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パチンコパチスロ小説

パチンコパチスロ小説

2023.08.17

パチスロ青春小説 マーベリック 第9章「ホールの怪しい声かけにはご用心」

じく じく   パチンコパチスロ小説

【登場人物】

エリート顔アイコンエリート
店のクセを見抜いて状況を瞬時に読み取る、仲間を率いる若き司令塔

キャバ顔アイコンキャバ
美貌と強運をあわせ持つ紅一点、破天荒ながら3人をつなげるムードメーカー

ヲタ顔アイコンヲタ
驚異的な記憶力と忍耐力を持つ、彼らの稼働と収支を支える執念の獣


【前回までのあらすじ】

3人での稼働がない日、ヲタは一人でホールを巡る。
そしてとあるホールで出会ったのが、花魁の格好をした演者のビス子という女性だった。



「ヒマリちゃん、お疲れ~」

「どうもです、リコさんドリンク回してもらってありがとうございます」

 キャバは控え室に戻ると、本指名を受けた先輩が同席した自分にも客におねだりしてドリンク注文させてくれた礼を述べた。この店でキャバの源氏名はヒマリにしている。

 キャバはポーチからスマホを取り出すと、プッシュ通知が入っているのに気付いた。

「少し外出します。待機カットでいいんでボーイさんに伝えてもらえます?」

「ウチの店そういうの厳しくないから、気にしないでいいよ?」

「いいえ、そこはしっかりしておかないと」

 そう言い残すと、キャバは従業員出入口から外の裏道に出てスマホのラインを開いた。

 

エリート顔アイコン
『明日、足立区の例の店にする。詳細はキャバの空いた時間に通話で』

ヲタ顔アイコン
『了解。俺はもう部屋に戻ってる』

 

 事前の連絡はすでにあった。

 この前、同じ系列の上野の店に行って感触は良かった。特日ではないが系列内で人事異動があったらしく、新店長が各店舗で力を入れているらしい。

 キャバ自身には真偽を探る術も無かったが、エリートが各店舗の出玉データとSNSで確認し、ヲタも実際に店に行ってその祭の様子を体感したらしい。

 ヲタは『すごい綺麗なマムシの花魁(おいらん)がツイドラを譲ってくれた』と上気した顔で意味不明なことを言っていた覚えがある。

 キャバはチャットで2人の反応を確認してから、グループ通話を開いた。

 

「お待たせ、今なら大丈夫」

「明日は朝から大丈夫か?」

「オッケーよ。アフター入ってもサクッと切り上げるつもり」

「疲れてると頭が働かなくなる……早く帰ってきた方がいい」

「寝る前にお風呂お湯張っておいてもらえる?」

「……分かった」

「あまり深入りするつもりはないが、すっかり同居生活が馴染(なじ)んでるな」

「ヲタくんはいい子だから。周りには弟だって言ってあるし、女の独り暮らしよりいろいろと安心よ」

「感謝……してる」

2人が問題ないなら干渉することもないが。それで明日だが、ローテーションの消去法的に機種はいくつか絞ってる。店長が変わってから昨日までは、店側も意図的に分かりやすく設定を入れてきている」

「……情報はすでに出回ってるのか?」

「ある程度は。ただ、明日は他に強い店も多いのと、系列の中でも比較的小規模で目立たない店を選んだ」

「さっすがエリちゃん、抜かりはないね」

「ただ、機種構成的に全員でAタイプを回すことになるかもしれない」

「うっ、せめて液晶の付いてるのにして」

「善処する」

「キャバもノーマルを……打てるようになった方が……いい」

「何か言った? 聞こえな~い」

「…………」

「とにかく、内容は以上だ。あとはいつも通りで」

「りょーかい♪」

「……分かった」

 

 グループ通話を終えると、キャバはスマホにアラームをセットしてから店の中に戻った。

「戻りました~」

「おかえりなさい、指名入ってますよ。リコさんがヘルプしてくれてます」

 控え室前で待ってくれていたらしいボーイが、さっそくキャバに声をかけた。

「うわっ、ごめんなさい!」

「大丈夫ですよ。ヒマリさんが来るまで爆弾しまくるって張り切ってました」

「うっそ!?

