【第11回】お題～ホールに行く際のファッション～元クズ田中編

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元クズ田中氏と鈴虫君氏が同じテーマをそれぞれの視点で語るという連載企画。第11回は「ホールに行く際のファッション」です。FLEAさんから頂いたテーマですね！

ホールに行く際のファッション：元クズ田中編

　いくら顔が長くて一部の女子から｢ピーナッツおじさん｣と呼ばれていようが、学級委員を務めるような秀才タイプでありながら多少のやんちゃさを併せ持ち、そこそこ背が高くてそれなりにスポーツもこなすタイプとあれば、小学校のころは黙っていても人並みにはモテる。同じ学校の人間の大半がそのまま上がるだけの中学時代も、その余韻でうまくやり過ごすことはできたが、高校にもなると校区という枠が外れて世界がグンと広がるし、思春期にもなる。お付き合いというものが漫画やドラマの世界だけではなく現実的なものになってくると、それまで雰囲気だけで人を好きになってきた女子も、魔法が解けたかのように我に返る。そして、その見てくれをジッと見たのちに、心の中にあるリストの中からピーナッツおじさんの欄にそっと×をつけるのである。

　そうなると、ピーナッツのような顔はどうすることもできないので、見てくれを少しでも良くしようと思ったら服装しかない。というわけで母親にどうしても服を買いたいと頼み込み、2万円を握りしめて繁華街へ繰り出すことになるわけだが、2万円のうち1万円は、そのままパチスロに消える。そしてナポリタンとクリームソーダに使った1000円を引いた残りの9000円でいざ服を買おうと店に入るものの、そこで固まるわけだ。見渡す限り並べられた服の前で、ハナハナ鳳凰の天翔フリーズよりも固まることになるわけだ。

　正直、なにを買ったらいいのか、さっぱりわからない。ブン殴られる系のスパルタ運動部であり、かつヤンキーに憧れを持つ田舎の青年の選択肢といえば、ジャージ。ニワトリのようなマークの入ったルコックのジャージが世界で一番、中間トオルのボンタンを世界で二番目にかっこいいと思っているわけで、結局、ジャージをセットアップで買って帰って、母親にこっぴどく怒られることになる。

　というわけで、自分はファッションに対するこだわりどうこうという以前に、ファッションというものがいったいなんなのかすらわかっていない、オサレエンペラーとは真逆のダサ坊。過去に付き合った女が好きだと言ったからSTUSSYを買い、その次に付き合った女がSTUSSYを嫌いだと言うから着るのをヤメる。ただそれだけの、意志を持たない着せ替え人形のようなものだった。そう、だった……と、あえて過去形で言わせていただこう。

　というのもいま、自分はファッションとは無縁の生活を送っている。もう10年も前から、基本的に着る服は塾長おじさんからの支給品。タンスがパンパンになって服を捨てる時期になると連絡が入り、受け取った紙袋、そのなかに入っている服の中から自分のサイズに合うものを選んで着るだけという、理想的な生活を送っているのだ。興味のない洋服にお金を遣うこともなく、支給されたものを大切に着るのみ。正直いって、これほどありがたいことはない。

　なので、今回のテーマとなっているパチンコ屋へ行く際のファッションだと、自分のなかのこだわりは『そのときに乾いているものを着る』ということ。もうひとつ付け加えるなら、極力、ラクな格好であればなおさら良い。タオル地のものがタイミング良く乾いていれば言うことなしである。

　そういう意味で言うと、フィリピンで暮らした4年間はパラダイスだった。服装は365日、短パンにTシャツにビーサン。スコールがくるから短パンは常に海パンで、TシャツにI　LOVE　CEBUと書いてあろうが、聞いたこともないサッカーチームのユニフォームを着ていようが、誰も気にしない。そりゃそうだ。現地の人間、特に自分が接しているようなドローカルのオヤジは基本、上半身裸。暑いなら着なけりゃいい。本能で生きる人間に、見てくれなど意味を持たない。

　と、まあ、ファッションになんて興味のない無骨な男を気取ってはいるが、自分がファッションに興味を抱けない本当の理由というのは、自分でもう、わかっている。それは、自分がO脚であり、それを大きなコンプレックスだと感じているからだ。

　なにを着たってどうせO脚が気になるし目につくので、服を選ぶのが楽しくない。ズボンを試着して鏡で見ても、O脚の姿を見てげんなりする。それが大元にある理由なのだが、実を言うとひとつだけ、10年以上前からめちゃめちゃかっこいいと密かに思っていて、さらにO脚もまったく目立たなくなるという夢のような服装がある。そして、この間ニュースを観ていたら、なんとこの服装がいま、外国人の間で人気爆発中だというのだ。

　その服装とは、ニッカポッカ。鳶職の方が現場で着ている、アレだ。あれだけダボダボであればO脚なんてまったく目立たないし、世界で二番目にカッコいい、中間トオルのボンタンにも通ずるシルエットがある。ファッショナブルであり、機能的にも優れたあの服こそが、まさに自分の追い求めていた完成形だと言っていい。

　よし、これからはずっと、ニッカポッカをはいて暮らしていこう。何度かそう思ったこともあるが、いつも寸でのところで手が、足が止まる。だって、仕事終わりならいいだろうけど、プライベートでいつもニッカポッカのやつなんて、絶対にモテないもの。

　モテたい思いとコンプレックスの狭間に揺れるピーナッツおじさんにとって、ファッションの道はなかなかにして厳しく、そして険しい。