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パチンコパチスロ小説
2023.09.28
パチスロ青春小説 マーベリック 第23章「いつからこんなお店来るようになったのよ」
【登場人物】
エリート
店のクセを見抜いて状況を瞬時に読み取る、仲間を率いる若き司令塔
キャバ
美貌と強運をあわせ持つ紅一点、破天荒ながら3人をつなげるムードメーカー
ヲタ
驚異的な記憶力と忍耐力を持つ、彼らの稼働と収支を支える執念の獣
【前回までのあらすじ】
ショータを呼び出して問い詰めると、グランドオープンに向けて打ち子募集があったと分かる。
そして碧の協力で身内の店長が怪しいと判明し、ヲタとキャバは宇都宮へ現地潜入を敢行した。
『余裕っすよ、余裕。今回の責任と療養も兼ねて、あのマネージャーが店長に自宅療養を指示。案の定、上司に理不尽な命令をされて時間もできてしまった店長はキャバクラに直行。その後を碧さんが付けて、アタシに連絡。そしてアタシが店長の愚痴を聞きながらご機嫌を取って話を聞きだす。あの店長、ちょろかったわ~』
『心配してたのに』
『それは同感だが、今2人は同じ部屋にいるんだよな? ならば、グループ通話にするかチャットは1人だけで構わないが』
『ヲタくんは今、外。アタシがあまりに調子乗ってたから、拗ねて買い物しに行っちゃった』
『そういうわけじゃないけど』
『ゴメンて。あ、アタシ抹茶アイスが食べたい。ダッツのミニカップがいいな~』
『分かった』
キャバの方に進展があったということで、ラインのチャット上で3人は会話していた。
エリートは東京で情報精査と司令塔を務め、ヲタとキャバが宇都宮に滞在という状態が続いている。
『改めて。あの店長はもう黒で確定だと思うわ。自分の店の悪口さんざん並べた挙句に、近いうちにデカい金が入るみたいなこと言ってたし。アタシが少しだけスロのこと知ってる感じで色々くすぐったら、嬉しそうにペラペラしゃべってくれた。場内指名してくれたから、次から本指名になるかもね』
『よく分からないが取り入ることができたなら何よりだ』
『それは危なくないのか? 指名というのをされると行き帰りも常に一緒にいないといけないんじゃないのか?』
『大丈夫だって。同伴まで誘われてないし、アタシもそこまで営業する気ないから』
『具体的な内容は何か聞きだせたか?』
『そうね……「朝とかどんな台を打てばいいんですか?」って素人っぽく尋ねたら、液晶画面とかよく見るといいよ、ってゲロった。うちの店じゃないけどって言ってたけど、アレは絶対に自分でやってる口ぶりだわ』
『デモずれか』
『それはまた古典的だな。でも仕掛ける方と打つ方の両者が分かってやっていたら、強力か』
『あと、お勧めの店を聞いたのね。そうしたら自分の店じゃなくてアノ日に後から行った日出会館を紹介された』
『ああ……それはつながってしまったな。データを見てたら朝から速攻で全系が捲れてることが多くて気になってたんだ』
『それは気付けなかった、すまない。地元の専業たちは怪しくないと思って油断してたかもしれない』
『それは仕方ない。現場で気付くには、特定のホールに朝から通い詰めないと分かりようがない。それにおそらく、分かってやっている以上は地元勢ではないだろう』
『まだまだ修行が足りないな。反省する』
『それと最後に、「どんな日がアツいですか?」って欲望丸出しの質問をしたら、例の日をやっぱ言い出した』
『瀬戸口さんが仕掛けると言っていたグランドリニューアルの日か』
『そう、「自分の店でもいいが、日出会館の方がきっとアツい。ここだけの話、対抗で演者の三太郎も来店するらしい」とか。どうしてああいう残念系って、地位とか承認欲求をくすぐると嬉しそうにボロボロとここだけの話しちゃうんだろうね。アタシには好都合だったけど』
『残念系? 何となくニュアンスは分かるが』
『碧さんが言ってた』
『すでに清掃で出入りしてる時点で、あの店長の小物っぷりは体感してたみたい』
『なるほど、碧が言いそうな台詞だ』
『だよね、やっぱ長いもんね碧さんと伊……いや、何でもないわ』
