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パチンコパチスロ小説

パチンコパチスロ小説

2023.09.16

パチスロ青春小説 マーベリック 第19章「集団ゴトを越えた陰謀の影」

じく じく   パチンコパチスロ小説

【登場人物】

エリート顔アイコンエリート
店のクセを見抜いて状況を瞬時に読み取る、仲間を率いる若き司令塔

キャバ顔アイコンキャバ
美貌と強運をあわせ持つ紅一点、破天荒ながら3人をつなげるムードメーカー

ヲタ顔アイコンヲタ
驚異的な記憶力と忍耐力を持つ、彼らの稼働と収支を支える執念の獣


【前回までのあらすじ】
グランドオープン2日目は混乱と破壊行為で散々なものとなり、3人もまともな稼働ができなかった。
そして翌日の3日目も後手に回り、自分たちの無力さを痛感するエリートだった。

 

 先程まで滞在していたホールから車で15分ほどの距離。

 パチンコ・パチスロ併設の大型店、日出会館宇都宮中央店の駐車場はあふれんばかりに車が停められ、店内も多くの客でにぎわっている。

 浅野夫妻に声をかけられた3人は、誘われるまま車に同乗してここにやって来た。

 午後になってもほとんど空台がないパチスロコーナーの一角では、背後にカメラが乗せられた三脚を置いて大袈裟(おおげさ)な仕草で打っている男がいる。ひっきりなしに他の打ち手に声をかけられ、その様子は非常に上機嫌だった。

「あれは元ライターで最近になって来店系の仕事を始めた三太郎だな。ライターの頃はとがってて好きだったが、今じゃ落ち目というか、文句を言うだけのオッサンになっちまったよな……」

 浅野がさながら案内役のように3人に説明する。

「それって老害ってこと?」

「何かトゲがあるっていうか、俺の胸も痛くなる言い方だな」

 キャバの包み隠さない言いように浅野は苦笑する。

「だって、ここのこと知ってたのに教えてくれなかったじゃない?」

「だからそれは謝っただろう。それに余計な口出しをするつもりは無かったし、あっちだって何とかなるかもしれなかった」

「いいんだよ、キャバ。グランドオープンにばかり目が行ってて、二の矢三の矢にまで気が回らなかった僕が悪い。同日に来店系のイベントがあってここまで強い店があることにも気付けなかった」

「まあ、それは仕方ないだろうな」

 浅野はエリートをフォローする。

「栃木じゃあこの手のイベントは当日になるまで告知しちゃいけないことになってる。当然だが守ってないところもあるがな。そんな中でこの店は口コミで堂々と今日の来店を広めていたらしい。しかもSNSでは広めないで欲しい、極秘の情報だから、とかもったいつけてな」

「そんなの無理じゃん、ずるいよー」

「……ずるくない……店のやり方はともかく……わざわざ自分の得た情報をネットで広めるのは、ただのバカか、自慢したいだけのバカだ」

 口をとがらせるキャバに対し、ヲタがそう言う。

「どっちもバカなんだ。でも聞いたことあるよ、それって承認欲求ってやつでしょ……ん、どうしたのエリちゃん、難しい顔して?」

「こっちに来てたのか」

 エリートがそこで見たのは、先ほどのホールに姿を見せていなかった地元の専業たちだった。ほとんどの者が台上にドル箱を積み、当たり台にたどり着けているのが分かる。

 そして、その中で1人。

 昨日、グランドオープンのマーベラス宇都宮店で見かけたショータの姿もあった。

「気になるな……少し見てまわってくる」

 ヲタはそう言うとパチスロ島の中へと消えていく。

「たしかに昨日見かけたアタシ達と同じ感じで台にあぶれてた専業っぽいのいるね。アタシもちょっと見てくる」

「あ、ああ」

 キャバの言葉にも生返事で答えたエリートだったが、地元の専業たちが来ているのは今となっては不思議ではない。

 だが、ショータがここに来てツモっていることが衝撃だった。

 自分が知らなかった情報を、奴がつかんでいた。

 知らないうちに情報収集能力を上げていた?

 それとも稼働地域を北関東に変えていた?