「冗談です。それより、ヒマリさんは人気だからもっとシフト増やして営業も本腰入れればナンバー1目指せると思いますよ」

「そうね……今はまだ、いいかな」

「その気になったらいつでも言ってください。協力しますよ」

「ありがと、フロア入ります」

 キャバは笑顔でそう言い残して客席に向かった。

(今はもっと楽しいことあるから!)

 

 

「今日だったらここだと思うんだよな」

 浅野は客の物件の下見付き添いを終えると車を足立区に走らせ、コインパーキングに車を停めると足早にホールに向かっていた。

 真由美にばれたら本業の不動産屋をサボってるとまた怒られそうだったが、それよりも元専業の本能が抑えられない。

「って、打ちたいだけの養分かよ!」

 自分で自分の行動にツッコミを入れつつ、ホールに到着すると1Fのパチンコフロアを眺めて息と気持ちを整えてから2Fへと階段を上がっていった。

 今は昼過ぎ、ホールの“逢魔(おうま)(とき)”。

 世間一般では夕方を逢魔(おうま)(とき)と呼ぶが、パチスロの逢魔(おうま)(とき)はこれくらいの時刻だ。

 朝イチに座った台が見限られたり、全系機種がその姿をほのかに現したりするタイミング。末尾系だともっと早いこともあり、割が低いか波が荒い機種が当たりの場合は逆に遅くなることもある。

 だが、打ち手の思惑が最も交錯してパチスロという化け物が全貌を現し始める魔の時間帯、それがパチスロの“逢魔(おうま)(とき)”だ。

 ──と、浅野は勝手にそう呼んでいる。

 この時間帯が最も重要であり、ピンでもノリ打ちでも打ち子を使った親をやっていても、この景色を見るのが一番楽しい。

 瀬戸口に「お前は実際に打つより親に、打ち手より店側に向いてる」と専業時代に言われたことがある。そう言った本人が店側の人間になり、向いてると言われた人間がパチスロからは一歩身を引いているのだから人生というものはままならないものだ。

 そんなことを考えながらフロアを歩いて回ると、お目当ての人物を休憩スペースに見つけた。

 上野のホールで空きそうなまど2を押さえるのに、自分が周囲にマークされているのをしっかりと自覚していてわざと他の島に注目するデコイ役となった若者だ。

 昔、同じようなことをライバルの軍団相手にして見事に引っかけた覚えがある。ただし、その時は閉店後に待ち伏せされてダッシュで逃げるハメになったのはご愛敬だが。

 浅野はその若者の隣の椅子に腰かけると、気取られぬようにその様子を観察した。

 フロアにしばしば視線を送りながら、スマホではラインやデータサイトをこまめにチェックしている。そして外見に無頓着な打ち手とは一線を画して、派手ではないがそれなりのブランドで小綺麗にまとめられた容姿。

 浅野から見てそれは及第点であり、やはり声をかけるに値した。

「お兄さん上野にもいたよね」

 予想していなかったのか、驚いた表情を見せてエリートは浅野の方に振り向いた。

 

 

 それは、浅野が妻である真由美を連れてチェーン店のマネージャーを務める瀬戸口、そして店長の袴田との会食でのこと。

「お前さんの店にさ、男2人と女1人で組んで立ち回ってるのいない? かなりストイックにやってて分かりにくいかもしれないけど」

「ああ……たぶんあの子たちかな。分かりますよ、ピンに見える女性はやはり目立つし。ツモってる常連は顔押さえてますし、店員からも報告上ってきますから」

 袴田はそんなのは当たり前と答える。

「そんな覚えてるものかい?」

「ええ、もちろん。最近のホールカメラは優秀っすから。店としても出したい台をしっかり回してくれるし、軍団のように派手に台を押さえて一般客を散らすようなこともしないし。お行儀もいいし良客っすよ」