『!?』
『チャットだとわざとらしい』
『あはは、ゴメンて』
『今さらばれてるので構わないが、できれば本名、特に下の名前は……』
『そうだぞ、俺だって当然キャバの名前は知ってるけど。ヒ……』
『あーあーあー聞こえない聞こえない聞こえない』
『いや、チャットでそれは意味が』
『すまない、少しやり返したくなった』
『茶番はこれくらいで。もらった情報は瀬戸口さん達と詰めておく。ヲタの方の進展は?』
『書類審査らしきものは通過した。エリートが調べて紹介してくれたとおり北関東の打ち子募集だった。こっちの店のことも知ってるとアピールしたら、顔合わせも兼ねて子として打つことになった。たぶんテストだと思う』
『ヲタくんこそ気を付けてね。怪しまれたら、すぐに逃げるんだよ』
『分かってる、待ち合わせは必ず後から行って相手を確かめる』
『グランドリニューアルの日に動きがあるかどうか分かればいい。無いようだったらハズレだから、適当に離脱して構わない』
『了解。子としては本気で取り組んで、まずは気に入られようと思う。それと』
『それと?』
「……ただいま」
「うわっ!」
ウィークリーマンションの部屋のリビングで寝転がりながらスマホを眺めてたキャバの背後には、コンビニのレジ袋を持ったヲタが立っていた。
「物音しなかったし、マジでビビったじゃない!」
「何か……驚かせたかった」
『それと、でどうした?』
『ヲタくんに襲われた』
『えっ!?』
『ということで、今日はこの辺で~』
『おい、そういうのは……いや、それならそれで』
その後、ラインの履歴を見て本気で拗ねたヲタは、キャバのために買ってきた抹茶アイスを問答無用で食べてしまったらしい。
「すげえな、お前。言ってたとおりだったわ」
ホールの裏手で親の男に投資分と日当を渡される。
「……運が良かった。俺の意見を取り入れたお前が偉い」
ヲタはそれを受け取り、無造作に尻ポケットに突っ込んだ。
朝の待ち合わせで顔バレしていない相手であることを確認し、ヲタは親1人子4人のグループ打ちに臨んだ。
3人の子のうち1人は素人丸出しで会話も要領を得ず、抽選が終わると引き子としてのバイト代だけ渡されてクビになった。
残りの子たちは打ち子としてはかろうじて使えたが、判別子としては心許なく周囲も見えていない者ばかり。およそ当たり外れが見えて人数があぶれた段階で、1人1人お役御免になっていった。
そして、最後まで残ったのはヲタのみ。全系らしき機種を親が埋めようとしたが、ホールのクセも合わせて機種またぎの3台並びに法則性があると見抜いた。
目を付けていた台の打ち手が荷物を持って歩いてるのを見かけると、席を立って確認しに行く。それが空き台ならばすぐに押さえて、親に事後報告をする。
次々と的確に状況を進言してはグループの無駄打ちを防ぎ、打ち子の居場所を増やす。
エリートやキャバと打っている時は当たり前のことだったが、今目の前にいる親にはレベルが高かったらしい。
(それ以前に今日のこのホールのただの特日で、5人は多過ぎだが)
そう思いつつも、今の自分がそれを言う立場でないことはヲタも自覚していた。
それに運が良かったのも事実だ。1日中ホールに滞在して当たりにたどり着けないことも普通にある。少しずつ観察と分析を繰り返し、目の前にこぼれ落ちてきたチャンスを逃がさないようにするだけ。
そういう意味で、今日この親の前でそれを見せることができたのは幸運だった。
「お前さ、上手いしこっちのホールのこともくわしいから、俺たちのグループ入れよ。俺が紹介するから。美味しい話まわってくるぜ。前もここら辺のホールのグランドで何か仕掛けたとかで、破格の日当が出たって話だし」
親の男は今日の大幅なプラスで上機嫌なこともあり、ヲタのことも気に入った様子だった。
「……前?……そんなことがあったのか」
「俺はそれには噛めなかったんだけどな。派手にやらかしたって話だけど、お前は聞いたことない?」
「知らない……くわしいんだな、お前。グループの親やっているとか凄いし、うらやましい話だ……仲間にしてくれるなら嬉しい」