 エリートの胸中に、どす黒いものが湧き上がってくる。

 疑念、恥辱、嫉妬。

 パチスロで稼ぐことを決めてから、少しはそんな気持ちが生まれることもあった。

 だが、ここまで深く内臓をえぐってくるような感情は初めてだった。

「これは、こっちも無理かな。どうする、真由美さん?」

「私は打たなくても構いませんよ。そう言って何か打ちたいのはなお君でしょ?」

「まあ、それはたしかに……ディスクアップなら空いてるしせっかくだから2人で打ってこうか。君たちはどうする?」

 浅野の言葉でエリートはハッと我に返った。

「どうと言われてもそれは──」

 エリートがそう言いよどんでいると、キャバとヲタがこちらへと戻ってくる。

 その表情は2人とも険しく、半ば怒りに満ちた声でエリートに報告してきた。

「やってるよ、これ」

「間違いない……あいつらだ」

 

 

「チョロいもんっすわ。あれ、しばらくまともな営業できないっしょ」

「頭取りの報告ではしっかり台は潰れてたよ。それでも玉出してたそうだから、平日も回収できないし今日のあの店は大赤字だぞ」

「おまけにガラの悪い奴らが来るヒドい店っすからね」

「その元締めが何を言ってるんだか」

「雇い主の漆原さんがそれを言っちゃいかんでしょ」

 男たちの高笑いが響き渡る。

 日頃から会合の場としている宇都宮駅近くのレジャーホテル地下の高級クラブ、その奥室にあるVIPルームで城之内と漆原は祝杯を挙げていた。

 キャストは下がらせていてその姿はなく、彼らにとって都合の良い顔合わせの場として利用していた。

「神内はうまくやったのか?」

 漆原の問いに、城之内は金髪をかき上げながら答えた。

「電話で聞いただけっすが、倒れてみせたり業者にわざと遠慮したりいろいろ頑張ったみたいっすよ。無能が無能を演じるとか笑えるけど──ああ、あと今日の仕込みもウチの奴らにはちゃんと伝わったみたいっすよ」

「ああ、あれは教えてやったんだよ。うちの店でも演者向けによく使うんだが」

「バラエティは分かりにくいから代わりに全部ボリュームを最小にしておいた、とか偉そうに言ってたっすよ。今日の漆原さんの店でもやったんっすか?」

「もちろん。三太郎は店の割にやたら口出ししてくるが、使えるのは昔のネームバリューで信者連れてくるだけ。打ち手としては三流以下だからな。抽選番号聞いて、台取りが間に合いそうな機種を分かりやすくデモズレしておいたよ」

「演者ってのもボロい商売っすね」

「まあ、しょせんは使い捨ての利く客寄せパンダだがな。ホールから金をたかるしか稼ぐ方法を知らない寄生虫みたいなものだ」

「へへっ、漆原さんはインテリっぽい顔して相変わらずオレより鬼畜だわ」

 漆原のグラスが空いているのに気付き、城之内はワインボトルを手に取る。

「お前はこの後どうするんだ?」

 注がれたワインを口にしながら漆原は尋ねた。

「あの店長にはもう少し喰わせてもらうけどいいっすよね? あとはウチの若いのに金の分配済ませたら、湯本の方にでも女としけこむっす。」

「それがいい、組合から情報提供の依頼が来るだろうし、うちの系列にも警察が回ってくるだろう。適当に誤魔化しておくからしばらく顔を出さない方がいい」

「そうさせてもらいますわ」

 城之内はテーブル上の呼び鈴を手にすると漆原はうなずき、間もなくキャスト達がVIPルームに入ってきた。

「北関東に手を出してきたことを後悔させてやるさ。あんな店、潰して居抜きでいただいてやる」

 漆原は不敵な笑みを浮かべながら隣に座るキャストの肩に手をかけた。

 

 

 