 袴田はドヤ顔でそう言ってのけた。

「適度な数の良質な専業は、薄利多売でホールを回すのに必要な潤滑油だからな」

 横からマネージャーらしい言葉を瀬戸口が挿んでくる。それが浅野の意図に気付いてのものであることが分かり、浅野は思わず笑みをこぼした。

「お前さんとこさ、最近攻めてるんだろ? たしか栃木の激戦区に新店ブチ込むって噂があったような」

 その言葉を聞いた瞬間、袴田は顔色を変えて瀬戸口に視線を向けた。

「おい、俺は一切そんなこと話してないぞ」

 瀬戸口はそう否定しながら顔はニヤついている。

「これでも一応、不動産屋なんでね。風の噂を耳にすれば、どこの法人が何のために物件を押さえてるかくらいは軽く調べればすぐに分かるよ」

「そういうことっすか。てっきり瀬戸さんが……」

「馬鹿野郎、設定コソっとほのめかすのと訳が違うんだぞ!」

 瀬戸口は容赦なく袴田の頭をはたいた。

「痛っ! ったく、瀬戸さんは……オレじゃなかったらパワハラ案件っすよ」

「かわいい部下を()でただけだ。で、その栃木の店だが──グランドオープンは俺が見ることになってる」

「それは話が早い」

 その言葉を待っていたかのように浅野は身を乗り出した。

「良質な専業は、必要な潤滑油なんだろ?」

 

 

「お兄さん上野にもいたよね」

「えっ。ええ、まあ……」

 エリートは突然の声に警戒より先に無垢(むく)な反応をしてしまった。

 見知らぬ人間にホールで声をかけられることも、声をかけることもほとんど無い。

 もちろんそれは相手を警戒してのことであり、平日のホールに昼から出入りする人間と積極的に関わり合いを持ちたくない。それに何より自分と身内以外は全て、敵だ。

「分かってるね~。誰でも知ってるイベントやSNSで晒されたホール追いかけるわけでもなく、出そうとしているホールを開拓して常に有利な戦いを仕掛けている」

 浅野は警戒するエリートを気にすることもなく話し続けた。

「それに目立たないようにしながら身内と情報共有して、きっちりチャンスを逃がさず押さえるべき台を押さえる。まあヤンチャな女子とか不器用な男子とか面白い仲間のようだがな」

「──!?

 見抜かれている。ホールの周辺から中にかけては常に接触せず会話も交わさないようにしていたのに、キャバやヲタとの関係がばれてしまっている。

 それに何よりも、

「あなたは一体──」

「さすがにうさん臭すぎたかな。俺はこういうもんで……」

 そう言って浅野はセカンドバックから名刺を取り出すとエリートに手渡した。

「不動産賃貸・売買・仲介・管理 HRQカンパニー代表 浅野直樹(宅地建物取引士)……。不動産を取り扱っているのですか?」

「ああ、稼いでる奴にヤバイ物件を押し付けようとか、地上げの裏バイトにスカウトしようとかじゃないから。単に若い衆でも見どころのある奴らがいるな、と」

「……反社の方とは関わり合いにはなりたくないのですが」

「そっち方面ちゃうわ! 少なくとも今は……な」

「今は?」

「昔はそれなりに打ってたら、その筋の方とお近づきになることもあったからな。まあ下北沢の件を機に自然と疎遠になっていったが」

「下北沢……特殊景品の扱いで暴力団排除のために業界の人が戦ったという話ですか。今の三店方式の原点だと聞いた覚えがあります」

「ほう、よく知ってるもんだ。ホールの人間でもそんな歴史知ったこっちゃねえ奴が多いのに」

「単に特殊景品の仕組みを初めて知った時に調べただけです。現行法と政府の法解釈で合法とされているとか。世の中では違法とかグレーとか言われてもいますが、これだけの規模の産業でそんなことがあるはずもない。それでも後ろ暗いことは嫌なので、自分なりに調べて行動する根拠は持ちたかった、といったところです」