ヲタなりの精一杯の会話術だった。自尊心や承認欲求をくすぐると相手の方からドアを開く、らしい。夜の街で生きる同居中の里中陽葵さん(通称:キャバ)がそう言っていた。
「よし、そうしたら遊びに行こうぜ。ここら辺じゃ一番レベルが高い女がそろってる店があんだよ。リーダーが通っててお高めなんだけど、今日はガッポリいけたから行っちまおう。ワンチャン、リーダーいたらおごってもらえるぜ」
ヲタが黙ってうなずくと、親の男は流しのタクシーを探し始めた。
「伊吹も来ればいいのに。友達はこっちに来させて自分は東京で指示出しとか、養護施設でこまっしゃくれてたガキの頃と比べると偉くなったわよね」
「そういう訳じゃ──単位もゼミ論も終わらせてるけど、週1くらいは大学に行かなくちゃいけないのは分かってくれてるんだ。碧や2人には申し訳ないとは思ってるけど」
「ホントよ、何だか探偵みたいで面白いけど。でも、あの残念店長が黒なら、詰めて吐かせればいいんじゃないの?」
東京の自室で、エリートは碧と通話していた。
宇都宮で再開して以来、碧とは定期的に連絡を取り合っている。
碧があの店に出入りしている清掃業者だったのは偶然以外の何物でもなく、それを利用しているのも否定しようがない。
だが、自分が養護施設を出て自立してから何の報告もせず心配させていた、罪滅ぼしのような気持ちで碧に頼っている。もしそれが迷惑なら、迷惑だとはっきり言うのが碧だ。頼ることが彼女にとっても喜びになっている、とエリートなりに信じている。
「それだと店長がしらばっくれて、仕方なくクビにしてもトカゲの尻尾切りで話が終わってしまう、というのが瀬戸口さんと同意見なんだ」
キャバやヲタと話す時とはまた違った、普段は見せない気の置けない相手との話し方でエリートは答えた。
「あの後、あのキツい感じの副店長が地元の印刷屋を洗ったら、偽造された台確保券を刷った店が割れたらしいんだ。資金繰りが厳しい印刷所で、飛び込みで携帯電話の番号しか教えないうさん臭い客だったけど、即金だったから引き受けたとか」
「ふ~ん、足は付いてないの?」
「残念ながらそれは。ただ、ここだけの話、あの副店長も完全に信頼してるわけじゃないって瀬戸口さんは話してたけどね」
「ああ……それは無いわ」
「ん?」
碧の思わぬ返しにエリートは言葉が詰まった。
「伊吹が初対面の時は感じ悪かったかもしれないけど、あの人はそういうのは無いよ。あれは仕事と自分に厳しくて損するタイプの人間ね、わたしには分かる。きっとあの残念店長がデータとか持ち出したんじゃないの? まあ、証拠は無いけどね」
「そうか──碧が言うならそうなのかな。昔から碧の大人を見る目は間違いなかったし」
「大人だけじゃないよ。キャバちゃんとヲタ君、2人ともいい子だね。伊吹がこんないい友達作ったなんて本当に嬉しい。大事にしなさいよ」
「言われなくても。頼みごとばかりだけど、2人をよろしく頼む」
「あいよ、伊吹も無理はしないでね」
エリートは碧との通話を終えると、大きく息を吐いてスマホを置いた。
マーベラス宇都宮店のグランドリニューアルまで、あと1週間と少し。
情報に進展、いわばこの探偵ごっこの収穫の有無にかかわらず、グランドリニューアルには3人で臨む。瀬戸口マネージャーが約束を違えるとは思えないし、また何か良からぬことが起こるならば阻止したい。
なぜ、利益を求めず感情に任せて動いているのだろう。そう我に返ることはある。
金策のために始めたパチスロだったが、知らないうちに楽しくなってきているのだろうか。
設定という宝探しで現金を勝ち取るという、現代の日本では他に見ない狩猟のような感覚はある。そこには上ブレ下ブレがあり、常勝といかないのは承知の上でだ。
ただ、それだけでは無いような──キャバとヲタに出会ってからか。
打ち子を雇うことは過去にもあったが、それとは異なる今までにない共に戦う高揚みたいなもの。
エリートは自身の変化を分析しきれないでいたが、今はそれで構わないと思える自分がいた。
親の男に言われるがままタクシーに乗り込み、車は宇都宮駅前の交差点を通り過ぎる。