 宇都宮から戻り、1週間が経った。

 あれ以来、3人での稼働は無い。

 キャバは休んでいた分を取り戻すかのように本業に勤しみ、ヲタは以前と変わらずキャバの部屋に住まわせてもらっている。

 ヲタは淡々とその奇妙な共同生活の日々を過ごしていた。

 朝、深夜や早朝に帰宅したキャバの眠りを妨げないようにして起きて、シャワーを浴びる。

 熱い湯で体を目覚めさせてから朝食を作る。ヲタ自身の分と、キャバが起きた用の分。

 米は炊飯器で炊くが、みそ汁は安売りのパック製。ベーコンかハムかソーセージがローテーションのように添えられる目玉焼きと、スーパーの半額シールが貼られた総菜とサラダ。

 たったそれだけの手の込んでないものだったが、キャバは文句も言わないで残さず食べてくれている。キャバにとって、簡素でも普通の和食が何よりも嬉しいらしい。

 朝食を済ませて食器を洗い終わる頃に、ようやく頭にも血がめぐり始める。

 リビングに戻り時刻を気にしながら乗換案内のアプリで移動時間を確認。スマホでイベントや晒し系のツイッターを眺め、朝のホールからのラインをチェックする。

 時間に余裕があればアプリで天気予報を見て、日用品や食料のデジタルチラシをブックマークしておく。キャバの睡眠を妨げたくないので、テレビはつけない。

 時刻になると、音をさせないように玄関を出て徒歩で最寄り駅に向かう。

 駅に近付くにつれて道にはサラリーマンや学生たちが目立ち始め、ヲタはそれに身を溶け込ませるように黙々と歩き続ける。

 電車の中でも同じ。手ぶらゆえに少しは周りから浮いているだろうが、遊びほうけてる大学生くらいには見える。

 ホールに着くと、張り詰めていたものが緩む。

 パチスロを()めているわけではない。

 ここには自分の居場所がある。

 たとえ周りが合法的に金を奪い合う敵だとしても、それは互いに存在を認識している。

 店員も金を落としに来るありがたい客として扱ってくる。

 この、社会から見れば底辺の吹き溜まりのような場所、互いの汚れや傷が分かっていながらそれを責めることなく椅子取りゲームと運試しに興じ合う空間が心地いい。

 あとは、同じことの繰り返し。

 朝イチから座ることもあれば最初は様子を見ることもある。

 当たりが空きそうなら出禁にならない程度に張り続けたり、早めに見切りを付けて他の店に移動したりすることもある。

 目の前に期待値のある台が空いてればハイエナをすることもある。しかし、店員やエナ専に目を付けられるのは避けたいし、先の読めない時間浪費は無駄に感じるので、台が育って空くのを待つような張り込みはしない。

 そうして投資を抑えつつ回収を稼ぎ、高設定が確定していれば閉店ぎりぎりまで打ち続け、そうでなければ無理せず納得のいく収支の段階で未練なく止める。

 等価なら全て、非等価なら再プレイ可能分を残して全て交換する。再プレイが無制限の店でも、2000枚を上限にしてあふれた分は交換する。

 万枚を超えるような会員カードを周囲に晒すのは趣味ではないし、マークされるのも得ではない。それに盗難や閉店などの万が一のリスクもあるし、ヲタ自身の手元の現金に余裕があるわけでもない。

 ホールを出ると、時刻と相談しながらスーパーに立ち寄って割引品を漁り帰路につく。

 マンションに戻り玄関を開けると、部屋に明かりは無く物音ひとつしない。ほとんどの場合、キャバとは綺麗に入れ違いになっている。

 彼女が非番の時には部屋からはテレビの音が聞こえ、上下ジャージのままリビングに横たわったキャバが出迎えてくれることが多い。髪は跳ね上がり寝そべりながら尻をかく、それは絵に描いたようにだらしない姿だが、キャバもヲタもそれに触れることは無い。

 キャバが何を考えているかは分からないが、ヲタにとって目の前のキャバは今までの人生で知り合ったことのない未知の生物のような女性なので、ありのままを受け入れている。

 キャバのいない部屋に戻ると、ヲタはスマホのメールを開いた。

 そこには途中保存されている新規メールがあり、ヲタはメモ帳として使っている。

「今日は1人か」

 ヲタは新規メール内のテキストをコピーしてラインに貼り付け、エリートに送信した。

 