「後ろ暗いところはない、と」

「世間一般での認識や道徳観、客層の職種や年収分布には好ましくないと思われている面もありますが、それが稼げる環境を忌避する理由にはなりません……あっ」

 エリートは饒舌(じょうぜつ)に自説を浅野に向かって語っているその恥ずかしさに気付き、口を閉じた。

「なるほどね。昔は他に行き場のない人間が集まってくる世界だったけど、今では好んで選んでくる奴もいるってことか。君は学生か? ならば普通にバイトして卒業して就職する選択肢だってあるだろう?」

 浅野はエリートが口ごもるのに気付きながら、それが恥ずべきことではないと諭すように会話をやめなかった。

「これが今、一番稼げるんですよ。時間、労力、精神的な負担、どれを取ってもアルバイトとは比較になりません。僕にとって今という時間を最も有効に活用する手段がこれなんです」

 エリートは自分が学生であることを否定せず、あるがままの事実を口にした。

「いいね~。実にいい」

 浅野は満足げにうなずいた。

「そんな君たちに是非おすすめのホールがあるんだ」

 

 

「栃木? むっちゃ遠くない?」

「そうでもない。宇都宮まで新幹線で1時間、車なら2時間弱くらいか」

「餃子くらいしか……聞いたことない」

「北関東は打ちにいけるならいい環境だとは思っていた」

「ふ~ん。あ、これヲタくんにあげる。照り焼きチキン好きだったでしょ」

 キャバはそう言うと、届いたばかりで熱を帯びた宅配ピザの1ピースを、ヲタの取り皿に分け与えた。

「……助かる」

 いつも通りの寡黙さの中に、わずかに喜びがにじみ出ている。

 場所は都内のキャバが住み、ヲタがそこに間借りしているマンションの一室。

 エリートが打ち合わせを打診すると、アンタが来る方が話は早いと圧を掛けられてそれに従った形だ。

「それにしてもさ、その浅野って人のこと信じていいの?」

「そいつに……何の得がある?」

 キャバとヲタ、2人の素朴な疑問だった。

 ホールで突然声をかけられた男から与えられた情報だというのだ。

 それを真に受けるエリートとは思えなかったので、2人にとっては意外でもあり興味深かった。

「彼自身は『真面目にやってる若い打ち手は応援したい』とか言っていたが、慈善事業でもあるまいしそんな言葉は信じてない。本業は不動産屋でホールや情報取材系の関係者には見えなかったが、何かしら協力を依頼されている人間かもしれない」

「嫌よアタシ、気付いたら体のいいサクラやらされてました、とか」

「ただ、彼の思惑や行動原理はこの際どうでもいいと思う。実際にそのホールが行くに値するかどうかだ」

「調べた……のか」

「当然。グランドやるから何となく行ってみましょう、ではお話にならない」

「じゃあエリちゃんのお話聞かせて。アタシとヲタくんはアツアツのピザの攻略に忙しいから」

「何か最近、僕の扱いが悪いような気がするな」

「組織のリーダーが苦労するのは当然……と誰かが言ってた」

「さすがヲタくん、分かってるね」

「──まあいい、始めるぞ。一言で言えば、宇都宮は地方によく見られるスポット的な激戦区だ」

 ピザやポテト、サラダが並べられたテーブルの上にノートPCが置かれ、エリートによるプレゼンテーションが始まった。
 

次回予告

グランドオープンを控える北関東の新規店舗。
マネージャーの下に集う者の中には……?
次回「グランドオープンの裏側とは?」。

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じく
代表作:パチスロ青春小説「マーベリック ─ホールの異端児たち─」、遊技林、ゆる調

元ゲームメーカー勤務、現在フリー。前職ではシナリオ・マニュアル・キャッチコピーなどのライターとして過ごし、パチスロを題材とした小説も執筆している。
e-sports系やMリーグ観戦が大好き、たまにTwitchで雀魂やウマ娘やフロムゲーを配信したりもするスロ系でもありゲーム系でもあるオジサンです。

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