【第3回】お題～過去一番好きな機種とその思い出～元クズ田中編

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元クズ田中氏と鈴虫君氏が同じテーマをそれぞれの視点で語るという連載企画。第3回は「過去一番好きな機種とその思い出」です。あなたの場合はどの機種ですか？

元クズ田中氏の一番好きな機種とは？

　人間とは、特に男とは過去を美化してそれに浸る、ロマンチックな生き物である。4号機だ5号機だという仕様上の違いを挙げるまでもなく、過去一番の機種を聞かれて現役バリバリのマシンを答える者はそうはいないだろうし、もしそういうやつがいるとすれば、そいつはきっと鼻持ちならないキザなナルシスト野郎だろう。

　一番勝った機種でなければ、一番打ち込んだ機種でもない。一番好きな機種というのが問いであれば、その判断基準はけしてゲーム性や出玉性能だけにとどまらない。そのときの自分の置かれていた環境や金銭感覚。どんな仲間とどれくらいの知識で打っていたのかといった付加的なものもその機種をランク付けする上での重要な要素となってくる。面白かった台、打ち込んだ台、勝たせてもらった台であれば花火にビーマックス、ルパン三世にホットロッドクイーンといくらでも出てくるけれど、一番好きな機種を挙げるとすれば、山佐の『ピンクパンサー』以外に選択肢はないだろう。

　自分がパチスロに出会ったのはいまから約20年前、1996年のこと。その出会いや、パチスロを打ちたいがばかりに及んだ悪行については別コラム「あのときオレはクズだった」を読んでいただければと思うが、まだ攻略誌の存在を知らず、その抽選方法も知らず、もちろん完全確率や設定判別、リプレイハズシなどという言葉すら聞いたことのなかった自分にとっての情報源といえば、近所の店に朝から必ずいる、いつもテニスウェアを着ている名前も知らないババアだけだった。

　橋本内閣が発足しようがSMAPの森くんがオートレーサーに転身しようが、どこ吹く風。何事もなかったかのように、とにかく朝からピンクパンサーを打ち続けるテニスルックのババアの近くにいれば定期的に目押しの依頼が入って、7を揃えるたびに報酬として紙パックのカフェオレとひとつかみのコインをくれる。そのコインでまずはセブンスターを取り、残りのコインで自動停止するまでタバコを吸いながらリールをただ、カラ回しているだけ。カラ回しをしながらババアの(いま思えば)オカルト話に頷いているだけだった当時は、パチンコ屋を高校生でもタバコが吸える無料の喫茶店のような感覚でしか捉えてなかったが、そのカラ回しが自動停止した際にバーとパンサーの組み合わせが小V型で止まり、隣のテニスルックが「入った、入った」と騒ぎ出したところから事態は動きだした。

　自分は目押し待ちの間に暇つぶしで適当にカラ回しをしていただけであって、もともとコインはテニスルックのもの。当然、そのボーナスも譲ろうと思っていたんだけど、その日はかなり調子よく勝っていたのだろう。｢それをもとに増やすんやで｣と、ヤニで黄色くなった歯を見せながら、ババアは魔女のように不気味に微笑んだ。そして、その魔法が効いたのかどうかは知らないがその日は2万円ちかく勝ち、それによって自分はパチスロに、ピンクパンサーという機種にのめりこんでいくこととなった。

　数あるパチスロの中からピンクパンサーを選んで好きになったわけではない。当時の自分の小さな世界の中では、パチスロというのはババアが打っているピンクパンサーであり、ピンクパンサーこそがパチスロだった。それは、野生の動物が生まれて始めて目にした存在を親と認識するのと同じような感覚だったのだと思う。

　とはいえ、それ以降はパチスロそのものにもどんどん興味が出てきたこともあって、当時どこにでも設置されていたニューパルサーはもちろん、コンチ3やスーパープラネットといった3号機、キングガルフや愛媛に多かったマツヤ商会の裏モノも打つようになった。花火が導入されてからは技術介入にようやく目覚め、新台が出れば飛びつくように打った。そんな中でいつの間にかピンクパンサーはパチンコ屋の主力機種からハズされ、徐々にその姿を消すとともに、自分の記憶からも消えていくことになったわけである。

　そんなピンクパンサーが自分のなかであらためてクローズアップされたのは、業界がみなし機問題に揺れた2006年のことだった。これまで暫定的に設置され続けていた検定切れの機種がすべて撤去されるということで、誌面の企画で、自分の中での思い入れのある台を打とうということになったのだけど、いざ埼玉の蕨駅前にあるパチンコ屋、その地下フロアでピンクパンサーと対峙してみて、愛しさと切なさと心強さとがわきあがってきた。ああ、こんなにリールって細かったんだ。それは、大人になってから久しぶりに会った親父の体つきが妙に小さく見えたときのような、そんな感覚だった。

　いつまでも初恋を引きずる夢見る少女じゃいられないわけで、そのときそのときに応じて好きな機種というのも変化してきた。CT機というだけで好きになった時期もあれば、大量獲得じゃなければ物足りないと感じた時期もあったわけだが、男とは過去を美化してそれに浸る、ロマンチックな生き物である。

　一番好きな機種はなにかと問われたら、やっぱり答えはピンクパンサーだし、当時、カラ回っているリールの前でテニスルックのババアに何度も聞かされた、｢ギャンブルは愛と気合いがあれば最後には必ず勝てる｣というオカルトめいた教えは、いまでも自分の胸の中にしっかりと残っている。

　オレはまだ、終わっちゃいないぜ。ババア、あんただってそうだろ？

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クズと虫: 代表作：クズと虫～お題共有コラム～

ライターである元クズ田中と鈴虫君。ガイド時代に最も近しき先輩後輩関係で、とても仲良しな二人。競艇好きという大きな共通点もある。

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