 

 エリートはヲタからのラインに返事をすると、スマホを置き自室のPCに向き直った。

 デュアルモニターにはいくつものソフトのウィンドウ、そしてブラウザにはページタイトルが読めないほど多数のタブが並んでいた。

 目元に手をやり眼球を押し込むようにマッサージする。さらに指の関節をこめかみに当て、自らを律するように押し込む。

 そして数回、大きく深呼吸をしてから再びモニターと向かい合った。

 エリートはあの日から今日まで、宇都宮の2ホール、グランドオープンを攻めたマーベラス宇都宮店と3日目に行った日出会館宇都宮中央店の全てのデータを入念にチェックしている。

 当日、その場所その空気を感じていないと分からないことがある。

 一方、データには現場にいただけでは分からない事実が秘められている。

 あの3日間を振り返って気になったのは、それぞれのホールの3日目だった。

 マーベラスのバラエティコーナー、日出会館で三太郎という演者やショータが打っていた台、どれも決して朝イチから打たれるような台ではないのに履歴を見ると1回目の初当たりが異様に早い。おそらく入店と同時に打ち始められている。

 そして、その現象は両方の店で4日目以降もたびたび見受けられる。

 それは日頃からホールデータを監視しているエリートにとっては、あまりに異様であからさまだった。

(マーベラスではグランド以降も本数は減らしながら設定を入れていて、重ねずにローテ気味で分かりやすくしている。だが、まだ絞り込めるような数でもないが……)

 思案を重ねているうちに、エリートはスマホに目をやった。

 今日もヲタから、あの時にゴトを仕掛けた連中を都内のホールで見かけたと報告があった。すでにその数はこれまでに10人近く、何かしらの方法であの日に雇われたのであろうと想像はつく。

 見抜かれている?

 設定情報の漏洩(ろうえい)

 実は店のサクラ?

 安易な陰謀論を口にして自分の負けを正当化し、悪評をSNSにばらまく(やから)もいる。

 だが、そのほとんどは何の証拠もないオカルトめいた内容で、検証にも値しないものばかりだ。

 だが今回は、表面上だけかもしれないが現場でそれを目撃している。

 現場だからこそ分かること。

 エリートはスマホを手に取り、ためらって戻そうとしてから再び決意して連絡先を選んで通話ボタンを押した。

(みどり)、いま大丈夫か?」

「平気よ、まだ仕事前だし。伊吹(イブ)の方から連絡してくるなんて感心だね。久しぶりに会った姉貴が恋しくなったのかい?」

 電話したのは、先日再会したばかりの(みどり)だった。

「そういうわけじゃないんだけど……」

「ったく、そこは恋しかった今すぐにでも会いたい! って言っとくもんよ、女の子が相手だったら」

「ごめん。どうしても聞きたいことがあって電話したんだ」

「素っ気ないのも相変わらずでいいんだけど、どうしてもってのは気になるね」

「あの日、ドタバタして店員が開店ぎりぎりまで台をチェックしていたって言ってたよな?」

「ドタバタ……ああ、あの日ね。店員っていうか店長よ、アレ」

「店長? そういうのって上の人間がやるようなことじゃないのか」

「うん、だから今はうちらが代わりにやってるよ。だいたい清掃箇所を指示されて開店前にやってる感じかな」

「──ん?」

 目の前に誰もいない電話にもかかわらず、エリートは体を前のめりにさせた。

(みどり)、それもっとくわしく」
 

次回予告

このまま終わらせるつもりはない。
3人はそれぞれの思いを胸に、“大人”たちとの会合に挑む。
次回「被害者の会、では済まさない。」。

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じく
代表作:パチスロ青春小説「マーベリック ─ホールの異端児たち─」、遊技林、ゆる調

元ゲームメーカー勤務、現在フリー。前職ではシナリオ・マニュアル・キャッチコピーなどのライターとして過ごし、パチスロを題材とした小説も執筆している。
e-sports系やMリーグ観戦が大好き、たまにTwitchで雀魂やウマ娘やフロムゲーを配信したりもするスロ系でもありゲーム系でもあるオジサンです。

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