やがて目的地らしきビルの前にタクシーは止まり、親の男が清算している間に外に出るとヲタは立ち尽くしたまま思わず唾を飲み込んだ。
(ここは……)
初めて来たが、間違いない。
親に悟られぬようスマホを取り出すと、ヲタは急いでラインを開いた。
「えっ!?」
キャバはヘルプを終えてバックヤードに戻りスマホを開くと、思わず声を漏らした。
「どうしたのヒマリちゃん?」
「いえ、男友達が店に遊びに来たいとか言い出してて」
「あーそういうの、よほど太い客じゃない限り止めといた方がいいよ。タダとか安く遊べるとか勘違いして財布に金入れずに来る奴らがほとんどだから」
「ですよね~」
キャバは話を合わせて何事も無かったかのように装っていたが、スマホの画面をタップする指が落ち着かずテキストの誤入力を繰り返していた。
(ヲタくんいつからこんなお店来るようになったのよ~っていうか状況も分からないし)
ラインには「打ち子の親と今から行く」としかなく、事情がつかめない。
打ち子の親といっしょなら、接触は避けた方がいいような気がする。
ヲタが一緒にいるということは、ヲタは顔バレせず初対面ということで共に行動しているのだろう。
素知らぬ振りして同席し、ヲタに会話で助け舟を出すという手もある。しかし、事前に打ち合わせもしてないし、むしろボロが出るのが怖い。
ここは顔を合わせない方が──
「ご新規2名様ご来店です。城之内様のご紹介になります」
キャストの控え室に黒服が入ってきた。
「フリーなら次はヒマリちゃんが最初じゃない?」
先輩キャストがキャバに視線を向けて言う。
「そうでしたっけ?」
「今日はヒマリちゃんヘルプしかしてないじゃない。新規なんだし頑張りなさいよ」
「あーその……そうだ! この前の借りがあったの忘れてました! アタシが先にお客を取らせてもらったことあったじゃないですか? ここは茜さん行ってください」
「あら、そんなこともあったかしら?」
(う~ここは素直にアタシの代わりに行ってちょうだいよ……それにこの人ならヲタくんをたぶらかす感じでもないし)
「そうですよ、アタシもさっきの返事早めにしておきたいんでここはお譲りします」
キャバは満面の笑みを浮かべつつ、祈るような思いでそう返す。
「そうね──じゃあ、お言葉に甘えて。指名取っても恨みっこなしだからね」
「もちろんです、頑張ってください!」
祈りが通じたのか、先輩キャストは快くキャバの申し出を受け入れると嬉しそうにフロアへと向かっていった。
控え室にはキャバだけ。
安堵のあまり腹の底から大きく息を吐いて足を伸ばして、改めてスマホを見るがラインの返事はない。
すでに客席に付いている様子でもこっそり覗こうと立ち上がりかけた時、再び控え室に黒服が来た。
「城之内様、漆原様、ご来店です──ああ、もうヒマリさんしか残っていませんでしたね」
「はい、アタシで良ければ入りますが」
「VIPルームのお客様になります。指名は普段から取られない方なのですが、ヒマリさんはまだVIPの接客はされたこと無いですよね」
「では、簡単にご説明します。VIPルームには呼び鈴があって……」
ヲタのことも気になったが、黒服の説明を聞き漏らすわけにもいかずキャバは意識をこちらへと戻す。
ただその切り替えを意識するあまりに、キャバは耳にした客の名前にまで関心を向けることができなかった。
次回予告
理不尽と暴力を前に、君は心を折らずにいられるか。
次回「暴力、再び。」。
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- じく
- 代表作:パチスロ青春小説「マーベリック ─ホールの異端児たち─」、遊技林、ゆる調
元ゲームメーカー勤務、現在フリー。前職ではシナリオ・マニュアル・キャッチコピーなどのライターとして過ごし、パチスロを題材とした小説も執筆している。
e-sports系やMリーグ観戦が大好き、たまにTwitchで雀魂やウマ娘やフロムゲーを配信したりもするスロ系でもありゲーム系でもあるオジサンです。
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