這いになり、ヨタヨタと小銭を拾っているSENZINを傍観していることに、罪悪感が生まれ、小銭拾いを手伝う事にした。

SENZINは一言礼を言って、自動販売機の下に手を伸ばして自らばら撒いた小銭を探していた。どうやら自販機の下にも小銭が入り込んでしまったらしい。

滑稽な格好で必死に小銭を拾うSENZINを見兼ねたT嬢は、「私、お手伝いしますよ」と自動販売機の下の小銭捜索をSENZINと交代した。

「ありがとう、ありがとう」

SENZINにお礼をされるも、「気にしないで下さい」と笑顔で答えるT嬢。四つん這いになり、自動販売機と床の僅かな隙間を目視して、右手をその狭い空間に目一杯入れながら小銭を回収するT嬢。

T嬢はSENZINが憐れに見えて交代したと話をした。つまり、憐憫の情という崇高なものだ。

だが私はこの話を聞いている時、若い女性が自動販売機の下を一生懸命まさぐっている姿を想像して、淡い興奮を覚えた事を付記しておく。すまない。T嬢。

SENZINが床にばら撒いた小銭を、全て拾い集めたT嬢。それではと、本来の目的である自分の飲み物を買おうとした。

しかし……T嬢はある異変に気が付いた。 T嬢の背後から、SENZINが一向に立ち去ろうとしない。先程まで四つん這いになっていたから気がつかなかったが、170cmはある身長で手足が細長い。疲労のせいか、SENZINは「ハァハァ」と息が上がっていたので後ろにいる事は分かっていた。

(もしかしたらお礼をしたいのかな？そんなつもりで手伝った訳ではないので、もし飲み物を奢ると提案されたとしても断ろう。)

トントン…。 T嬢は後ろから肩を叩かれた。振り向くと先程のSENZINだった。まだハァハァと息切れしている。

(あぁ…やはりお礼かな？)

しかし……SENZINはT嬢が想像していた返答とは全く違う言葉を口にしたのだ。

「た……」

「畳を新しくしたから家に来ないか？」

は??

T嬢の脳内をクエスチョンマークが埋め尽くした。畳を新しくしたから？どういう事だ？

「いえ、行きません。」

T嬢は怖くなり断った。

「畳を新調したから我が家に来ないか？」

言い方の問題ではない！

「行きませんって。畳を……？どういう事なんですか？」

SENZINはモジモジしながら、

「……あんたに一目惚れしたんだよ。」

どうやら畳を新調したから家に来ないか？という台詞は最高の口説き文句だったらしい。50年前ならナウでヤングな口説き文句だったのだろう。

「いやいやいや！」

T嬢は動揺した。自分の両親より歳上、両親を飛ばして両親の両親と同級生程の人物に口説かれている訳だから動揺するのは妥当な反応である。それより何より……ハァハァしていた原因はどうやら疲れではなく、恋心に伴う動悸だった。

「お爺ちゃん結婚してるんじゃないの！？」

「それはそれ、これはこれだ。」

どれがどれですかっ！

「初恋の人に似てるんだ！」

「知らないですよっ！」

「あとあんたの優しさに惚れた！」

「いきなりそんな事言われても困るよ！！」

「苦労はさせないよ？」

先程まで、ヨタヨタと力無く小銭を拾っていたその華奢な身体で、どこにその様な根拠があるのか皆目検討もつかない。

「これ……僕の電話番号！」

「いらないです！」

「いいから！ほらっ！」

なかなか引かないSENZIN。電話番号を書かれた紙を無理矢理T嬢に握らせる程、情熱的なアプローチをしてきた。どうやらT氏に本気で惚れたらしい。

「お爺さんゴメンね。私彼氏いるの。もう結婚の約束もしてるの。」

当時、T嬢には本当に結婚を約束した恋人がいた。最終手段としてT嬢はその事を口にした。これでSENZINは諦めてくれるであろう。

「そうか……。」

「ゴメンね。気持ちは嬉しいんだけ……」

「僕が駄目なら孫とでも！」

諦めなかった。

SENZINにとって都合の悪い話など耳に入らなかったらしい。食い気味に今度は孫を勧めてきた。理解し難い折衷案を申し出ているのだ。それ程までT嬢に新調した畳を歩いてほしいのか。

「話を聞いて？私ね？」

「うちの孫はいいぞぉ！？あんたと同じ位の歳だし！うちの孫の嫁に来てくれっ！」

「お爺さん？私結婚を約束してる人いるの！」

「まぁまぁまぁ！いいから！な？会うだけ！会うだけっ！！」

T嬢は困惑した。

このSENZINの目的は一体なんなのか？私個人の考えではあるが、このSENZINの様なタイプは風俗で本番行為を押し通そうとするタイプであろう。

SENZINは携帯電話を取り出し、外に出て孫に電話をし始めた。

(どうしよう……。)

どうしようと思いながら待っていたT嬢は今後の人生において、詐欺に引っかからなければいいのだが……そう心配してしまう程の善人である。

どうしよう、ではないのだ。

無視して逃げればいいのだ。

しかし、逃げずにパチンコを打ちながらSENZINが電話を終えるのを待っていたらしい。人が好いにも程がある。

電話を終えたSENZINがホールに戻ってきた。

パチンコを打っていたT嬢を見つけたSENZINはT嬢に話しかけた。

「今から孫来るから！」

これにはパチンコ依…いや、優しさの塊であったT嬢も打っていたパチンコ台のハンドルから手を離す程驚いた。孫になんて言ったのか聞くと、

「爺ちゃんを大切にした人なら会ってもいいと言っておった。」

T嬢は『何故！孫も！！満更じゃない感じなんだよっ！！』と、胸中激しくツッコミを入れた。その前に帰れば良かったのだっ！と、話を聞きながら私も胸中激しくツッコミを入れた。

SENZINはその後も何かを話しかけてきたのだが、T嬢は孫の事に気を取られていたのと、持ち玉も無くなり清算しようとサンドからカードを取る所だったので、SENZINがの言葉が聞き取れなかった。

なんですか？と首を傾げると、SENZINは自分の口に両手を添えてT嬢の耳元に近付き……。

ベロン

ヒィッ！

T嬢は体を仰け反らせた。なんとT嬢の耳を舐めたのだ！

「何をするんですかっ！」

SENZINはニタリと笑い「冗談だよ」と言ったが、このSENZINは危険だ！何をされるか分からない！という恐怖がT嬢に芽生え、カードに残高が残っているにも関わらず、清算せずにその場から走って逃げた。

そこから先は無我夢中で走っていたので覚えていないらしい。もしかしたらSENZINは追いかけてきたのかもしれない。T嬢は後ろを振り向かずに前だけを見て駅まで走り続けたらしい。

それ以来、そのホールには近付いてないとの事。

かくしてSENZINの淡い恋は一瞬で終わってしまった訳である。

最後の耳をベロンと舐めるのは置いておくとして、SENZINのT嬢への情熱は素晴らしいものであった。草食系男子と呼ばれる男が多い昨今、自分の孫と同年代の女性に一目惚れをして口説いたSENZINから私が学んだ事は……当たって砕けろ。

年齢差、外見、その様なものは関係ない。惚れたら当たって砕けろ。そして簡単に諦めるな。結果的に逃げられた訳だが。もし片思いの方がいて、思い悩んでいるなら勇気を出して口説いてみていただきたい。

私も先日勇気を出してお気に入りの風俗嬢に「畳を新しくしたから家に来いよ」と真顔で口説いてみた所、「そんなオプションは無いよ♪」と、うまいこと断られた。勿論耳は舐めていない。

以上！今日の講義はここまで！解散！